3:キャラメイカー戦その3


「ザッ―――でもこれ、もし、売るとなると、7万宇宙ドル位にはなるのよねー」

「ザッ―――そおぉ。だからぁ、ただ捨てるのもー、もったいなくってぇ、ついつい貯まっちゃうのよねーん」


「んー―――」

 シルシは顔と首をひん曲げながらも、点滅するクズ武器の山を、抱えるように引き寄せ、横へ積み上げた。


 ドサリ。点線で囲われ、点滅する分厚い図鑑を手にする。

「結構重いな」

 点滅してはいるものの、何とかページもめくれて、細かい文字スペック表以外は読むことが出来るようだ。

 ぺらぺらとめくっていき、最初の1/3くらいまでのパーツが、LV0からでも作れると確認してから、再び、最初のページから、じっくりと吟味していく。

「急に言われてもなー、キャラ作るの、まだまだ先だと思ってたからなー」

 という、その声は、楽しげだ。

「ザッ―――だから、少しは攻略関連のフレーム基幹サイト、漁っとけっつったんだぜ」

「だってよ、中途半端に見たら、我慢できなくなるじゃんかよー」


 パラパラとめくっていくと、やがて眼に留まる、体中に銃火器を括り付けた様に見える、全身コーディネートされたキャラクタセット。


「これカッケー! ……がとりんぐ・ましなり? これは? 強いの?」


『ガトリング・マシーナリー』

 リボルバーソードメインヒーローのライバルキャラクタ。どちらかと言えば剣術の比率の高いリボルバーソードに対し、ガンアクションがメインのキャラクターっぽい。内蔵武器の装弾数が、通常の6倍。内蔵しなくても、リロードするだけで、20%増加する。


ガドリング・マシーナリーどすか?」


「ザッ―――あてぇは、……直接攻撃が趣味なモノで、……銃器が仕込まれた手足のパーツは、……在庫が乏しいどすえ」

 肩を落とす悪夢の処刑人。

「ザッ―――お約束通りの、……300万宇宙ドル分の、……キャラメイキング、……とはいきまへんなあ……」

 骸骨顔で、やせ細った巨漢が、意気消沈している。


 その肩をポンする、メカ猫耳を付けたヒューマノイド。

「ザッ―――だいじょおぶぅー私の―――”にゃんばる”のぉ喚装用パーツはぁ、全部ぅ、マシーナリー系を改造してぇ、作ったヤツだからぁ、そのまま使えるはずー。頭と胴体以外ならぁ、売るほどあるわよーう」


「ザッ―――わ、やったわ! ……先生ー! えらい大手柄やわぁ!」

「ザッ―――キャラメイクの時はぁ、パーツの縮尺変更もぉ、お金かからないからぁ、課金出来ない状態のぉ、鋤灼スキヤキ君でもぉ、だぁいじょーぶーだしー」


「これは一回決めちゃうと、もう変えられないんすか?」

 開いたページに釘付けのシルシ。一喜一憂する、成人処刑人と成人メカ猫耳を、見もせずに問いかける。


「ザッ―――基本的には、そうどすが、……1人に付き1個だけ生成されるユニークパーツ……ってものが、この世界には有って、……それは、売買することが出来て、……誰でも装備できるモンどすえ」


「最終的には、宇宙ドルさえあれば、再キャラメイクも可能て感じか―――」


「ザッ―――そうどすな、……もっとも基本的なパーツは、……スペイスギルドの売店で買うことも出来ますよって、……どんなにケッタイな作り方しても、……ある程度は普通のキャラに……戻すことが出来ますえ」


「じゃあ、俺、これでいい! ガドリング・マシーナリー。”弾薬庫”っての?」


「ザッ―――渋いところ……行きはりますな。……了解しましたえ」

 じゃ、先生、右腕と両足のパーツ提供していただけますやろか?

 ゴソゴソする処刑人とメカ猫耳。


「ザッ―――顔とか身長体格は……どないしはりますかー?」


「えーっと。俺のキャラは先生のキャラと、似たような特技スキルを持つ事になるんですか?」


「ザッ―――いいえー。先生のぉ”にゃんばる”はぁ隠し武装を駆使したぁ、格闘戦を得意としてますぅ。装備に反したぁ打撃系のスキルを伸ばすためにー、獲得リソースのぉ、を注ぎ込みましたぁー。破産クラスのー無駄使いの賜物なのでぇー、鋤灼スキヤキ君のキャラはぁ、先生のとはぁ全く違うものになりますよぉー」


