1:接触5

 たこ焼き大介白いコウベは、自分の右手首に内向きについているゴツいデバイスから、指に張り付けた画像を指先で放り投げた。


 テーブルの1メートル上空。垂直を軸に回転する、15センチ程度の画像。

 ソレには見覚えがあった。


『”自動生成プロシージャルされ過ぎ!? ワンダリングボスクラス発見&UMA討伐クエスト”に参加して、宇宙船スペイスシップを手に入れよう!』

 カラフルな色合いの、イベントチラシ。


 クルクルと回り続けるフライヤー。

「……音声入力」「……選択中:最大表示」「……ポイント:視線入力」

 NPCコウベが体育座り、その頭の上で、小鳥がニワトリ座りしている後ろ側。

 広い壁の中心へ視線を向ける、白い方のコウベ。

 いや、NPCコウベも肌は白い方だが、受ける印象は健康的。白い方のコウベの白さは、見慣れてくると、やや不健康もやしっこに見える。


 大介白コウベの指示で、リビングの壁面に、印刷品質で、フライヤーが表示される。

 コレは通常の”壁面を利用した拡張表示”。

 むしろテーブル上の中空に、フライヤーを表示していた事の方がイレギュラーで、大介が発動中の何かに因るモノ・・・・・・・である。


 シルシ真っ白い方のコウベ・・・・・・・・・、いや、”たこやき大介”へ問う。


「さっきのとか、コイツ等の実像表示・・・・とか、ワルコフのハッキングと同じようなモノですか?」

 テーブルの上のあたりと、向こうの実物大NPCどもを、指さすシルシ


「……WARKOVワルコフって……読むのどすね。……その宇宙服、……1個体いちこたいの事なんて……まるっきし解りゃしまへん」


「でも、この、全部一緒くたに処理し・・・・・・・・・・ちまう手口・・・・・って、ワルコフのハッキングそのもの・・・・だぜ?」


「……コレは、開発もんツールで、……デバッグモードの一種に入っただけどす。演算にかかる負荷を一切……度外視した強権発動中パワープリセットどす。課金が掛かるけど、……量子的な内部処理ぐち、すっぺり、GUIで操作……できるねん」


「つまり……!?」

 同時に首を傾げる、男子生徒2名。


「簡単に言うたら、……今の状態で、コイツハンマーでひっぱたけば、……その無敵の……宇宙服ワルコフでさえ、……ほんに粉砕でけるわ」


「へー、そいつぁ、おもしれぇーなー。なぁーワルコフー?」

 シルシから馬鹿でかいオレンジ色ハンマーを、ひったくり、宇宙服へ詰め寄る刀風カタナカゼ


ワルコフゥハハハハ……良イ、爆砕ハンマーデスネ」

 ボボボッ、シュゴゴゴッ!

