6・5・8:ワルコフ対自動屋台8

 俺は、禍璃マガリに引っぱたかれたデコを押さえながら、”自動ディナー屋台ベンダー”の方を確認。

 まだ、先生達は、コチラに背を向けている。危なかった。騒ぐなよな-。


 先生は、後ろ手に、何度も緩衝エリアの真ん中あたりを指さしている。

「そういやさっき、先生、何か見てたな?」

 俺は簡易AR眼鏡を掛けながら、緩衝エリア中央側を、た。

 俺はたじろぎ、尻餅を付いた。「ぶっぐひっ!」変な声が漏れる。


「おい、ささちゃんに、ちゃんと説明しとけよな。鋤灼スキヤキは兎も角、俺はお前に興味無えんだからな」

 刀風カタナカゼは、叩かれた仕返しも含めてか、禍璃マガリの二の腕をツネったりしてる。

「いった。なんて事すんのよ!」

 鬼の形相で、つねり返してる禍璃マガリを見てると、とても笹木環恩ササキワオン特別講師の妹とは思えねえ。


「俺は兎も角って何だよ、俺も笹木ささきに興味無えよ」

 俺もヒソヒソ声で抗議する。


「なによ、アンタ達、随分じゃないの! アタシこう見えても・・・・・・結構モテるんですからね」

 自分の鳩尾みおおちのあたりに、開いたてのひらを押し当てる。


「わかった。マジになるな。お前ら・・・がモテるのは俺が一番よく知ってる」

 急に、哀れむような視線を、本気で俺に向けてくる2人。

 悔しい。悔しいので、脅かしてやる。


「いいからコレ掛けて、あの辺、真ん中辺り、視てみろ、大声出すなよ」

 と、簡易AR眼鏡をクイッと持ち上げてみせる。


 刀風カタナカゼもAR眼鏡を掛ける。なら禍璃マガリ

「ぶわぁムグッ……!?」

「きゃぁムグッ……!?」

 2人の口を俺がバッと塞いだ。そのポーズだけ視れば、さながら、突っ込んできた巨大牛のツノつかんで、止めた人だ。

 俺も、くびだけ振り返り、もう一度視る。それは、ココがVRゲーマー特区だと言う事を差し引いても、とびきりシュールだった。


 目の前に、急に天気が良くなったみたいに、ピーカンの青空が広がって……いや、あれは青空じゃない。ふつう、青空には、『Dinner×Vender』なんて楽しげな文字ロゴが、でかでかと横並んでたりしない。


 ”自動屋台ディープ・コピー”の筐体側面・・・・がそびえ立ってる・・・・・・・・。幅は何かもう視界いっぱい、高さも電波塔よりも高そう。

 その下で、対比的に、とても小さく見える宇宙服ワルコフが、ちょこまかと何かやってる。あの長い金属棒を突き刺して、おそらく”悪さ・・”を、してる。


 ”自動ディープ屋台・コピー”の脚が見えないところを視ると金属棒で粉砕、じゃなけりゃ、落とし穴、掘ってズドーンと落とした状態なんだろうか?

 更に、よく見りゃ、スラスターを噴射ふかし、軽快に動き回るワルコフの背後を付いて回ってるヤツが居る。後ろ髪ツインテの優等生風の美少女が、キョンシーよろしく、カートに乗って直立不動のままフラフラ動き回ってる。


 口を押さえた両手を、そっと離し、ちゃんと振り向く。ワルコフに向かって怒鳴ろうと息を吸い込んだトコを―――

 「ワぶっ!」

 後ろ頭を禍璃マガリにひっぱたかれた。いかん、ワルコフ事になると、どうも我を忘れ気味だ。

 データ・ウォッチの表示盤を弾き、パーティーチャットコンソールへ会話を打ち込む。

 具体的には手の甲でフリック入力。コレはワルコフの使った、謎ハッオープン・キングチャンネルじゃないから、もし視られても、”部員”以外には見えない。まあ、システム管理者がやろうと思えば視られるだろうが、建前上は、”理論上宇宙最ステガの暗号通信グラフ規格”だ。無いよか100倍イイ。


 シルシ :ワルコフ 何やってんだ!

 コウベ :あれっ!? シルシだっ!! 生きてる!? キャッホーイ!

 ワルコフ:オヤァ? ゴ無事デシタカ!? ソレハ僥倖ギョウコウ

 シルシ :そんなのどうでも良いから! 何やってんだよ!?

 ワルコフ:モチロン、部員ノミナサマノ、トムラ仮想A電子戦EWデスガ? 何カ?

 シルシ :今すぐ止めろ!

 ワルコフ:ソウ言ワレマシテモ、現在、バトルレンダ、再スタートシタバカリデ、モッタイナイデスワ

 シルシ :多分、ブレたキャラ作りなんて、やってる場合じゃねえぞ!


 ワルコフもコウベも、瞬時に、全文送信してくるから、俺だけチャットに慣れてない人みたいになってる。

 俺の眼前に表示中の、パーティーチャットログを、刀風カタナカゼ禍璃マガリも、顔を付き合わせるほどの近くで視てる。自分でパーティーチャットコンソール開けよって思ったけど、言ってる暇がねえ。

 この状況、恐らく、どう、都合良く解釈しても、システムシス管理者アドサイドから見て、喜ばしい光景じゃ無ぇー!


