コーラ

 バスルームから出ると、しなやかな肢体の少女がベッドの上で歌を口ずさんでいた。

「よく、そんな古い歌知ってるな」

「え?」

 整った顔立ちの少女が不思議そうな顔をする。

「ああ、カバーか」

 自分がこの少女の年だった頃に流行していた曲。急に、からかうように少女が軽やかに歌い始める。

「センセ。オジサンの顔してる」

「実際そうだ」

 窓も閉め切られ、内装だけを豪華に見せかけた部屋の中で。先生と呼ばれる自分が、教え子と呼ぶべき少女と全裸に近い姿でいる。


「何か飲むか」

「コーラ」

 シャワーを浴びても少女はバスローブを身に着けない。ラブホテルが気に入らないのではなく、他人が身に着けていたものを嫌がるのだ。それに気づいてからは『風邪をひくぞ』とだけ呟いて無理強いしないことにした。

 備え付けの冷蔵庫からコーラを取り出す。少女に渡してやると、冷えたそれに気持ちよさそうに頬をつける。車なので自分もコーラを選んだ。


 少女とは、月に一、二度こんな時間を過ごす。その制服を纏うだけで誰もが納得する、所謂『名門校』と呼ばれる学校。その生徒の中でも際立った存在の少女とセックスして、ベッドでコーラを飲む時間。

「冷たくて気持ちいい。センセみたい」

 これは恋でもない。同情でもない。ただその頬を寄せてきたので、何となく抱いた。少女も何となく頬を寄せてきたのだろう。

「センセ」

 呼ばれて口づけを交わす。間近で見る少女の顔は可憐で、美しく整っている。こんな子供に整形手術をさせる親。外見も成績も『際立っている事』を要求され続けた不思議な生き物が、自分と唾液を混ぜている。

「私、センセ好きよ」

「そうか」

「だって、私になんの期待もしないもの」

 期待され憧れられる事に疲れることはないのだろう。飽きているのとも違うのだろう。息抜きとも、気まぐれとも違う。それらが判るだけで、本当のところは何も判らないし、判る必要もない。

 口づける。胸をまさぐる。シャワーはもう一度浴びさせればいいかと思う。

「気持ちいいことするの嬉しい」

 見透かされているわけでなくそういう関係なのだ。どれだけ同じ歌でも、耳に届くものは同じにはなりえない様に。

「ああ、でも私の前でタバコ吸わないところは本当に好きよ」

「お前が嫌がることをする理由もない」

 そう告げて髪を撫でると、少女は嬉しそうに目を細める。少女が飲まなかったコーラはベッドに投げ出された。

 そのまま温くなればいい。

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