6:ワルコフ追跡
6:ワルコフ追跡その1
「これからぁ、一分一秒を争うぅ、
反応がなかったからだろう。笹木講師は涙目になりながら復唱した。
美人が涙目で訴えているというのに、悲痛さは無い。子供のような声が、ソレを強烈に打ち消しているからだろう。総体として微笑ましい雰囲気の方が勝っている。
「なに作戦って?」
腕組みし、仁王立ちの、ミニスカ制服妹は、童顔の眉毛を吊り上げる。
「失敗したらぁ、先生は学園長直々に怒られますぅ。たぶん」
一体、なにしたの姉さんっ! と桃色事務服の袖にすがりつく童顔少女。
「成功したらぁ、あのー、幻と噂のー……”自動屋台”さんに、有り付けまぁす。お代も先生が、全額持ちまぁす!」
マジカヨ、俺、今日、”自動学食”で、オニギリだけだったから、ラッキー! と早くも乗り気なイケメン。
「
え? 手渡された
そこには入部届が表示されていた。
笹木講師の座席から伸びたケーブルが緑色の小さなフィルム・マットに繋がっている。
午後3時6分の表示。
”自動屋台”出現予定変更なし、というアプリの表示。
交互に表示されている。
それを覗き込む童顔少女と、空間が40センチほど空いて、イケメン。
「なに!? 笹ちゃんと部活だとっ!? 許さんぞ! 俺も入るぜ!」と
「だから
『VR研』の文字の背後にでかいエリンギ、手前に小さな椎茸があしらわれている。
数秒後、古い映像の様に、横縞のノイズを出しながら、制服姿の人影が出現する。
「……ザッ……だよ、シルシー。何かしゃべれよー」
ソノ人物は実物大で、
「ふーっ」
まだ、ワルコフは、それほど遠くないところをドドドドドと飛んでいた。
「先生、アレ何とかするとして、追いつくと思う?」
「大丈夫ーぅ! 力強い味方が出来たものぉ!」
と
「―――さー、行ってちょうだいぃ!」
「ピンポーン♪ 発車イタシマス」
半球タイヤ仕様の~♪ 安心街乗りコミューター♪ で有名な、電動コミューターである。
安全を重視しているため、最高時速は40キロ。それでも歩くよりずっと早い。
ジオフロント敷地内ならどこまででも100円、もしくは900宇宙ドルで利用できる。
目的地入力後、自動作成される
ただし、ルートの直接指定は出来ない。パスすると次のルートか作成される。
基本的に搭乗者は操縦しない。好みで速度をコントロールし、必要に応じて急停止などを行うだけだ。
本来一人乗りだが、男女や、親子の組み合わせなら、何とか2人乗れる。特区条例で、親子や”仲むつまじき恋人同士”の場合において2人乗りが認められている。
ルルルウーーーー。
「俺、もう、死んでも良い!」
「こらぁ、モゾモゾしないのぉ」と環恩。
「ハイすみません」ピシリと微動だにしなくなる刀風。
ル・ル・ル。
「何ですって!? 姉さんにモゾモゾするなんて、このアタシが許さないわよっ!」
「威勢はいいけど、もう少し急がないと、引き離されるよ」
「わかってるわよ!」
乗り捨て電動コミューター、『マクデブルク』は、大きめの平イスにハンドルが着いた様な乗り物である。名前の由来は有名な真空実験、『マクデブルクの半球』からで、単に『半球』つながりである。
がに股になるので、女性は、特にスカートの女性はとても嫌がるものだが、
学校横の、コミューター乗り場で、「姉さんと一緒に乗れないなら、せめてアタシが運転するわ」と譲らず、さっさとマクデブルクに跨がってハンドルを掴んでしまったのだ―――
「ちょっと、変な物押しつけないでよっ!」
「え!? これ、コウベが……NPCが入ったヨーグルト瓶―――」
小型のヨーグルト瓶のような装置だ。
連れて歩けるようにと、首から下げられるストラップを付けて貰ったのだが、
紐が長すぎて、へその下くらいまで落ちてしまっている。
あわてて紐を調節する
「何よこれ、うっとーしーんだけど―――」
びゅわ。禍璃の顔の横に、
「うっとーしとは、何よ!」
コウベは背伸びして、耳たぶをかじろうとしている。
「また元の確認サイズに戻ったな」
「あ、
コウベは
うるっさい! 禍璃が抗議の意を示す。
「コウベ、その太鼓の音、何なんだ? うるさいぞ」
「これは、衝撃波じゃん」とバカなの?
「……えっとコウベだっけ? アンタ……自由ねー」
顔の横でバタバタされるのを、ウザがってはいるが、印象は悪くないらしい。
「そういう……マガリも……」コウベが言いよどみ、マガリの制服に刺繍された校章が一回だけ明滅する。相対的に巨大な姿を、特に胸のあたりの断崖絶壁を、眺め見てからひと言。
「……体型が、
マガリは瓶をひっつかんで投げようとしている。
「あぶねー倒れるっ」
2人と1体は同時に上方を見る体勢になった。
「「「あ」」」
「キャーッ! ワルコフさぁーん!」ドンドカンドドドドン!
上空50メートルほどを、陽光をきらきらと受け、宇宙服が飛んでいく。全くノイズが無いので、映画か、ゲームのワンシーンかと錯覚する。
「オマエ、それウルセエぞ。謎衝撃波は止めらんねーのか?」
「何言ってんの!? 熱い思いは止められるわけ無いじゃん!」バカじゃん。シルシはバカじゃん。とすぐ目と鼻の下から、こちらを見上げるコウベ。
「仲良いのね~」ウルルルルルル!
大股を開いて、一人乗りで、ウルルルルと超伝導モーター音をたて、横を付いてきた
「それ、見せてんのか?」ハンドルに制服のスカートが引っかかってる辺りを指さす。
「んなっ! 見せてないわよっ!」片手でスカートを押さえる
「
先行していた、環恩・刀風チームが、路地の一角で停止している。
「どうしたの、姉さん?」「どうしたんですか?」
「この段差越えるのに3人いや、やっぱり4人必要なのよねぇ」
環恩は路地と先に続いている細い路地との境目を指さした。
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