6・5・4:ワルコフ対自動屋台4

 どっから持ってきたんだ、あんな拳銃ピストル―――


 ブブーーーーーッ!


 タイムアップ!? 拳銃ピストルぶっ放しても、効果無しか効かねぇ!?

 ……っていうか、銃声したっけ?―――


 バッカアァァァァン! プラカードが真っぷたつに割れた。

 さっきのブザー音はタイムオ・・・・ーバーの・・・・じゃなくて・・・・・―――


「YOUR WIN♪」 どこからともなく、陽気な合成音声が流れた。

 パパパッパパパーッ♪ 正解をたたえるファンファーレが鳴り終わった瞬間。

 自動屋台ディープコピーの横っ腹が、透明の鉄球に押しつぶされたように凹み、ひしゃげた。ぼむん。小爆発のおまけ付き。


 ワルコフの引いたトリガが、リリースしたのはカートリッジが内包した運動エネルギーではなく―――『ばつ』だ。


 ワルコフがクイック撃ちドローした、円盤に『✕』が描かれてる。もちろん裏側には『◯』が描かれてる。円盤は寸足らずショートバレルな拳銃から屹立きつりつしたアームに支えられてる。


 ケーキを平らげ、食い物の無くなった刀風カタナカゼは携帯ゲーム機を持って寄ってきた。


 カシャッ! ワルコフはトリガを緩めて◯✕円盤をニュートラル戻す畳んだ

「それ、◯✕シューターじゃんか!」

 ワルコフの、手の中のオモチャのような拳銃を指さし、詰め寄るイケメン。

 その響き名前には聞き覚えがある。たしか2Dレトロゲーの自機プレイヤー標準装備だった気が。刀風イケメンは慌てて携帯ゲーム機を操作してる。


「嘘っマジか!? 無くなってる! ワルコフてめえ! 俺の『クイズ! ◯✕ガンマン!』喰いやがったな!?」

 わめ筋骨隆々カタナカゼ

 さっき、ワルコフが刀風カタナカゼのゲーム機から引っこ抜いて吸い込んだ喰ったのはソレか。


 ワルコフが2個有るトリガを両方とも引き絞ると、『✕』がブブーーーッと跳ね上がった。トリガの一つは跳ね上げる役で、もう一つは◯を✕に裏返す役っぽい。小さなグリップに縦に並ぶトリガは、決して操作しやすいように見えないが、ワルコフは自在に操ってる。宇宙服の腕周りの不自由さと比べると、指先は器用に動くっぽい。


 ちなみに、現在いまでは、印刷された『◯』を『✕』に瞬間的に変えることも当然可能だ。どのみちAR空間上のアイテムなんだから、自在ではあるのだが、元のゲームが発売された時代の技術や、デザインにあわせて、出来るだけ再現してるっぽい。 VR空間で扱うアイテムと比べると、AR空間内で扱うアイテムの方が、”再現度”を重視してるって、先生も言ってたっけな。

 元ネタがあると、”再現度”にこだわるのは分からなくもねえけど、この場合、元ネタってドット絵だからな~。


 刀風カタナカゼは、携帯ゲーム機の表示板パネルを、俺達の方へ向けて突き出した。

『ライブラリ/テーブルゲーム』という見出し。リスト左端に並ぶゲームアイコン。その中に空いた一個分の空白ブランクと、その列に書かれた文字。

『データがありません。』


「♪~ <(゚ε゚)>」カタタッ 地面にスットボケた顔文字を出すワルコフ。

 パシャコン ブブーッ♪ カシャン

 パシャコン ブブーッ♪ カシャン

 パシャコン ブブーッ♪ カシャン

 小躍りステップしながらふんで、実にタイミング良く、腰溜めで”✕”を3連射するワルコフ。


「……ふざけてやがる。怒って良いぞ刀風カタナカゼ


「フン」

 スカッ。宇宙服の脳天に軽くチョップをくれてやろうとした刀風カタナカゼは、一切の触感を受け無かったらしく、バランスを崩した。


「おっと、やっぱ、データグローブ無ぇと無理か。……笹ちゃんの手前、今回は許してやるが、ちゃんとアーカイブで買って返せよなっ!」

 先生がすぐ後ろで、見てるからってのも有るだろが、寛容なところを見せるイケメン。よろけた制服の校章がまたたき―――


 ズッチャッ♪

刀風カタナカゼ曜次ヨウジの所持するゲームアーカイブの総数は13本である。

 ◯か✕で答えよ。』

 歪んだ筐体にムチ打って、斜めになりながらも、毅然きぜんと、出題する。

 しぶとい。自動ディープ屋台コピーさん、超しぶとい。


 ワルコフは自動ディープ屋台コピーを振り返りもせずに、◯✕シューター向けエイミング―――


 パシャコン ピポォォォォォン♪

 『◯』を提示する撃ち込むワルコフは宇宙服のくせに、アクション俳優っぽくて格好良かった。くそう、ワルコフのくせに。

 コウベも、ワルコフ文字を視る前に、内容を把握したりしてたから、NPC同士で、行う処理を、一瞬で相殺したり出来るんだろか。具体的にどうすんのか、判らねーけど、対プレイヤー人間対策として、”ボスクラス・モンスター”が、そういうのをバンバン使ってくるってスタバのパンフに書いてあった気がする。


 バガシャァン! 自動ディープ屋台コピーの掲げたプラカードが割れる。

「YOUR WIN♪」 どこからともなく、陽気な合成音声が流れた。

 パパパッパパパーッ♪ 正解をたたえるファンファーレが鳴り終わった瞬間。

 自動屋台ディープコピーの天板の、まだ平らな部分が、透明の鉄球に押しつぶされたように何カ所も凹み、全体が、まんべんなく潰れた。


 ヒュゴン。


 自動ディープ屋台コピーから光が漏れる。

 強い光のせいで、影が強く出て、まるで、黒い光が放射されてるみたいだった。


 カカカカカカカカカカッ!


