5:決戦! MΘNΘCERΘS 終盤戦その1

 ”LV0”というか、”撃破数”、いや、”戦闘回数0”と行った方が正確かもしれない、3人パーティー。


 1:先鋭的なフォルムの割に、やる気が見られない印象。つまり、外見がサイボーグ的な意味で、ポンコツ。実害としては、射撃装備積載量が売りなのに、射撃命中率が0絶対に当たらない。……やっぱり中身もポンコツ。


 2:スタイル抜群の超美少女だが、乱暴者というかすべての行動目的が雑・・・・・・。要約すると中身がポンコツ粗忽物。小鳥を愛でる優しさ……は無いが、小鳥と同レベルで喧嘩が出来る、純朴さがある。”特選おやつ”への情熱だけは一級品の自律型NPC。


 3:謎の宇宙服。好戦的な割に、切っ先に切れがない。典型的なパワーファイターかつ、お調子者。初期フロアでの最長稼働記録を所持。スターバラッド内部への進入も、お手のもの。端的に言えば、管理者権限をねつ造所持・・・・・している自律型NPC。


 彼らは、今日、この世界に初めて降り立った。謎の宇宙服も、レギュレーションを守って、正規……比較的ちゃんとしたルートで此処ここに来たのは、これが初めてのはずだ。装備の一部が強力なだけで、その攻撃力の計算式の元となる全ステータスがほぼ初期化されている状態。最弱も最弱、最弱以下の爆弱状態だ。


 対するは、LV52のボスクラスモンスター。

 どういうわけか、小型ボス最高峰から、対戦・・を申し込まれて仕舞ったため、ダメ元でレアボスとの対戦を受けることにしたのだが。

 このレベル差を、物ともせず立ち向かうだけで、もはや快挙と言って良い。


「あっ、赤くなったぁー!」

 環恩ワオンが、メカ猫耳をピクピクさせて、外のデカい方の映像空間を指さす。


 テーブル席に座る一同が、指さす先を見る。

 モノケロスのやたらと長いHPゲージ。

 その先端。

 ほんのわずかだが、確かに、赤い色が差している。ドットで言えば2ドットくらい。

 環恩ワオン達の目の前、定格サイズの小さい映像空間では、まだ、色のにじみにしか見えない。


 本日、これが初戦闘という彼ら。ひたすら倍率僅か、+0.2のコンボ累計・・・・・を積み重ね、とうとう達成した一矢報いた結果だ。

 ”コンボ86回完遂で・・・・・・・・・撃破・・”なら、ようやく終盤に差し掛かった所。

 現在63。『97368 DAMEGE! 63HIT COMBO!』。


『MΘNΘCERΘS__/LV52』

『HP_6302632/6400000』


「やっとぉ、倍率の効果がぁ出てぇ来まぁし―――」


「どうしたの? 姉さん?」

「どうかし……はりましたか?」

「どうしたんだぜ?」


 さっきまで、観客一同と一緒になって、嬌声をあげていた猫耳が、顎に、拳を当てて黙り込んだ。


「んーっ? ……なんで、一角獣モノケロさんがジッとしていて……バリン……くれるのかなって思っただけなんだけど……バリバリッ」

 極太の恵方巻きのようなサイズの、スナック菓子ベーコンサラダ味かじり付く笹木環恩ササキワオン


「そりゃあ、アレだぜ。最初の攻撃が当たって、その衝撃で受けた、”体の硬直”が解ける前に、次の攻撃が当たってるからだぜ」

 早くも完食した烏賊飯いかめし風の袋をテーブルの上で、光の粒子に変える。そして、ビリビリーと、新しい”特選おやつ”を開封する刀風曜次カタナカゼヨウジ


「まあ、連続攻撃の基本よね、パクッ」

 刀風カタナカゼの説明に、笹木禍璃ササキマガリが同意する。

 手羽先を両手で持ち、はぐはぐとかじりついている。さっき、刀風カタナカゼの、烏賊飯いかめしと取り替えようとしていたが、コレはコレで満更でもないようだ。

 ”特選おやつ”の良いところは、開封と同時に、僅かながら、暖まるか冷えるかする事と、手づかみで食べても、手が汚れない事だ。


「それはぁそうなんだけどぉ、にゃんばるアタシのぉ連続攻撃見たくー、近接でえ、ひっきりなしにー、攻められてるってぇ感じでもないからぁ、いくらでもー、何かぁ、やり返せそうじゃなぁいー?」

 味が気に入ったのか、環恩ワオンはパッケージの裏書きを眺めている。


「んっ? そういや、高速化とか瞬間移動とかされたら、コンボ切れちまうんじゃねーのか?」

 袋から、串カツの一本を取り出しながら、疑問を口にする魔女っ風。


「<必中>スキルの恩恵で、……コンボ自体は切れやしませんけど、……MPゲージ魔法使われたら、……シールドでガード……割り込みされたりして、……厄介かもしれませんどすなあ」

