1:ワルコフ爆誕! その4

「一種のぉ呪術装置・・・・だとぉ、仮定してぇ見ますよぉ」


 呪術装置!?

 オカルトじみてきたわね。

 そういや、歌色カイロちゃんは、……現地試験会場集合だっけか?

 なるコフー、呪術装置じゅじゅじっ…ガジッッ痛ッ―――。

 シルシ禍璃マガリ刀風カタナカゼ、なぜかミミコフ舌っ足らずまでが揃って環恩ワオンの前に集合している。


 シルシの部屋の椅子に座った美女ワオンが、作業机の天板に指先を走らせた。


 ダラララララァーン♪

 部屋に内蔵されている、サラウンドスピーカーが、BGMをかなで始めた。

 ド派手なステージの中で、大きな箱の周りを、彷徨うろつく、怪しい人物。

 部屋の壁に表示された映像は大がかりなマジックショーだ。


「オカルトじゃありませんよぉ。手品に使うー、種もぉ仕掛けもぉ満載のぉ、人が入れる大きな箱とかぁスカーフだとかぁトランプカード紙箱ケースとかだと思ってくださぁい」

 ミミコフは、環恩ワオンの前に半開きで置かれたままの、本日の議題うちゅうふくの腹の上に、座っている。半開きのままなのは、いくら力を入れて押しても、閉じられなかったからだ。


「とにかく、ワルコフが”特選おやつ”食べちゃったんだとしたら、”余剰リソースに類する物”、『謎椎茸・・・』をオヤツ換算で100個分、急いで調達しないと」

 小柄な少女が凛とした声で、状況を確認するブリーフィング


「見えない瞬間にー、コト・・がぁ起きるぅ。見てる間にはぁ、コト・・は起こらなぁい」

 実妹の事情説明ブリーフィングを、無視して、話を進めていくVR専門家。

「何言ってるの? 姉さん? いつにも増して、ワケ解んないんだけど」


「や、コレじゃね? 種と仕掛けを、見せないことが、手品ちからになる・・・

 真っ黒いゴツゴツ頭シルシが指さす先には、”半開きの宇宙服ツタンカーメン”と、壁に再生されている”手品師マジシャンが空っぽの箱の中から美女を取り出す”映像シーン


「そしてぇ、種も仕掛けもー、気づいてしまったが最後ぉ、手品がぁ有する魔法はぁ2度とぉ成立しませぇん」

 ―――と言うわけで、ワルにゃんをボツになんてぇ、させませんからねぇー!

 教え子たちに向かって、徒手空拳の構え。声のかわいらしさが邪魔をして、余計に、凄みを感じない。


 ……あれ?

 どう言うこと姉さん?

 笹ちゃん先生?

 生徒組が、にわかに、ざわめく。


 取り上げられ、生徒たちの背後の段ボール箱に突っ込まれている、魔女帽子。その戦力不足を補うつもりなのだろう。

 スカートのポケットから取り出した、VR開発者御用達ごようたつの、基本武装。蛍光黄緑にブルーのロゴ入り。環恩ワオン愛用の、腕時計型の開発者用デバイス。

 おそらく予備にするため、いつも持ち歩いている物だ。慣れた手つきで開いた手首に巻き付けた。


 真っ黒HMDの少年と、ガタイの良い少年が、顔を見合わせる。

 その顔には、一昨日、同じ光景を見たぜ。ああ、俺も見た。と書いてある。


 ミミコフは現在、裸眼らがんでの、目視確認ビジュアルチェックが可能だ。ワルコフのホログラフィー規格への介入ハッキングがまだ、生きているのだ。

 開いたままの宇宙服も、本物にしか見えない解像度で、床に影を落としている。


「うふふふふぅ―――音声入力」

 椅子から立ち上がった笹木特別講師は、その腕のデバイスに、オレンジと赤でデザインされた、”空間認識用アダプタドングル”を狂気の表情で差し込んだ。

 それはそうだろう、既に、現時点で、”高課金量子演算ぜいたく”をしすぎているのだ・・・・・・・・


「管理者権限:行使―――」

 戦闘態勢へ移行した、VR専門家は、半開きの宇宙服と、その上に座っている猫耳ミミコフまたぐ。そして、今まさに、教え子たちへの敵対行動を、何か、音声入力コマンドしようとした時。


