どうしようもないくらいの青空の下で
伊坂琴音は、前田雄一が嫌いだ。
四月の青空。揺れる黄色いミモザの花。昇降口の掲示板に貼り出された白い紙には自分たちの名前。
高校三年生、最後のクラス分けも、結局アイツと同じになった。
「オッス。また同じだな。よろしく」
クラス分けを確認して、掲示板から少し離れたミモザの傍にいたら、一番聞きたくない声に挨拶をされた。
「ほぼ同じ選択科目で志望コースも同じなんだから当たり前でしょ」
雄一の挨拶に琴音は応える。
「ホントお前は可愛げがねーな。『三年間も同じクラスで嬉しいわ。運命を感じるわ』ぐらい言えないのかよ」
「オナジクラスデウレシイワ。クサレエンヲカンジルワ」
「お前、ホント素直じゃねーな」
呆れ顔しつつ、笑いかけないでよ、バカ。
「おっはよー。ことねー、三年生も同じクラスだよ。嬉しい!」
いきなり後ろから抱きつかれて、琴音は内心溜め息をつく。
「皆一緒とか運命だよねっ」
「ユカ、私も嬉しいわ」
溜め息はでるけどこれも本音だ。運命云々は信じないけれど。高校に入って一番の親友になったユカが大好きなことに嘘偽りはない。
「態度が違い過ぎやしないか…」
「ハイハイ」
態度が違うのはどこのどいつだバカヤロウ。
バレンタインチョコレートを渡した翌々日の月曜日に、ユカと恥ずかしそうに手を繋いで登校してきた時にはぶっ殺してやろうかと思った。ホワイトディのお返しにと、母親が選んできたらしいクッキーを律儀に持ってきた時には投げ返してやろうかと思った。春休みの間中、呑気に『一緒に遊びに行こうよ』と誘って来る二人は、有名進学塾の特別講座の空きを無理矢理見つけてやり過ごした。
二月のあの日から、琴音はずっと考えている。ねぇ。なんでユカのは本命チョコで、私のは義理チョコになったの?
「三年生もいっぱい遊ぼうね」
「受験生が遊んでどうするの」
「でも琴音、春休みも全然相手してくれなかったじゃん」
素直で可愛くて甘え上手で優しくて…こんな女の子を、男の子は好きなのだ。男の子なんて、バカで単純で、どうしようもない生き物なんだから。可愛げがない、素直じゃない、と言われ続ける琴音がユカに敵うわけがない。琴音だってバカで単純に、ユカが大好きなのだから。
「お前は成績は問題ないんだから、根詰める方が心配だよな」
お願い。優しい言葉はかけないで。
私はバカで単純だから、諦められなくなる。
ふと見上げた青空が、琴音に刺さってきた。
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