6:ワルコフ追跡その3

「あれ? ワルさん、どこ行ったーぁ!?」空を見渡す環恩ワオン

「なんか、妙に加速してましたよ、……あれ、あそこの電波塔のちょっと右辺り」

 シルシは寄り添うようにして、指さしている。


「結局、あの、宇宙服NPCが、どうしたの?」コミューターのシートを持ち上げ自分の生徒バッグに脱いだ制服の上着を仕舞っている禍璃マガリ


「そうだな、まだ俺らは、詳しい話を、聞いてねえぜ」

 カラダを細くして、シルシ環恩ワオンの間に割り込む刀風カタナカゼ


「一言で言うとー、鋤灼スキヤキ君がー、コウベちゃんを初期フロアの底から拾ってきてー、コウベちゃんの友達のワルコフさんもー付いて来ちゃってー、”自動屋台”間に合わないっー、て言ったらワルコフさんがー飛び出して行っちゃった。まる。おわり」

 そう言って、環恩ワオンがコミューターのハンドル部分に座る。


シルシが小鳥を掴んだから、ワルコフさんは神!」ドドドドン!

 シルシの顎の下で、牙を見せ、太鼓を天を叩くコウベ。


「……一応、合ってる……か?」難しい顔でコミューターへ向かうシルシ


「小鳥? 神? 聞けば聞くほど分からなくなるわね」

 と環恩ワオンの後ろに座ろうとする禍璃マガリ


「さっぱり分からんが、俺たちはそのワルコフを、止めりゃあイイってのは分かったぜ」

 刀風カタナカゼに、ブラウスの襟を掴んで引っ張り上げられる禍璃マガリ


「なによ、アンタ、さっき姉さんと乗ったじゃない」


「俺と鋤灼スキヤキが、2ケツして、どうやったら”仲むつまじく”見えるんだ!?」

 刀風カタナカゼシルシを交互に見やり、吐き気をこらえる口をしてから「わかったわよ」と渋々、シルシの乗ったコミューターへ大股開きで座る。

 「おまえまた見せてんのか?」


 「見せてないわよっ!」とアクセル全開にする。

 急発進することはなく、とてもスムーズに加速していくコミューター。


 リュルルルウーーーー。唸る超伝導モーター。


 放課直後のこの時間帯では、緩衝エリアに人はおらず、まっすぐ横断出来るので、すぐモールド終点へたどり着く。


 さて運ぶぞと、肩を回す、刀風カタナカゼ

 真ん中を掴んで陣取る、禍璃マガリ


 チッ!

 シルシのデータウォッチが、音で何かを知らせてきた。


 環恩ワオンのゴツい腕時計からも、同じ知らせが発せられた。


 刀風カタナカゼ禍璃マガリは、そろって、シルシの方を、「仲良く鳴った、ソレは何だ!?」という顔で、振り返る。


 シルシ環恩ワオンはそれぞれ、自分のアプリを見る。

 午後3時17分の表示。

 ”自動屋台”出現予定地点変更あり、というアプリの表示。

 ”自動屋台”出現予定時刻変更あり、というアプリの表示。

 次々に表示されていく。


 刀風カタナカゼは、環恩ワオンの肩越しに、妙に鼻息を荒くし、アプリ表示を見ている。


 禍璃マガリは、立ち上がり、シルシの腕をひねって、アプリ表示を見る。


「これワルコフが、なんかやったんじゃ!?」

 緊張した声でシルシ環恩ワオンへすがるような視線を向けた。


「はぁ!? 鋤灼スキヤキ、まさか、宇宙服ワルコフが”自動屋台”にちょっかい出すなんてこと無いわよね?」


「ええ!? 笹ちゃん、まさか、宇宙服ワルコフが、”自動屋台”にちょっかい出すなんて事無えよな?」


「……ワルさん、妙に好戦的な感じするのよねぇ。こう、常にバズーカ持参って言うかぁ……」

 筋骨隆々と童顔ロングは、うつむき、顔面蒼白である。


「もう、”自動屋台”が、設営場所、つまり俺の下宿近くに、着いてても良い頃だ」

 小さい表示面の中の、標的ターゲットマークを押す。


 シルシが操作するのを見て、環恩ワオンもそれに習う。


 ビュカン! キラメくような効果音SEとともに、シルシ環恩ワオンの腕から一点を示す緑色の光線が照射される。

 ARメガネに表示されている、行き先案内機能によると、”自動屋台”は、ここから7メートルの地点に居る事になる。


 指し示されている地点は―――


「あー、ワルコフー! おーい!」

 何!? とシルシの胸の辺りで、指を指しているコウベを振り返る3人。

 シルシは、コウベが指さす先を見上げる。

 ずっと先に行ってしまったはずの宇宙服は、高度を地上1メートルに下げ、なぜかUターンして、こちらへ戻って来ていた。


 ワルコフはもう既に、目と鼻の先にいて、今にも緩衝エリアの外から中へ突入しようとしている。


「ひょっとして、さすがの、ワルコフでも、”自動機械”を相手にするのは、躊躇ためらわれたんじゃないですかね」

 環恩ワオンを見るシルシ


 二人の腕時計から伸びていた光線は、上空を指し示し、弧を描いて、ワルコフのすぐそばの、モールドへ垂直に突き刺さっている。


 ワルコフが、構えのポーズを取る。

 ナックルガード風の手甲が飛び出す。

 又もや何も無い空間を突き破ろうというのか、ワルコフは速度はそのままに、拳を突き出し―――


 ピンポォン!

 ゴォォ!


 ドガッガガガッ!

 ガキュン!


 ワルコフが突き破ろうとした、何もない空間を守るかのように、地面から巨大な爪のような柱が何本も生えた。

 ノイズが無く、現実に存在しているようにしか見えないワル空飛ぶコフ宇宙服は、柱に挟まれ、パリーンという効果音SEとともに粉砕された。


「ワルコフー! ギャーッ!」

 一同は言葉を失い、コウベは悲痛な声を上げている。


 爪のような柱は、柱ではなく爪だった。

 モールドに空いた穴から、せり上がり姿を現していく。

 爪は、平べったい長方形から伸びた3本の腕に繋がっていた。

 樽のような物を、十数個程も背中にくっつけて、あちこちから湯気を立てている。


「子持ちの平蟹みたい」

 緊張感に耐えられなくなったのか、禍璃マガリが言い得て妙なことをつぶやく。


 やがてソレは全身を露わにし、シルシ達のいる緩衝エリアへ、小さなタイヤの付いた足を一歩踏み出す。

 ピーカンの青空のような、アジュール・ブルーに彩色されたその、細長い側面には、

『Dinneディナーr×Vendeベンダーr』と楽しそうなロゴが付いていた。


「これ自動屋台!? 強えぇなっ! 自動屋台!!」

 その場にいた全員が叫んだ。

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