第1章(2) ふたりの少女


 平衡感覚を失いながらも走るアベルは、いくつものテントを超えて中心部へと到達する。

 頭の中でさまざまな顔をもつ複数の自分が喚き立てる。

 早く、早く止血をしなければ。左腕が奪われたくらいなんだ。命あっての物種だ。レオナルドは自分の目の前で死んだ。いいやつだった。自分を守ってくれた。もう嫌だ。魔物に抵抗するなんて無理だったんだ。これなら国でどぶさらいでなんでもすればよかった。いつか妹に再会できるかもなんて甘い考えを捨ててさ。あんなの人間の勝てる相手じゃない。

 だが――。

 ただひとり本物のアベルの思考は今、完全に停止していた。

「……は?」

 そこはひどい有様だった。

 人も馬も変わりなく、ドロドロのぐちゃぐちゃのミックスジュースのように、ぶちまけられていた。

 皆殺しだ。魔物がやったのだ。

 心臓が止まったような気がした。

 これで逃げ道は塞がれた。

 馬があっても四足魔物から逃げ切れる確率は低い。だのに足も奪われた。

 死体に紛れてやり過ごそうか。いや、無理だ。よしんばうまくいったとて、この傷では感染症で死ぬ。

 血の味に混ざって、口の中に苦さが現れる。それは死の味だった。

 見上げる。神を仰ぐような気持ちで。

 闇の中、一対の紅眼。全貌は見えない。だが、悪魔のような影が浮かんでいた。

 ああ、とわずかな得心。商隊を襲ったのは、この魔物か。殺される相手の正体を知るとともに、瞬くような光が瞼の裏に浮かぶ。走馬灯だ。

 アベルの村は、魔物に滅ぼされた。

 いまどき国の庇護化にはない、珍しく穏やかな農村であった。

 であったはずだったのに。

 父も母も幼馴染の少女も隣の家のおじさんもおばさんもそのまた隣の家の人たちも皆、魔物に殺された。たった一匹の魔物に、蹂躙されたのだ。

 森へと逃げた人たちは、戻ってこなかった。村で生き延びたのは、その前日に奴隷商に買われた妹の幼きアビゲイルと、自分ひとり。

 瓦礫の中にいたアベルは、その村を事後調査にやってきた冒険者の面々に泣きついて、助けてもらった。

 あの日あの時から、どんな食物を口にしてもアベルが味を感じることはない。一晩中アベルの口内を犯した苦味だけが、アベルの舌にわかる唯一の味だった。

 今と同じだ。

 姿を変えた闇が忍び寄ってくるかのように、魔物が一歩一歩と近づいてくる。捕食成功を確信した魔物は、デザートを見定めるような足取りだった。彼らにそのような情緒があるはずがないだろうが。

 魔物を前にして左腕から滂沱ぼうだの血を流すアベルが思うことは、ただひとつ。

 人間という存在の、圧倒的なまでの無力感だ。

 自分たちはなぜここまで弱い生物として生まれ落ちてしまったのか。

 魔物。圧倒的な破壊力。目にも留まらぬ速さ。強靭な生命力。そのどれもが、人間を遥かに上回り、追従を許さない。

 さらに肉の詰まった魔物の体は、人間のいかなる武器や兵器をも通さず。

 すなわち魔物は道具を用いることによって非力を克服し続けてきた人間の知恵をも、完膚なきまでに凌駕したのだ。

 だからこそ人は国の外に出ない。魔物の脅威を心から知っているはずなのに。――時にこうして、軽視し、そしてその代価を心臓で支払う。

 アベルは悔やむ。悔やむ以外になにができる。

 なにが中堅だ。なにがベテランだ。ただの一敗でそんなものは無価値となる。体に振りかけた香料など、とっくに血の臭いで上書きされた。

 剣戟の音が響いた。これで三度目だ。

 目の前に立つ巨大な魔物の動きが止まる。

 アベルもまた、顔をあげた。

 ――剣戟だって?

