4:決戦! MΘNΘCERΘS 中盤戦その2

 メカ猫耳ワオンが、手の甲でフリック入力をして、映像空間(ミラー)の下に、ガイド表示を出した。


『MΘNΘCERΘSとは』

 一角獣。伝説上の生き物で、気高く何者にも怯まず、なびかない性質。雷撃系の遠距離攻撃を得意とし、巨大なツノ自体は攻撃に使用しない。小さいが、雷撃系最高峰の、”吼える生体コンデンサ”。誘電体にもなる巨大なツノは、現存する最高LVの雄にしか生えない。外宇宙探査船クラスの宇宙船に装備される”衝角”などに欠かせない激レア素材にもなる為、超高額で取り引きされている。そのまま装備するだけでも、雷撃系攻撃力が400%アップするため、雷撃魔法を得意とするトップランカーは、自身の装備とする為に、絶えず一角獣を探している。


「へー」と、観客達から感想が沸き上がる。


「あと、若い女の子好きだってさ」

 スターバラッド攻略サイトを、フレーム縦断検索”モノケロス”で調べた、禍璃マガリが、追加情報をメカ猫耳へ告げる。


 『ちなみに、伝説通りに若い・・女の子が、大好きな模様。』と文末に追加されると、観客の一部のプレイヤーと、”メカ猫耳ワオン”&”骸骨顔カイロ”が、頭部や髪を触り出した。


 眉間にシワを寄せていた禍璃マガリが、環恩ワオンの毛繕いする腕をつかむ。

 なぁーにー? 禍璃マガリちゃーあぁん? ザザザッ……お姉ちゃぁーんだぁってぇーまぁだまだ―――

 確かにメカっぽい猫耳が付いてはいるが、顔立ちはとても整った推定年齢17歳と言った所のヒューマノイドだ。だがソレは仮の姿・・・である。


 細身の巨漢で骸骨顔スカルフェイス、B級映画の悪夢ナイトメア・処刑人エクスキューショナー。くねくねしながら、有りもしない後ろ髪を、毛繕いするその細長い腕を、空いた手でつかむ禍璃マガリ

 これは、目の前を横切るオモチャに飛びつく猫の本能の様な物か。……違うか。

 禍璃マガリ禍璃マガリで、海賊姿のマッチョなので、非常にむさ苦しい絵面になっている。


 どないジはっ……ダんどすガぁ? ……あデぇは、……ザザザッ……同学年や無いの……ザッ……妹ヂゃんはいけずやな―――


 環恩ワオン歌色カイロも、慌てたせいか、第さんVR教室の座席に付いている音声チャットではなく、VR空間内へのキャラクタで会話してしまっている。

 異様に語尾が延びる意外は見た目通りの年齢の可憐な声と、無骨で泡立つようなかすれ声の嘘雨言葉きょうことば

 ※嘘雨土キョウト府南部で使用される由緒有る方言。


 もはや、本人のキャラクタとは、かけ離れた様相を呈している。これもスターバラッドの醍醐味ではあるが、急に変えられると、正直、引くレベルだ。

 禍璃マガリは、そっと手を離した。


 刀風カタナカゼは、魔女っ娘姿に、見合った大人しさで、禍璃マガリから取り返した”特選おやつ”をパクついている。


 刀風カタナカゼが、映像空間シルシ達に目を戻すと、状況が少し進んでいた。


 SF美少女コウベが、地面に置かれた”特選おやつ”をはさんで、伝説級ボスと対峙する横から、シルシが、装備している小型拳銃で、攻撃をしかけた。


 グリップの底をしっかりとホールドして、中々さまになっている。

 さまにはなっているが、到底、当たるわけがなかった・・・・・・・・・・

 なんせ、不利マイナススキル、『失中・・』発動の太鼓判付きだ。


 少年が発射した弾丸は、何故か、真横・・に控えていた宇宙服ワルコフのバイザーをかすめた。弾丸は即座にワルコフに呑み込まれた。


 シルシから逃げていく宇宙服。

 その動きはとてもスローモーで、重力が1/6しか無いかのようだった。

 コウベの発動スキル、”重力補正”の比では無い対空能力だが、背中のバックパックに付いているスラスターが、幾ばくかの説得力を裏付けてはいる。まだまだ謎が多く、正直なところ、モノケロスよりあらゆる意味でレアな、宇宙服はシルシから離れていく。


