3:キャラメイカー戦その1

「ザザッ―――鋤灼スキヤキはん、メニューを開いて、……その中の『スターバラッドSB・オンライン・ユニバースについて』……ってえのを、押せはりますか?」

 誰も居なくなった、薄暗いジャングル中継へ向かって、顔面骸骨悪夢の処刑人が、鈴の音のような声で問いかける。


 数匹の顔長猫が、真っ白い尻尾を揺らして、ジャングル中継の中へ現れ、瞬間的に消えた。通信距離を演出する為の、コマ落ち・・・・のせいで、イリュージョンのように見える。

 パーティーメンバー間の映像空間機能には、音声チャットは付いてないので、自前で用意した音声チャットか、簡易フリック入力による、文字チャットを開く事になる。

 シルシを最初に撮影した切り取った所に、映像が固定されているが、時間がたてば自動的に、新しい位置で撮影が開始される。これも、コマ落ち演出の弊害だった。コマ落ち演出自体は、スタバのβベータ中に、リアルタイム通信を利用した、アイテム買い占め行為などが横行したため、追加された対応策の一つである。

 金融のプロたちは、今でも、スターバラッドに常駐し、宇宙ドル暗号通貨の掌握に励んでいるが、根本的に、技術サイド特区の決済に、資本サイドは絡めない介入できないので、実入りは一切無い。そのため、複雑系経済暗号通貨範疇はんちゅうであると見なされている。


「ザッ―――あれ? 急に猫ちゃんたちが、離れていきましたよ? オレ、飽きられた?」

 

「ザザッ―――なによ、鋤灼スキヤキ、猫ちゃん猫ちゃんって、うちの姉さんじゃないんだから」


「ザッ―――そうだぜ。まあ、なんか、可愛らしい感じはするけどな」


「ザッ―――いや、なんか、このたち、すっげー芸達者で人懐っこいんだよねー」


「「ザッ―――芸達者?」」

 つい興味を示す、部員2名。


 カメラの追従が、コマ落ち処理に追いつく。

 景色が数メートルずれたところに切り替わり、シルシがいきなり出現した。


 シルシを取り囲むように距離を取っている”顔長”たち。

 手元の画面の背景に映る、キラキラした、宇宙都市の背景に、驚いたのかもしれない。


 何を思ったのか、彼はニヤリ。口の端をなめ、平手を構えた。


「ザッ―――なによ?」

「ザッ―――何だぜ?」

「「ザッ―――プークスクス」」

 海賊と魔女っ娘と猫耳と骸骨が、揃って、映像空間に張り付く。


 ザッ―――たんたんたんたん。

 シルシは手を叩いて、単調なリズムを取りだした。

 音声以外も、勝手に拾われて、小さく聞こえてくる。


「ザッ―――1、2、3、4、5、6、7、8」


「ザッ―――は?」


「ザッ―――1、2、3、4、5、6、7、8」


「ザッ―――おい?」


「ザッ―――1、2、3、4、5、6、7、8」


「「ザッ―――プークスクス?」」


「ザッ―――1、2、3、4、5、6、7、8」

 ズザムッ。顔の長い猫の一番大きな個体が、立ち上がる。


「ザッ―――1、2、3、4、5、6、7、8」

 ズザッズザッズザッズザッズザッズザッズザッズザッ。

 手拍子にあわせて、次々と後ろ足だけで、立ち上がっていく、


「ザッ―――1、2、3、4、5、6、7、8」

 スタッスタッスタッスタッ。スタッスタッスタッスタッ。


 始めに大きな個体が、右足を斜め前へ。

 ゆっくり目のリズムに、奇跡的に噛み合う、コマ落ち。

 次に左足を斜め前へクロス。ひょろ長い猫は。足もスラリとしてて、とても様になっている。

 右足を引っ込め、左足を横にそろえる。

 びくりと大きく肩をふるわせる、猫耳と骸骨の成人女性コンビ。


「ザッ―――1、2、3、4、5、6、7、8」

 スタッスタッスタッスタッ。スタッスタッスタッスタッ。


 一斉に動く。一糸乱れぬ統率力。シルシ手叩きリードが、妙にさまになっている。

「「ザッ―――ぷぐわっ!」」

 成人女性コンビ、陥落!