 音は近い。先ほどよりもずっと。鳴り響くそれは、人間の発する音だ。生命の叫びだ。

 魔物と戦っている者がいるのか?

 それはいったい――。

 アベルの脳裏に浮かんだのは、先ほど話したばかりのあの銀髪の少女だった。

 そんなはずはない。とっくに殺されて肉袋になっただろう。そんなはずはないのに。

 いいや、別に誰だっていい。誰だっていいさ。

 まだ戦っている者がいる。まだ諦めていない者がいるのならば、それならば。

 俺は――。

 アベルは魔手抜刀剣の柄に手をかけた。いつでも抜けるように鞘を下げる。抜くために必要な魔力を体中からかき集め、血液に流した。廻る魔力が熱を発し、体温が上昇の一途をたどる。

 循環燃焼メディテーションだ。

 達人ならばこれほどの時間はかからずに行なうものだが、アベルにその才能はなかった。代わりに剣の腕を磨いた。

 魔手抜刀剣を人間の力で抜くことはできない。人間の力で倒せぬものを倒すための技術なのだから当然だ。

 暗闇に慣れた目は、魔物の輪郭を捉えていた。

 原型モチーフは熊。二本の足で立ち上がり、こちらを見下ろしている。ハッキリと全貌を見据えれば、それは今までに何度も相手をしたことがある相手だ。

 片腕グレンデル。肘より下に垂れ下がった右腕により名づけられたこの魔物は、驚異的なリーチを誇る。あれを潜り抜けるのは不可能だ。やるとしたら腕を振るってきたそのときに、交差斬り《カウンター》をお見舞いするしかない。

 魔物はなぜか襲いかかっては来ず、緊張状態は続く。

 アベルの肌を滝のような汗が流れ落ちてゆく。尋常ではないほどの汗ですら、その魂の高ぶりを冷やすことはできない。

 一歩。魔物が動いた。

 その瞬間、アベルは抜刀した。

 たちまち出現した半透明の煙。それこそがアベルの魔手である。

 左の肩口から立ちのぼった煙は瞬時に凝固し、欠損を補うかのように左腕となる。右腕で鞘を握り、新たなる腕でアベルは鞘と刃の留め金を引きちぎる。

 たかが一メートルも伸ばせぬ魔手だが、その代わり瞬間最大出力だけはあのレオナルドにも引けを取らない。命中さえすればどんな大岩すらも砕け散る。アベルの切り札であった。

 左腕の魔手による抜刀術。

 刃は渾身の魔力とともに、光の軌跡を描く。

 そして、――闇を斬裂した。

 血しぶき。刃は魔物の腕に深々と食い込んだ。一瞬の喜色。

 だがすぐにアベルは気づく。こんなもの――魔物にとってはかすり傷程度ではないのか?

 鍛えて鍛えて鍛え上げた魔手抜刀術。人間の神髄を見せたその一撃は、魔物を揺らがせもせずにその腕をわずかに傷つけただけだった。

 左腕の魔手は煙となって夜に溶ける。再び腕を失ったアベルの体を虚脱感が包んだ。循環燃焼メディテーションの反作用だ。

 やるだけのことはやった。魔物がわずらわしそうに腕を振るい、刺さった抜刀剣を振りはらう。返す爪でアベルの体は引きちぎられるだろう。レオナルドのように。あの村で死んだ家族のように。

