2:ハラペコ学園
2:ハラペコ学園その1
すぽん。ガシャリ。
薄暗い教室内、すり鉢状に並んだ座席中央の最後列。
桃色の事務服の女性が、メガネに付いたLEDで座席を照らす。座席番号を確認し、生徒の頭からVRデバイスを、
フルダイブ型VRデバイスと言っても、脳へのアクセスはあくまで脳波への同調干渉のみで、外科手術や、大がかりな機材は必要ない。
女性の顔の脇で光るLEDは、B級映画のクリーチャー”
「っわわわわわわわわわわ」
薄暗い教室に、VRデバイスを引っこ抜かれた少年の声が響く。
落ちる夢から覚めたみたいに、チョット飛びあがった後、しきりに地面の有無を確認している。
「どうかしましたかぁ?」
悪夢の処刑人は、子供のような声で訊ねる。
備品の最新型VRヘッドセットの
その5センチほどの真っ白い
「あら?
女性が軽く腕を持ち上げ、「音声入力」「照明オン」「鏡面化強制解消」と虚空へ宣言する。一瞬の後、室内が白色光で満たされ、薄暗かった窓の外が、鮮やかな風景を取り戻した。メガネのLEDも目立たなくなり、悪夢の処刑人は姿を消す。
壇上に飾ってある、ネコミミ美少女フィギュアの持つプラカードによると、此処は『
事務服の彼女は特別講師の
「はっ!? コウベー!? エリンギがぁ!?」
肩まで伸びたボサ髪を振り回して、
不可解な言葉を発っする。
「え? コウベ牛とエリンギのソテー!?」と、特別講師は聞き間違え、眼の色を変えた。
どこだどこだ!? と周囲の生徒たちまで、一斉に、
我に返った
「なんだよー。学食出たのかと思ったぜー」
「私なんて、今日は朝から抜いて来んだからね」
「まったく、名字まで美味しそうって、どういうコト!」
生徒たちは、口々に批難しつつ、戻っていく。
悪ぃ、すまんと、片手をあげて周囲に
「今のは君が悪いよー。なんたって今日は、”自動学食”の日だからねぇ」
自動学食というのは、学園と公園の敷地内に現れる、神出鬼没の
「あの、先生! もう一回ダイブさせてくれませんか!?」
「えっ!? えーっ! 今日はもう、先生、店じまいだしぃ、自動学食さん、そろそろ出そうだって、出没予測出ちゃってるしぃ・・・・・・」
細い手首には不釣り合いなゴツい腕時計には、30分以内に98%の確率で公園東に出没するとの予測が表示されている。
「”自動学食”よりも、使用食材が数段高価な、”自動屋台”のアプリと引き替えではどうですか!?」
気のせいか、見方によっては多少イケメンに見える。
「どこでそんなお宝レアアプリをーーーじゃなかった! 先生は、そんな賄賂には屈しませんよぉ。屈しませんからねぇ」
なぜか顔を赤らめ視線を逸らしながら、年上ぶった子供のような口調で
自動学食、自動屋台、共に、備蓄食材を廃棄前に調理し、原価提供してくれる学生には有り難いシステム。場所・時刻未定な上に、”
「”自動学食”出たってよ!」
「公園南東噴水の近くで、設営始まってるってさー!」
うをををををををっ!
ズドドドドドドドドドドドド!
地響きをたてて、広い教室が、二人を残して空になった。
何しろ、自動学食はそれ自体が、早い者勝ちのところが有る。
メニューがランダムなのに、早い者勝ちとは矛盾しているようだが、ソレには訳がある。
自動学食は、食材分量は大漁に有るので、食にありつけないと言う事は無い。
無いのだが、大人気メニューを作るための食材が切れてしまったら、それ以降、そのメニューは出ないからだ。そのため、まずは即座に現場待機できなければ、お目当ての大人気メニューにありつくことは、難しくなる。
その上、ランダムの名は伊達では無く、先着順で良いモノが重点的に食せる訳では無い。工程数の多い料理は、人気のあるメニューであることが多く、工程数の多い料理は、ある程度、実際の調理工程を経て、食材運用指針が算出されてからで無いと、
メニュー候補にすら挙がってこないからだ。
メニュー候補とは、件の、自動学食アプリの、第二フェイズで使える機能である。
自動学食の現在の調理工程から、次に出て来る、2~8種類のメニューを予測。
その提供順の確率変動を、メニュー候補同士のレース形式で見ることが出来る。
定番大人気メニューと、超格安の目玉メニューの、一騎打ちの場合には、一対一の格闘勝負が繰り広げられ、その勝負自体が、賭になる。
現場配布の整理券を、BETし、勝てば優先的に勝ったメニューを実際に食せるというわけだ。
人気は有る物の、これらすべてを面倒くさく思う層も、存在しており、それらに対応するためにも、自動食堂アプリは利用されている。
なお、自動食堂アプリの開発者は、「VR拡張遊技特区立ターミナル学園β」の卒業生と言う事しかわかっていない。
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