3:キャラメイカー戦その2

『ROUND1』


 真っ白いワンピース。裾に花柄のレースがあしらわれている。

 ぽきゅぽきゅぽきゅる。

 裸足の歩く音がかわいらしさを引き立てる。

 だが、その両手には、物騒な得物。

 間違いなく、項邊歌色コウベカイロの手による、趣向と分かる。

 各種の、チャットウインドウ上で使用される、分身アバターだ。

 VR設計師としては、動く名刺と言っても良いのだろう。作りがとても凝っている。


 その4頭身の、切り裂き魔は、長い栗色の髪をなびかせ、戦闘の間合いへ、足を踏み入れる。そして、両手に構えた、マチェットジャングルナイフを、歩く仕草のまま飛げた。

 その投擲スタイルは、NPCコウベと同じモノだった。


 丸い板のようなモノを、座布団代わりに胡座あぐらをかくシルシ

 その目の前に浮かぶ奥行きのある映像空間の中を、なたのようなマチェットが一直線に飛来する。


「えっと、……@VERSUS_HELP」

 簡易フリック入力後、タンッ♪

 エンター手の甲を押す打鍵音が、宙に浮かぶチャットウインドウ一枚板から小さく響く。


 **VERSUS_COMMAND_LIST**


 @FーーFORWARD

 @BーーBACK

 @JーーJUMP


 @AーーATTACK

 @GーーGUARD

 @DーーDODGE


 @TーーTHROW

 @CーーCATCH


 @EーーEQUIP

 @?ーー???


 そばに浮かぶ平面ウインドウに、ズララとリスト表示される、入力可能コマンド一覧。

 シルシは、それを指先で切り抜いてコピーして、ちょっと上のなにもない空間に張り付けた。

 取説マニュアル代わりにするのだろう。


 シルシの目の前に浮かぶ、奥行きのある映像空間の手前側。

 本体と同じように、腕を組み、思案に暮れる、4頭身のデッサン人形基本骨格

 その眼前、5センチの空中に停止するマチェット。


 どうやら、交互に文字チャットへ入力することで、対戦を行うシステムらしい。


 『@C』タンッ♪

 映像空間の中の小さい彼基本骨格は、4頭身の、余り長くない腕を、巧みに動かし、顔面に突き刺さろうとしてる凶器を、つかみ取った・・・・・・

 映像空間の隅にある、やや立体的にカーブしている、グリーンのライフゲージがわずかに赤くなった。

 掴めはしたが、怪我をした。ミニゲームだが、素手では当然と言えなくもない。


「ザッ―――鋤灼スキヤキ君ー。とりあえずぅ、使えそうな武器を、どんどん投げつけるからぁ、手当たり次第にー、受け取ってくださいねぇー」


 『@C』タンッ♪

 マチェット2本目。


 最初に飛んできたマチェットを手放し、2本目を受け取る。

 宙に浮かぶ映像空間の床に、放り出される1本目。

 その2センチほどの長さのマチェットが、映像空間をすり抜けるように落下した。

 刃渡り、30センチのジャングルナイフが、シルシの目の前の地面に突き刺さった瞬間、アイテム化して、点滅しだした。


 遠巻きに見ていた、顔長猫達は、怯えるように後ずさる。


「ザッ―――その猫ちゃん達のーおかげさんでー……その場所が、設計区画・・・・だってことが分かりましたんで、……ひとまず、対戦で勝利すれば、……キャラメイカー経由で、……キャラパーツをお渡しすることができますえ」


「ザッ―――何だぜ? その設計区画・・・・ってえのは?」


「ザッ―――プレイヤーキャラのぉ、姿形を変えることができるぅ、キャラ設定ルームなんかがぁ、密集してるエリアですよぉー」

 猫耳が補足する。


「ザッ―――その猫ちゃん達は、遙か地中どすが、……”設計区画の特性”を色濃く反映してはりますー。……キャラ設計を書き換える……、”色換えカラーリング”の……能力を有してるわけどすー」

 長台詞に、息も絶え絶えな処刑人の言葉を、メカ猫耳が引き継いだ。

「ザッ―――そこが、”設計区画”ならぁ、キャラパーツをー、ヒト揃え出来さえすればぁ、スターバラッドのぉ、キャラクタシステムが自動的にー、構成され作られるんじゃないかなぁってー目論見ですぅ」