 そのとき、闇から光が生まれた。

 ――そう思うような銀色の輝きが、アベルの眼前に広がった。

 何者か。こんな場所でなければ、アベルはきっと――天使だと思っただろう。

 体つきと、しなやかな腰まわりが目に飛び込んできた。銀髪をなびかせた光は女であった。彼女はアベルが声をかけた、あの女だった。

 女はその手に刀を握っていた。美しい。だが、脆弱だ。

 そんな細い腕で切れるのは、せいぜい人間ぐらいなものであろうが。

 だが女は、毅然と魔物に向かい合う。魔物の前に立ち、正気を失っていないのだ。あるいはとっくに狂気に満たされているのか。

 女は振り向かずに、言う。

「逃げなさい、あなた」

「……」

 返事をしたつもりだが、喉の奥に張りついたまま声が出てこなかった。

 火照った体を覚ますように、冷たい声が刺さる。

「それとももう死んでいたかしら?」

「……生きている」

「あ、そ。じゃあ今度こそ死にたくないのなら、立ち上がって、逃げなさい」

 その言葉で自分がいつの間にかへたり込んでいたのだと知る。

 アベルは首を振った。

「無理だ。後ろからも魔物が来ている。俺はもう、逃げられない」

「ん」

 そこで初めて女が振り返ってきた。横顔から覗く瞳は冷然だが、この世のものとは思えぬほどに美しい。

 こちらの傷を確認したのだろう。左腕が切り落とされ、止血もままならなかったために腰から下は血まみれだ。その上で魔手を使うという無茶をして、魔物に挑んだのだ。

 死はもはやアベルを掴んで離さない。

 だが、それでも――。

 最後にこんな美しい女を見て死ねるのだから、他の男たちに悪いな、と思った。

「……妹が生きていたら、あんたと同じぐらいの年になっているはずなんだ。だからあんたは、生きてくれ」

 アベルを一瞥し、女は再び魔物に向き直る。

「わかった」

 女は腰に佩いた刀を外し左手に握り、それを水平に掲げた。

 アベルはその様子を、まるで儀式のようだと思った。

「あなたの仇は討つわ。特別にね。だからって、あの世で言い触らしちゃだめよ」

 いったい、なにを。

 お前こそ、早く逃げろよ。

 声ならぬ声で告げるが、すでに彼女はこちらを見ていない。

 魔物を見上げ、親指で刀の鍔を弾いた。

 ――人間の力では抜けるはずのない魔手抜刀剣を、ただそれだけで抜き。

「結局、ふたり旅になっちゃうね。サラ」

 つぶやいた。

 それがアベルの耳に聞こえた最期の言葉だった。


 リリスが抜いた刀は、漆黒の輝きを放つ。

 その刀には銘がある。

『魔手抜刀剣・堕天』

 この世界でリリスのためにだけに作られた魔刀である。

「まったく、同時に三匹の魔物に襲われるだなんて、なんて商隊。どこが安全な道なのよ」

 毒づくその声を聞いたわけではないだろうが、魔物は低くうなった。

 テリトリーに入り込んだのはこちらだとでも、言いたいのか。

「知ったことか」

 魔物は常道を逸した動きを見せた。そもそも正常である獣が魔物とは呼ばれないものだが――。

 右腕を地面に突き刺し、己の体を回すようにしてリリスの左後方に回り込んでくる。そして引き抜いた右腕を力任せに叩きつけてきた。

 速い。人間の動体視力を振り切るほどに。

 だが――。

 リリスは踏み込みながらその一撃を避けた。たやすく見えるほどに自然な動作で、魔物に肉薄する。屈めた身を一気に持ち上げ、上半身のバネで刀を振り上げた。

 ただひとつ少女の肉体だけで振り切られた刀が、魔物を裂いた。

 斜めに走った傷は深い。魔物の体が血を噴き出す。少女はその腹を蹴り、魔物を地面に引き下ろす。手慣れたものであった。

 現象の整合性は崩壊していた。

 少女が魔物に効果を及ぼす斬撃を放つことはできないし、通常の刀の耐久値がもつはずがない。その上魔物を蹴り飛ばすほどの脚力も、あの細い脚ではありえない。そもそも魔物の行動に人間が対応できるはずがないのだ。

