第13話 豆腐メンタル
俺が半ばハブられ状態になっていると、シルバが微笑を浮かべながら前髪をツンと弾かせて解説する。
「お聞きしますが、隠蔽スキルをご存知ですか?」
よくは解らんが、内容から察するに、隠れるスキル。いわば、隠れ身の術みたいなもんかね。
「ええ、隠蔽スキルとは、敵から探知されにくくなるスキルです。モンスター戦でも、敵に気づかれずに接近攻撃が可能になる大変有用なスキルです。スキルは、レベル成長とともに配分できるはずなのですが、貴方のレベルから、800という数値は考えられないものがありますね。実に不思議です」
つまり、俺のスキルって超有効なものってことだよな?
すげえじゃん、俺。忍者にでもなった気分!
ようやく理解し、高揚した気分になった俺に、チクリとスズカが呟く。
「……空気なアンタらしい能力ね」
ええ、正しく俺の人生、空気です。
つまり、これまでの人生でのぼっち生活の成果がここで実ったというわけである。
褒め言葉、褒め言葉……だよな。
「ええ、勿論皮肉よ」
やはりそうですか。解ってはいたが。
「ところで、アンタのぼっち生活の賜物である隠蔽スキルは理解したとして、探索スキルまでかなり高数値なのかしら……」
「当然、それもぼっち生活の賜物さ」
ぼっちにとって、学校生活などの公共空間での時間は大変であり苦痛を伴う。
例えば、ぼっちはすべてのことを自分自身で全て執り行わなければならない。
授業でも、休んでも友達にノートを見してもらえないのであるからに、絶対休まない。
さらに、教師の言葉は一言一句漏らすわけにもいかない。
さらにさらに、ぼっちにとって重要なのは「人間観察」だ。
自身の安定した居場所を確保するためには、着実に周囲の人間関係を熟知しておく必要がある。偉いやつには媚を売って、目をつけられないようにするとか……。
「――このように、快適なぼっち生活を送るためのスキルを俺はこれまでの人生で磨き上げた結果がコレなわけである」
「悲しいわ。悲しすぎる。アンタの人生、悲しすぎるわ」
悲しい悲しい連呼しないでくれる? こう、なんか、両目から汗が滴ってきたじゃん。大量に。
ああー、今日は目から汗がよく出るなー。いわゆる、目汗日和。
◆◇◆
俺の目汗が段々と引き始めたちょうどその頃、俺たちパーティ一行はやっとのことで第一の関門であるボスの間の門前にたどり着いた。
時間にして、開始後4時間が経っていた。
聞くところの難関ダンジョンだけに、もっと苦戦するだろうかと予知していたのだが、如何せん俺以外のメンツが強者すぎる。
メンツ二人は、相当レベルが高い上、先の会話から察するに攻撃スキルは500近いようだ。ちなみに、俺の攻撃スキル値、つまり剣術スキル値は10であるからにその差は歴然としている。
つまるところ、俺の存在は不要であるように思ってしまう。
過去に大勢で挑んで敗北を喫したようなことを口にしていたが、現状この二人だけで事足りているではないか。ホントに俺、不要だわ。帰っていいかな。
「さあ、どんどん行くわよ。ボスなんて、消しらしちゃいましょう」
俺が暗雲たる気分に浸る中、不敵な笑みを浮かべたスズカが叫んだ。
ふと爽やかな風が吹き、後頭部で束ねられた黒髪が美しくなびく。
なんだ、あいつ元気すぎだろ。どっから、そんな元気出てくるのさ。背中に電池でも搭載してんの?
俺がうかつにも風に美しくなびく黒髪に暫し見とれていると、少し離れた位置でその様子を見ていたのであろうシルバが、俺と目が合うなり微笑を浮かべながら両手を広げ、肩をすくめる。
そして、俺が睨みつけるなり、するりと近づいてくる。
ニヤニヤと、ニヤつくな。こっちくんな、気持ち悪い。
「気持ち悪いとは心外ですね。この際ですから言わせていただきますと、貴方がニヤけた時の方が10倍、いえ100倍は気持ち悪いと感じましたよ。こう、背中に冷気がひた走るような、そんな感覚を味わいましたね」
うるさい、黙れよ。お前の方が、心外な発言してるぞ。
俺の豆腐メンタルを潰したいの?
「いやはや、貴方にはつくづく驚かされますよ」
「え、そう……!?」
「ええ、貴方の働かなさには感服しますよ。完全に僕たちしか敵を倒してませんからね」
なんだ、嫌味かよ。
ただ、直接言ってきたことは褒めてやろう。
ぜ、絶対陰口とかダメなんだから。陰口って結構耳に入ってくるんだよ。しかも、俺がいないと思って話してるから、すごく直で心にぐさりと刺さるんだよ。
野球で言えば、160キロの豪速ストレートね。
「いえ、決して嫌味ではありません。むしろ、感謝していると言っても過言ではありません。現状では、貴方のそのひねくれた人間性に救われていますよ」
残念だったな、これはひねくれているとは言わない。
まともな発言。まともな人間。冷静沈着な人間なのさ。
ところで、救われたってどういうことだ。俺は何もしていないのに。
そのことを問おうとするも、シルバは微笑で返答するやいなや先に立つスズカの背後へと向かって行ってしまい、結局、その問いかけはならなかった。
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