1:ワルコフ爆誕! その5

ワルコフゥワルニャン? 聞イタ事ノナイ、固有名詞デスネ_」

 おい、入れ物ワルコフのくせに、中身ミミコフのこと知らねえみてえだぜ? ヒソヒソヒソ。

 だな、全く、この時間ねーときに、ややこしい! ヒソヒソヒソ。


「有ったぁ!」

 環恩ワオンが指先でつまみ出した、見覚えの有る、小さな猫耳アイコン。

『音声ライブラリ:プロファイルイメージデータ』

 今、ワルコフの文字チャット入力を、自動的に音声再生している音声ライブラリのおまけデータだ。猫耳キャラクタは、デザイン形状としてはポピュラーなものだし、環恩ワオンのトレードマーク『にゃんばる』も、よく似ている。


「姉さん、それ、似てるけど、ワルコフにあげた音声ライブラリ付属の、キャラ外観プロファイルイメージデータよ」


 禍璃マガリが、環恩ワオンの相手をしている隙に、HMDお化けが、最初の問題を、ようやく口にした。

「……いや、待て。取りあえず、ワルコフ、オマエ、あれだけあった、”特選おやつ”全部喰ったのか?」


ワルコフゥ♪~~♪~~♪~~」

 凄まじく流暢りゅうちょうな、口笛が作業机の上から届く。

「アレだけ有ったのに、よくも全部、喰ったもんだぜ」

 ヤレヤレと手のひらを手のひらを天井へ向けるイケメン。

「あー、トボケなくていい。もー、怒ってる場合じゃない」


 口笛を吹きながら、この場から離れようとしていた宇宙服が、嬉々として戻ってくる。スキップで。

「やっぱり、一回くらい叩いといた方がよくねえか?」

 刀風カタナカゼが、シルシの工具箱から、データマテリアル対応の、玩具みたいなハンマーを引っ張り出す。

ワルコフゥ♪~♪~♪~♪~」

 高速で口笛を吹き、走るように逃げていく、宇宙服。


「例の”謎椎茸”、”特選おやつ”換算で100個分。すぐに出せりゃ、勘弁してやれん事もない」

 ピタリと止まり、わずかな自由度イッパイに、間接をひねって、ギッギッギッと振り向く宇宙服。

 ワルコフから見れば、HMDお化けの頭カメラえいぞうの中に、シルシの”初期ボディー”の頭が、浮かんで見えている事だろう。シルシシルシとしてキチンと認識しているようだ。

 シルシは、宇宙服へ、『”キャリア中型”試験料金を調達して、今すぐに出発しないと、キャンセル料が発生する事』を説明しようと、赤い色の画面を表示した。

 その瞬間、宇宙服は、返答した。


ワルコフゥ椎茸シイタケ”ガ無ケレバ、”海産物カイサンブツ”ヲ食ベレバ良イジャナイノ?_」

 そのかわいらしい口調と、元からカワイイ音声ライブラリの音声。何かの物まねでもしているのかもしれないが、誰も気にした様子は無い。


「は? ”海産物”? オイ、ふざけてる場合じゃねーぞ。椎茸はもうえのか?」

「その小ささだと、……無いのかもしれないわよ。”余剰リソース”ってやつ」

 ワルコフは、何もせずとも時間経過と共に、”余剰リソース”を体内に溜め込む。そして、その量に比例して巨大化する。”特選おやつ”の大量摂取なんてしたら、元々の大きさ2メートルよりも、大きくなることはあっても、小さくなるはずが無い。


「やっぱり、オマエ、何か悪いもんでも・・・・・・・・拾い食いした・・・・・・んじゃねーのか・・・・・・・?」

  ワルコフを心配し出すHMDお化けへ振り向き、対峙していた相手へ隙を見せた小柄な少女。

 その瞬間、凄まじいスピードで、ワルコフへ振りかぶる、逆上した特別講師。

 AR表示の宇宙服ワルコフには、AR表示中のゲーム内アイテムアイコンを、威力は全くないがいちおう、ぶつけることが出来る。

 ひょろろろろっ! ぽこっ


『音声ライブラリ:プロファイルイメージデータ』がワルコフの頭にヒットする。

 エプロンドレスの猫耳キャラが現れ、顔面バイザーにスコンと飲み込まれた。


「ワルさぁん! ワルにゃんわぁ? どこに隠したんですかぁ!?」

 環恩ワオンは、共有金庫に再び両手を突っ込んだ。

 そして、手当たり次第に、指先にポイントしたくっついたアイテムをワルコフめがけて投げつけた。

 小さいアイコンのまま、ワルコフへ向かって飛んでいく、共有金庫の中身。

 素手でも、アイコン化したAR・VR物体を選択し、投げたりすることは出来る。


『クイズ◯✕ガンマンのゲームデータ』

 あっ! 俺のゲームデータッ!

 刀風カタナカゼが叫ぶ。

 接触する瞬間、キューブ状に変化し、即座にスコン!


ひも』『パネル(小)』

 紐が絡んだ板っぺらに変化し、スココン!


 その他、『ばつ』マーク付きの、

『✕壊れたアイテム』

『✕壊れたアイテム』

『✕壊れたアイテム』

 スコッ! スコン! スコーン!

