4:決戦! MΘNΘCERΘS 中盤戦その3

 ―――答えは単純。”その場で新しい武器を作るクラフト”だ。

 ―――それを、86回連続で命中HIT COMBOさせれば良い。


 武器作成スキルは、魔法系スキルに似たような物があるが、そもそも、そんな真っ当な状況ではないのだ。彼らは3人ともステータス表示すら全部出そろってない、チュートリアル以前の状態という、有様なのだ。出来ることを、やってみるしかないのだ。


 ワルコフの電磁槍が飛んできた、つまり作戦開始してしまったので、高速機動のまま、木星でスイングバイする探査船のごとく、一角獣を周回して、そのまま戻ってきたコウベ。


 映像空間(ミラー)にコウベが大写しになった。

 湧く、観客たち。確かに、見た目は超カワイイ。ピタピタのコスチュームだし。


 ピタピタさんは、上体を起こすまま軽く飛び上がる。半回転し、高速機動で得た慣性を殺すブレーキング。”重力補正”スキルも、使われているようで、加減速が非常にスムーズだ。裏拳を空撃ちして、右手のナックルガードを格納。着地と同時にシルシが投げてよこした、超小型拳銃を、背後も見ずに受け取り、即”分解”する。更に弾みを付けたショートフックを放ち、左手のナックルガードガードも格納。スピンの要領で維持されていた回転が止まり、出来たパーツをシルシへ放り投げた。


 うおおおおおお!? カッケーッ!

 切れのあるダンスのような、1回転半の華麗なターンは、観客を魅了した。


 そして、ピタリと静止した彼女の、視線の先には、爆発炎上する、獣。

 即座に青白い亀裂が大気を焦がし、噴煙が四散した。

 ジ、ジ、ジ、と、藍色の体表面を走る放電に、陰りは無い。

 想定通りとはいえ、全く効いていない様子に、傍若無人ぼうじゃくぶじんの暴れ者ガールも、さすがに口の端を引き吊らせる。


 見る限り、毛の先ほども効いてはいないのだが、青白く光る獣の頭上に―――ソレは現れた。

『1 DAMAGE HIT!』。

 燦然さんぜんと光輝く”1ダメージ”だ。


 モーションに入る、鋤灼驗スキヤキシルシ選手、第1投目。

 少年はフリック入力のショートカットを設定し直していた。

 『コマンド入力』『彫金』『プレイヤー名』『タイムスタンプ』『Enter』『Enter』と。

 これで手に掴んだ物に、一瞬で”ダブらない銘”を刻むことが出来る。


 一度彫金されたアイテムは、LV1の”分解”では解体できなくなる。

 そのため、武器には皆、武器の名前や、プレイヤーの名前を彫り込むことで、簡易的なプロテクト代わりにしている。

 プレイヤーの名前は本人にしか彫金する彫り込むことが出来ないので、プレイヤー銘が入っていれば、全く同じ構成の武器でも、別の武器として扱われるのが慣習となっている。

 実際、有名プレイヤーの愛用品だった物が、高値で取り引きされることも有る。


「総数86丁でぇ総装弾数86発ぅ。全部コンボで当てたらぁ、最高位クラスのボスが倒せるー……作為的というかぁ……”ガトリング・マシーナリー”のー、裏のー仕様なのかもぉしれないわねぇー」


