3:蘇生ランゾウ その1
『
「はいっ」
交差点に面したビルの一角、2人入れば満員の小さなスペース。
その中で、
『どうぞ、お受け取りください。ご利用ありがとうございました』
特区内の主要な駅ビルに数台ずつ設置されている、”外貨を買い取ってくれる機械”は、パネルに表示されている文面を読み上げた。
この両替機は、該当機関窓口へ申請する事で、得られる給付金・還付金・報奨金などの金銭を、即時、払い受けできる機能を
左腕の、細身のリストバンドを確認する。
手の甲へフリック入力。手首に浮かぶ、ダイアログ。
『全国順位:115位』
『特別報奨金:62,000円』
『特別報奨金の入金がありました。確認いたしますか? はい/いいえ』
選択肢への応答はせず、手首を振って、ダイアログを閉じる。
※2016年6月19日(日)現在―――
高校生のお小遣いとしては、十分な金額だ。しかつめらしい彼の、口元が一瞬ゆるんだ。
この”
ここ特区では、宇宙ドルで困ることは、
防弾対爆マークがついた自動ドアを通り抜け外へ出た、デニム生地のハンチングに柄シャツ、ぴったぴたの
彼の目の前を、”箱”が時速1キロで横切―――らずに、目の前で停止した。
人一人も通れないほどの接近状態のまま、停止する”
「おいっ、通ーれんぞ」
プププブ、ブピピューン?
タンジェリンオレンジの、”
「……何か言ったか? 妙にハッキリしっない
ギッガションガッションガガッション!
とスローな速度のまま進んでから、ドキャドキャっと素早く横にずれて道をあける、
『BreakfastBurrito.』
『スターバラッド・オンラインユニバース
看板の文字が切り替わり、今、行われているイベント中継を流し始めた。
看板の盤面が映像に切り替わり、『LIVE』の大文字が中央に出現。
右上に小さくなりながら移動する『LIVE』。
左上の時刻表示が『09:37』から『09:38』へ進む。
「
映し出されている映像は、リアルタイム通信の
スターバラッド関連の、”
”
サイトフレーム、俗に言う”フレーム”というのは、原始的なウェブサイトを、本文から自動作成された構文AIに管理させ、オンラインデータベース化したものをいう。
自動管理を続けることで、内容を最新の状態に維持し続けることができる。そして、ロボットAI”軸策さん”に拾われれば、データーベースの上位スレッドに位置することになり、集客UPの連鎖に乗ることもできる。
”軸策さん”自体も、規模が大きいだけでフレームの一種だ。ちなみに、名前の由来は”ニューロンの構成要素”から。脳内の伝達要素の最小単位、ひいては会話型システムAIが利用するAPI全般を指す。簡単に言えば、会話や語彙検索に重点を置いた
柱を避け、車道側のスペースへ移動した”
アームの先の看板に、表示されているリアルタイム映像を、こんなの開催予定にあったっけ? と、袖をまくり、リストバンドを確認する。
手の甲にフリック入力し、
リストバンドから飛び出す半透明の盤面。
中央に表示されている、その顔を指で押した。
ススッ。
「ん?」
押したはずのメインヒロインが、横へ移動している。
ススススッ。
指先でポイントすると、逃げていくアイコン。
アプリの起動は、直接盤面を指先で押すか、音声入力で命令してやる必要がある。
顔をしかめる少年。
「音声入力:スターバラッっド公式ニュース」
バコン!
