コイハシガチ
「こんにちは先輩。N公園の向日葵が見頃だそうですよ」
高校生男子。色々と悩みはあるが、今一番の悩みは男だけで『彼女欲しいなー』とファーストフード店で馬鹿騒ぎをしているこの状況。馬鹿騒ぎだけど切実で、だがもし彼女が出来るなら、相手は『彼女』だったらいいなと僕は思っていた。
『彼女』は美術部に今年入部してきた後輩で、実質マンガ研究部と化している中で、水彩画スケッチを好きだという共通点が僕とはあった。『先輩、今日は紫陽花描いてみたんです』と僕に感想を求めてきたり、スケッチをするのに良さそうな場所を教えてくれたり。週一回の部活の日も、強制参加でもないのに部室に顔を出していたのは、彼女と少しでも話がしたかったからだ。だから帰りのバス停で二人きりになった時、うっかり告白なんてしてしまったのだ。
「すみません。先輩、私このバスに乗るので」
そう言ってバスに彼女が飛び乗ってしまったのを、呆然と見送ったのはうっかりではすまないけれど。
彼女のクラスまで尋ねに行く勇気もなく、友達に相談すれば『それはフラれたんだろう』と言われ、いやもしかしたら考えてくれているのかもしれないと一縷の望みを持ってみたり。或いは、このまま顔を合わさず夏休みに入ってしまえば無かった事にしてもらえるのではないかと最低の考えまで浮かんできて、僕の一週間は過ぎてしまった。いや、それでも返事を貰わないと。このまま夏休みなんて腐ってしまう。僕にもそれくらいの勇気はあったので、足取り重く部室に向かった。
部室には彼女しかいなかった。
「こんにちは。先輩」
「あぁ…」
だが、どう話を切り出したらいいのか判らない。
「あの、この前はすみませんでした」
先に彼女に謝らせてしまった。情けない。
「それでその…先輩は私の事本当に好きなんですか」
いきなりの質問に僕は驚いた。好きだから告白したのだ。だが、続く彼女の言葉に僕はさらに驚くことになった。
「だって先輩、私がどれだけ話を持っていっても、一緒にスケッチしに行こうとか誘ってくれなかったし…」
あれはそういう意味だったのか…と思い、彼女をよく観察してみると彼女の頬は小さく膨れていた。僕なりに必死に考えて『週末に向日葵をスケッチしに行こう』と誘ってみても、彼女の頬は膨らんだままでどうしたらいいのか判らない。
「ねぇ先輩、もう一度ちゃんと好きって言ってください。そしたら拗ねるのやめてあげます」
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