 ワルコフは、気ままに、金属棒を、バックパックから取り外して2刀流とかやって、ふざけてる。こうしてる間にも、白焚シラタキ女史、もとい、システムシス管理者アドに見つかるっつうの!


「では、そろそろ、おいとましなくちゃ」

 対外向けの、よそ行きだとしても、白焚シラタキ女史の優しげな声が逆に恐怖を駆り立てる。


 カツカツン!

 背後でヒールが振り向く気配! もう、運に天を任せるしか無ぇー!

 スススス。俺は一文入力して振り返った!


 シルシ :シスアド来てる


 500円ショップで売ってる、板っぺらみたいな、ちょっとコミカルすぎる、簡易タイプのARグラスをお揃いで掛け、中腰のまま膝をそろえて振り返る、若者三人組。このさまは、加工無しで、コミックバンドか、ロボットダンスチームの宣材写真に使えると思う。


 青春を謳歌し、じゃれつく若者達を、一瞬怪訝そうに眺めた後、すぐに興味をもつ、VR専門家と、自動機械群システム管理者。


「なあにソレ? 今、流行はやってるのかしら? うふふふふ」

 俺と刀風カタナカゼから見れば仇敵だが、向こうは大人だ。

 俺たちは焦燥しょうそう諦観ていかんが同時に押し寄せる複雑な感情に押しつぶされる。


 微動だにできず、不甲斐ない。けど有る意味、それが功を奏した。


「なぁにぃ君たちぃ? おバカみたいよぉ? ぷははぁー!」

 ああ、もう先生め。さっき、自分で、”ワルコフのワルさ”を見て慌ててた癖に。

 自分で、こっちに丸投げしといて、フォロー無しか。つか、本気で、ほんの一瞬前の事、忘れてそうだなおい!


 ふと、何かに気づいたように、空を眺めヘッドセットに手を当てる、白焚シラタキ女史。

「「「ああっ!」」」

 白焚シラタキ女史は非常にもヘッドセットの、AR拡張ボタンらしき物を押した。流石に俺たちの挙動で、なにか不振に思ったのかもしれない。

 いや、レンズっつか、ガラス部分が出てないし、単にヘッドセットのモードを切り替えただけかも―――


 一瞬の沈黙。


「な、なあに!? コレは一体何なの!?」

 叫ぶ白焚シラタキ女史。

 レンズとか、ガラスとか飛び出てないけど視えてるっぽい。最先端の技術を惜しげも無く使ってるんだろう。先生の魔女帽子VRデバイスのバイザーも視界全部を覆ってるわけじゃ無いモンな。


「このでっかいの、どう言うことなのー!?」

 叫ぶ白焚シラタキ女史。

 終わった。コレは怒られたあげく、問いつめられるままに、コウベ登場のくだりから、長々と説明するしかねえなー。

 俺は、あきらめ、両脇のクラスメイトと、大きな溜息ためいきをついた。


 「君たち、イイね! 造形はまだまだだけど、このウネリと、逆に枯れてない感じ!」


「は? ほめられてる?」と禍璃マガリ

「何かそう聞こえるな」と刀風カタナカゼ


 3人揃って、振り返ってた上半身を、元に戻す。

 眼前には、なんか、養分を吸われたように、つぶれて小さくなってる”自動ディープ屋台・コピー”。

 小さいって言っても、小振りの体育館くらいはありそうだけど。

 表面がしなびて、そういう模様の平たいみたいに見える。とても、あれが”ディナー×ベンダー”のディープ・コピー》”だとは気づかねえだろう。

 そして、その鉢に生けられているのは、巨大な巨大な椎茸だ。

 大きくなりすぎたせいか、所々ほつれるように、枝分かれしてて、作りの雑な、松の木のように見えないこともない。

 何かほんと、盆栽みてぇ。あの曲がり具合なんて、ちょうど俺たちの今のポーズそっくりだ……し―――。あ。3人揃って、再び、振り返る。


「そして何より、この、身を挺した、体現形態模写

 偶然、いやんいやんのポーズのまま固まって、くっつき有っただけの俺たちを、指さす女史。イイね♪ イイね♪ イイね♪ ぽん、ぽん、ぽんと、満面の笑みで、肩をたたかれた。


「先生! 実におもしろ……いえ、有望な生徒さん達ですね」

「常日頃からのぉ、私のぉ教育のぉたまものですぅ」


 あれか! 良く、公園でやってる、AR技術を使った大道芸とか、創作ダンスみたいなモノだと思ったのか。つか、ワルコフめ、とっさに”自動ディープ屋台・コピーの全養分(?)を使って、謎椎茸を、促成そくせいいや、即製そくせい栽培しやがった。

