6・5・3:ワルコフ対自動屋台3

 ワルコフは機敏な動きで、ちょっと30°位だけこっちを振り向き、親指を立てた。


「ズッチャッ♪」どこかARらともメガネなくから出題音。


『2年前の、”自動機械群マシンOS事件”は、最初期の人造人格アーティフィシャル・キャラクタの1個体が、それまで不可能だと思われていた、”人造人格”が自身の”構造リグ身体性スキーマ”を別名ディープ保存コピー、したために発生した。

 ◯か✕で答えよ。』

 掲げたプラカードに問題文が表示される。


 ワルコフは自分の体の前で、ガチンと鈍い音を放つ。

 ガッチンガッチンガッチン!


 俺は一歩ワルコフの前へ回り込んだ。コウベもキュラキュラと付いてきた。

 ワルコフは右手の平に、左手の指先を突き立てている。

 何だ? 俺も同じポーズをしてみて、思いいたる。ななめってるけど。

「……タイムしたいのアウトか?」


 カタタ。即座に地面に”否”と表示される。そっか、タイムじゃないのか。

 手先で、しきりに漢字の”はい(る)”の文字を作っている。

 力の入り具合によって、”ひと”みたく逆の手の平に指先を突き立てたりしてる。


 そのポーズのまま打鍵音。最初期NPC人造人格ということで、いろいろと性能的な制約はあるのかも知れないが、十分に器用な気はする。


『私ノ自由度限界ヲ越エテイマス。』

 地面に表示された文字を読む。

「自由度……? あっバツっ! バツ出来ないのかオマエ!」

 あの面白い形宇宙軍式の敬礼が出来て、槍投げも出来るのに、両手をクロスすることは出来ねえのか。最初期NPC人造人格ということで、やっぱり色々と、器用じゃ無いのかもしれない。


「ワルコフ、体、堅ったいなぁー」ギャハハハッ! ダメじゃん! プグフヒヒッ。

 指を指して、体をくねらせるコウベ。ワルコフは”神”じゃなかったのか? 少しで良いからうやまってやれ。


 どのみち、自動ディープ屋台コピーの表示板の、カウントダウンはタイム申請を受け付けず、非常にも―――ブブブーーーーーッ。タイムアップになった。


 自動ディープ屋台コピーは何を思ったか、プラカードで思いっきり叩いて、宇宙服ワルコフを粉砕した。プラカードも同時に粉々になった。


 「しっかし、もろいなー、”自動ディープ屋台コピー”みたく大爆発もしねえしなー」

 俺は光の粒子になって天へ上っていく、最初期激レアNPCを不憫に思い―――背後から歩いてきた新しい宇宙服ワルコフの腕を掴んで止める。やっぱり、ワルコフもコウベも、どこか特別製なのが判ってきた。俺はデータグローブを装着し付けてねえ。いくら”手順さえ会・・・・・ってれば後・・・・・は機械が全・・・・・部やって・・・・くれる・・・”って言っても、こうも正確にポイント出来るのは不自然だ。先生の講座じゃ”発生するズレを不自然な動きで補完されるつなぐ”って話だったんだけど。


 えっ? なぁに? と言うようにバイザーを向けるワルコフは意外と小さく感じた。


「オマエが”自動屋台”に電子戦カチコミ仕掛けてくれたおかげで、旨い飯にありつけた。サンキューなっ」

 実世界の”自動屋台”と、テーブルそのソバでデザートをパクついてる部員達をアゴで指す。

 俺の分、ちゃんと残しとけよな~。と、念じたら、先生が手旗信号のようにフォークを振り始めた。禍璃マガリは、新しいケーキに手を伸ばしてる。それ、俺の分じゃねえだろうな~。


 カタカタタ、タンッ

 足下の地面に『仮想A電子戦EWハ、オ手ノ物デス。』と、表示し、照れるようにモジモジする宇宙服ワルコフ。何か気持ち悪ぃので、掴んだ手を払うように離す。『仮想A電子戦EWハ、―――人生。』なんか追記してたけど、面倒だったから無視スルーした。


「この通り、目的は果たしたし、もう休戦しようぜ?」

 実際、”自動屋台”も”ワルコフ”も、戦う武器が残って無ぇっぽいし。

 ”自動ディープ屋台コピー”の白い筒が並んでたトコが空になって、蜂の巣みたいになってる。

 ワルコフも、背中のバックパックの両端に付いていたらしい棒はもう無い。


『ソウ言ウ問題デハナイノデス。コレワモウ、”自動屋台”ト、ワルコフワタシノ、全力戦闘ニヨル、絶対評価ノ場ナノデス。』


 ”自動ディープ屋台コピー”は、さもありなんというように、新しいプラカードを取り出した。やる気だ。プラカードはどっから出してるのか判らないが、未だストックが尽きる気配は無い。

