第4話 絶賛連行中

 口に「キバシシの肉」をくわえながらも、声の出処を確認すべく振り向く。

 すると、軽装備に槍を片手に携えた男数人が俺に迫ってきた。

 なんだなんだ。皆一様に狂気を発して。


「貴様、なんてことを……! 逮捕だ!」


 先頭に立って指揮する男が言うやいなや、俺の周囲四方八方を取り囲まれてしまった。

 え、なに。なんですか。あの人、逮捕とか言ってますけども。

 訳も分からず、その場にたじろぎながら口をパクパクしていると、


「おい。大人しく、こっちに来るんだ」


 男数人が、アイテム欄からロープをオブジェクト化し、俺の両手を固く縛った。

 なんといきなり何するんだ。

 ここは、一発ガツンと言ってやらねばと決意を新たに、恐る恐る声を出す。


「え、っと、なんなんでしゅか!?」


 しまった。緊張のあまり、噛んでしまった。

 さらには、声も裏返っているし。

 その奇妙な光景に、男たちはさらに俺を疑念の視線で見つめる。

 その後も、自前の今流行りのコミュニケーション能力、いわゆるコミュ力を発揮し、さらに事態を悪い方向へ向かわせるのであった。

 なんだか、喋らない方が良かったかも。






 しばらくすると、リーダー格の男一人が、なにやら赤い宝石のような結晶をオブジェクト化し、大きく息を吸い、


「転移。リーフォーレスト!」


 結晶を大きく掲げ、よく解らない言葉を叫んだ。

 すると、突然、視界が歪んだ。

 まるでどこかにワープしているような、そんな感覚に見舞われる。

 これまでに経験したことのない感覚に襲われ、俺は目を閉じる。

 しかし、その感覚は本当であった。

 刹那、肌に触れる外気が変わったように感じた。

 先程までの草原の爽やかな気質から打って変わり、金属のような冷たい空気が俺の肌に触れる。

 ゆっくりと、目を開ける。

 すると、そこは先程までの広々と広がる草原ではなかった。

 目の前には、金属の塊のような建物が立ち並んでいるのだ。

 金属の錆び付いたつんとした匂いが鼻につく。

 そして、周囲には様々な装備をした人々が行き交う。

 皆一様に、俺を一瞥するもすぐに目を合わすまいと背けてしまう。

 人間が多数いる。

 俺はそれだけでも嬉しかった。助かったのだと。

 訳も分からずに連れてこられたわけなのだが、街に連れてきてもらえたのなら、全て良しであろう。

 この際、縛られて連行されたという事実は忘れてやってもいい。

 俺が街に来れたことを嬉しげに考え、ニヤニヤしていると、それに気付いた男が俺の顔を見るなり怪しみの表情を作りながら、俺を縛ったロープを強引に引く。


「うひゃっ」


「何をグズグズしているんだ。早く歩け!」


 なんなんだろう。この感情。

 ここ、強制労働施設なの? 凶悪犯なの、俺?

 これは人権問題、国連に後で文句知ってやるしな、覚えとけ。

 俺がこの悪い待遇について、どう報復してやろうかと思考をフル回転させていると、俺を縛ったロープを引っ張る一行が、急にある建物の前で立ち止まる。

 急に前方の男が立ち止まったため、俺は立ち止まれず、衝突する。

 そして、その建物を見るなり思わず唸る。


「いでっ。え、ここ? でっかい建物……」


 その建物も、周囲の建造物同様、金属感溢れる建物であったが、他の建物よりも数段規模も高さも別格なほどに大きなものであった。

 高層部には、赤い生地に剣が地面に刺さっている模様のある旗がはためいていた。

 まさかとは思うけど、ホテルですか。

 ち、違いますよね。

 男たちの目を見れば解ります。恐い。

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