「フザけてる余裕無えぞ! 逃げんな、まず、オマエが一発食らわせなかったら、始まらねえんだよ」


 宇宙服はバーニアスラスターを、数回吹かし、空中で180度ターンした。

 両手には、いつもの得物電磁槍

 2本の棒をカチリと、繋ぎ合わせ、ストンと着地する。


 コウベが合図もなしに低い姿勢で突進する、顔は地面に付きそうなほどだ。

 想定外の事態に、慌てたシルシは、何故かワルコフが差し出してきた槍を、引っ掴んだ。

 ボウガンに矢を装填そうてんするように、シルシのサイボーグ体が、投擲とうてき動作に入ったまま力を溜めている静止


 コウベは、一角獣の首の上下の動きに、対応した切り返しをみせ、大きく回り込む軌道をとる。

 ぽそぽそっぽそっぽそっ。高機動の割に頼りない足音。

 足元を見れば、裸足だった。砂利もなければ、木の枝一つ落ちてないのなら、その方がよいのだろう。


 ぱしんっ。ピッ♪

 彼女の空いた手に装填されるナックルガード。火薬搭載型のブービートラップみたいな赤いランプがく。

 いつの間に回収したのか、そのくちには、囮に使った、”特選おやつ(烏賊飯いかめし風)”がぶら下がっている。


「まあ、ありゃ旨かったからなー。判らねえでも無えぜ」

 魔法っ娘カタナカゼの、向かいに座った海賊マガリは、恨めしそうに、”特選おやつ(手羽先)”を、もそもそとついばんでいる。


 映像空間の中、戦局がようやく動く。部員一同、観客一同が、感嘆の声を上げる。

 超レア伝説級小型ボスへ、超高速で接近していく美少女。口にぶら下がる特選おやつが風に超なびく。

 電磁槍を投擲するサイボーグ。弾道を描かず一直線に一角獣の頭を狙う軌道。


 五寸釘のような飛来物殺意に気づいた、山羊もしくは鹿。頭を揺らし、ツノへ帯電開始する。


 自由度のない船外活動用宇宙服EMUが、器用に”古流忍術の印”を結ぶ。

 電磁槍の末尾、釘の耳ノズルへ点火。


 シュドドドドッドドドォン!

 五寸釘は背後へ向かって砲撃噴射を開始し、運動エネルギーを獲得する。


 巨大なツノが青白く光り、後方死角へ回り込んでいる地面すれすれの、”特選おやつ(烏賊飯風)”を照らし出した。



   ◇◇◇



 以下は禍璃マガリの、電子ペーパーノートに記された、モノケロス攻略会議の議事録のようなものだ。複製して、映像空間(ミラー)の下、納品箱の横に積み上げてある。


ーーー ーーー ーーー

 議題:『一角獣を倒そう』


 <発案>

 コンボ数86で、有効攻撃力6450407になるので、640万HPを誇るボスをも撃破できる寸法。


 <懸念>

 コンボ数85だと有効攻撃力5375339で届かない。


 <実際の手順>

 初撃ファーストアタックは■■■■渾身の最大攻撃にる”1ダメージ”。

 このレベル差では、当たったとしても、有効攻撃力は、良くて”1ダメージ”になるという■■による試算に因るもの。

 これにひたすら、×1.2倍のコンボボーナスを重ねていく。


 投擲を連続で当てても、コンボにはならず、1+1になるだけ。

 コンボを成立させる為には、行動キャンセル受付時間中に行える、別の武器または別の攻撃方法、または別の人物による攻撃でなければならない。

 連続投擲というコンボ対応スキルが発現していれば、それも可能だが、限界までスキルポイントをつぎ込んでも、連続で86回も当てられるほどの性能にはならない。


 <別の人物を考える>

 プレイヤー総数3名。それに通常ボス戦は総勢32名までの制限がある。

 ※通常でないイベントボスの場合には、人員制限がない場合もある。


 <別の武器を考える>

 もし仮に、■が投擲武器を、たくさん……640万種類持っていたとしても、2投目で、攻撃判定のある、投擲武器を避けられないはずはない。

 武器が違えど、投擲という同じ攻撃手段が続けば、防御力や、回避力に、どんどん補正されていき、とても640万回当て続けることは無理。■■の試算だと3発目で、■の投擲補正を上回る。LV52差は大きい。


 <結論>

 1:必ず当てられるのは、■のスキル補正<必中>による”超投擲”だけ。

 2:最大有効攻撃は■■■■渾身の、電磁槍のみ。ソレによって得られるのは、試算によるとわずか、”1”のダメージ。

 3:虎の子の”1ダメ”に、別武器による攻撃を、連続して・・・・当て続ける事、86回達成で撃破可能。

ーーー ーーー ーーー


 ここまでが禍璃マガリのノートに書かれた議事録のようなもの。

 公開するに当たって個人名に墨を入れてある。


 超レアボスの一角獣様に、因縁を付けられる直前。

 『チャットで対戦! キャラメイカーズ!』という、アバターキャラのトレーディングパーツのミニゲームで、行動の詰め込み勝負をしていなかったら。

 コウベにスキルポイントの無茶振りをされて、シルシが投擲スキル天国になってなかったら。

 そもそも、こんな得体の知れない地下で、伝説級のレアキャラに遭遇してなかったら、この”LV差52を覆す攻略法”は、模索すらされなかったと推測される。


 もし、別の状況で、”VRE研”メンバー勢ぞろいの上、決戦に挑むことになっていたとしたら、ココまでの議論はされずに、ただただ惨敗して、今頃、何度目かの撃破によって、パーティメンバー全員の心が折れていた事だろう。


 ”86個もの別武器・・・による攻撃”とはどういうものか―――

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