2:迎撃開始コフ その2

「上官への敵対行動を確認! 米沢首ヨネザワコウベを、敵と認定するにゃ! 直ちに交戦を開始するコフ!」


 エプロンドレスの、ポケットに、実物大に縮んだ、それでも一抱えはあるカードをしまう。

 代わりに取り出されたのは、トリガーガードの無い、抜き身の”拳銃”。

 仰角最大、とどろくは、銃声でなく、ブーーーーーーーーーッ♪

 放たれた”ばつ”は、変顔のまま仁王立ちの美少女コウベへ向けられる。

 見上げるミミコフと、見下ろすコウベの間に飛び交うのは、視線だけだ。

 その間には、何もない―――コウベは、斜め後方へバックちゅう


 くるくるくるくるっ……スッタン!

 目にも留まらぬ高速回転。この時点で人知を凌駕しているが、コウベは、さらに着地点を蹴った。

 その動きは、急回転を掛けられた、ピンポン球よろしく、低い姿勢のまま後ろ走りへ移行した。

 頭の上の小鳥は高速回転の勢いで飛び立ち、コウベ着地と同時に再び合流。コウベの歩幅に合わせて羽ばたいている。小鳥の向きは逆になったが、キチンと進行方向へ向いている。


 コウベが退いた空間。

 そこには真っ青な”小蟹こがに”が出現していた。


 見えない弾丸? を発射する、”◯✕銃まるばつシューター”は、どれくらいの射程があるのか、さっぱりわからない。

 コウベの変則的な後ろ走りを、追尾するごとく、真っ青な小蟹こがにが、ガシャガシャッ! ガシャガシャッ! と空中に出現する。

 何もない空中から、わき出した、―――真っ青な小蟹は地面に落ちると同時に四散するように逃げていくが、すぐに光の粒子となって消えてしまう。


「ケンカしちゃー、駄目ぇーですよぉーぅ!」

 笹木特別講師は、はらはらと心配顔を見せる。

 その背中、まだ姉にぶら下がっているマガリは、冷静に感想を述べる。

「でっかい海老形の、余剰リソース・・・・・とは、違うのが出たわね」


 戦闘フィールドの外を、コウベが進んでいく。その先には、何かの計測機器が壁から密集して生えているため、このままでは行き止まりになる。

 背泳のような姿勢を崩さずに、両足を曲げ、かかとで軽くブレーキングし、上体を捻る。そのまま更に上体を捻り込んで、90度の高速転身。クロールというかバレルロール紙ながら器用に、戦闘フィールドへ突入していく。


 ガシャララ―――フッ!

 軽快にコウベへと肉薄していた、真っ青な小蟹こがにの着弾が途絶える。


「さっき、先生が手に持ってた、VRアイテムも、消えてたな」

「戦闘フィールドの……中と外で、接続リンクが……切れるみた……いやなあ」

 コウベに時折、カメラが寄るが、変顔を止めさせることには成功したようだ。

 それを見て、冷静さを取り戻した項邊コウベ歌色カイロは、手首に目を走らせ、何かの数値を読みとっている。


 壁面の巨大画像の隅、赤いパネル。

 ランキングに参戦した、NEWキャラクター。

 『LV12:米沢首ヨネザワコウベ

 『LV11:小鳥』

 前髪パッツンお下げと、抹茶色のまる。星は無し。


 ここでミミコフは、徒歩でコウベを追いかける。そのスケールにしては速度が有り、戦闘フィールド内に進入すると同時に、コウベの着地点に狙いを付けていく。


 赤いパネルに追加される新たなNEWキャラクター。

 『LVー:WARWARA=MIMIKOV』

 アイコンは笹木特別講師愛用の、”にゃんばるアイコン”と瓜二つ。

 ピンク髪の猫耳メイドに星は無し。

 取りあえず、システム上、”宇宙服のワルコフ”と、”猫耳メイドのミミコフ”は、別なNPCとしてカウントされた様だ。少年と金ピカ頭が、安堵あんどの溜息をく。


 ガシャララ。

 コウベの軌道上に、破壊された人形ダミーが転がる。

 蒼鬼いや、”狛▼丑コマ ウシ”は、残っていた四つ足のテスト用NPCを粉砕し、フィールド上のすべての人形ダミーを撃破した。

 コレが、正式な試験だったら、トップ通過間違いなしだ。


 ブッブブブッブーーーーー♪

 コウベの軌道を予測し、腰だめで・・・・、数発分連続で放たれる”ばつ”。


 米沢首ヨネザワコウベ及び、SFピタピタコスチュームは、モノケロス戦の後、完全にリペアされ、万全の状態である。

 太股ふとももから左かかとへと流れ込む、環状放電リップルスパーク

 バリヴァリバリ。


 ズドン!

 コウベが”電磁加速リニア”で、左かかとを射出すると同時。


 ガシガシャッ、ガシャシャガシャッ! ボスンボボボムン!