『2年前の、”自動機械群マシンOS事件”の―――』


「ちょっと待て。戦闘続行するなら仕方ない……けど どうせなら、なんか、もっと楽しい題材にしようぜ。何か無ぇのか、気の利いた陽気な出題テーマは?」


 プラカードに表示されていく文字を、俺は言葉で遮った。

 延々と同じ話題が続きそうな予感がしたからだ。

 俺の制服の校章辺りをコウベが見てる。どした? と聞いてやったら、コウベはべっつにー、と言って、俺の肘の辺りを噛み出した。


「ズッチャッ♪」


鋤灼スキヤキシルシは”VR拡張遊技特区立ターミナル学園αアルファ”の生徒である。◯か✕で答えよ。』


「”俺”は陽気な出題テーマか!」

 答えは✕だ。開発版”学園α”は二年前に無事、運用実績を認められ、評価版である”学園βベータ”へと再編してる。


 ワルコフは、”自動ディープ屋台コピー”へ向き直り、タイピング音を出し始める。


 ばt_ コカッ

 ばつ_ カチャ

 罰_ タンッ

 抜_ タンッ

 閥_ タンッ

 末_ タンッ

 伐_ タンッ

 筏_ タンッ

 跋_ タンッ


 あ、ダメだこりゃ。やっぱりワルコフIMEの学習機能はオフになってるっぽい。


「ワルコフさんの実力はこんなもんじゃねぇーっ!」ニャギャーーーー! ドドンドコドコッ!


「おまえはワルコフのなにを知ってるんだ。聞いた感じじゃ、おまえ、ワルコフと数回会ってシイタケごちそうになっただけじゃねえか」


「おもしろいことヤってんな」

 刀風カタナカゼの声に振り返ると、近くまで、テーブルが瞬間移動してて、ビビった! ゆっくりと滑るように近寄ってくるテーブルは凄くシュールで、キモかった。三人はテーブルにくっついてるイスに座ったまま、ケーキ風のモノをスプーンで削るように切り取って口に運んでる。


 コウベはソレを見て、「ゴハンだっ」と息巻いきまいていたが、

「このケーキはオマエには無理だ。それにさっき巨大シイタケ丸ごと喰っちまったばっかりじゃねえか」


 簡易ARメガネをかけた、刀風カタナカゼは、ケーキをパクつきながら自分の携帯ゲーム端末で何かを操ってる。たぶんテーブルを操作してるんだろ。オープンチャンネルでのラジコン操作はNPCコウベのようにスムーズにとは行かないみたいだけど、邪魔なモノが無い平面だから問題無い。ワルコフが殲滅した”自動ディープ屋台コピー”の爆発も、ようやく消えて、視界良好だしな。


 その後ろを少し離されながら、子鴨コガモのように追従トレースする”自動ディナー屋台ベンダー”。テーブルと比べると、脚部も太く、動きは滑らか。自動屋台あっちは、それほどキモい感じはしない。


 カチカチカチッ。

 ”自動ディナー屋台ベンダー”は表示板を凄まじいスピードで、明滅させる。

 カチカチカチッ。

 ”自動ディープ屋台コピー”は、それに答えるように、同じく表示板を凄まじいスピードで明滅させた。


 なんだ? なんか、通信やりとりしてる。”自動ディープ屋台コピー”の表示板が元の”残りデジタル時間カウンター”に戻る。通信やりとり中はタイマーはストップしていたらしく、幾分、残り時間があった。


 ワルコフは、例の凄まじく俊敏な動きで、俺とコウベを迂回し、テーブルへ駆け寄った。そして、刀風カタナカゼの携帯ゲーム端末の表示板から、”何か”をつまみ出し、即座にバイザー部分に押し当てた。

 一瞬目に入った”何か”は箱型で、レトロゲームのボックスアートが描かれていて、バイザー部分に吸い込まれて消えた。


 ”自動ディープ屋台コピー”の表示板が”00:01”を示し、プラカードをピクリとさせた瞬間―――


 ワルコフは振り向きざまに、いつの間にか手にしていた、”銃”をぶっ放した!

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