「ザッ―――投げたアイテムは、……きちんと受け取れとる……ようどすね」


「はい、なんか怪我はしますけど……」


「ザッ―――え? 怪我っ!? あらほんとゲージ赤くなってはる! どういうことでっしゃろうー? ……くすくすくす……ねー先生ー?」

「ザッ―――……本体にはゲージすらないのに……ぷーっ……本当、余すところなくおもしろい……じゃなくってぇ……ひとまず対処療法でやってみましょお」

 カクつく規定サイズの方の映像空間の中で、猫耳美少女がゴソゴソ。すぐに、高輝度な『@T』の文字が、チャットの再下段に入力される。


 ブルーの十字が描かれた、軽そうな箱が飛んできた。

 『@C』タンッ♪


 デッサン人形基本骨格が箱を受け取る。持っていたマチェットが落ち、体力ゲージが下がった。

「軽い箱でも、HP削られるみたいす」


「ザザッ―――そしたら、それ、”@USE使う”ってコマンドは無いから、……どうしたらええんでっしゃろ?」

 小首を傾げる悪夢の処刑人細身の巨漢


 対戦画面を背後から見おろすシルシは、チャット画面を見ずに、手の甲にフリック入力した。


 ぽへん。柔らかいモノが、床で跳ねるような音を立てて、救急キットが4頭身の、何も設定されていないツルンとした体の頭の上に装備@Eされた。


「ザッ―――あらっ!? 格好良いじゃない! あはは!」

「ザッ―――ホントだぜ! アファファファファファッ!」


「ザッ―――笑いすぎだ、刀風魔女っ娘。俺と合流出来なきゃ、お前等だって、ボス戦とか、いつまでも行けねえんだからな」


 ザザッそれもそうだぜ。ザッそうね、こっからはちゃんと応援するわ。

 なんか結託して、ゴソゴソし出す、魔女っ娘と海賊マッチョ。


 鋤灼驗スキヤキシルシの初期ボディーを持つ””の頭の上にも、救急キットがくっついている。

 だが、その救急キットの輪郭には、点線が描かれていて、キット自体も、ゆっくりと明滅している状態だ。


 映像空間の中の、悪夢の処刑人とメカ猫耳が、真剣に談義。

「ザッ―――これは、どういうこと……でっしゃろ先生?」

「ザッ―――たぶんー、戦闘中のぉ仮所持扱い・・・・・って事でー、鋤灼スキヤキ君が勝てばぁ、正式に譲渡されて晴れてぇ、救急キットとかがぁ手に入るって事じゃないかしらぁ?」


「この、ジャングルナイフも、なんか、点滅してますよ?」


「ザッ―――チャット対戦にはぁ利用できるけどー、負けたら消えちゃうしー、手に持ててもぉ、実際にはぁ使用できないって感じぃー?」

 頬を指先で突き、小首を傾げる、メカ猫耳搭載のヒューマノイド。うん、絵になる。細身の巨漢と比べたら、誰でも絵になるが、そう言うことでは無く、所作がとてもさまになっているのだ。これは専門家としてでは無く、プレイヤーとしての熟練のような物なのかもしれない。


 シルシは、両手にマチェットを持って、背後の巨木へ振り下ろした。 巨木に接触した瞬間、鉈は弾かれるように手からスッポ抜け、放物線を描く。そして、床に刺さりもせずに落ちて、顔の長い猫どもを、蹴散らした驚かせた


「ザッ―――鋤灼スキヤキはん、……ひとまず、作りたいキャラクターの外見を……作っていきましょか」

 細身の巨漢がゴソる。

「ザッ―――キャラクターパーツの……図鑑を投げますんで、……どう言うのがお好みなのか……選んでみてください」

 いきなり、すっ飛んできたソレは宙に浮かんで停止した。


 『@C』

 両手で受け取る、のっぺらな基本骨格シルシ


「あ、こりゃ、どうすりゃいいんだ?」

 しっかりと掴んだ、分厚い図鑑を、大事そうに抱え出す、基本骨格のっぺら

 受け取ってしまうと、ゲーム空間の中のキャラが、手に持ってしまうため、彼本体が受け取る事が出来ない。


「ザッ―――そんなら、俺、ちょうど要らねえ武器が―――」

「ザッ―――あたしも、ちょうど使わない武器ゴミが―――」


「いま、ゴミって言っただろ!」


 立て続けに小さいモノを投げつけてくる、4頭身の項邊コウベ


 『@C @C』あわてて入力する。

 ドサリと落ちる結構かさばるサイズの分厚い図鑑。

 そして、図鑑の上にゴトリと落ちる、小さな鉄の塊アイテム

 手にした鉄の塊には、小さな握りグリップが付けられていて、銃口が開いている。

 その銃身バレルの形状からすると、あと3個くらい銃口が開けられそうな不自然な位置に銃口が開いている。

 小さい彼基本骨格の手にも、同じポケットタイプのピストルが握られている。


「ザッ―――あっ、先生もそれ、結構貯まっちゃってたのよねー。あげるぅー」

「ザッ―――あてぇも、……ダブリが、仰山ありますえ」

 『@C @C @C @C』

 ドサドサドサドサ!


 地面に転がり山を作る、仮所持扱いの点滅する武器アイテム。

 色味や形状の細かな違いはあれど、同じポケットタイプの単発銃。

 表面に光る表示HUD。『装弾数1/1』。


「ザッ―――もう1個有ったぁ」

 だめ押しにメカ猫耳が、対戦空間の上へ、投げ落とした。さっきまでのと同じ小さな鉄塊だ。4頭身コウベは、頭の上から落ちてきたソレを、自動的に掴む。

 メカ猫耳の細い指先が、映像空間の中に見えてる、平面ウインドウを走った。


「これ、いらない、クズ武器じゃん! 俺だって要らねえよ!」

 『@D』

 ”避ける”を入力するシルシ

 4頭身のデッサン人形のっぺらぼうが、素早い動きを見せた。

 ヒラリと、かわされた、鉄塊は、映像空間の接地面に落ちて、光の粒子へと変わる。

「避けると、消えちゃうのか」


「ザッ―――こっちの持ち物インベントリに……残るだけどすな……先生、……あてぇもコレ装弾数1/1は……要りまへんえ」


 なんか、ゲームじゃない方の映像空間の中で、突き返されてる。よっぽど、要らないっぽい。

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