5:バラクーダ戦、第1回戦

『狛▼丑ーKOMAUSHIー

 VS

 名称未設定013号ーNO_NAME#013ー』


 ジャキッ、ジャッキン!

 構えられる巨大なアームガード。

 ガシン! ガシン!

 地を踏みしめる、電柱のような長い足。


 ピロロロロロロロロロロッ!

 体力ゲージが満タンになる。


『『彼の゛血に゛蛮勇がァ降リ立チ―――』』

 たける猛獣のごとき声に、混じる金属的な合成音声。


 GET! DEADーHORNS! AWAKENING!

 UNDEVELOP! NO WEAPONS!


 READY―――! FIGHT!


 中央上部。戦闘可能時間カウンタは99。

 キャラ選択画面のカウントダウンとは違って、正確に1秒ずつ減っていく。

 つまり、最大でも99秒後には、必ず決着が付くことになる。


 ゆらゆらと前後に、木の葉のように動く”コマウシ”。

 間合いを測る動作から、瞬間的にタックルへ移行する。

 山のような体躯たいくが、上半身をひねり、肩から突進していく。


 ガードせず、長い足で踏みつけるようなキックを繰り出してくる#013。

 打ち下ろすような攻撃の場合、打点が高いほど、基本命中率は上がる。

 狛丑コマウシは、落ちてきた棒のような足を、バックダッシュでかわした。


 再び、瞬間的に繰り出されるタックル。

 地面に突き刺さった”横縞模様ながあし”に取り付いた、狛丑コマウシ

 足を引っかけて、打ち下ろすようなパンチを繰り出した。


 ドゴゴガガン!

 狛丑よりも、ふた周りは大きな#013を草原へ打ち倒す。

 地が割れ、#013が草原にめり込んだ。


   ◇


 打点よりも、相手の重心が高いにも関わらず、きれいに投げられたのは、”カクトオ_プラグイン”による動作補正のためだ。

 格ゲーナイズカスタムされた、スターバラッドのバトルシステム。

 ”有利リターン”と”不利リスク”を、その場で精算することで、LV差や戦闘スタイルの相性だけで、勝負が決まらない仕様。

 その1行動ごとに発生する状況発生確率と成功値補正は、公式に公平性・・・が保たれている。


   ◇


 起きあがる#013。割れていた足下が元の草地に戻る。

 狛丑は、追撃を行わず、再び揺れる動きで距離を取った。


 その下がる動きに合わせた足払い。長い足から繰り出された低い攻撃。今度は狛丑コマウシが草地に横たわる。

 打点の低い攻撃は、システム上の基本命中率は最低だが、即座にガードしづらい特性がある。

 足下は、すくわれやすいのだ。

 そして、足払いがヒットすれば、当然ダウンを取ることができる。

 だが、”受け身”に成功した狛丑コマウシは、即座に跳ね起きて、また距離を取った。

 長大な足先。そのリーチの長さを、警戒したのだ。


 バックダッシュする蒼鬼コマウシのツノを、既に放たれていた追撃が捕らえた。

 電柱のような長足のリーチを生かした、ダイナミックな蹴り。


 その運動エネルギーは大きく、狛丑コマウシは上空へ吹き飛ばされる。

 錐揉きりもみ回転する体全体を、大きくひねった上半身の反動で止める。


 狛丑コマウシの着地を、長い足払いで、再度狙う横縞の長足。

 だが蒼鬼は、着地の瞬間に四つん這いになり、地に顔を伏せた。

 つまり、――頭の片ツノを水平に構えている。


 ギャリギャリギャリリリリィィィィィィンッ!


 飛ぶ火花。寸断される足先。

 トグルオーガの対戦システムに、基本的には、部位欠損の表現はない。

 ごく一部のキャラの、ロボットパーツ部分や増設武器が外れるくらいだ。


『COUNTER ATTACK!』

 グラッ。

 ――――ッドズズズムン!

