5:バラクーダ戦、第1回戦その2
『YOU WIN!』
”格ゲービュー”はきらびやかに勝者を讃えている。
「
観戦中のギャラリーたちの文字チャットも凄まじい勢いで流れていく。
『これ午前中やってたなんとか試験だろ?』
『あの変な娘出てないの? 何このNPC』
『トグルオーガじゃん。また懐かしいモノを』
『この画面叩いてるメイドさん、邪魔じゃね?』
『コウベちゃんは、さっき奥の方でシャドーしてたぞ』
おおむね好評であるようで、
「いきなり気絶した時は、どうなるかと思ったけど、やるじゃないのっ!」
成功報酬のつもりだろうが、中身は金貨型のチョコだ。
大食いぞろいのVRE研のことを考えて、この量にしたのだろうが、いかんせん多すぎる。
「
「システム管理者の陣中見舞いとしては、これでも足りませんよ?」
女史は、袋からこぼれ落ちた、
「でも”カクトオ_プラグイン”……で、
「
じゃあ私もと、袋の中から爆発しているようなロゴが描かれた
彼女が手にしているのは、オレンジ色に爆発ロゴ。
そのパッケージ横に書かれた、『425
それぞれ、
「先生、太りまへんか?」
「姉さん、太るわよ?」
「先生それ、食べ盛りの少年たちにと思って、買ってきたんですが……」
もぐりもぐり。大会用のパネルの一部を操作しながら、女史がスナック菓子にかじり付いた。
『>kill @仝〆VAL§ゞ⊇AQU∞DA』
【!④】ポーン♪
『>explode <#013>』
【!⑤】ポポーン♪
女史の手元では、凄腕オペレーター”バラクーダ”との攻防が、まだ繰り広げられている。
しかし、
かじりかけた長めのキャラメル色から、口を離す
普段の大食いを考えれば、数百キロカロリー程度の増減は、大差ないように思える。
それでも、
伸びてくるガタイの良い腕をよけて、それは
一瞬残念そうな顔をしていたが、
『ROUND3』
READY―――! FIGHT!
”格ゲービュー”の中で、ラウンド開始のゴングが鳴る。
「向こうはゲージ温存してる。……ばりもぐぼり……ひゃっぱり、格ゲー慣れしてやがるゼ!?」
そう、一般的な格闘ゲームは基本的に、2本先取した方が勝ちだ。
「ばりぼりごくん……”世界選手権準拠”てぇの……のせいで2本先取になっ……とるようどすな」
手元に開いた小さなコンソールを操作していた、
その細い指の先。積層モニタ横の大会用表示画面の一角を指さす。
『世界選手権モード:2本先取ポイント制:団体戦形式
【0】 VRE研究部:狛丑 VS OP:バラクーダ 【0】』
小さいリプレイ映像の中で、
現在、開始したばかりの3ラウンド目。
対する#013は、四角い行動用ゲージが、3つとも満タンの状態になっている。
ラウンド取得数は1対1。次の最終ラウンドを制する制した者が、勝者となる。
「はひ。……パリパリムシャリ……
女史は、壁の向こうに開けている
「そういや、バラクーダはんとの……一騎打ちってこたぁー、……言ってみれば、特区運営サイド……との
「は?」
斜め前に座った美少女へ向かって、いぶかしげな視線を向ける、
「こら万が一勝って……しもたら、さぞや夢見……がよろしいでっしゃろなあ。――――
タタン。打鍵音。
『【公式戦】運営バーサス学園β【官民対決】』
「んなっ!? ――――な、何を勝手な!?」
驚愕のシラタキ。
「ちょっと、
「だから、どすえ。……あちらさんも、これだけの
「そうですねえぇー。良い考えかもしれませんねえぇ。私はぁー、
特選おやつを、腕時計型デバイスから取り出す笹木
つまみ上げた光点を、大会用表示パネルの一つに、投げ込む。
会議机の上に置かれているモノとは、別の特選おやつが、パネル表示の中でBETされた。
「何……したの、姉さん?」
首を傾げる小柄な少女。