 卵、いや、卵の殻元ワルコフヒヨコ現ミミコフを守ろうとしている、親鶏おやどり環恩ワオン直下ちょっか


「フニャァーーーー……ニャュ!?」

 不意に暗くなった天井を見上げ、何かを目撃し、尻尾の先までを逆毛立てるミミコフヒヨコ


「何だぜっ!? 何が見えたんだぜ!?」

「必死か、イケメン……きょうは大人仕様だったからな」

 ボソリとつぶやく、真っ黒HMDの少年。

「何で、アンタが知ってるのよっ!?」

「何で、オマエが知ってんだぜっ!?」


「おい、ソレ、首から下がってる掛札ヤツ。漢字で『耳』になってんぞ」

 HMDお化けは、しゃがみ込んで、自分のコメカミの、金色のリング脳波レンズを指さした。話題を逸らすのに必死だ。

 確かに、全長20センチ程度の動く、猫耳メイドさんは、首から掛札を下げている。 彫り込まれている名目は『営業中』ではなく、『耳コフ』。

 その『耳』の左に『WARWARA』『MIMIKOV』と二段組の小さな文字。その更に左に、デフォルメされた猫耳っ娘のシルエットが彫り込まれている。

 そのシルエットの末尾。妙に存在感がある、猫にしては太い尻尾も、とてもよく再現されている。


「姉さん? ホントに時間無いわよ?」

 シルシの腕をヒネり、環恩ワオンの方へ向ける。

 痛って、何すんだよ。

『08:16:55UST+9』


「だってだって、ワルにゃん、せっかく出てきた・・・・のにー!」

 と、フワフワ広がるスカートを押さえ自分の足元を見る環恩ワオン


 急に、室内灯の光にさらされ、まぶしかったのか、猫耳ミミコフが、クシャミをした。

「ふにゃッコフ!」

 そのはずみで、足を滑らした猫耳は、ゴロリと転がり落ち、宇宙服の丸いバイザーに―――シルシが、恐怖を感じた、空虚な丸鏡に―――。


「当方には、『ワルワラ=ミミコフ』という、れっ―――スコン」

 何故か、再び口上断末魔を始めた猫耳は、圧縮空気が抜けるような音を立て、呑み込まれた。


「「「あっ!」」」

「ワルにゃぁん!?」

 環恩ワオンは、腰が抜けたかと思うほどの、脱力感と共に、宇宙服にすがりつく。

 生徒たちも、一応ミミコフを案じてか、宇宙服を囲んだ。

 シルシが、データグローブでワルコフのフタ・・を持ち上げて中を見たが、からっぽのままだ。


「―――ワルにゃーんっ!」

 ふえーーーん、ええーーーんと、子供の声で、大粒の涙を落としていた、うら若いスタイル抜群の美人はスックと立ち上がった。

「だから言ったのにー! 本来、野良NPCが継続して存在できる確率はぁ、とぉーっても低いんですからねぇー!」

 コウベちゃん達が珍しいのっ、ワルさんなんて問題外っ!

 キッと、生徒たちを睨みつけるが、猫耳メイドミミコフ虚ろな底なし鏡まるがおに、たたき落とした、くしゃみ・・・・の原因は、環恩ワオンご本人である。

 それにキツい視線は、刀風カタナカゼに対しては、逆効果・・・だったようだ。大柄な少年は、頬を赤らめうつむいた。


 ポコン♪ポコン♪ポコン♪

「何よ?」「な何だぜ!?」

 辺りを見回す、凸凹コンビマガリカゼ


「共有金庫に何か入ったぞ?」

 シルシが、両手を広げて、共有金庫を拡大すると、『NEW!』の文字が出現している。

 半透明の格子状のグリッドの中に、シルシが確認したときから増えているアイテムが数個。


『クイズ◯✕ガンマンのゲームデータ』

 コレ、ワルコフの野郎にまれたヤツだぜ!


ひも』『パネル(小)』

 コレは俺が、モノケロス戦の準備で使ったヤツだろ。


『音声ライブラリ:プロファイルイメージデータ』

 コレは、『禁則事項リストボックス』に入れたヤツよね? なんで共有金庫に入ってんのかしら?


ワルコフゥハテ? 何故ナゼデショウ?」

「何故でしょうって、オマエが知らなきゃ、誰が知ってるってんだ!? 宇宙服ワルコフ―――」

 バーニアを噴射し、立ち上がった、全長25センチの宇宙服は、全身でまるを2つ作り『8』の字を描いた。コレは正式な敬意を表す物にはあまり見えない。HMDお化けシルシを見上げている、この宇宙服は、よくふざけるのだ。


「「「ワルコフッ!?」」」「ワルさぁん!?」


「オマエ、大丈夫なんか! その宇宙服からだ、割れてたぜ!?」

「すっごく、気持ち悪かったんだからねっ!?」

 側面に入った一直線の切断面で薄くスライスされたようになって、気密漏れ所ではない有様だったことなど、お構いなし。腰には、さっきまで見当たらなかった、環恩ワオンに貰った、”禁則事項BOX”も、いつの間にか戻っている。

 依然と変わらぬ姿の、船外作業用宇宙服EMUが床の上を彷徨うろつく。側面に切れ目など無い。


ワルコフゥ面妖ナ。ココ14時間ノ記憶ログ破損クラッシュシテイマs_」

 音声は作業台の上から届く。環恩ワオンが付けた、オレンジ色のネックストラップの先、”VOIDチャージャー”。ワルコフがハッキングし、サーモホンの原理で音声出力されている。部屋に内蔵されている作り付けの立体音響サラウンドシステムを介した方が、余程、安易だろうが、ワルコフのキャラ設定上、文字チャットを経由しないといけないらしい。


「ワルさぁん! ワルにゃんは、どごぉーーーー!? うわぁーーん!」

 環恩ワオンは、戦闘態勢をいて共有金庫を引っかき回している。中にミミコフが格納されていないかを確かめていると思われる。


「姉さん、ソンナトコ・・・・・に入ってる訳ないでしょう?」

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