 直立不動のまま、側面に付いているスラスターを全開。横方向の動きだけで、すべてのアイテムを、確実に飲み込んでいく、宇宙服のバイザーまるがお


ワルコフゥハハハハ、ミス環恩ワオン。私ハ、降リカカルアイテムハ、残サズイタダクク、種類ノ人間ナノデスヨ_」

 小さな宇宙飛行士は、”来いよ”と挑発する拳法家のごとく、揃えた指先をちょいちょいと動かしてみせる。


「おまえ、人間じゃねーだろ、返せ、俺のゲームデータ!」

 反射的にワルコフに飛びかかる、刀風カタナカゼ


 ノイズ混じりに、刀風カタナカゼの胴体を突き抜ける、宇宙服ワルコフ

 背中の噴射ノズルバーニアスラスターに点火し、シュゴゴゴゴッーーーゴッシュボボッボッボッ……プッスン。


 燃料切れで、失速ストールし、落ちるワルコフ。

 その軌道は、まるで月面を飛んで歩く宇宙飛行士コスモノーツのようで、―――。


「ちょっと、今すぐ出るわよ! 白焚シラタキさんに、説明して、待って貰うにしても、遅刻したらソレも出来ないのよ!?」


白焚シラタキ……さんに、待ってもらう?」

 ぐりん。首を傾けるHMD。

「んーーー? アイツ、そういう便宜べんぎを図ってくれるタイプじゃねーよーな気が……」

 ぐりん。倒れたまま、同じく首を傾ける逆算角形マッチョ


 煮え切らない男子どもの尻を、小柄な少女がキックする。

「取りあえず、しゃーねー。あれだ、手間と時間がかかるけど、小型銃とか全部売り払ってる間に、試験始めてて貰おうぜ」

「そうだな、全部かき集めりゃ、”特選おやつ”結構買えるだろうし、試験終了くらいまでなら待ってくれそうな気もしてきた」

 シルシは、共有金庫を閉じる。


「ワルさぁん! 今すぐー、システムイベントログログファイル提出よこしなさぁい」

 美人顧問は、金庫が消え、宇宙服へ投げつける物がなくなったため、やや冷静に問いつめ出す。ミミコフへの執着は凄まじい物がある。ひょっとしたら、一介のVR技術者に甘んじているのには、この辺も影響しているのかもしれない。


 ウォロロン。ピーコンピーコン♪ 外からかすかに聞こえてくるコミューターのバックする音。

 1/6部屋付きルフトが、両目をチカチカさせて、シルシの元へ歩いて来た。


「どうしたのルフトさん。え? お客さん?」

 HMDお化けだけの主観に、メッセージダイアログが表示される。


 トントントントン。階段を登ってくる足音。

 開いたままのドアから、顔を出したのは、項邊コウベ歌色カイロさん推定20歳はたち

 成人女子高生にして、VR設計師:たこ焼き大介でも有る。

 デニムのショートパンツに、薄手の白いサマーコート。柄シャツ&ループタイ代わりか、濃緑のネックストラップを下げている。背中には円筒状のバッグ・・・・・・・

 本日は、準主役と言っても良い。それなりの装備・・・・・・・を持参してきているようだ。

 ゴチャゴチャしそうなコーディネートだが、美少女は何を着せても、着こなす・・・・というのは本当らしく、違和感は余りない。

 試作コード65”小鳥コトリ”&試作コード68”米沢首ヨネザワコウベ”の生みの親。宇宙服ワルコフ宿敵いけずと呼び、美少女と呼んで差し支えない”コウベと瓜二つの外観・・・・・・・・・・”を持つ。


 その足下を、宇宙服いけずが、ゆーっくりと、月面歩行中ムーンウォーク ナウ

 歌色カイロは気にも止めずに、を進め、スコーンと蹴り上げた。

 AR物体へ、影響を及ぼす介入するためには、接続を確立し、S1センシングワン以上に対応した入力装置Iデバイスが必要になる。

 AR対応各種圧紙ペーパーで運んだり叩いたりも出来るが、動き・・を伝えることは出来ない。

 ましてや、素足で、蹴り倒したところで、さっきの刀風カタナカゼのように、すり抜けられ、ノイズをまき散らされるだけだ、


 シルシが両手に装着している、データグラブ。黒地に赤いラインが入っているデザイン。

 そして本日、美少女は、裸足ではなくハイソックスを装着していた。もちろん黒地に赤いラインが入っているデザインだ。


 ワルコフボールは、シルシの部屋を斜めに飛び上がり、AR対応天井、”画素演算”対応強化ガラス窓、床面の着地判定などを、跳ね返ったピンボール

 ”小鳥試作コード65”の立てる、面白効果音SEそっくりの、衝突音を轟かせる。


 ガチン!ボキュン!ドドン!ボキュン!ボキュン! ガチーン!

 歌色カイロが、上手に、床と足の裏で挟み込んだトラップ


 ―――パッパパパッパパパパパァーーーーッ♪

 カヒューーーーゥイ!

 トラップされ、上下逆の宇宙服ワルコフは、謎のファンファーレに続いて、開閉まで・・・・、立派な効果音SE付きだった。


「―――きとした正式名称めいしょう?があるコフーっ!」

 ズドドン!


 上下逆さまの状態で再誕飛び出した、猫耳メイドミミコフは、途中だった口上こうじょうを再開する。

 猫耳に、猫のように・・・・・飛びついた環恩ワオンは、獲物ミミコフすり抜け・・・・て、向こう側に立っていた歌色カイロに激突した。

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