1:接触4

「ルフトさん、危ないかもしれないから、一応離れてて」

 キュキュ、ガシン、キュキュトタタタッ。

 フルサイズルフトは、小さい自分を両手で拾い上げ、廊下の奥へ逃げていく。


 リアコウ真っ白は、すそを盛大にひるがえし、太股のあたりから、小さいハンマーを、2本取り出した。色はシルシの構える特大品と同じく、オレンジ色に白線の入ったデータマテリアル対応品。シルシが教室の後かたづけに、使った標準サイズと同型品と思われる。

 ちなみに10倍サイズのハンマーは、首の後ろから出してたので、背中に仕込んであったと思われる。


 シルシは舞い上がるスカート部分を指さし、「それ……」何かを言い掛けたが、リアコウ真っ白の言葉に遮られた。


「……音声入力」「……開発者権限:行使」「……バイナリ時空間分割:オフ」「……エリア指定:この辺一帯……!」

 彼女は、専門家のような長い呪文を唱えた。会話が、得意なようには見えない彼女は、「ぜーはー」と、肩で息を切らしている。


 またたく、天井に埋め込まれた白色灯。

 チキッチキキキッ。

 瞬断する白色光に同期して、左右の手に交互に発光する特区における危険色#FF263E


 1秒60フレームの暗闇。

 光を増す、デバイスの積層表示


 ぽこん。

『★★★★☆”設計師ヲ目視確認”チャレンジ獲得』

 暗闇宇宙服の頭上にポップアップした、謎のダイアログ。

 いつもの冗談の類なのだろうが、明確な意味は有るっぽい。


 切れかかった蛍光灯が持ち直すように、白色光が点灯した。

 余談だが、最新都市のハイテク特区といえども、旧型の蛍光灯も使用されている。中には、蛍光灯を模して作られた、画素パネルなどもあり、ボタンを押すと”演出”として切れかかったりする。


 ビビビッ! ボムン!

 ダイアログが消えた直後、ワルコフは、古い映画風の、ぞんざいなVFX特殊効果で、シルシくらいの大きさになった。

 テーブルの端から、ずり落ちて、接地面の高低差分、落下し、地面ゆか振動させた・・・・・

 ワルコフ落下の振動で、よろめく刀風カタナカゼシルシ


「―――WARウォー……やのうて、……WARKOVワルコフ……おどりゃあ」

 鈴の音のような声に迫力はなく、逆に少しだけ可憐さを取り戻した。

 迫力は無いが、リアルコウベは、やる気で充ちている。

 左手を前方へ突き出し、左足を真っ直ぐに伸ばす。

 右手を曲げ引き絞り、ゆっくりと腰を落としていく。


「よせ、ワルコフ。実体化は無し」

 シルシは、素っ気ない感じで指示を出した。


ワルコフゥコレハ、私デハ、アリマセン」

 実体感のある両手をニギニギする宇宙服。


 少年達はそろって、ワルコフのクビレのないウエストを見た。

 ワルコフの黒い箱に付いたロゴは施錠されたままだ。

「もし、禁則事項に手を出したら、箱のロゴが開錠してるはず」

「じゃあ、コレ・・は、本当にアイツ元ネタの仕業って事だぜ!」


「でも、物理検索とホログラフ・・・・・・・・・・ィー規格・・・・介入の手口ハッキングって……ワルコフみてえだ」

「おう、アイツ・・・、いろいろ仕掛けて来そうだぜ」


 ハンマーを両手に構えたところで、攻撃力ATKは微塵もない。だが、その姿は、可憐さなども微塵もなくしてしまった。巨大ハンマーだって物騒だが、まだ、あっちは、そういうキャラクターだと思えば、様式美や外連身けれんみみたいなモノがあったのだが。破壊力のある身近な道具を、両手に構える少女には”乱暴者”以外の形容詞が当てはまらなくなる。


「コウベと、そう変わらなくなっちまった……」

 落胆の色を見せるシルシ少年。


 ワルコフ落下の振動は、”小鳥騎士メジロナイト”の覚醒もうながした。

「むにゃん? シルシー、もっと食べられるよう?」

 菓子の山から這い出し、小鳥の背中へよじ登る。

 ピチュチュチュイピュイーー♪

 羽を広げた小鳥は、寝ぼけたコウベこびとサイズに後ろ首をかじられる。

 ビュイーーーーッ♪


 ビビッビビビビッ! ボボボムン!