「せっかくだから、この勝負、盛り上げられるだけ盛り上げて、運営サイドのトップを引きずり――――」
「先生、運営サイドの現場主任は私です。恥ずかしながら、現時点で最高責任者ということになるので、意味はないので、――――」
眼が泳ぐ女史。彼女が、本気で
「
『【公式戦】運営バーサス学園β【官民対決】』の文字を、指さした。
「マズくはないです。決してマズくはないのですが、――――」
歯切れの悪い女史。
顔を女子へ向けたまま、会議机に突っ伏す
「
「ぐぬぬ……」
「おい、
「俺も、初めて聞いたよ」
「ぐぬぬぬ……」
”ぐぬる”女史。その額をつたう冷たい汗。
「
「え? うそ、マジか!? 気ぃーつけよっ!」
視線は
「ぐぬぬぬぬぬぬ……」
ネタにされていても、まだ女史は”ぐぬ”っていた。
その視線は、壁向こうの”
凄腕オペレーター、バラクーダ
「そうとう、”ぐぬ”ってるわね」
「もぐもぐ……
「ソコだゼ! 振り向きカウンターから、――――!」
ゴッツン、ガンガンガンッ!
「わかってるっ! ――――おし、ノーゲージ最大っ!」
ゴガゴガッ――――ズドダァン!
『8HIT COMBO!』
『狛▼丑【□□■■■】30【■■■□□】#013
<ーー> R■■■』
体力は、7対6と言ったところ。残り時間は30秒。
わずかに
このままでは、いつか”小型工作機械③《ロックオン技》”を使われ、逆転されかねない状況だ。
”
「……
「あるゼ。”前から後ろ”の次に、”3”をちょっと溜めてから、”7”と”ボタン全部”――――」
”前から後ろ”というのは、前から後ろまで、下を通ってレバーを半回転させる操作。
”3”や”7”というのは、方向レバーの操作系を表したものだ。
テンキーの”5”を”
「――――”ボタン全部”? 押しづれー」
ぐりぐりぐりん、ぺっちん!
「って、バカ! 冗談だゼ! そんな、
そしてそのまま、
金属製のベルトを締め、背中に装着するも、ソコには丸い穴があいていて使い物になりそうもない。
「あれ?
赤い小鬼が周囲を見渡した。
その視線は#013の方向で止まり、小さな
テッテッテッテッテッ!
小さな赤鬼は、#013の足払いを喰らい、爆発する。
その爆発は、来た道を戻っていく。
赤鬼から伸びていた赤い影は、まるで導火線のようだった。
火花がバックパックへ到達する。
グリグリグリン! ペチペチペチペチッ!
あわてた
だが、地面にうずくまる
最後の瞬間、
画面上を覆う大爆発。
その爆発力は、#013の
”格ゲービュー”は爆炎で埋め尽くされている。
壁向こうの”
『狛▼丑【□□□□□】14【■□□□□】#013』
ビロロロロッ。半分以上は残っていた
「青牛さん、……ワヤになってもうた」
「きゃぁーー! 牛さぁぁぁん!」
「あっちゃーっ」
爆発が収まる。そこには
「おい、何だ!? あの自爆技!
「かーーーっ! だからそう言ったじゃねえか!
『YOU LOSE!』
”格ゲービュー”に表示された非情な8文字。
「何、ヤってんの! アンタたちっ!」
どよどよどよよよよょぉん♪
残念なBGMが流れるなか、小柄な少女が、少年たちの頭頂部をわしづかみにした。
『【公式戦】運営バーサス学園β【官民対決】
世界選手権モード:2本先取ポイント制:団体戦形式
【0】 VRE研究部:狛丑 VS OP:バラクーダ 【1】』
パァファーーーー♪
『負けてるw』『がんばれー!』『コウベちゃん、はよ』
『いつの間にか公式戦なってるし』『w』『草』『草』
ファンファーレに涌く、大会専用文字チャット。
ポイントを先制したのは、バラクーダチームとなった。
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