ハジマリの町へ
「やばっ」
年度末だというのに二連休が貰えたので少し気分が浮き立っていた時に、碧はその葉書を見つけて青くなった。
仕事は不規則の上忙しい。食事は外食続きだし、家にはお風呂と寝に帰っている様なもの。部屋の掃除は休みの日に何とかしようと思っていた。そんな中で、埋もれていた葉書を発見したのだ。
それは、碧が卒業した中学校が今年の卒業生を最後に廃校になるので、卒業十年の節目も兼ねて同窓会をしようという案内だった。
無理。こんなに忙しいのに行けるわけがない。この御時世、廃校だって珍しいことじゃないし欠席だわ、と貰った時にはすぐ返信をしようと思っていたのだ。思っていたのに。今発見した往復葉書の日付は明日を示しているのである。返信が届かない時点で欠席扱いとなっているだろうが、いくら何でも大人としてあり得ない。何とか連絡方法がないかと、碧はその葉書を見返してみる。幹事は伊藤咲希。そして、碧は本来なら自分が返信内容を書く場所に、その文字を見つけた。
『タイムマシン埋めた五人は全員出席でーす。確定なので異議は認めませーん』
ご丁寧に、碧の返信欄にはすでに出席の方に印しがつけてある。
「タイムマシンじゃないし!」
タイムカプセルだ、私達が卒業式の日に埋めたのは! と碧は突っ込む。幹事とかを引き受けるしっかり者に見える癖に、サキはこういうボケをやらかす子だった。サキに碧に結子。それから敦士にタイ。中学時代、馬鹿やっては怒られて、無茶やってはその二倍褒められた五人組。卒業式の日には、ベタに桜の木の根元に『将来の夢』なんてものを書いて埋めた。
帰れないよサキ…と碧は思う。十年経って、卒業式の日に埋めた夢が叶ってここにいるはずなのに。
夢だった仕事が、東京に居るためだけの言い訳になっている。夢の端っこで、ぶらさがって落ちないようにするだけで精一杯で。こんなので帰れるわけがない。だから、私は帰らない。
寝過ごすところだった。列車の最後の乗り継ぎで、碧は眠りこんでしまっていた。車内アナウンスが、碧の生まれ育った町の名前を告げている。
仕方がないじゃん、と碧は思う。だってあいつらは、私が帰らないと他人のはおろか自分達の分のタイムカプセルも開けない。そんな奴らだって碧は知っている。
サキ、タイムマシンの件は思いっきり突っ込んでやるからね。
返信忘れは棚上げさせてもらおう。
何せ、決定事項なんだから。
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