第14話 ボス消失
さて、いよいよ第一のボス「平」との決戦である。
「開けるわよ。準備はいい?」
「ええ、準備万端です」
3メートルはあろう鉄製の両開きの扉に手をかけながら、スズカはシルバ、俺の順に見る。
「ああ、勝手に開けちゃってくれ」
「ええ、そうさせて貰うわ!」
俺の返答の直後に、スズカがギィーッという轟音とともに扉を開ける。
刹那、スズカが懐から抜いた剣を前方に構え、それに続いて、後方で身構えるシルバ、そして、俺もゆっくりと力み気味に剣を構える。
――さあ、こい。なんでも来てみやがれってんだ。
ゆっくりと扉が開き、次第に内部の様子がこちらからもうかがい知れるようになる。
五大ギルドの副リーダーだけのことはあって、リーダーシップをここぞとばかりに発揮するスズカが先頭に立って内部へと歩みを進める。
それに続いて、俺たちも恐る恐る警戒しつつボスの佇む領域へと足を踏み入れた。
果たしてボスとはどのくらいの強さなのであろうか。初ボス戦の俺には、想像もできない。
想像上のもので言えば、ガタイはでかく、狂気迫る奇声をあげ、敵と目を合わせるなり牽制してくるであろう。
レベルも強くて……な。いやしかし、大体、無突破のダンジョンボスにたった3人ばかりの人数で挑んでいいのだろうか。
確かに、俺以外のメンツは激強なんだけどな。
しかし、事態はこんな俺の不安をよそに意外な展開を見せる。
突如、スズカの口から言葉が漏れる。
「……これは、どういうことなの」
ボス部屋を一望したスズカのその一言に続き、シルバも少々驚愕の表情を滲ませながら、辺りを見回す。
パーティメンバー二人が呆然とする中、俺も同じくして周囲をゆっくりと見回す。
そこは森の中にすっぽりと大きな円形にかたどられたような部屋であった。
いや、部屋というべきではない、か。寧ろ、空間といったほうが良い気がする。
その広いくり抜かれたような空間には、視界を妨げる障害物は皆無であった。
正しく、ボスと戦闘を繰り広げるためだけにつくられた空間だ。
ドアを開けてその空間に一度足を踏み入れると、すぐさまボスが降臨し、戦闘を一心不乱に繰り広げるはずだった。
しかし、現状はどうだろう。その広々とした空間には、戦闘を感じさせるものは皆無だ。閑散としている。
あるべきものがないのだ。一体どういうことであろう。さっぱりだ。
何かのバグなの? バグだったら、制作会社に苦情の電話一本でも掛けてやりたいね。
後、ゲームレビューサイトに愚痴をこぼしてやるし。
しかし、この世界ではそうもいかない。大体、苦情でなんとかなるのはゲームだからだ。この世界は、ゲームのようでゲームでない。その事は、確かである。
なぜなら、――俺が存在しているからだ。
しかも、ゲームだとしてもそんな技術はこのご時勢に存在し得ない。VRMMOなんて、想像上のものでしかない、はずだ。
もし、それが出来たとしても未来のことだろう。現代を生きる俺がそのような経験をするわけがないし、第一、俺は交通事故にあい、死んでしまったはずなのである。
万が一、死亡していないとしても病室で寝込んでいることであろう。
ならば、これは現実だ。例え、夢だとしても、ここに俺は存在しているんだからな。
なんだか、かっこいいじゃん。
――俺は、ここに存在する、的な。
俺が現状における思考から少々脱線しつつあると、それを訝しんだのかスズカがジト目で俺を見つめてくる。え、なんでしょうか。
「アンタのその気持ち悪いニヤけ方、何とかしたほうがいいわよ。すっごく気持ち悪いから」
悪かったな、気持ち悪くて。どうにかしたくても生まれつきなんだよ。
「――そんなことは今、どうでもいいの!」
どっちなんだよ。ま、まあ、確かにどうでもいいが……。
「重要なのは、今の現状よ。ボス部屋に肝心のボスがいないのよ。どういうことよ」
いや、どういうことと言われても知らん。大体、この世界自体よく解ってないしな。
スズカの八つ当たり的発言に俺が反発していると、傍らで顎に手をやり考え込んでいたシルバがニヤケづらをすぐさま回復すると、いつもの如く話し始めた。
「ボス部屋に肝心の倒すべき敵が存在しない。これは由々しき事態です」
由々しき事態も、お前のそのニヤケづらを見ていると冗談に思えるな。
「これは、どうも。いつでも冷静沈着に、という僕の精神が役に立っているようですね」
いや、褒めてない。驚愕のプラス思考だな。お前なら、数多あるブラック企業でも悠々とやっていけるタフな精神を持ち合わせているんじゃないか。まあ、俺はそんなの御免だけどな。
しかし、そのニヤケづらからはシルバが何か解ったということが読み取れるのであるからに、スズカもそれを察してシルバに問いかける。
「で、シルバ。この状況について、何か解ったの?」
「ええ、真実が解ったわけではありませんが、可能性としては幾つかの論が考えられます。まず第一に、ボスが逃げ出したというものです」
ボスが逃げ出す? そんなことゲームなら聞いたことないな。
そんなことができたら、ルールもなにもあったもんじゃない。
大体、ボスが逃げ出すとか。ボス、働きたくない病にかかってんじゃね。もしくは、ボスが出てきたくなくて違うところに引きこもってるとか。違うか。
確かに一例としては挙げられるかもしれないが、この論はなかなかに横暴すぎるものではなかろうか。
そう思ったのは、俺だけではないらしく、スズカも考え込むように腕を組みながらそれに反論する。
「それは可能性としてはかなり低いわね。第一、そんなことはありえないわ。聞いたことないもの。万が一、そのようなことが起きれば、世界の終わりよ。強敵なボスが街を襲う可能性だって出てくるんだから」
「ええ、そういうことになりますね。ですから、この論はあまり可能性としてはないでしょう。では、二つ目の論としては、ボスが既に倒されたというものでしょう。ボスが倒されても、次のフロアで自身が倒されてしまい、再度同じダンジョンに挑んだ場合、一度倒したボスは復活しているというのが一般的です」
シルバが演説口調でそこまで言うと、スズカも解ったように頷く。
「ですが、それはあくまで挑戦者が倒されてしまい、ダンジョンがリセットされてしまった場合のことです。つまり、同じダンジョン内にまだボスを倒した人物がまだ存在しており、その人物が倒したボスに別の人物が挑戦しようとした場合――」
「そうか、そういうことなのね」
シルバがそこまで語ったところで、スズカは理解してしまったようだ。
また俺だけさっぱり解らないんだけど。いつも、ハブられているぜ。俺、ハブられスキルも習得したんじゃね。
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