 小鳥騎士メジロナイトが、その対比のまま、VFX特殊効果で実物大に拡大。

 バタバタバタバタッ! リビング中が羽根で埋め尽くされる。はた迷惑な巨大小鳥メジロは、齧られた首が痛いのか、羽ばたくことを止めない。


 直後、重力が適応され、テーブルの上でコウベに両膝で踏まれるニードロップ一抱ひとかかえはある巨大な抹茶色は宇宙怪獣のように爆発したが、すぐに爆発の煙が逆再生。凝縮された爆煙はくすぶるように、かき消えた。

 コウベは巨大小鳥の爆発のベクトルを使ってジャンプ。丁度吹き抜けになっている所で跳ねたため、天井にぶつかること無く一回転。両手を広げたY字ポーズのまま、フローリングの床へ華麗に着地した。


 数拍置いて、コウベの制服の、ポケットから再登場リスポーンする小鳥。腕を伝い、コウベの頭上へ駆け上がる実物大ことりサイズ。

 ピキュキュ、ピキュキュ、ピキュキュッ!

 小鳥は警報のような鳴き声、つまり―――

 バトルレンダ使用許可・・・・・・・・・・を出した・・・・


 コウベの相貌そうぼうが赤く染まってゆく。小鳥とワルコフに色調変化は無い。

 ボムン! 爆発するツインテールの末尾まつび


「なんだこの状況!?」

「一体なんだぜ?」


「試作コード……65コトリと……68コウベ! あんはんたちは、……生きとった……さかいすか!?」

「あっれー? その、呼ばれ方、なんか懐かしい。会った事無いけどー」

 ピチュチュチュイー♪

「え? 設計師!? そういえば、骨格モデルリグに相似が」

 対峙し、見つめ合い、パントマイムで左右対称な壁をやりだす。


 合わせ鏡へシルシは叫んだ。

「コウベッ!」


「「何!?」」

 双子のような有りよう左右対称シンメトリーに振り向かれ、リビングには設置されていない立体音響ステレオで返された。

 返答に困ったシルシ少年は、観念した顔で懇願おねがいした。


「あーいや、ひとまず、物騒な得物・・は無しで、お願いします」

 シルシは、廊下の陰から、つぶらなカメラアイを向けている、ルフトと、その手に抱えられた子ルフトを指さした。


 その、曇りのない視線は、その場の全員を着席させるのに、十二分に機能した。


 バチバチと燃えさかっていた毛先コウベが消沈して白煙を上げた。



   ◇◇◇



『設計士/たこ焼き大介

 @Octopuscake

 会話型NPC・VR装備各種。

 ※ご用命はSMSにて承ります。』


 リアルコウベから、ちょっと折れ曲がってる名刺を貰ったシルシ

 リアコウが取り出したのは、ソレ一枚だけで、刀風カタナカゼや他の面々の分は無い。


 ソファーには、設計士:たこ焼き大介(美少女気味)。

 イスには、シルシ刀風カタナカゼ

 隣にルフトと、子ルフト。


「これはご丁寧に。そう見えても社会人の方ですか?」

「まあ、そうどす」

 なんか、眼が泳いでいるが、多少の挙動不審さ程度では、急暴落したリアコウ株に、今更変化はない。


 テーブル向こうの空間に、実物大コウベ(噛みつき癖有り)と、教室で会ったときより、やや小さくなっている実物大船外活動用宇宙服ワルコフ(ふざけ癖有り)。


「そうだ、コレ、返しておきますよ。えっと、タコ介……じゃなくて、たこ焼きさん」

 シルシは、データウォッチ経由で、指で摘んた何かを、テーブルへドロップする。


 テーブルに、ガツーンと突き刺さる、金色に輝くナイフ。

 初期フロアで、コウベに投げつけられた物を、シルシがデータウォッチ内蔵の記憶領域へ突っ込んでおいたのだろう。


「試作コード……67どすね」


「アタシのダガー!」

 正座していたコウベは、物理解像度の実在ホログラフィーのままだ。

 テーブルへ飛びつき、突き刺さったナイフを引き抜いている。


ワルコフゥ良イ、ダガーデスネ」

 そう言うなり、ワルコフは、ナイフの切っ先を摘んで引っ張った・・・・・・・・

 ウニョニョニョニョ!

 湿度の高い不気味効果音SEとともにナイフは、何の変哲もないショートソードになった。


「おいおい、何だか、ワルコフのハッキングよりも、酷くねえか?」

 刀風カタナカゼが言っているのは、参照リンク先がてんでバラバラな物同士が、何の補正もうけずに、リアルタイム処理されているこのリビングの現状の事だ。

「なんてことすんのサ! 格好良いじゃないのサ!」

 まんざらでもない様子で、細身のショートソードを振り回すコウベ。

 シルシの髪をなびかせる切っ先。


「あっぶね! ……くは無えけど、おっかねえだろ! しまっとけ!」

 怒られたコウベは制服のポケットから、十数センチの鞘を取り出し、刃渡り、60センチはありそうなショートソードを、納めた・・・

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