「ふつう、超小型の銃をその小さい分だけ大量に詰め込むってんなら全86丁、総弾4発で、えっと? 344発になんのか?」


「それなら、弾丸のロード順をエディットできる”改造ヘヴィー・ライフル”一丁で足り・・……」


「……無い・・どすなぁ、……弾丸技工士バレット・スミスだって……純粋な弾薬の……種類で言ったら、……精々、20種類……がいいとこどすえ」


 一角獣撃破のための、”行動の詰め込み議論”が再燃し、映像空間を見応援もせずに、演算アプリを開きだす環恩ワオン達。

 映像空間(ミラー)の中では、サイボーグが、小さい棒を投げている。そして投げた後もう一度投げ、さらに投げ、追加で投げ、投げ、投げ、投げ、……投げていた。


 小さい棒は、小惑星採取の為に設計された採掘槍ペネトレイターのような構造だ。先端が攻撃対象に接触する衝撃で、バレル部分に装填した弾薬が発射される仕組みだ。

 この部分の設計は宇宙服いけずVR設計師カイロの共同作業によるものらしい。映像空間越しに喧嘩しながら作ってたのをシルシは面白そうに眺めていた。メカ猫耳ワオンいわく、弾丸装填ローディングと同時に撃鉄ハンマー代わりの打突針を引き起こす機構のコッキングがどうしても難しくなるって話だった。

 結局と言うか、やはりというか、”バレル内部に弾丸と打突針を入れておくだけ”というシンプルな構造になった。

 打突針には重石おもしが付いていて、着弾と同時にバレル内部を慣性のまま移動し弾丸カートリッジ底部の雷管プライマーを叩くと言う物だ。ゼロ距離射撃に因る攻撃力アップも期待できなくもない。攻撃力アップと言っても、実数値の話では無く、コンボと算出されるだけの最低限の攻撃力達成の話だ。


 そして、テストしている時間はなかった。

 実地テスト兼、決戦。そもそも、ついさっき粉砕された”音響レンズ”も、ろくなテストなどしていない。

 もっともテストなどしていたら、モノケロスの咆哮獣声を受けてしまった場合の危険性に気が付き、すべての作戦が頓挫とんざしていた可能性も有る。


 ワルコフの電磁槍をシルシが投げたことで、攻撃力算出法に違いが出て、”1”ダメージを、もぎ取ることが出来ないかと思われたが、何の問題もなく『1 DAMAGE HIT!』が出た。

 ここで歓声を上げたのは、シルシとVRE研の面々だけだった。

 見た目のインパクトは、威力に比例する・・・・・・・

 このわずか”1”が、スターバラッドのシーンを塗り代えていくとは、誰も思わない。


 シルシが電磁槍を使い、”1ダメ”を叩きだした事で、ワルコフの”攻撃力”は、装備由来・・・・だと判明した。ワルコフも、今はスターバラッドのレギュレーションに乗っ取っているので、LVが上がるまでは鋤灼スキヤキ君とそう変わらないみたぁいと、環恩ワオンは推測。

 謎の宇宙服のバックパック側面に、セットされている標準兵装、電磁槍。加速用の噴射ノズルへの点火は、ワルコフ宇宙服からしか出来ないようだが、装備自体の攻撃力であることに変わりは無い。

 雷撃系耐性が超あるはずの、一角獣に、本当に・・・雷撃系でダメージを与えたことから、少なくともLV0でも使用できる武器の中では、”最強”クラスであると歌色カイロが、やや興奮している。手元の有効攻撃力試算のためのツールが、この”1ダメージ”を実測値として計上、自動的に更新された。


 そして、コンボを重ねていくシルシ少年に、次第に沸き立つ観客一同。

 その背後、不吉なが見え隠れしているが、誰も背後を気にする余裕は無かった。

 観客は、鋤灼驗スキヤキシルシが加算する、数字に取り付かれている。

 現在7。『3 DAMAGE! 7 HIT COMBO!』だ。

 イヤァッフー♪ ボルテージは無駄にヒートアップしていく。


 コウベから受け取った、金属の円筒バレルに、1クリックで、加工する。

 そして、ワルコフが並べてくれていた、弾丸を足で踏んで回収。

 自動的にロードされ、完成する『シルシ式ペネトレイター』。

 正確に言えば、『SIGN†ORGE 2016/06/18 15:06:01』だ。

 わざわざ射撃して、弾倉を空にしてから、分解するのは、攻撃力殺意を検出する察知能力を無効化するためだ。

 空の拳銃を分解して棒状にして、投げつけられても、攻撃力は下がる。少なくとも上がりようがない。

 一度”殺傷能力”の無いもの・・・・として、評価した物を、再び評価対象に入れることは、いくら高性能でもAIの特性上、なかなか出来ない。と踏んでの、環恩ワオンの賭だった。