 ずっと、手の上でもて遊んでいた、”特選おやつ”を開けて中を見ている、悪夢の処刑歌色カイロ


「あ、言ってる側から、一角の野郎が、なんか、ぐるぐる回りだしたぜ? モギュモギュ!」

 袋の底のタレを、大量につけ、満足げに串カツにかじり付いている。

 ちなみに開封するまでは、分子構造が静止しているので、タレまみれになったりはしない。


「目の前の、鋤灼スキヤキたち以外に、敵か居るのか、確かめてるのかしら?」

 海賊マガリは、手羽先を完食し、骨をパッケージ袋に詰め、平手でテーブルにパシンと叩き込んだ・・・・・

 チャリーン♪

 『キャッシュバック:30S$宇宙ドル』の表示が、海賊が退けた手のしたのテーブルに表示されている。

 ※2016年6月18日現在―――YENJPY=7・748S$SPD―――によると”手羽先の骨”の価格は約3.8円。


 つまり、詳細は省くが、制作者サイドからの、”手羽先の骨”の預り金デポジットのようなものだ。

 ”手羽先の骨”は、工作クラフトにも使えるため、”特選おやつ:手羽先”の需要は高―――ドッカン!

 不意に映像空間を揺らしながら、大きな物がテーブルに叩きつけられた。


「ななんだぜっ!? 一角獣が飛び出て来やがったかっ!?」

 飛び跳ね、真後へ尻から落ちる刀風カタナカゼ

 同じポーズで禍璃マガリも吹っ飛んでいる。


「っよう! あの、あんちゃん達に、これ差し入れしてくれっかい?」

 テーブルの上に投げ出されたものは、一角獣モノケロスではなく、何か、いろんな物が押し込められ真空パックされた袋状

 形状や、パッケージデザインからすると、特選おやつに間違いないが、その大きさ・・・が普通ではなかった。

「なんだぜ? このデッカい”特選おやつ”、始めて見た」

 テーブルに足をかけ、腹筋だけで着席する、魔女っ娘。

「ほんとデカいわね」

 起き上がり、テーブルに置かれた一抱えはあるソレを、指でつつく海賊。


「パーティー用のぉ、数人分セットが圧縮されてるぅ、超高級”特選おやつ・パーティー用”じゃないですかぁ!」


 あてぇは、聞いたことなら有りますえ、中身の調理済みの分子配列が、食事中ずっと、最適化され続けるから、味が美味しくて長持ちして、触感も本物そっくりで、ものすごく美味しいって話。本当かよっ! 生徒たちは、”特選おやつ・パーティー用”に興味津々だ。


 ふいーっと、”片目に眼帯をした着ぐるみのウサギちゃん”が、出てもいないヒタイの汗を拭っていた。

 あらぁ、こんなお高いもの~? 気にしねえでくだせえ、あっしは、あのあんちゃん達の男気に惚れたんで―――そうですかあ、じゃあ、確かにお預かりしますぅー!

 猫耳ワオンが、”パーティー用”をしっかり抱き抱えて、コンマ一秒も遠慮せずに礼を言う。

 その声は、普段の子ども声じゃなくて、舌っ足らずでカワイらしい、キャラに設定された音声ライブラリで発せられている。


 ガッガッ!

 突然、映像空間の中の一角獣が、四つ足を延ばし、踏ん張りだした。


「おおっといけねえヤ! 戦局が動きましたでヤんすね。じゃっアッシも、観戦に戻りマすんで」

 あんちゃんらによろしくーと戻っていく丸い尻尾がカワイイ、任侠ウサちゃん。

 猫耳環恩ワオンが、ありがとぉー、と大きく手を振って見送るが、ウサちゃんは、スグ目と鼻の先に、再び座りこんだ。


「……鋤灼スキヤキはんたちの、……”評価・分析”が……済んだんやろか」

 袋の底を巻き上げて、インゴット状の”イチゴタルト中身”を、押し上ている悪夢カイロ。映像空間を見つめている。


 一角獣は、踏ん張ったまま、何かに気づいたらしく、ついと鼻先を持ち上げた。

 そして、視覚化された”自身の命”。湾曲した緑色のHPバーを凝視する。

 視線を水平にバーに沿って移していく、その首の動きは、頭上に延びる太いツノにも、当然伝わる。

 イライラを体現し、放電する角先つのさき。空間に、ゆっくりと青白い真一文字を残していく。


 ピタリ。やがて動き止め、首を傾げる獣。

 首を軸とした、視線の反対側。その、空中に残る軌跡の末尾がちょっと曲がるカーブ

 一直線に空間を切り裂いていた、大気中に溢れ出ている、青い傍流が一点に荷電していく。


 モノケロスの視線の先には、やたらと長いHPゲージ。

 その先端。

 ほんのわずか、確かに、赤い色が差しているが、色のにじみにしか見えない。ドットで言えば2ドットくらい。


「ザザッ―――グゥルルルッ」

 獣の内面が、牙の隙間から溢れ出す。


「ザッ―――ゴアァァァッ!」

 自分が傷つけられて居ることを、目の当たりにした、獣が、シルシ達を振り返った。ツノから伸びていた青い一本線を、どう言う物理現象を持って、再現せしめたのか、見当も付かないが、鞭のように振り回し初・・・・・・・・・・めた・・