 どっと冷や汗が流れる。


 君たちにも名刺をあげよう、と言って懐から、アジュール・ブルーの地色に、白い文字の書かれたカードを取り出す。さっき、先生が貰ってたのと同じヤツだ。

 禍璃マガリ刀風カタナカゼ、そして俺にも、それぞれに、作法にのっとり両手で、丁寧に手渡してくる。

 あれ? これ、くっついてたのか2枚ある。

「あの、これ2枚―――」

 返そうと思ったが、女史はさっさと、”自動ディナー屋台ベンダー”のへりに、ぴょんと飛び乗ってしまった。ま、いっか。大して重要な物でも無いだろうし、有り難く2枚貰っとこう。


「シルシー! いの持ってんじゃん! くれっ!」

 いつの間にか、スグ側に来てた、”PBCコウベ” の乗ったオン ”簡易給仕ロボラジコンカート”。

 俺は慌ててカートのアームから、”PBCコウベ”を引っぺがした。

 野良NPCくらい、特に問題ないだろうけど、なんか、”永久パターン”の事もあって、一応用心しとこうと思ったのだ。後ろ手に隠し、角張ったヨーグルト瓶に付いたスイッチを切った。

 「何だよー! ドケチか―――」ブツッ。

 何か言ってたけど、ちゃんと切れた。ちなみに、切断中も、制限は有る物の、AR、又はVR空間内部で、連続性を保ってる元気なはず。接続先が無くてオフラインでも数日は、自身保存先パーソナル・ブレイン・キューブ保有のわずかな画素リソースだけで保つはず。


「もし又、自動機械群うちの機械達が、ヤンチャした時は、機械に向かって、名刺コレ提示・・してください。最優先で、その自動機械個体、”特権発動しコントロールを奪い”ますので」

 なんか、聴き方によっては物騒・・なことを、自動屋台ディナーベンダーの上から言ってくる。


「あら、”簡易給仕ロボカート”ソコにあったのね。それ、邪魔じゃ無ければ、差し上げますよ。折り詰め運ぶのに使って下さい。非暗号回線オープン・チャンネルで、操作できますので」

 よし、女史はコウベに気づいてない。


「え? 助かるぅ。じゃぁ、有り難く頂きまぁす」

 ”自動ディナー屋台ベンダー”の天板の上の最高級折り詰めを、持てるだけ抱えて、”簡易給仕ロボカート”に移す先生。

 俺たちも慌てて、手伝う。


「飯櫃2号、お手伝いして。保守課の分と合わせて8個、頂いていきます」

 先生と分け方を決めてあったんだろう。”自動飯櫃屋台2号”は、産業用ロボットの様にアームを動かし、女史の近くに積み上げる。


 俺たちが、”簡易給仕ロボラジコンカート”へ、積めるだけ積む。全員手にも数個ずつ持って、ようやく天板上の最高級折り詰めが無くなった。


「では、本日はコレで失礼いたします。先生、今度、飲みに行きましょう」

 ガシッウゥンピピピッ♪、6肢が自分で水平を取り、自動屋台ディナーベンダーはゆっくりと歩き出す。

 なんか、ラクダみたいねと禍璃マガリが、又、言い得て妙な事をつぶやく。


「はい是非~♪ では、こんなに沢山、ご馳走様です~」

 先生が両手に抱える、最高級折り詰めは4個。上機嫌である。

 俺たちも、先生に習って、手に抱えた最高級折り詰めをチョット持ち上げ、「「「ご馳走様です~」」」と挨拶した。

 ”簡易給仕ロボラジコンカート”には、数え切れない程、山積みだ。先生が何故かゴム紐を持ってなかったら、とても乗せきれなかっただろって、くらいの山積み。

 先生も給料日前に、身銭を切らんで済んだし、そこそこ良かった気もしてくる。

 と言う事で、取りあえずの問題は、どうやって食べきるかって事を除けば、たった一つだけだ・・・・・・・・


「いくよ! 飯櫃めしびつ2号」

 白焚シラタキ女史は、まるでラクダのように”自動ディナー屋台ベンダー”に乗ったまま、モールドからり上がった両開きの扉の中へ入ってく。

 バタン、ピンポォン♪

 ガチンガチンガチンガッチィン。ズゴゴゴゴッゴ、ガッシイイィイィン! 

 モールドが、溶けるように沈み込んで、元の平坦になるのを待ってから、俺は叫んだ。


「ワァルゥコォフゥ! どこだぁー!」


 シィィィィィィィィィィィィィィィィィン!

 さっきまでの騒々しさと比べると静かすぎて耳が痛ぇ!

 くそっ! ワルコフの野郎め! 逃げやがった!


「管理者怖い怖いって言って、どっか行った」

 んコウベ? どうやって確認用サムネの電源入れやがった!?


 ベルトに下げた”PBCコウベ”が無えので、振り返ると、先生が片手で折り詰めを持ち、片手で、”PBCコウベ”を持ってた。


 「ひとまずはぁ、無事難局を乗り切りましたぁ、後はアレをどうにかすればぁ、今度こそぉ、作戦ミッション終了コンプリートでぇす」


 最高級折り詰めの山を抱えた俺たちの前には、巨大な巨大な椎茸が曲がるようにそびえ立っている。……どうすんだコレ。

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