 小さい蟹は、人形の残骸に取り付くと同時に、小さな爆発を起こし、残骸を削り取るように、光の粒子になっていく。


 進路上の残骸と、空間から出現する青蟹を避けるため、低い姿勢から後方にジャンプし、空中に飛び上がったコウベ。

 その頭上、小鳥が羽ばたき飛び立つテイクオフ

 パタパタ。

 ゆっくりと一回転し、姿勢を垂直にしたコウベ。

 その頭、目掛けて、舞い戻ろうとしていた小鳥が、急激に凄い勢いで上昇していく。

 バタバタバタバタッ!


 その羽根の音に、全員が注目したとき、落下状態に入った美少女の舞い上がる、―――ピピュイ♪ ―――髪の、―――ピピュイ♪ ―――先端が、―――ピピュイ♪

 ―――爆発した!


「バトルレンダ起動」

 線香花火のように火花を散らし始める瞬間、コウベは静かな声で宣言した。


 コウベ上空の、小鳥をかすめ、青い巨体が落下する。


「ちょっと、姉さん、アレ大丈夫なの!?」


「えー、何がー!? 禍璃マガリちゃんは、小うるさいですにゃー」

 はふんはふん。

 元美人講師ポンコツは、しっかりと素手で・・・、ミミコフを掴んでいる。

 魔女帽子は無く・・、ソレは、この戦闘フィールドのある室内全て・・・・が、AR対応・・・・と言う事を表している。

 実像を結ぶ、フルスペックのホログラフィー規格。

 フルダイブVRと見まがうほどの、強化された現実のAR空間。

 ソレを実現する、繊細な薄皮一枚の技術の積み重ね。

 特区内でも、禁制の技術が、ふんだんに使用されてるのが解る。


「まったく、こんな訳ワカメな時に、どいつもこいつも、余計なことしてくれるわね!」

 いつの間にか背後に忍び寄った、天敵ワオンに捕獲された、30センチの猫耳メイド。

 コウベ、環恩ワオン、ミミコフに、対して、禍璃マガリ呪詛のろいのことばを吐く。

 モデル体型ワオンの背中を押すが、猫耳ミミコフを抱えたそれは、ポンコツ状態につき、時速2キロも出ていない。


「そんなことよりよ、俺の”◯✕銃まるばつシューター”あとでちゃんと返せってんだぜ!」

 俺の・・ってのは、刀風カタナカゼがワルコフに呑まれた、”クイズ◯✕ガンマン”のゲームデータだ。

 耳をヘタリと倒し、全体的にうなだれすぎの、借りてきた猫へ、啖呵たんかを切る。


 ドゴッガアァァァァァァァァァアアアアアンン!

 上空へ飛び上がった、巨大なものが、鋭利な槍のようなもので、地面を突き刺す振動。

「これは、……鋤灼スキヤキはんが、……見せてくれはった必殺技、……ですなあ」

「よし、状況がまだ、さっぱり分からんが、この技出たら、危ないことは無いだろ」

 いきなり靴を脱いで、戦闘フィールド内へ駆けだした環恩ワオンに、ハラハラしていた様子の2人が、ようやくほっと息をいた。


 ゴゴゴッッゴッッッッッン!


 項垂うなだれるままのミミコフを見ていた、刀風カタナカゼは、苦笑いしながら、禍璃マガリに併走し、おい、後ろ見ろってんだぜ。

「何よ、命令すんじゃないわよ」といいつつも、背後を振り返る素直な子供マガリ


 その隙に「失礼しまーす」と、笹木環恩ワオン特別講師をすくい上げ、両腕に抱えて、死にものぐるいで、猛ダッシュ。


 その横を、ものすごい勢いで、追い越していく笹木禍璃マガリ

「今だけ、だからね」と環恩あねに、触る事を許す妹様。


鋤灼スキヤキはん……、これ、先生たち、……道具無かったら、……マズいのと……ちゃいますの!?」


 チッチッチッチッチッチッチッ、ズドン♪


「いやまあ、所詮ゲームではあるんだが、この臨場感で、これは確かに―――」


 チッチッチッチッチッチッチッ、バキバキバキバキッ!


 巨大映像の中、戦闘フィールドの床がひび割れ、抜け落ちていく。下層に広がる空間の奥底からマグマが吹き出し、あたりは熱気に包まれる。

 落ちていく岩を、八艘飛はっそうとびする、コウベ。

 そのお下げは火花を散らし、その全身は放電に包まれている。

 床の亀裂は尚も、広がり続け、こちらへ向かって全力疾走する、”VRE研一同”を飲み込もうとしている。

 ”狛▼丑コマ ウシ”は、背後へ飛び退き、再びツノを地面に突き立てる。


鋤灼スキヤキはん……ツノ折れへんや……ないの!?」

「ええ。それと、エクステンデッド・アーツ使ったのに、ダイヤルゲージ減って無えみてえだ」


 地面に突き立てたツノを、さらに奥深く突き刺す。

 そして、再び力の限りに振り上げた・・・・・

 床が爆発し、粉砕された瓦礫が散乱する。


「先生-! 逃ーげーてーーっ!」

 白焚女史の悲鳴。

 緊迫した面持ちで、顔を見合わせる、金ぴか頭とボサボサ頭。


 ゴオオオウ―――!

 瓦礫と化した、戦闘フィールドの床が、カメラのポジションを覆い隠し、真っ暗になった。

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