第15話 安定の俺クオリティ

「おい、俺だけハブってんじゃねえ。勿体ぶってないで、さっさと教えろよ」


 俺が訝しんだ目で見つめつつ、いつものニヤケづらを浮かべたシルバに問いかけると、当人は人差し指を立てながら教師口調で応答する。


「つまり、僕たちよりも先に誰かがこのボスを倒してしまった、ということです」


 ボスを倒した、か。

 確かに、これなら全てのことが成り立つ。だが、証拠がない。

 まあ、証拠なんていちいち言っていてもしょうがないのだがな。


 と、ここまで考えたことで気がつく。ボスが倒された、ということはこの先に既に先を行く集団が存在するということではないか、と。


「ええ、その通りです。それも、強力な集団でしょうね。そうでなければ、容易にボスを倒すことは不可能でしょう」


 軽々しくそうのたまうシルバの言葉に、スズカが怪訝な表情を浮かべる。

 この現状、俺にとっては好都合である。なにしろ、強敵を倒す必要がないんだからな。

 どこかの誰かが勝手に働いてくれている。その後を俺は何もせずについて行くだけで良いのだ。なんとも、楽。超楽だわ。いいね。

 この現状のどこにスズカの怪訝な表情が浮かばれるのか。


「おい、スズカ。どうしたんだ、そんな悩ましげな顔して。この楽し放題な状況のどこにそんな表情を浮かべる要素があるって言うんだ。お前、そんなに働きたいの? まさか、社畜志望なの?」


「だって、少しおかしいと思わない? この現状。前にあんたにも言ったと思うけど、このダンジョンはかなりの難易度よ。自分で言うのもなんだけど、アタシとシルバが居たからここまで来れたようなもんよ。まあ、でも、敵が少なかったということも幸いしているとは思うけど」


 スズカが続ける前に、シルバも同様の考えのようで、言葉を発する。


「ええ、確かに少々おかしいですね。僕も同感です。このダンジョンは難易度が高いですから、攻略にはかなりの実力の持ち主、あるいは膨大な人数で挑む必要があります。それほどの戦力を持っているのは、大きなギルドでしょう。ですが、僕たちを含む五大ギルドの面々がこのダンジョンに挑戦しているという情報は入ってきていません。安全に敵を倒すには、かなり徹底した準備も必要ですし……」


 スズカ、シルバともに仮説は考えうるものの結論には至ることができていない。

 無論、俺もさっぱり解らないんだけど。

 メンバー二人が悩む中、俺は考えてもどうせ結論はでないと踏んで、早々に思考を巡らせつことを諦めた後、周囲を再度見回してみる。

 だって、もしかしたらボスを倒した際にドロップした戦利品が落ちてるかもしれないじゃん。拾い忘れてたものとか……。

 しかし、いくら周囲を見渡すべく首を動かしても周りには何もない円状の空間が広がるのみで、特にこれといってお目当ての品はなさそうだ。


「ちっ。やっぱり、なんも落ちてねえよな……」


 なんだよ、おこぼれぐらいよこせよ、と続けて呟こうとしたところで、俺たちがこの空間に入ってきた扉とは反対側の出口と思われる方向に、なにか日光に反射されて光っているものが垣間見えた。

 よもや、宝石か? 宝石なら、商人にでも高く売って換金してやろうと考え、ゆっくりと光が反射していた現場へと向かった。


 すると、見立て通りその場にはなにやらアクセサリーのような物体が落ちていた。

 ゆっくりとその場にしゃがみ込むと、その反射する物体を拾い上げる。


「なんだよ、宝石じゃねえのかよ……」


 その物体は宝石ではなかった。つまり、売れそうにない。

 金属で出来ており、その周りにメッキか何かで加工してあるようだった。

 よく見ると、それはブローチだった。筋が入っており、どうやら開けられるようなので、恐る恐る開いてみる。まさか、この中にお宝を隠しているとか……?

 しかし、そんなありもしないような俺の期待は当然の如く裏切られ、中には写真があるのみだった。

 人間が5人ばかり。家族であろうか。

 両親に、子供が3人写っているというものだった。皆が満面の笑顔で写っており、大変仲睦まじいものだ。

 特に、母親に満面の笑みで抱きついている少女はとても印象的だった。

 それにしても、どうしてボス部屋にこんなものが……?


 そう思い立って首をかしげた刹那、背後から不意に俺を呼ぶ声がした。


「アンタ、そこでなにしてんの? もしかして、なにか見つけたの?」


「……っ!? な、なんでしゅかっ!?」


 急なことだったので、驚きのあまり噛んでしまった。

 うわ、舌が痛いんだけど。

 すると、その驚きっぷりになにかを察したのかスズカがジト目で問い詰める。


「もしやアンタ、運良く落ちてるものがあったらせしめようとしてたのね」


 す、鋭い!?

 なにこの女、俺の心を見透かしてるの? 全部お見通しよってか。こ、怖いんだけど。


「べ、別に俺はそんなこと考えていましぇんでしちゃ!」


 否定しようとしたのにまたしても噛んでしまった。なんてこった。畜生!

 俺の悔しげな表情を見て、ニヤつきながらスズカは続ける。


「でも、おあいにくさま。残念だけど、アイテムが落ちているわけないわ。戦利品は全て、アイテム欄に即座に収納されちゃうから。アンタみたいな姑息な手は通用しないのよ」


「これは断じて姑息な手じゃない。効率化を重視したアイテム取得法とでも言って欲しいね」


「ふっ。じゃあ、戦利品探しをしていたということは認めるのね」


「うぐっ」


 そう言って、黙り込む俺に勝ち誇った表情でニヤつくスズカ。

 この女、超恐いわ。ねえ、ドSなの? そうなの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る