 だが、リリスはそれらを同時にやってのけた。

 魔物の腹にのしかかり、その頭蓋骨に刀を突き下ろすところまで、なにひとつ、躊躇せずに――。

 魔物を絶命させ、顔をあげる。

「あと一匹、いたわね」

 リリスは刀を引き抜き、血を振り飛ばす。

 口内をまさぐるようにして舌を蠢かし、苦味を探すと、ふと彼女は気づいたように。

「……ん」

 眉をひそめた。

 見下ろすのは、先ほどまで無謀にも魔物と戦おうとしていた青年の死体だ。

 彼は目を閉じたまま息を引き取っていた。

 だが、口元をほころばせている。それはまるで、充足した生を全うしたかのように。

「……ご満足いただけたのなら、よかったわ」

 アベルが死の淵で見たのは、魔物を圧倒する少女の姿だった。

 それは青年にとってなによりも心地よいもので、まさに救いそのものであったのだと、リリスが察することはない。

 瓦礫に隠れていたあの日の少年が、村を襲う魔物がひとりの死者も出る前に打ち倒された姿を幻視したなどということは、無論――知るはずもなかった。

 刀を腰に差し、再びリリスは歩き出す。

 もと来た道を、闇へと。


 リリスはすぐにサラを見つけた。

 テントの外に出ていたからだ。

「だめじゃない。隠れていなさいって言ったのに、サラ」

「どっちみち、襲われるんだったら変わんないよ」

「あたしが見つけやすいわ」

「それこそ」

 サラが口をつぐんだ。

 どこにいたって見つけるくせに、と言うのはあまりにも子供っぽいと思ったのだろう。それでも言わないで意地を張ることとそう大差はないのだが。

「まったくもう」

 リリスは嘆息し、サラを見やる。

 幸い、どこにも怪我はないようだ。何事もなければいいというわけではないが、その無事で今はよしとしようか。

「男は苦手なのに、魔物は平気なのね」

「別に平気じゃないけど……。でも、マシかも」

 サラは斜め下に視線を落とした。

 その頭を撫でようとして、リリスは手を引っこめた。なるべく気をつけていたけれど、返り血を浴びてしまったのだ。

 この美しいサラの金髪を汚してしまうのは、リリスには耐え切れない行為だった。しばらくは自重しなければ。

 微笑みでごまかすと、サラは再び頬を膨らませた。

 なにかを隠していると思ったのだろう。また「だいきらい」と言われてしまうかもしれない。

 代わりにごまかした。

「雨が降ればいいのにね」

「……濡れるから、やだ」

 単刀直入な返事である。

 気に入らないことがあるとすぐに頬を膨らませる、リリスの大切なお姫様。

 だけど本当は寂しがりやで、いつだって不安なのだ。それがわかっているからこそ、リリスは彼女をひとりにしてしまったことを、悪いな、と思った。

 暗闇の丘の上に立っていたサラは、見つけてほしがっていたようなものだから。

 確認した積荷はなにやら筒のようなものが大量に詰め込まれていた。恐らくは兵器の類だろう。リリスには使い方がわからなかったから、その場に残してきた。

 商隊が全滅したことを告げると、サラの機嫌はますます悪くなった。

「だから、ふたりでいいって言ったのに」

 すべての原因がリリスにあるような口調である。

 リリスはあっさりとうなずいた。

「そうね。今となっては、そうだったわね」

「……」

 出鼻をくじかれたような顔をするサラを、招く。

「テントに戻りましょ、サラ」

「……でも、まだ魔物が残っているよ」

「ここではさすがに眠れないからね。テントを持って、少し歩くの。一眠りして朝を迎えましょ。あなたの望むふたり旅の始まりよ」

 当たり前だが、サラは喜ばなかった。

「……生き残っていた人は?」

「あたしの見る限りはいなかったわね。運が良ければ生きていられるでしょうけれど。でもこの状況は不運そのものとも呼べるわ」

「だけど、わたしたちがいた。わたしたちなら」

「別に人を救うために旅をしているわけじゃないわ」

「そうだけど」

 リリスは歩き出す。

 少し進んだところだ。サラがおずおずと問いかけてきた。

「……怖くないの?」

 先ほどよりもずっと湿った声だ。

「なにが?」

「魔物が、だよ」

「もちろん怖いわ」

「ぜんぜんそう聞こえない」

