第28話 敵対
「では、先日の奴隷問題についての緊急会議を始めます」
会議は反対側の数人の中央に座る白髪の男の第一声によって開始された。なんでも、その白髪の男こそがこのギルドの最高司令官つまりリーダーだという。名前は、セルディールだそうだ。
ちなみに、この会議の参加者は当ギルドの幹部が参加するものであり、俺はパーティ参加者として特別に参加することができることとなった。いや、ホントは面倒だから行きたくないんだよね。帰れるんなら帰りたいっす。
しかし、そんなわけにはいかず会議が始まり、まずはパーティリーダーのスズカからの事態の説明がなされた。
この光景、まるで社内で上司に行うプレゼンみたい。んで、上司に難色示されていろいろ改善しろだのここはこうしろだの難癖つけられるんでしょ? もしそうなら、俺は会社を辞めるに一票。
驚くことに、俺の妄言は現実となった。これはあれだね、嘘も100回つけば真実になるとかなんとやら。
「――というように、この人民救助は妥当なものであり、人権侵害を犯した『GF』ギルドリーダーらの逮捕は当然のことであると考えます」
スズカのかのアメリカ大統領のリンカーンによる奴隷解放宣言的演説かの如き堂々たる事態説明は無事終了した。なんか、拍手しちゃいそうになっちゃった。感動したっ!
とまあ、構造改革で一世を風靡した某内閣総理大臣の物まねを心の中で繰り広げていると、残念ながら俺とは同感ではないような不快感いっぱいに顔をしかめた如何にも人相の悪い中年男がゆっくりと手を上げ、リーダーであるセルディールに発言権を求める。
セルディールがうなずき、それを許可と受け取った男は、
「奴隷救出……? 困るねぇ、勝手にそんなことされちゃあ……」
鋭い目つきでこちらを睨みながら言った。
しかし、スズカがそんなことで怯むはずもなく、威勢よく反論する。
「一体何が困るというのでしょうか。相手は人権侵害という許しがたい行為を行っていました。本部の許可なく行動した件については反省しますが、行動の可否については人権という面から考えるに適切なものであったと考えます」
「人権人権言うけどね、それ以前に君は問題の本質を解っているのかねぇ……。君が逮捕したギルド『GF』との関係がこじれてしまうではないか。どうしてくれるんだね」
男の言葉に、流石のスズカも反論できない。
確かに、今回の一件で「GF」との関係は大変気まずいものになっているだろう。いや、敵対関係にさえなっているかもしれない。
そういえば、先の戦闘の際GFのリーダーであるゴルバがスズカに対して、立場があるんじゃないのかなどと脅していたが、もしやこのことを指していたのではなかろうか。
「我々ギルドも佳境に差し掛かっている。生き残りをかけて、連携を模索しているんだ。中堅どころの筆頭との良好関係は重要だった。君はそれを見事に潰してくれた。もう、責任問題でしょ、これは」
「ですが……」
そうスズカが反論しようとした刹那、男がそれを妨げるように発言する。
「これは大問題ですよ。すぐさま別の手を打たないと、我がギルドの存続に関わりますよ。どうするんですか。代案はあるんですか」
問い詰められたスズカはすぐには何も答えられず、黙り込んでしまう。そこへ救済するように、シルバが声を上げる。
「その件については、僕に考えがありますので問題はありません。即時押し進めますので」
そういわれた男は何とも面白くないような表情を浮かべるも、もう何も言ってこなかった。
その後はなんともルーチンワーク的な会議が続き、この緊急会議は終焉を迎えることと相成った。
◇◆◇
会議が終わり、俺たちは昨日までスズカが寝込んでいた一室に集まった。
スズカは、まだ病み上がりということもあり少々疲れたような表情を浮かべている。
「毎度のことですが、なんとも酷いものでしたね」
シルバが常時の微笑を浮かべながらつぶやく。しかし、目の奥には怒りが見え隠れしている。うわ、怖ぇよ。あの優男はどこ行っちゃったんだよ。もしやフォルムチェンジとかしちゃったのかよ。
シルバの言葉には俺も同感であったため、少しばかり頷き、
「まあ、なんかお前が目の敵にされてるように見えたわな」
素直な感想を漏らす。
「ええ、これまでも何度も同じようなことがありました。あの男もといゴードンは、当ギルドの財務長でして、以前からスズカ閣下とは何度か意見対立したことがありました」
「今回のは意見対立どころじゃないだろ。もうなんかいじめみたいじゃんか」
「そうですね。今回のは特に酷い様相でした。何分、このGFとの関係強化を推し進めていたのがゴードンでしたから」
そういって長い前髪をツンと弾く。なんだこいつ。こんな時でもイケメンアピールは怠らないとかあざといな。もしや、癖になっちゃってる系かな。それだったら余計にたちが悪いぜ。
俺とシルバが情報交換をしあっていたところで、スズカが口を開く。
「別にいいじゃない。何かをやればある程度の反発は付き物だわ。お菓子を買えばついてくるおまけのようなもの。とやかく言う必要はないわ。そんなことより、仕事よ仕事。忙しいんだから」
そういって、部屋を出ていこうとするスズカの手をシルバは咄嗟に掴んだ。
そして、微笑(険しいバージョン)を浮かべながら、
「スズカ閣下。まだ体調が万全ではないのですから、無理しないでください。仕事なら、僕がお引き受けしましょう」
説得するように言い聞かせる。
しかし、スズカは掴んでいるシルバの手をゆっくりと払う。
「大丈夫よ。アタシがやれと言われた仕事なんだからアタシが責任を持ってやるわ。それに、アンタも代案、頑張らなきゃでしょ」
優しく言い聞かせるスズカに、シルバが今度は逆に問いかける。
「仕事って、ゴードンに押し付けられたんですか」
しかし、スズカは何も答えない。
シルバはその無返答から悟ったようにして、いつもの微笑を浮かべ直す。
「なにかあったら僕にお知らせください。すぐにサポートいたしますので」
シルバの言葉に無言のまま、スズカは退出した。
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