 完全にガードされた場合、当たったとしても、その攻撃力は半減してしまい、攻撃判定から漏れてしまう場合がある。

 そのために、自ら小型拳銃を撃ち尽くし、無力化して見せてから、新品の小さい棒として作り上げているのだ。

 装填すると新しい攻撃判定が付いてしもて、”殺意”を再検出されまへんか? と歌色カイロが心配したが、”ガトリング・マシーナリー”の弾薬の取り回しの性能に掛けるしかなかった。リロード行動のない”自動リロード”は、実際、敵に気づかれることなく、無限に撃ち続けられる。そして、コンボは成立している。


 モノケロッスゥッ♪ って、グネッたのも伊達では無い。

 このサイボーグに注目していて貰わないと、装弾数1/1を次々に撃ち尽くすが、有効攻撃力は無いと、驚異たり得ないと、こんな奴が何を投げてこようが、さしたる問題では無いと、思っていて貰わないといけないのだ。

 ”殺意有効攻撃判定”を1カ所に集めないようにも、注意している様子が見られる。

 最初に最大まで詰め込んだ超小型銃を、取り出した分の積載量ペイロードが、開いているはずだが、一度に充填リロードすることを避けている。

 ワルコフが1発ずつ、地面に並べたものを、足の裏から回収し、”自動リロード”でシルシペネトレイター小さい棒に補充している。

 涙ぐましくも、しみったれた作戦だが、弾薬有効攻撃判定を一度にシルシボーグに充填リロードしてしまうと、脅威レベルが上がって、熾烈な攻撃にさらされかねない。


 観客は、鋤灼驗スキヤキシルシ、いや、”サイン†オーガ”が加算する、魅惑の数字にのめりこんでいる。

 現在20。『38 DAMAGE! 20 HIT COMBO!』だ。

 ヒャッハァー♪ テンションは止まるところを知らず、着実にゆっくりとエスカレートしていく。


 コンボ成立のための、小賢しい仕掛けは、もう一つの幸運も引き寄せていた。

 シルシは、適当に放り投げた小さい棒ペネトレイターの着弾を確認せずに、脇腹に突き出た、細い補助腕サブ・アームから、超小型銃を受け取る。

 左手・・でモノケロスを射撃。不利スキル<失中>により当然外れる。

 攻撃が外れた場合でも、コンボが持続して成立する場合がある。

 使用した武器に関する、後処理の順番だ。

 武器切り替えで、コンボに繋げたりする場合に、使用後の武器の格納処理などが終わるまでは、コンボの有効期間が延びるのだ。


 つまり空撃ちしても、その武器に関する操作をしている限り、僅かながらも、コンボ持続の有効フレームが伸びて、コンボが続けやすくなるのだ。

 武器に関する操作とは、コウベによる”分解”と、シルシによる、”加工クラフト”だ。この部分を超高速必死で行い、理論上最速でつなげていく計算だったのだ。はからずも、当たらない射撃分のフレーム消費を、トータルで抑える事に成功したのはとても大きい。

 しかも投擲<必中>スキルの強制効果により、有効時間内にシルシの手を放れていれば、着弾までの時間は、コンボ継続扱いになる。

 ”必ず当たる”というのは、ゲームシステム上、やっかいな物なのかもしれず、もしここに、ゲーム運営サイドの人間が居たとしたら・・・・・・、即刻、<必中>スキルに修正を加えていたかもしれない。


 盛り上がる宇宙開拓時代の公園とは裏腹に、藍色の獣は、静かに身じろぎするだけで、目立った行動はしてこない。

 ソレはソウかもしれない。何せ、―――


 『MΘNΘCERΘS__/LV52』

 『HP_6399962/6400000』


 トゲ付きの藍色毛皮の、HPバーは、まだ1ドットすら赤くなっていないのだ。

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