起動と同時に、破裂するアイコン。
「うわっぱ!? なんっだこれ!?」
壊れたのかと思った彼は、半透明の板を叩いて壊し、再描画させる。
が、青白い爆発は収まらず、暗めの青で画面が一杯になる。
ブツン。ブラックアウト。
平面表示が壊れ、
シュワワワン。
炭酸ジュースに飴玉でも落としたような、ちょっとした騒ぎ。
光の粒子になって、殆どが消えていく中、残った
2センチほどの黒い丸は、平面ではなく立体的だ。回転していて、後ろ半球は白かった。
ゆったりとした立体的な旋回を見せていた、真っ黒い半球の部分。
『■』
白い、何かのマークが、表示された。
「なっんだ? なんなんだ!?」
『今』、『1』、『人』、『の』、『小』、『女』、『が』、『窮』―――。
「窮地に……立たされっ……ています?」
その動体視力のテストみたいな球を読み上げる、
半透明の球が、手首の上から転がり落ちそうになる。
ジャイロに対応する動きで、バランスをとろうと、前に2歩
「ツェッペシッ!」
”
そこに映し出されていたのは、少し太めな眉毛、風になびく長いまつげ、細められた切れ長の瞳。短めの前髪は風圧で、横分けにされ、おでこがよく見えている。
両耳の後ろで
絶句するハンチング。
なぜなら彼女の無茶苦茶な軌道は、常人の眼で追えるものではなかったし、
瓦礫の下にはマグマが吹き出していたし、
彼女を
4つのボルトで締められた無骨なアームガードが、今まさに、彼女の顔面を
「な、なぜ!? ”
ブツン。とぎれたライブ映像は光の点になって消えた。看板の表示は切り替わり、この朝食の値段が
「君ィーッ! ライブ中継っを! 映したっま―――!」
はっと、気づいた彼は、自分の腕に指先を走らせる。
表示は元に戻らず、丸い球を叩くが、いくら叩いてもすり抜けてしまい、再描画されない。
「君ィーッ! ライブ中継っを! 映したっまえよ!」
”
『全3種類! どれでも1コ、950
「うっぬううう!? か、買っえというのかっ!? ―――よし、買ってやる。全っ部
豪気な注文を出した少年は、早く、ライブ中継を見せろ! と声を張り上げていたが、”
チョップ! 空っ手チョップ! 少年は手を痛め、涙目になりながら、”
◇
VR-STATI◎N、2階の外壁全面に設置されている、巨大な街頭モニタ。
ねーこれ、昨日、キャラ設計ルームの公園で配信してた娘じゃなーい?
このゴツい、悪魔みたいなの、やっつけると、勝ちになんのー?
えー、そうなんー、この娘かわいーじゃん。
ガヤガヤガヤガヤ。モニタ前に集まる、人だかり。
その注目の中、歩道橋の手すりに掛けられる、ロボットアーム。
「ふごぱー!? ききっ君! 落っちて怪我でもしたらどうしてくれるんどぅわい!」
ひぎーぶひーもぴーっ!
聞こえてくる少年の断末魔。
下から登ってきた”
”
「あれ? なんか見たこと有るー。誰だっけ?」
「えーっと確か、なんか頭の良い先輩」「あー、それだっ!」
後輩らしき女子たちから、手を振られているが、本人はソレどころではないっぽい。
歩道橋の上におり立ったオレンジ色の機械は、180度
「おーっ! ツノ攻撃かわしたっ! スッゲーな、あのねーちゃん!」
近くに居る、スポーツウェアの男性が、ビール片手に
ドドドドドドドッ!
響きわたる爆発音。湧く、ギャラリー。巨大スクリーンの音声は、指向性スピーカーにより、この歩道橋の上にしか届かないようになっている。
へたり込んでいた、
その視界全てを埋め尽くす、
か細い腕の先に付いた、鉄の塊のようなナックルガードが、何度も何度も、凄まじい速度で、巨漢へ到達する。
彼女は、身の毛もよだつような青さの悪魔へ、連撃による爆発を叩き込んでいた。
「なんっーーーーーーって可憐なんっだ!」
立ち上がり叫ぶ、その腕から
手首にまとわりついている
映像を隠すように差し出された、大きなレジ袋。
見えっん!
と、
プルピピピ、プピピピッ♪
ちょうどそこは支柱の上辺り。
ゆっくりと沈んでいく”
ゆっくりと沈んでいく”なんか頭の良い先輩”。
ゴンゴンゴンゴンッ。
歩道橋の床よりも深く、沈んでいく。
「なんだ、見っえんぞ!?」
スッと差し出された看板にライブ映像が映し出された。
美少女の”
「いっけっ! いいっぞ、なんってなんって可憐な―――!」
ガコン。ガッチャリ。
後輩の女子たちが見守る中、ハッチは閉じられ、しっかりとロックされた。
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