「隠しているだけよ。大人だから」

 突き放すつもりはなかった。だが、彼女の期待する答えではなかったようだ。

 サラは口を尖らせる。

「リリなんて、だいきらい。いつもひとりでいっちゃう。わたしは必要ない?」

「違うでしょ、サラ」

 リリスは立ち止まった。

 テントの乱立する林。死体に囲まれ、闇の中。

 振り返り、サラにささやく。

「あたしが大切なのは、サラ。あなただけよ。あたしひとりで倒せる相手なら、あたしが倒したほうがいいに決まっている。当然でしょ?」

「……またそう言う」

 揺れるサラの瞳を強く見据える。

 想いは伝わらない。だが、伝えようと試みなければなにも始まらないから。

「心からそう思っているもの。ちゃんと薬は飲んだ? 熱はなさそうだけど、油断しないでね。すぐに移動して少し休みましょう」

「……」

 サラはうつむいた。

 大切な彼女は、叱られたような顔をしていた。

 どうしてそんな顔をしてしまうのか、リリスにはわからない。

 リリスはアベルに自分たちが恋人同士であると表明した。そう言っておくのが虫除けとして効果的なのだと、リリスは旅の間に学んだのだ。

 好奇の視線にはさらされるが、実害はない。

 仲睦まじく身を寄せ合う彼女たちは、言われれば恋人同士の雰囲気もあるだろう。

 だが、違う。

 リリスはさらに言葉を重ねる。

「どんなに遠い旅をしても、国から国へと渡り歩いて何千回魔物に襲われようとも、あたしは必ずあなたの病気を治して見せるわ。だから、魔物なんて怖くないの。へっちゃらよ」

 何度だって、言い続ける。

 彼女が世界で一番大切なのだと。

「ね、いきましょう。サラ。……サラ?」

 サラはこちらに手を伸ばしていた。

 真っ白で綺麗な指先が、なにかを求めるように闇をくすぐっている。

 サラが不安そうな目で、こちらを見た。

 そこでようやく彼女が欲しているものの正体がわかった。

 けれど、リリスはわずかに躊躇した。

 情けなく笑い、遠慮気味に返す。

「だめよ、サラ。わたし、ちょっと汚れているわ」

「……」

 サラはぐいとリリスの手を引いた。

 そして、それがなんだとばかりに、指をからませてくる。

 その無理矢理の行為に、リリスは苦笑を禁じえない。

「サラをひとりにして、ごめんね」

「ううん」

 彼女の声は、先ほどよりもずっと柔らいでいた。

 サラを見ながら、リリスは控えめに尋ねる。

 胸の鼓動を隠しながら。

「……わたしのこと、嫌い? サラ」

「……」

 サラの手に力が込められた。

 とくん、とくん、と自らの心臓が早鐘を打つ。

 魔物を相手にするよりも、よっぽど緊張する時間だ。

 そして少しの時間が経ち、小さなつぶやきが漏れた。

「だいきらい……じゃない。ごめんなさい」

「ううん、いいの、ありがとう」

 思わず笑顔になってしまう。

 自分は単純だとリリスは思う。

 つないだ手の温かみは唯一のもので、それがなによりも心地よかった。

「あとで手を拭きましょうね、サラ」

「――うん、ママ」


 リリスとサラ。

 同い年にしか見えないその母娘は、旅を続けている。

 次なる国は目と鼻の先であった。



 人類にはふたつの被害が襲いかかった。

 伝染病と魔物だ。

 野生動物を狂暴化させ、変異体へと変えるそのウィルスは、動物たちを『魔物』と呼ばれる化け物へと変質させた。

 また、疫病の被害は人間にも及んだ。その疫病に冒された人間たちは、ことごとく死亡していったのだ。

 人類は数を減らし、ただ絶滅を待つだけの存在であるかのように思われた。

 しかし、生き延びた。

 救世主『英雄医師』によって疫病への新薬が開発されたのだ。

 それは万能薬とはなりえなかったにしろ、初期感染を食い止めることができるようになり。

 世界は未来への希望と、そして増えすぎた魔物への絶望の狭間に揺れている。

 そんな世界に生きる、ふたりの少女の物語であった。



◆◇◆◇


次回 第2章「サラ」公開予定日:3月11日(金曜日)18時~

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