 カタタタタンッ!

 ワルコフが何か文字を地面に打ち込んでたけど、光と影に埋もれて、とても見えなかった。


 ズドドドドドドドドドドドドッドドドッガアァァァァァァァァァァァン!


「うっをわ!」「ぬぁーーっ!」

 俺たちはあわてて、ARメガネを外した。あまりの大音量至近距離のせいで、手に持ってるだけでもズゴゴゴゴゴって、聞こえてくるから、さっさと畳んでスリープ状態にした。


 光と炎と噴煙と、宇宙服ワルコフ確認用サムネコウベが消える。


 かわりに地面に印刷品質の文字が表示されていく。コレはホログラフィー技術を応用した画素表示だから、ARメガネが無くても見れる。


『MISSION COMPLETE:

 Dinner×Venderノ残存DeepCopy = 0

 仮想電子戦闘終了。_』

 びろびろろと表示された文字の、うしろのカーソルが明滅している。


 ―――えっと、「……と、とりあえず飯の続きだ」

 俺はPBCコウベが乗った簡易給仕ロボの、下の段に置かれっぱなしの、とっくに冷めた”地鶏の丸焼き”の皿を慎重に取り出した。

 データ・ウォッチの表示板には、自動ディナー屋台ベンダー稼働中の文字と交互に検出NPCのリストが表示されてる。


 ・DinnerVender<Host>

 ・米沢首<PBC>

 ・Warkov<Remote>


「なあ、ワルコフって、金持ってっかな?」

 フルダイブVR導入期な今、前時代的なレトロゲーは、その扱いは余り良くは無い。だが、扱いに反して、評価・人気が高いから、実は結構高い。

「爆発収まったら、聞いて見よーぜ」

 両手がふさがった俺は、肘で刀風カタナカゼつつく。


 周囲を、ふと見渡す。

 緩衝エリアの帯中央真ん中で、いまだ周囲には誰もなく、俺たち四人と自動ディナー屋台ベンダーPBCコウベの操る簡易ラジ給仕コンロボカートだけだ。緩衝エリア外周側モールド近くに、マクコミデブュールクターは置きっぱなしだ。

 こんな開けた屋外で、鳥の丸焼きの乗った皿を大事に抱えてる。俺一人だったら、相当シュールだったろうな。


 俺のそばまで、笹木姉妹もやってきた。

「あれ? 君ぃ、良いぃの持ってるねぇ」と、姉の方。

「そうね、姉さん、次の料理メニューまで、3分かかるしー」と妹の方。


 舌っ足らずなOLさん然とした妙齢の女性、及び、幼い印象ながらも凛とした現役女子高校生。彼女らは、両手をわきわきさせながら、ジリジリと、にじり寄ってくる。

 ARメガネは外したままだ。俺たちの様子から、今まさにココで大爆発中だと分かったのかもしれない。

 いや、地面のワルコフ文字が、爆発の影響でブロックノイズを出していれば気づくか。爆発の影響を表現してるワルコフの”芸”は、さっき一回見てるし。仮に、実世界で大爆発にさらされても、画素表示は、暗号通信と同じく停電でも起きなきゃ外部からの介入を受けない。大規模な画素演算発生中に、画素不足で鏡面化する事は有るけどな。


 ピッ!

 先生と俺の腕から通知音ノーティス

 再び、禍璃マガリ刀風カタナカゼが俺を睨む。

 俺は皿ごと腕を持ち上げて表示を確認した。


『<自動屋台>からのメッセージが 1件 有ります。』

 なんだ!? 俺は両手がふさがったままなので「音声入力」で「メッセージ確認」し―――。

『緊急事態発生につき、本日の業務を強制終了させていただきます。ご利用まことにありがとうございました。』

 えっ!? 終わり!? なんで? ディナーって名前に付いてるくらいだし、暗くなる位までやってたはず。食材在庫がある限りは、客が途切れるまで営業するのが”自動屋台”の良いとこなのに。まだまだ、食い溜めにはほど遠いぞっ。

 ごつい腕時計に指を伸ばした先生も口をパクパクさせてる。


 ピピピピ!

 警告音アラート。今度は全員のデバイスが鳴ってる。同じ音だが、デバイス環境にって、ちょっとずつズレていくので、ウネリというか不協和音みたいな感じになる。

 今度は、自分たちのウェアラブルデバイスからも同じ警告音アラートが発せられたため、禍璃マガリ刀風カタナカゼいぶしみながらも、手元を確認してる。

 そして、先生含めた全員が困惑の表情で、俺を見る。なんだこの状況?


 ◎ びゅわ

 ◎◎◎ びゅわわっ

 ◎◎◎◎◎◎◎ びゅわわわわわわわっ


 緩衝エリア内を、実験・催事等で広範囲に使用する際に、2重線で囲われる”エリア内占有”表示。俺の周りの地面を次々と、無数の2重丸が覆い尽くしていく。正確な円で描かれ、直径1メートル程度から、大きいのは直径5メートル2トントラックくらいまで。


 何だ何だ何なんだ!?

 再びデータ・ウォッチを見た。今度のは、警告音アラート、つまり自動機マシン械群OSからのワントゥワン通知ノーティスだから、アプリよりも優先されて、自動的に表示されてる。


『自動屋台からのお知らせです。<プレイヤー:鋤灼スキヤキシルシ>を驚異カテゴリ3と認定し、接敵行動に移行します。※この通知が届いた方は、直ちに該当エリアから退避してください。』

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