2:惑星ラスク
「察するに、
笹木VR専門家は、茹で
「はい、そのとおりどす……です」
ふむん。
「……中を
「はい、だから、……あたしの”初期ボディー”の……”
「対戦形式のプレイログから、
闇夜の猫のように、瞳を
「一番元気よく動き回ってた女子生徒? ははん、
難しい会話の中から、何かを導き出したらしい。ドヤァ顔で尋ねる、イケメン。
「はい? ……発信された
笹木
「オレ、聞かなくても解るぜ―――」
「あった。型番は―――」
重なる
「「―――S
ぶひゃっひゃっひゃっひゃ!
どうりで、
あの、NPCコウベちゃんの、攻撃的
「さいぜん、
どうりで、と、さっき、
ついでに
「―――ザザッ―――おーい! 聞こえないのー!?
◇◇◇
「グギャアアアアアアッュウオウオウオウオウオウッ」
遠くで、そんな獣声が反響している。
とてつもなく広い
パァーン!
足の下の、半透明の、歯車が、粉々に砕け散った。
頭の上を見るが、同じく光の粒子と、かき消えた。
ゴトン。
足下を見ると、歯車状の板っぺらが落ちてて、
横へ飛び退き、ソレを持ち上げると、その切断面は、光沢があり、研磨された、金属のように見える。
ただし、その表面の木目のテクスチャに挟まれた、切断面は、向こう側が見える。
何か、ミラーグラスのように薄暗く、反対側の光を透過していた。
「うわ。これ、初期フロアの床だよな!? 面白れーっ」
コココン。叩いてみるが、木の板の立てる音と変わらない。
「笹木とか、こう言うの好きそうだな。拾っとくか」
そう言って、1メートル弱の軽い、円盤状の歯車を小脇に抱えた。
今の現状の奇異さは理解できても、それに動じるだけの、余裕が彼には無かった。
周囲のすべてが、未知に溢れていて、ワクワクしすぎていたのだ。
「えーっと、さっきのは初期フロアだろ?」
変化前の手抜き感満載の、地表は、初期フロアの地面だったと声に出して確認する。
「つまり、ここは、正真正銘の、スターバラッドの中って事だな!」
今、彼の目の前に、広がる世界には、雑多で煩雑な大自然と、そこを
圧倒される大自然。それでも、妙に整頓された印象を受けるのは、薄暗いのと、地面に落ちている物が無いからかもしれない。
厚紙のような触感の、地面自体も発光していて、穴の空いてる天井と、同じタイミングで、僅かに光を強くしたりしている。
「葉っぱの一枚も落ちて無えのは、何か、違和感があって面白いかもなー……っても、コレ正規の出現地点じゃねえよな、どう考えても。
独り言を言いながら、自分の手を見るが、初期フロアで見た自分の物だ。肌色をしてて、何の変哲も無い。
履いている真っ白の靴を脱いで、真っ白い靴下をめくってみたが、やはり自前の初期ボディーの足が出てきただけだ。
現状:
VR/AR対応の腕時計型デバイスは、金属の光沢を放っており、手首に巻かれたままだ。
「あ、そう言や、あん時、
彼は、頭を抱えるわけでもなく、むしろキラキラした眼で、周囲を見渡している。
結構な上空に、膜のようなモノが見える。そのあちこちに丸い穴の空いた、ドーム状の天膜で、空間は仕切られている。穴の空いた向こうには、又、別の膜に区切られた空間が続いている。明らかに人工物と思われる、多面体が膜の随所に埋め込まれていた。
地面や膜の淡い光。多面体から発せられる、木漏れ日のような光。全体的には周囲を何とか見渡せる程度の、明るさが保たれてる。
薄暗い中にも、不規則に膜を透過して、降り注ぐ強い光もあって、行動には全く支障はない。この、閉じた風景の中に、何か凶暴なまでのパワーが内包されているような、肌に感じる緊張感。ソレは特別講師お手製の、”真っ白シアター”を彷彿とさせた。
「前に、聞いた感じじゃ、厄介な状態になってると、思ったんだけど、コレはコレで、ナンカ、……おもしろそうだな」
彼はご満悦だった。
その理由の一つは、彼の周囲を、うろつく、”U4”の存在だった。
