第17話 人は皆、目に見えない何かに縛られている

 スズカ先導のもと、俺たちパーティ一行の2フロア目攻略が怒涛の勢いで進む。

 次々に視界不良の木々の狭間より現れるモンスターたちを、スズカ、シルバのギルド幹部コンビがバッサバッサと薙ぎ払ってゆく。

 共に剣術の熟練者であるということを感じさせられる。

 これには俺も、流石と言わざるを得ない。両者の剣術は、そんじょそこらの剣士とはわけが違う。迫り来る敵を瞬時のうちに切り裂く。


 しかし、シルバの剣術の腕もさることながら、一方でスズカの剣さばきにはただただ圧倒されてしまう。

 傍目で強力な力パワーを感じることができるのだ。

 しかも、圧倒される所以はその強さだけではない。

 持ち合わせた強さに、見るものを瞬時に惹きつけてやまない剣術の美しさ。

 剣を砂漠速さは疾風の如き速さであり、剣をさばくその姿は、地球上に在ずるどんな宝石にも負けない美しさを放っており、また剣さばきからはかのダイヤモンドをも凌ぐほどの芯の強さを垣間見ることができるように感じられる。

 果たして、そんな彼女の芯の強さはどこから感じられるのだろうか。俺には、解らなかった。




 そうして一体どのくらいの時が立ったのであろうか。お天道様はとうに沈み、あたりは暗闇に包まれてしまった。

 無論、なかなかこのダンジョンからの開放される目処が立たない状況であるからに、俺の心も暗雲に包まれている。

 元来、暗く視界が悪いこのダンジョン内であるからに、夜の暗闇はダンジョン外よりも一層強いものに感じられる。

 皆が皆、照明用アイテムをオブジェクト化したことにより、やっとのことで半径2、3メートルが見渡せるといったところだ。

 そんな最悪環境の中でのダンジョン攻略は大変に神経を使うものであり、流石に両者も疲れの色が出てきている。


「……ふぅ。1フロアに比べるとなかなかに体力の消耗が早いわね」


「ええ、先程の1フロアと比較すると、出現敵モンスター数が圧倒的に増加しています。流石、何パーティもの行く手を堅く塞いだだけのことはあります」


 戦闘を続けながら、両者が少々息を上げながら言葉を交わす。

 確かに、シルバの言う通り、1フロアに比べ、この2フロアでの敵モンスターの出現数は目に余るところがある。

 1フロアでは、戦闘の合間に会話を交わす暇さえあったのに対し、現在は次から次へと迫り来る敵に四苦八苦してしまっており、とても暇を持て余す暇はない。

 もはや四方八方を敵に囲まれているんじゃないかと思ってしまうレベル。

 であるからに、流石の俺の高レベル隠蔽スキルでも抑えきれないものがあり、しばしば俺も余儀なく戦闘を繰り広げる羽目になっている。ああ、面倒くさい。なんで俺まで働かにゃならんの?


「っ。モンスター多すぎだろ。俺にも仕事が回ってきてんじゃねえかよ」


「申し訳ありません。何分敵の数が途方もない数ですから……。ご協力をお願いするほかありませんね」


「……アンタ、口を動かす暇があったら体を動かしなさい!」


 そう言って、俺の発言に鬼の形相のスズカとは対照的な苦笑混じりの微笑で返すシルバ。

 だが、明らかにシルバのその微笑も常時のものより心もとない。

 この調子で戦闘が長引けば、いくら体力の多い両者でもいずれツキが来るだろう。

 しかし、両者はその手を止めない。

 疲れたなら、やめればいいじゃないか。安全なエリアに回避すべきだ。

 普通はそう考える。

 しかし、人間は複雑だ。個々に様々な意志を持っており、また複数の複雑に絡み合った関係の元にその意志を持っている。

 それだけではない。個々の生まれから現在に至るまでの生き様によっても変わってくる。


 人間は、難しい。俺はそれを幾度なく経験している。

 ギルドの副リーダーともなれば、弱音を吐くことは許されないし、部下ともなれば、上司より先に脱することは許されない。

 まるで、社会と同じだ。

 人の上に立てば、弱音を吐けば叩かれ、人の上に立つものはこうでなければならないというレッテルを貼られる。

 また、人に従うものは、上からの命令に逆らえば、自身の立場が危うくなるのでどんなものでも従わざるを得ない。

 確かに、例外もあるがほとんどがそうであろう。

 俺は、こういったことが嫌いだ。結局、こういったものはただの縛りに過ぎず、そこになにも生まれないからだ。

 だから、俺はそういったものに縛られない選択肢を自ら選択し、遂行した。

 俺は、別にそのことに後悔していない。


 だが、それができない人物もいる。

 ならば――、もはや縛りのない己がその縛りを少しでも解いてやるほかない。




 ふと、剣を止める。


「なあ、安全エリアってねえのかよ。もう俺、疲れたし戦えねえわ」


 そして、その場にへたり込む。


「はあ? アンタ、体力無さすぎよ!」


 即座にスズカが激を飛ばす。

 しかし、そこにシルバがいつもの微笑で割り込んでくる。


「うーむ。そうですねぇ……。確かに、段々と疲れが見えてくる頃合でしょうし、安全エリアへ向かうのもひとつの手ですね」


「……んー」

 シルバが俺の提案に少し乗ったことで休むことが多数派。スズカもそれを悟り、少し思案顔で固まった後、


「……うーん。そうね、アンタたちがそう言うなら、仕方ないわ。少し、休みましょう」


 意を決したようにそう言い放った。

 これで、終了。休暇も取れて、皆ハッピー。

 俺の役目は、果たせたっていうわけだ。


 その後、俺たちは比較的近くにあったモンスターの侵入不可能エリアである安全エリアへと赴いたのであった。

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