 足払い攻撃を迎撃された形の戦闘ダミーは、ゆっくりと時間をかけて倒れた。

 両足を投げ出した長足に、狛丑はダッシュで近づく。


 長足は、その巨大な体躯たいくにも関わらず、倒れた反動を生かし、後方中返りで、一気に起きあがった。


 それは、即時復帰を可能とする、格闘ゲーム準拠のタイミング。

 しかし、ただでさえ高い重心が、不揃いの足では支えられない。当然、傾く。


 そこを狙った狛丑のタックルがヒットする――はずの間合いで、攻撃タックル空振りすスカる。


 足の長い戦闘ダミーのHPゲージたいりょく。その下にある四角形の枠線。

 そこに1つ貯まっていたゲージが、輝きのエフェクトを発していた。

 その効果なのだろう。狛丑コマウシのショルダータックルからの3連撃が、すべて無効化された。


 爪や牙やツノは破壊されたり、折れて手持ちの武器として使えるようになったりする。

 ゲーム進行とともに増大する行動用のゲージを使って、再び生やすことが出来たりもする。

 #013の行動用ゲージが消費され、空になる。枠線には再使用不可能であることを表すばつが入れられた。

 その直後、――。


 ――――キュウゥゥゥゥッ!

 #013の後方から現れた小型工作機械①が、壊れた足の先に取り付く。

 ガシギュィィィィン!

 キラーン!

 一瞬で、修復される#013。


『USE REPAIR MACHINE!』

 合成音声と同時に、小型工作機械①が白煙をあげ、崩れ落ちる。



   ◇◇◇



「んっだゼそれっ!?」

「ちょっと、体力回復しちゃったじゃない!」

「おう、使い捨ての、……修理マシン? みたいなの、使いやがった!」


「超、汚たねー、けど、たまにいるゼ、そういうキャラ」

「そうなの? ズルい気がする」

 禍璃マガリは、納得いかないようで、近くにあった大福をつぶして八つ当たりしている。


「それよりよ、……コイツの操作系、ゲームコントローラーだ。しかも、この行動の正確さからすっと、多分アケコンだゼ!?」


「って事は、”格ゲー経験者”ってこともあり得るか……」

 バラクーダは、ひっくり返った反動を移用して、後方受け身を成功させていた。

 彼、いや、彼女は格闘ゲームのスタイルで、操作され行動しているようだった。

 スターバラッドのバトルシステムを使用したときのエフェクトが出ていないのと、MPマジックポイントやレイジゲージの表示が無いことからも推測できる。


「でもぉー、あとぉー2回ーだけぇでぇしょお? 修理使えるのぉわぁー」

「1回の回復量は20%くらい? ――としたら、体力最大MAX160%って、……考えたらズルいどすけどな? ……でもこれなら、まるで勝機が無い……事はあらしまへんな?」