 腰から折れ曲がり、きっちりと崩れ落ちた。


「ザッ―――1、2、3、4、5、6、7、8」

 スタッスタッスタッスタッ。スタッスタッスタッスタッ。


「ザッ―――おい、止めろ」

 にやけ顔で、魔法少女が命令する。


 スタッスタッスタッスタッ。スタッスタッスタッスタッ。


「ザッ―――ちょっ、くだらないわよ! ぶっ! 止めなさいよ!」

 怒りにやけ顔で、海賊も命令する。


 スタッスタッスタッスタッ。スタッスタッスタッスタッ。

「「ザッ―――ぶっぶっぶっぶぶっ、ぶふっぶふっぶふっぶふふっ!」」

 地面に倒れのたうち折れ曲がるまわるモデル張りの美人猫耳型ヒューマノイドと、美少女生徒悪夢の処刑人

 『拳聖:にゃんばるくいな』『鍛冶士:トイバルカン』の文字が頭の上で明滅している……呼吸もままならないようだ。


「ザッ―――ハイハイハイハイ、ハイハイハイハァイ♪」

 何を思ったか、シルシは、猫たちが踊る中央で、猫達の真似をし出した。

 ズザッズザッズザッズザッ。ズザッズザッズザッズザッ。

 スタッスタッスタッスタッ。スタッスタッスタッスタッ。

 軽薄な声色こわいろ。普段は押さえている、シルシのやや高めの、すっとぼけた地声。


 興の図に乗った彼は、ステップにあわせて、手振りも加えだす。

 ズッバッバッバッ。ズッバッバッバッ。

 両手を広げて後ずさる。


 シルシの横に居た、例の一番大きな個体が、即座に真似をする。

 ズッバッバッバッ。ズッバッバッバッ。

 号令も無いのに一瞬で伝播する手振り。一糸乱れず、両手を突きだす一同猫とシルシ


 余計なことに、開きっぱなしの、『SBスターバラッドオンラインユニバースについて』が、音楽を奏でだした。

 ゲームクライアントの初回起動時に流れる主観ムービー。そのときに流れる、壮大なBGMメインテーマ。正規のダイブオン時にも、ちょっとだけ流れるアレが、一個小隊の一糸乱れぬ統率を、極上の―――大道芸へと引き上げた昇華させた


 デーン♪ デデーン♪ デデデロー♪

 スタッスタッスタッスタッ。ズザッズザッズザッズザッ。


 デーン♪ デデーン♪ デデデロデロデロデロー♪

 ズッバッバッバッ。ズッバッバッバッ。


 すでに立つモノは居ない。

 海賊も魔女っ娘も頭上の、HUDを明滅させて、折れ曲がっている。



   ◇◇◇



「ザッ―――おーい? どしたー?」

 再び、猫達に群がられながら、シルシは、映像空間から消えたパーティーメンバーを気遣う。


 5分後。ようやく起き上がる、猫耳。


「ザザッ―――鋤灼スキヤキ君はぁ、……猫芸ダンス禁止ぃー!」

 と、まるで、ワルコフのように、禁則事項を告げられる。


「ザッ―――あのう、……先にキャラ作成メイク……してしまわんと、……いろいろ不便で……かなわんのやけど……」

 肩で息をする処刑人リアコウ


「ザッ―――こんなジャングルのど真ん中で出来んの?」

 シルシは、自分の目の前に浮かんだ、LIVE映像に食いつく。


「ザッ―――その、今表示されてる画面、……チャットに放り込んでくれまへんか?」


 シルシは、言われたとおりに、指先でつまみ上げた画面をチャット画面に放り込む。

 再び、飛び退く顔の長い猫達。


「ザッ―――やっぱり! 先生、……見て見て! プークスクスクス!」

「ザッ―――まぁ! 本当にー、そこ、惑星ラスクの””でぇー間違いないわよぉう! プークスクスクス!」

 シルシが放り込んだ画面が、文字チャットの一枚板の、横に飛び出して表示されている。

 惑星ラスク上の、どのエリア内のどの空間にいるかを表示している数列。

 『U4_X33_Y02_Zー2003』


「ザッ―――このZ軸ってのが、高度を表してるのねぇ。つまり此処の2000メートルくらい下のぉ地面に埋まってるぅ―――はずなのよねぇ? 何でそんなジャングル? くすくすっ」


 ぱしん!

 処刑人リアコウは、自分の頬を軽くはたいて、渇を入れてから言った。

「ザッ―――これならたぶんいけますやろ……文字チャット開いて、あてぇに、@VERSUS_PLAYて、……文字送ってくれまへんか?」


 首を傾げつつも、素直に、手の甲にフリック入力。

「ザッ―――送りましたー」

 映像空間の中のシルシの、手元に表示される、奥行きのある新たな映像空間。

 処刑人の手元にも、奥行きのある映像空間が出現する。


 ―――♪

 ――――――♪

 ―――――――――♪

 どこからか、軽快と言うよりは、軽薄なBGM。

 リズミカルと言うよりは、どこか投げやりでシニカルな踊りを見せるキャラクター。手抜きな筆致で描かれた、それは、PLOT-ANメインヒロインその人だ。メインヒロインの本質を的確に表現した、すばらしい仕事であるが、評価されるのは、もっと時間が立ってからだろう。何せ、運営サイドですら接触できないレアキャラと化しているので、PLOT-ANメインヒロインの性格を知るものは少ないのだ。


 BGMとともに、出現したやたらとプルプルするロゴ。

 パーティーメンバー間の映像空間リアルタイムスクショに付いてくる、文字チャット。ソレに隠されている、謎の機能イースターエッグが起動した。


 『チャットで対戦! キャラメイカーズ!』


 ロゴに押しつぶされ、光の粒子と化すPLOT-ANメインヒロイン

 そのメインヒロインの、扱いの酷さに、口元を歪める、部員と顧問。

 彼女が、”雑魚ヒロイン”として頭角を現し、立ち位置を確立するまでには、まだ、もう少しの時間が必要とされる。

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