5:VRE研究部発足
5:VRE研究部発足その1
ザクザクザク。
コウベは、銀色に光るナイフで、自分の座る焦げ茶色の表面を、切り取っていく。
「凄くおいしそうね」ダラリ
「そうですね」ダラリ
二人とも出ていない
「フロアの底で、かじった、謎エリンギは、全く味しませんでしたけど、こう目の前で、旨そうにパクつかれると」
「
気の毒そうな顔を向ける講師。
あれ? 何かまずかったですか? とうろたえる
「そんなことより、”自動学食”に備えて朝は、コーヒーだけで済ましたから、もうだめ。お腹空いた」
「そんなことよりって、まあ、いいですけど、俺も、朝、バナナ一本だけなんで、もう無理です」
すでに午後2時半を大きく回っている。”自動学食”に有り付くつもりで、二人とも朝から食べていない様だ。自動学食の日は生徒はおろか教職員の大多数も、朝食抜きで来るというアンケート結果が購買部横の掲示板に表示されている程だ。
「先生、もう学校出ないと、”自動屋台”に絶対に間に合わないですけど、どうしますか?」
グゥーーーーー!
「……ワルコフさんの、
グキュルルーー! 片手で腹を押さえ、もう片方の手で魔女帽子の頭を押さえる。
ぐぐぐぐーーー!
「あのう、ワルコフさん? アナタについて技術的な興味が有ります。ちょっと時間がないので、率直に聞いてもいいですか?」
■ハイ、何デショウカ? ナンナリt_
直立不動だった宇宙服が機敏な動きで、モミ手をし、首をわずかに傾ける。
「あなたは、プレイヤーではなく、NPCでもないみたいだけど、一体何なのかしらっ?」
笹木講師は、目の前の宇宙服へ指を突きつけた。
人間、空腹には勝てない。もはや一刻の猶予もなく事態を収拾し、一目散に”自動屋台”出没予測地点へ
■イイエ、私ハ、NPCデス。
先ほどまでよりも、かなり早いタイピングで、即答してきた。
「
と笑みがこぼれる。公表されてない、未発見のナンバリング・NPC。
正式稼働には至らなかったモノの、”初期フロア”のみ成らず、スターバラッド内部でもその存在が目撃されていた。
βナンバー終息後、公式なNPCとして開発された、ゲーム内を自由に行動できるワンダリングNPCとしての、
「あらでも、さっき、ポイントしたのに、何も表示されなかったわよ!?」
■ソレハ、息ヲ止メテイタカラデス_ カチャラララッ!
「息を止める?」
そんな機能有ったっけ? とブツクサ言いながら、すーっと息を吸い込み、笹木講師は、自分の頭の上をしきりに指さす。
腕を水平に保ち見やすくすることに専念していた
「あ、待って下さい」
「ほんとだ! HUD表示、出ませんよ!」
すはぁ! と笹木講師が大きく息をすう。
「へー! 知らなかったわね、トポロジック・エンジンの、こんな機能。というかダイブ中に息を止めるなんて、必要ないから絶対にしないものね」
「そう言えば最初に、コウベと有ったときも、HUD出ませんでしたよ」
「あら。じゃあ、NPCはソレを知っていて、意図的に
■ハイ、
■奇襲イベントヤ、プレイヤーニ知ラセル必要ガナイ、単ナル移動中ナドハ、息ヲ止メテイルコトモ多イデス_
「それは初耳だわ」
音声入力、ボイスメモ、VRカテゴリ、息止めでHUD消える、NPCは日常的にソレを使う。先生はボイスメモをせっせと取っている。
「それで、何で、オマエ、”処理落ち”? なんかしてたの?」
■先ホドモ、申シマシタトオリ、最古参ノ、NPCトモ成ルト、稼働時間ガ膨大ニナリ、必要ノナイ
■ソノタメ、定期的ニ、スリープ状態ニ入リ、リソースノスベテヲ使イ、全ソースノ精査ヲ、全力デ行ワナケレバ成リマセン_
「夢をみて重要な記憶を定着させたりとか、デフラグみたいなものか」
■ソノ両方デス。ワルコフデータベースに、入力サレタデータハ、”
「ふーん。でもオマエ、こんな人通りのある、”初期フロア”の、ど真ん中で、そんな、無防備な事してて平気なの?」
現に、笹木講師にちょっかいをかけられている訳で、
■ハイ、本日ハ、”
「そっか。俺たちも、本当なら”自動学食”行ってたからなー」
「そうねー」
とボイスメモを取り続けていた、笹木講師は、ゴツい腕時計に表示された時刻を確認し、
「あー、もうダメねー! 流石に、今からじゃ、間に合わないわー」
と両手をついてガックリとうなだれた。
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