 『狛▼丑【□□■■■】61【■■■■□】#013』


「(残り)体力HPは、7(割対)、9(割)ってトコか。ゲージ管理、慎重に!」

「オッケー! まず、ダイヤル(ゲージ)最大まで貯めるゼ!」



   ◇◇◇



 狛丑コマウシは、ダッシュからのジャンプ攻撃を繰り出す。

 めくり攻撃になった裏回りのキックをガードされるが、3連コンボを続けて出す。

 初撃が当たらなければ、連続攻撃をしたところで、すべてガードされてしまう。

 ガードされた攻撃は、白ダメージにしかならない。そのままでは、時間とともに回復してしまう。

 ただし、当たらなくとも攻撃するたびに、増えるものがある。

 HP下に表示されている、各種の行動用MPゲージだ。

 各キャラの持つ特徴を表した形状となっており、狛丑のはダイヤル型の枠の中に数字が表示されている。

 効果は違えど役割としては、#013が使った四角形の枠と同じものだ。

 特定の行動のために使用でき、それは勝負に勝つために、有用な力を発揮する。

 狛丑コマウシには、全部のダイヤルゲージを使うと可能になる、超必エクステンデ殺技ッド・アーツがある。


 狛丑コマウシの背中に取り付けられている、大きなダイヤルがガチリと回転した。

 現在、目盛りダイヤルは3/10。

 3連撃のコンボを出すたびに、1回転する程度の増加量。


 #013の3個有る特殊ゲージは、修理リペアユニットを3回まで使用できる可能性を表している。


 対する狛丑コマウシの特殊ゲージは、トグルオーガのシステム準拠、狛丑コマウシ専用のダイヤルゲージだ。

 10まで貯めることで、エクステンデッド・アーツを放つことができるようになる。

 ツノで突き上げた相手より、さらに高くジャンプして、上空から巨大ツノで地面に突き刺すという恐ろしい技だ。


 狛丑コマウシは、攻撃を避けつつ、間合いを計り、ガードされた場合にも、連続攻撃を続けていた。

 巨大なアームガードからつながる、鎖状のケーブル。狛丑コマウシの背中のバックパックへ繋がったそれが、確実にゲージをダイヤルに貯めていく。


 現在目盛りダイヤルは、6/10。


 『狛▼丑【□□□■■】40【■■■□□】#013』

 『<06>               R凶■口』

 体力は、狛丑コマウシ3、#013ながあしが4。

 残り時間は40秒。


 #013の残り体力が50%を切ったところで、この戦闘ダミーの行動に変化が現れた。

 地面を、削岩するような動きを見せたのだ。

 ドッドッドッドッドッドッドッドッゴッゴッ!

 画面を振動させるたびに、細長い身体を草原に沈めていく。

 狛丑コマウシは、振動に翻弄されているようで近づくことが出来ないでいる。次第に土煙が立ち上り、戦闘ダミーは狛丑コマウシよりも小さくなっていく。

 そして、とうとう縦に長い体のすべてを、土煙の中へ沈めてしまった。


 土煙はスグに霧散し、横長の画面は、狛丑一体だけになった。

 背後には、4体のNPC達と、残りの戦闘ダミー達も見えているが、操作可能状態プレイヤブルキャラで無い彼らは、単なる背景物として扱われているはずだ。

 狛丑コマウシ以外の、残る2体のオーガ勢と、ヨロヨロと起きあがるミミコフ。

 そして、米沢首ヨネザワコウベは、準備体操をしていた。


 #013のHPゲージの下。四角形の枠線。

 その2つ目に貯まっていたゲージが、輝きのエフェクトを発する。

『USE LOCKーON MACHINE!』

 合成音声と同時に、小型工作機械②が現れ、空中に浮かんでいる。


 狛丑コマウシの足下に現れる、ロックオンマーカー。

 形状は平面的だが、扱いとしては、スターバラッドの戦闘システムによるモノと、見た目も機能も、だいたい同じだった。

 3・2・1、―――。

 マーカーに小さく表示される、攻撃予測のカウントダウンがゼロになる。


 ボッッゴオォォォォォッン!

 地中から突き出たのは、電柱のような”足”。

 その表面には、青白い電撃が走り、付いた土が光の粒子に変わる。

 ヴァリヴァリヴァリ!


 草原の一部が焦げて、長草を焼失させている。

 ポォン♪ ポォン♪ ポォン♪

 3・2・1、ボッゴォォォン! ボッゴォォォン! ボッゴォォォン!