 スターバラッドの世界では、たとえそれが、一瞬フェムト秒でも、実際に分子構造を物理演算出来た物・・・・・・・・しか、再現出来ない。その、意外と万能な不文律には、名前がある。ソレをV.R.IDシステムトポロジックエンジン仕様・・とプレイヤー達は呼ぶ。もっと言えば”特記仕様書”第一項となるが、それは、管理者サイドにしか解らない。


 バッシャァァァン!


 地面に焦げた曲線を描いて、落ちた大スパーク。この場合の正電荷標的シルシ達なのだろう。

 シルシ一行パーティーは、投擲しながら、半歩ずつ斜め後方へ下がり続けてきた。力一杯ちからいっぱい投擲して、元のポジションに戻ると、斜めに半歩下がると解ったため、その投擲ポジションにワルコフが弾丸を1発ずつ並べて置いた。

 モノケロスとの距離は、約30メートル。この開けた地面の約半径はんぶん。雷撃鞭が、直接届く距離ではない。<必中>スキルがなければシルシの攻撃だって、本来届かない。

 ピッシャン! ピッシャアァァァン!

 ドッガァァァァァンッ!

 雷鳴に混じって、爆発音。

 鞭の先から、黒い球のような放電を投げ始める。

 攻撃レンジによって、技の形態が変化する必殺技なのだろう。


 その黒い人魂のような雷球は今まさに、シルシに落ちようとしている。たが、平然と、投擲モーションに入るシルシ

 藍色モノケロスは、首を上下左右に振り回している。キリンの首喧嘩ゲンカの映像を彷彿ほうふつとさせる凄まじい動き。


「ザッ―――標的ロックオンマーカー出て無えから、直接俺のことは狙ってねーはずだ」

 少年は投げる。が、小さい棒は真上へすっ飛んでしまった。


「ザザッ―――いけねっ! すっぽ抜けた!?」


「いいえー、<必中>スキル、発動してるなら、必ず当たるはずですよ」

 ザンッ。脚だか腕だかを駆使して、休憩所の屋根からぶら下がる、不吉な色危険色の自動機械。緊迫した、状況に割り込む人影シルエット


 うおらぁー! いけー! やったれぇー! がむばってぇー!

 周囲の喧噪にかき消され、映像空間の中までは、謎の人物の声は届かない。タイトスカートがめくれるのも構わずに、平べったい形の明るい色の自動機械に胡座をかく彼女・・は―――


「おまえは!」「あなた!」「あらぁ!」「どちらさん……どすか?」

 謎の声に振り向く全員。


 映像空間の中では、戦いが熾烈に変化していく。

 ポポポポポポポポ。

 シルシの周囲、前後左右に、8個の標的マーカーが現れた。


「わっ! 危ねえ!」

 慌てる少年サイボーグの背後、左後方のマーカー付近から、小さい放電が発生する。

「君たち! 左後方から来ますよ!」

 環恩ワオンの横に付けた自動機械は、形状こそ、”自動屋台ディナーベンダー”そっくりだったが、その全長はかなり小さい。”自動屋台ディナーベンダー”が会議室用の巨大な会議机だとしたら、これは、せいぜい一人用の簡易デスクサイズ。女史・・の尻ひとつ乗せたら、結構天板上が埋まるくらいだ。

 タンジェリンオレンジのカーディガンの小さいポケットから、縦に長めの”特選おやつ”を取り出す。

 謎の人物の声、この距離なら映像空間向こうの、少年にもちゃんと届いたようだ。


「え? 背後? だれ!?」

 超小型銃を雷撃鞭の出所に向けて射撃シュート

 コウベのいる方へ、空になった銃を投げ―――


 銃を左手で受け取り、右手には装填された、火薬搭載型のブービートラップみたいな。

 なぜか、宇宙服も、構えた左手に電流をほとばしらせている。

 ナックルガードから発せられる、何かの作動音。


 赤いランプと、見慣れてきた小さな放電。

 チカチカチカ。ココン。グオオングオオングオグォ。

 少年の顔面をとらえようと、突き出され―――

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