「ザッ―――姉さん、その話後で、詳しく追求しますからね」

 うわ、マガリちゃんっていうか海賊マッチョ、マジ怖い、と画面から消えてくメカ猫耳。


「俺のキャラは、銃火器内蔵型の、汎用アタッカーアサルトって感じになりますか?」


「ザッ―――そうなりますなー、……多彩な銃火器を……器用に扱えるっていう、……本来のキャラ特性に……沿うことになると……思いますえ」


「んーっと。大剣背負った海賊に、支援タイプの魔女っ娘だろー。そしてジャングルナイフの処刑人と、先生の猫耳格闘家……」

 真剣に考え込むシルシ。心配げに見守る真っ白い猫達。


「じゃー、体格は俺の初期ボディーそのままで、顔だけ……どうすっかな、……」

 次のページをめくると、そこには、”自動機械化マシンナイズドサイヴォーグパーツ”の広告ページが。


「ザッ―――それ、知ってるわよ、なんか、俳優の写真とか、本人の初期ボディーの顔を元にして、格好良くサイボーグ化してくれるサービスよね」


「へー。そりゃ、格好良さげじゃん」

 満面の笑顔でそのページを指さし、

「じゃコレで・・・

 ―――口頭とはいえ、キャラクタメイキングを、ものの数分で終了させた。


「ザッ―――早え! 俺だって、結構悩んだってのに! 優柔不断のお前が!?」

「お前等が、もう、決まってたからだよ・・・・・・・・・。同じ系統のは2人も要らねえだろ?」


「ザッ―――そっか。そういう考え方もあるわね」

 まだ映像の外にいる姉を、睨みつけている、海賊マッチョ。

 禍璃マガリがキャラを作ったのは、専門家達を除けば、一番最初だ。

 確かに選択肢としては、シルシよりも、多種多様だったと言えるだろう。


「ザッ―――じゃ、”自動機械化マシンナイズドサイヴォーグパーツ”は、あてえがプレゼントしますよって、……鋤灼スキヤキはんの顔がコレだから、……課金承認っと」

 チャリーン♪ 課金した決済音がシルシにも届く。

「……一端キャラが出来てから……適応させることになりますえー」

 勝手にシルシの”初期ボディー”のデータがやり取りされたが、初期ボディーへの、参照アクセスまでが込み・・の、”パーティーメンバーVRE部員”締結なので、まあ問題はない。


「ザッ―――基本パーツが、一式揃って、キャラクタアカウント設定ダイアログが出たら、あてえ達の勝ちどす」

 もちろん、何と闘っているのかと言えば、V.R.IDシステムトポロジックエンジンとスターバラットクライアント固有の仕様キャラシステム、に他ならない。

 映像空間の中の、処刑人の双眸が光を増したが、映像空間の小さなサイズでは、判別できないだろう。それでもシルシは、気合いの籠もった返答を返す。


「はい! よろしくおねがいしまっす!」


 『@C @E』タンッ♪

 『@C @E』タンッ♪

 『@C @E』タンッ♪


 次々に受け取り、装備していく。


 『@C @E』タンッ♪

 『@C @E』タンッ♪

 『@C @E』タンッ♪


 両手両足あたま胴体からだ

 さあ、できあがった!? と満面の笑みのシルシ


 その勇ましい姿。

 右手が左足で、股間からは、彫りの深い映画俳優のような、渋い男前の頭が屹立している。ガドリング・マシーナリーの基本ヘッドは、4頭身のシルシの動きにあわせて上下している。


「なんじゃこりゃ!」

 慌てて、自分の体・・・・を動かすが、右手の左足で掴んだ、デッサン人形のっぺらのままの頭が首を傾げるだけだった。

 だが、その本体の動きにより、何かのスイッチが入ったらしく、テストヴォイスが再生された。


「俺の弾倉が空になるまで、立っていられるの―――かぁあ!?」

 とても、格好良いハンサム声の、音声ライブラリ。歴戦の勇士の雄叫びを前に、崩れ落ちたのは、基本ヘッドではなく、シルシ自身だった。


 本来なら、ステータス画面を開けば、自分の姿を詳細に確認することが出来るのだが、今のシルシにはステータス画面を表示するための、キャラクタアカウントがない。

 鏡もないので、パッと見で確認できるわけではない。対戦空間に立つ4頭身の後ろ姿や、刀風カタナカゼ達が映っている映像空間に、時折映り込む、自分の映像を見て、確認するしかない。まあ、それでも点滅する、マシーナリーの顔と眼を開わせることくらいは出来る。点滅するパーツと重なる、初期ボディーは、逆のタイミングで、半透明になっては、再び元に戻ったりしてる。

 いびつなデッサン人形と、初期ボディーのシルシが交互に姿を現している状態だ。


「ザッ―――……それは、あかん」

「ザッ―――……そうね、最低ね」

「ザッ―――……先生、そういうのわぁ、放課後っていうか、夜9時すぎたくらいからならぁ良いと思うのぉ」


「ザッ―――おい、挫けるな! 立てってんだぜ!」


「お、おう……」

 両手を付いて、挫折していた彼が、よろよろと立ち上がる。


 何事かと、顔の長い猫達は、再び、にじり寄って来た。


YOUゆぅー_LOSEるぅーず!』

 前触れ無しの突然の、カワイらしくも気の抜けた声。

 再び再び、逃げていく、猫たち。

 どうも、この、『チャットで対戦! キャラメイカーズ!』には、ラウンド毎の時間制限が有ったらしい。

 そして、アイテムを掴み取る度に減っていき、”装弾数1/1”を大漁に受け取っていた今、彼のライフゲージは殆ど残っていなかった。


 ぼへぼへぼへん♪

 ダサいBGMとともに、奥行きのある、映像空間が刷新される。


『ROUND2』

 シルシの戦いは、再び最初デッサン人形から再開された。

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