 2つ目のゲージに、ばつが入れられ、使用不可能になる。

 1つ目のゲージは、体力回復リペア。2つ目のゲージは、連続大攻撃の為のロックオン命中率上昇だったようだ。


 ガードして、バックダッシュ。

 ガードして、バックダッシュ。

 ガードして、バックダッシュ。

 初見しょけんの大技だったが、狛丑コマウシは、冷静に距離をとり続け、すべての攻撃をしのいだ。


 連続大攻撃で、#013の最後のゲージが、貯まる。

 そして、大きな攻撃を立て続けてにガードできたため、狛丑コマウシのバックパックに取り付けられているダイヤルも、”10”になるカンスト


 握った拳を顔の前で打ち合わせ、アームガードを爆発させる。

 その爆発力は、腕に沿わされている鎖を伝播し、バックパックのダイヤルを限界以上に回転させる。

 ダイヤルゲージが、使用エフェクトばくはつする。


 牙をむき出しにして、咆哮ほうこうする狛丑コマウシ

 折れているほうのツノが、付け根から抜け落ち、ゴトリと落ちた。

 折れていないほうのツノには、変化は無い。


 小型工作機械②が爆発し、光の粒子と化す。

 連続大攻撃を終え、地面からノソノソと生えてきた#013。

 それを、待ち受けていたタイミングで突き刺す狛丑コマウシ


 同時に現れる小型工作機械③。

 使用エフェクトと共に、最後のゲージにもばつが描かれた。


 狛丑コマウシのツノは、小さな自動工作機械に描かれた”③”のナンバーの真ん中に命中した。

 振り上げられる狛丑コマウシのツノ。衝撃で爆発する小型工作機械③。


『USE AUTO GUARD MACHINE!』

 合成音声と同時に、#013を、光の揺らめきが包み込む。

 エクステンデッドアーツは、小型工作機械③自動ガードマシーンによって防がれてしまった形だ。

 だが、これでもう、バラクーダにゲージは無い。


 暗転するエフェクトで、狛丑コマウシは、周囲を埋め尽くしたが、超必殺技が不発だったため、漆黒やみは霧散していく。

 ボゥォオゥワァッ!

『POWERFUL HORN GREW!』

 ツノの落ちた穴から、ほのおまとったちいさなツノが生えた。


 ガチンッ!

 ダイヤルが回転する。バックパックに表示されている数字は、”9”。

 ガチンガチンガチィンッ!

 ゴリゴリゴリッ!

 ダイヤルが解放されるたびに、小さな蒼ツノが、太く長大になっていく。


 ダイヤルは”6”。

 ゴリッ!

 左右のツノが同じ長さになったとき、#013がバックダッシュした。

 間合いを離したのは、ダイナミックな蹴り攻撃をジャストミートさせる為だったようだ。狛丑コマウシに迫る大ぶりダイナミックな―――。

 狛丑は、エクステンちょうひッドアーツさつわざ咆哮こうちょく状態が続いている。まだ動けないようだ。


 ウォォォォォオオオオッ―――、ゴッキャンッッ!

 動けない狛丑コマウシに激突する、電柱のような足。


 吹き飛ばされた狛丑コマウシが、咆哮ほうこうを止め、錐揉きりもみ状態におちいった。


 ボボボンッ!

 狛丑コマウシの肩とわき腹に繋がれていた金属製のベルト。

 それが爆発を起こし、切り離パージされるバックパック。

 解放された、山のような筋肉が、暴れ狂い脈動する。


『BOOSTED ON DIALER!』

 空中に表示されるアナウンス表示。

 狛丑コマウシは、ツノの状態を確定させたのだ。

 これで、彼も行動用・・・のゲージをすべて失った。

 ダイヤルゲージを貯えるためのバックパックも、もう無くなってしまったため、再度貯めることはできない。


 『狛▼丑【□□□□■】27【■■□□□】#013』

 『<ーー>               R凶凶凶』

 体力は、狛丑コマウシ1、#013が3と言ったところ。

 残り時間は27秒。


 #013の、ダイナミックな蹴り攻撃。まるで歩くようなフォームで繰り出された2撃目。

 バックパックを捨てた狛丑コマウシは、その場でコントロールを取り戻し、体をひねった。

 かろうじてガード出来たものの、画面端まで吹き飛ばされる。


 何もない空中・・に激突した狛丑は、地面に崩れ落ちた。

 何とか、受け身をとり、立ち上がる、瀕死状態の狛丑コマウシ


 #013は、あろうことか、その巨体をものともせず、ダッシュからのめくり攻撃・・・・・を、繰り出した。


 自分を飛び越えた#013に翻弄された狛丑は、ガード出来ずにキック攻撃を受けてしまう。



   ◇◇◇



『YOU LOSE!

 HORN HAS SPROUTED!』

「やべっ~! 負けちまったゼ~!」

 ”格ゲービュー”に表示されている文字を、前にして愕然がくぜんとする刀風カタナカゼ少年。


「もー、何ヤってんのよ! 鋤灼スキヤキ、アンタ代わりなさいよ、早く!」

 イケメンカタナカゼから、コントロールパッドをひったくった禍璃マガリが、シルシへ、それを押しつける。


 受け取ったシルシ少年は、周囲の期待の視線を一身に集め―――。

「ど、どーすっかな? ―――コウベ出すか?」

 と、オデコに手を当て、考え込んだ。


『ROUND2』

 READY―――! FIGHT!

 だが、”格ゲービュー”は、キャラ選択画面にならず、2ラウンド目が始まった。


「あれ? 2ラウンド目、有る!?」

 きょを突かれた狛丑シルシは、開戦一番、ダイナミックな蹴りを喰らって……気絶したピヨった

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