 脚を投げ出して座っていたワルコフは、スラスター点火。

 天井の、天窓まで吹き抜けになっている部分へ、飛び上がって降りてこなくなった。

 シルシは、NPCコウベをじっとみる。

 よく見れば、頭の上の小鳥との接触面とか、輪郭の一部とかに、若干のノイズが生じている。それと、向こう側が透けて混色しているために、全体的に薄暗い。

「確かに、ワルコフが使う、完全な体映とは違うみてえだぜ?」

 刀風カタナカゼも気づいたようだ。


「そういや、先生も、処理落ちしてたワルコフに、直接攻撃・・・・みたいな事してたっけなー」

「先生……?」

「あーうちの顧問っつうか、VR講座の特別講師の先生」

「顧問……?」

「VRエンジン研究部。ひと言で言うと、コイツ等を保護する手続き上、即興で立ち上げた学園βの部活」

 NPCコウベとワルコフを適当に指さすシルシ

「部活……楽しそう……どすな」

 なんか寂しげに、微笑む、大介美少女。


「それで、このフライヤーが、どうしたんですか?」

 シルシは敬語で、話の先を促す。


「そうだったぜ、鋤灼スキヤキがどうのって話、聞かせて下さいよ」

 刀風カタナカゼは、巨大ハンマーで宇宙服を牽制しながら、シルシに習って話の続きを催促した。


 通常サイズのハンマーを1本手に取り、とがった方で、壁のフライヤーの1番下を指し示す大介。

『※スターバラッド統括デザイナー:鋤灼スキヤキPが自ら作成した、ボスクラスNPCを討伐して宇宙船を貰おう。』


鋤灼スキヤキPって、誰だぜ? 知り合いか?」

「いーや、知らねっ」


「かといって、こんな旨そうな名前、そー無えだろうし、……鋤灼スキヤキって、兄ちゃん居なかったか? なんか、特区がらみの仕事してる……」

「兄貴なら、なんか、お堅い基礎研究を地下でやってるって、前に聞いたことあるけど……こんな華やかな催し物に、好き好んで出るとは思えん」


「ん? これ、夕方見た、フライヤーと画像は同じだけど、ぜんぜん違う記事だぜ?」

「なになに? ここからは、VR設計師や開発関連会社向けの記事となります……」

 自分の顔の前で、指をちょいちょいと突き上げる刀風カタナカゼ

 スクロールして現れたのは、記事でインタビューを受けた人物の顔写真。


「ぶっひゃひゃひゃひゃひゃっ!」

 崩れ、折れ曲がる長身カタナカゼ

「なんだこれ!? 鋤灼スキヤキ!? ARめがね掛けた時の、おもしろい顔のオマエ・・・じゃん!」


「わ、マジで兄貴じゃねえか。なにしてんだあの研究ヴァカは!?」


「ほんに、……そっくりどすね。……とゆーより、……本人・・・ど・す・な!?」

 サスペンス映画の後半、真犯人と対峙した名探偵、又は、名探偵に追い詰められた真犯人のように、シルシをきつく睨みつける、白い大介美少女。


「わー、待って待って! だから、これ兄貴だから、俺じゃないから! それで、兄貴が何したの!?」


『自由な発想で、作り上げたご自慢の、会話型NPCを、弊社運営中のスターバラッドオンラインユニヴァースで、大活躍させてみませんか?』

 いぶかしんだまま、ハンマーで指し示す。

「―――ってぬかして、大募集しよったくせに、……いざ、規定値クリアしたら、……こん悪魔が・・・・・! うわーん!」

 重さを感じない、玩具みたいなハイプラスチック製のハンマーを、泣きながらワルコフへ投げる、大介女史・・・・

 ハンマーはワルコフのかかとをかすめ、ノイズをらした。



   ◇◇◇



「そやかて、……WARKOVウォーコブは……あてぇの作ったNPCが……後ちびっとで……会話型アブダクションマシン自律進化機……になるってトコばっかり狙って……すっぺり潰す……んやも……んっ!」

 興奮したせいか、また”WARKOVウォーコブ”と呼び、憎しみの色を募らせていく”たこ焼き大介”。


 周囲には、平面がズラリと浮かんでいる。


 光る平面には、彼女の試作したNPCが、信号途絶ロスト直前に|接触した対象が記録されていた。そこには当然のように、『warkov』という固有識別IDが羅列されている。その隣には宇宙服が、細長い棒でキルカメラの放電を放っている姿スクリーンショットが転写されていた。

 中には、画面中を覆い尽くす、薄暗いバイザーと、ソコに写るNPCの恐怖にゆがむ顔。

「最終通信地点と、……周囲のオープンチャンネルを……アウトライン検出して、……やっとの事で……到着したんえ」

 指で開き、拡大した転写画像には、シルシと激突した”緩衝エリア”のあたりが俯瞰で写っている。


 再び、玩具みたいなハンマーを吹き抜けへ向かって投げつける大介。


「あぶねっ!」

 咄嗟に、デカいハンマーで、小さいハンマーをブロック。

 落ちてきたハンマーをつかむ刀風カタナカゼ

 もちろん、宇宙服ワルコフかばってのことではない。

 さっき、投げられたハンマーは危うく、遠くの、陶器製の傘立てに激突する所だったからだ。

 大介はガクリとうなだれ、意気消沈した大人しくなった


「なによ、……今まで投入した……NPC43体、……すっぺり、潰すかかじるかしたのよ……ソイツっ!!」


「ええと、よくわからんが、ウチの兄貴が公募したNPC募集に際して、兄貴謹製のNPCで迎撃するのはオカシイと」

 確かに公式NPC、PLOTーANプロトたんなんかに混じって、ワルコフも(宇宙的なスケールで)写り込んでいる。

 腕を組み、考えるシルシ

かじるってのは、バイザーから取り込んじまうアレか? 俺の『クイズ! ○×ガンマン!』早く返せよっ!」

 刀風カタナカゼは、宇宙服ワルコフ迎撃を再開する。


「えー? 何々ー!? おやつ? おやつの話ー!?」

 NPCのコウベは、暇になったのか、無理矢理、会話に割り込んできた。


「……えっと、コウベって、たこ焼き大介製品だったよな?」

「……そだよーたぶん。だから、早くおやつくれよ!」


「忘れとった、……あんはんがたは、昨日きんのから信号途絶ロストしとんのに、なんで稼働してるの元気なのどすか!?」

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