遠くの方には、もっと大きな生き物も居たが、今、彼の周囲にいるのは”U4”だけだった。
短い毛で覆われ、全体のフォルムは、やたらと細い猫のような印象。顔もどことなく猫に近い。精悍な顔立ちをしているが、雑な行動から、あまり思慮深そうには見えない。
色は寒色系。いや、背後に隠れている、サイズの小さい個体は、ピンクとかオレンジとかの暖色系だ。成長とともに色味が変化するのだろうか。
一番近くに居る、彼らの中では最大クラスの、青と緑の
「なんか、ルフトさんに、似てる?」
”U4”:手足の長い、青い短毛で、ひょろ長い顔の猫。
ルフト:細身のシャーシに青いカウル、先鋭的なフォルム。
どちらも1メートル程度の全長。確かに、酷似していた。
足先は山羊のように
ジリジリと近寄ってくる、寒色系の最大クラス。
彼は身構えた。
……けど、眼の前で、……ボックスステップを踏み出したのを見て、彼は大口を開けて笑った後、歯車を座布団替わりに、
敵意は無いと判断し、近寄るに任せることにしたのだと思われる。
彼は、”U4”のステップに合わせて、手を叩きリズムを取ってみた。
「1,2、3,4,5,6,7,8、ハイハイハイハァイ♪」
スタッスタッスタッスタッ。スタッスタッスタッスタッ。スタッスタッスタッスタッ。
完璧である。良いセッションだった、と満足げにしていると、華麗なボックスを披露した、”U4”の
ぺたり。
すると驚くべき事が起こった。
小さな4本指+手首の突起が接触している。
「わ、キモッ!」
とっさに中腰になる。
彼の膝から伝播していく、寒色系。
驚き、飛び退く”U4”。その手先の一本が、背中の
彼が寄りかかった背後、巨木に刻まれている『U4』の巨大文字。
その文字は加工された物ではない。
凹んでいる角に、折れた様子は無く、丁度文字の末端の所から、小枝が突き出したりしてる。小枝に付いてる小さな葉っぱ。摘まんで裏を返す。
ポツポツと
「なんだこりゃ!? ”U4”ってお前等の
声に驚き、更にもう一歩飛び退く、妙に細っこい猫。狭い
「ごめん、ごめん。怖くないよお」
再び座りこんだ彼は、
近寄ってくるステップ音。
スタッスタッスタッスタッ。スタッスタッスタッスタッ。スタッスタッスタッスタッ。
彼の口元がにやけている。
◇◇◇
「広域MAPでも、……検索出来ないんじゃ、……キャラ登録前に……ロストしちゃったのかな? ……ぶふふっ」
もーオモシロスギ、と不測過ぎる事態に、笑いを堪える、成人女子生徒。
ローファーで
はっきりとした違いと言えば、リボンの結び方くらいか。
NPC版は、両耳の後ろに流すツインテール。
成人女性
「でも、
立体的なカチューシャアイコンが、各自の視界の隅で明滅する。
「そうね、とりあえず、行って……みましょうか? プッ! キャラ登録前にロストしたのに、ステータス表示されてるって……ど、どういう、ブフフフッ!」
桃色の事務服を着た、スタイル抜群の
音声チャットの妹と、瓜二つの声で、笑い声をかみ殺している。
VR業界人には、なにか
「姉さん、その、声変える奴。紛らわしいから、やめ―――」
音声チャットは、苛立ち気味に、言い放つが、轟く雷音にかき消された。
バリバリバリバリッ!
眩しい光が、残っていた三人を、覆い隠す。
歯車は全て
床に空いた、
◇◇◇
とにかく現状を確認しようと、メニューを呼び出した。
「―――ごらあー! 返事くらいしなさいよー!?
とたんに、
『
立体的なカチューシャアイコンが視界の隅で、明滅している。
「えー? 笹木ー? 今、どこなのー? ふふふー」
「ぷっ。アンタは女子か! 気安いわね! そっちこそ、どーなってんのよ!?」
妙に浮かれて、楽しげな、渦中の
「えーっとねー! 色が付いたー!」
彼は、カラフルにカラーリングされた自身を見下ろした。
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