第3話 早くもレアアイテムにありつく

 段々と近づいてくる影。

 そして、俺が震えながら持っていた剣を恐る恐る構えているうちにその影の姿は肉眼ではっきりと見えるまでに近づいていた。

 その姿は、明らかにイノシシのような容貌だ。

 イノシシのような丸みを帯びたボディに毛をふさふさと生やしており、口元には鋭い牙を構えている。

 もし、牙で一突きでもされたら、右上に映っている俺の体力ゲージは一瞬で吹き飛んでしまうかもしれない。

 ちなみに、俺の体力値は100であり、極めて少ない。

 そして、イノシシらしきモンスターの頭上にもコマンドが浮かび上がった。



 モンスター名:キバシシ

 レベル:1

 HP:100



 うわっ。体力値、一緒だわ。

 きっと、雑魚キャラだろ。ネーミングセンスなさすぎだろ。ていうか、絶対手抜きレベルだわ。

 代わりに俺が命名してやろう。

 お前は今日から、「ザコシシ」だ。うむ、我ながら素晴らしいネーミングセンス。


 俺は牙をこちらに向けながら突進してくるザコシシの迫力に少々押され気味になりながらも、剣を構え、振る!!

 とにかく、振る!!

 なにいってんだ。俺の運動真剣なめんなよ。

 学年で3位になったことのあるレベルだし。……ただし、下から数えてな。


 剣なんて画面上のMMOぐらいでしか扱ったことがない――つまり、ボタン操作を連続するだけの簡単なお仕事――経験無しの俺に、まともに剣が使える訳もなく、ただ単に怖がって剣を振り回すだけであった。

 ああっ! 死にたくない、恐い!!


「おりゃあ、おりゃあ」


 そんな乱暴な剣が当たるはずもなく――、「ギャオッ」という悲鳴らしき雄叫びを聞き、直後にバタリと何かが倒れた音を聞くのみだった。


「って、倒れてる!?」


 音に気づき、振り回していた剣を止め、恐る恐る様子を伺ってみると、そこには先程まで暴れまくっていたはずのザコシシがHPゲージをゼロにして無残にも倒れているのみだった。

 そして、直後に倒れていたザコシシは光の粒子となって消えたのだった。

 あ、あれ? この状況は、勝ったということでよろしいのかしらん。

 俺が状況を読めずに頭を抱え込んでいると、目の前に突如WINと銘打たれたコマンドが現れたのだった。

 あっ、勝ったんですね。ようやく解りました。



 俺は初勝利の感傷にしばらく浸る。

 なんだ、この胸が踊るような高揚感は。

 そして、勝利表示のすぐ下に「レアアイテム獲得」の表示を見つけ、所持アイテム欄を開く。

 初戦からレアアイテムとか、最先が良いのではなかろうか。しかも、雑魚キャラっぽかったぜ? 現に弱かったし。


 表示を確かめるためにアイテム欄を人差指でスクロールすると、そこには俺待望のものが。



『キバシシの生肉』



 幸運に次ぐ幸運。

 なんとドロップしたレアアイテムとは、食材だったのだ。

 すぐさまアイテム詳細から説明事項を確認する。


「ええっと、なになに……。――『キバシシの生肉』。キバシシから捕れる肉。その味はとても美味であり、焼くも良し、煮るも良し、ってか。一応、生でも食べられるみたい」


 勿論、様々な食べ方を試してみたいのは山々なのだが、何しろ調理器具がない。

 ならば、生で食べるほかあるまい。

 もう、食べられるのならなんでもオーケーだ。


 そのレアアイテムである生肉をアイテム欄からオブジェクト化すると、すぐに口を大きく開いてかぶりつく。

 肉だけに憎らしいほどの美味であった。

 例えるならば、高級な生ハムみたいな感じ。


 こうしてようやく食事にありつけて安堵していていると、突然背後から、人間の悲鳴にも似た驚愕の叫び声が轟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る