最終章 リリトの一生 命の意味・前編
最終章
『語り』
私はリリトであってリリトじゃない。リリトの残りカスなんだ。卑屈すぎるって? だって仕方がないじゃん。昔のリリトを知っている人達は高貴だったとか、聖母だったとか言うんだもん。
なんていうか、出来のいい姉と比べられている気分なのさ。
でもね? 少しだけそうやって昔のリリトの事を褒められるのが自慢だったりするんだよ? ゼッハが大好きだったリリトだもん。
記憶も気持ちも何もかも持って行っちゃったリリト、私と言うもう一人のリリトを作ったリリト。私には感謝と謝罪の気持ちしかないよ。貴女がいなくなってしまって、私が生まれてきてごめんなさい。
可憐なブラックボックスと呼ばれているのが私、人権とかの関係で私を調べる事をゼッハがさせないんだってさ。ゼッハは私を甘やかしすぎる。きっと昔のリリトがゼッハにそうしたようにね。私はゼッハの優しい声と笑顔の為に生きてるから、いつ止まらぬともわからない壊れかけの機械みたいに……自分で自分のスイッチを切る事が出来るあのロボットが少し羨ましいなって思う。
それなのに私を緩やかに終わらせるくれる事はないみたいだな。
何の因果だろう。
日本からドイツに持ち込まれた『第三帝国の遺産』、それは再びドイツから日本に戻ってきた。
これは運命だったのかな?
私は数々の願いや夢、祈り、命をその身に帯びている。人を生み出す魔道を起こなったこの国が私の母なのかもしれない。
だったらさ、つべこべ言ってないでこんな遠まわしな事をせずに私を呼べばよかったじゃんかよ!
亡霊の国。
この国はいい国だ。私は大好きだよ。もう誰もあんな過ちは繰り返さない。それだけじゃ足りないなら、呪いという名の錬金術で作られた私を依代に鎮めればいい。
一緒に終わってやっからさ。
もう
★
『現在・日本』
木崎ゆか宅でリリトは浴衣の着付けをしてもらっていた。
「リリトさん、スタイルよくていいわねぇ」
ゆかの母親はゆかの古い浴衣をリリトの着せながら言った。
それにリリトは頭をかく。
「ゆかのママありがとう」
向日葵柄の浴衣に身を包んだリリトはゆかやクラスメイトと共に神社へと向かう。
「リリトと伊万里くんって従兄弟なんだよね?」
リリトはゼッハと陸緒が遠縁だとは聞いていたので頷いた。
「伊万里くんってさリリトのお兄ちゃんみたいだよね」
「あー、分かる」
そんなクラスメイトの会話にリリトは少し怒る。
「わ、私がお姉さんだ」
ムキになるリリトに可愛いと頭を撫でる。
神社に向かう間にぞろぞろと他のクラスメイト達が集まって来る。その中には小倉の姿もありリリトに手を振られて微笑む。
しかしその中に陸緒の姿は見えない。
「陸緒は?」
クラスメイト達は分からないと言った風に首を横に振る。
「トイレかな? 携帯あるし先にお祭り行こうよ」
そう言うクラスメイト達にペコりとリリトは頭を下げて言った。
「私は陸緒を探してから参加するよ。一度家に行ってみる」
クラスメトに手を振るとリリトは走った。
陸緒の家に行くがもう既に家を出たと陸緒の母親が言う。
念のために陸緒の匂いを探ってみるが分からない。
飛び出したものの陸緒の携帯に電話をしてみた。
圏外。
「陸緒何処にいるんだよぉ」
弱音を吐いたリリトの携帯が振動する。
そこには陸緒という名前が見えた。
すぐに電話に出るリリト。
「陸緒今どこ?」
「よぉ、ゴーレム」
リリトの背筋に寒気が走る。
「お前、何で陸緒の携帯持ってるんだよ! 陸緒に何もしてないだろうな!」
「五月蠅い犬だなお前は」
話している相手の声をリリトは何処かで聞いた事があった。
「お前あの時の……」
「あぁそうだ。裏山近くの工事現場にきな! そこで殺してやる」
浴衣を着ている為武器という武器を何もリリトは持っていない。それでも歯を食いしばり全速力で走った。
車なんかよりも速い。
鉄骨でマンションの外観だけが出来上がったようなそこに黒いバイクが停まっている。
「あいつだ」
工事現場に入るが陸緒の姿は見えない。
「何処だぁ! 何処にいる?」
ズドン!
大きな音と共にリリトの前にバイクに乗っていた人物が降りてきた。
「よぉゴーレム、待ってたぜ。俺はガルム、駄犬を喰い殺す狼だ」
「ガルム、陸緒は何処だ!」
ガルムは指を空に向ける。
空に視線を向けると陸緒が高い鉄骨に縛り付けられていた。
「陸緒っ!」
ガルムはリリトを思いっきり殴る。
「行かせると思うか?」
殴られたリリトはガルムを睨み付ける。
髪に白いメッシュが入る。
「そうだ。使え。ワルキューレの力をな」
リリトは構えるとガルムに必殺の一撃を放つ。
「パンツァーファースト」
ガルムはリリトの必殺攻撃に自分の拳を重ねた。そして力任せにリリトを押し切る。リリトは後ろにふっとび鉄骨の柱に激突した。
「ぐっ……」
「どうだい? 炭素繊維と合金の身体、お前が殺してきた姉様達のデータが全て詰まった俺の力、ワーゲンという天才科学者が生み出した俺こそが最強の生物なんだ」
柱にもたれてぐったりとするリリトに突進しその頭を殴る。
「あぁっ!」
「死ね死ね死ねぇ!」
「が……るむ」
ガルムの攻撃が止む。
「何だ? 死ぬ前に何か言いたいのか?」
「頼む。りくお、にがして……やっ」
ガルムの重い一撃がリリトを撃った。
「ダメだ。お前を殺せばあいつも殺す」
リリトはガルムの拳を掴むと立ち上がった。
「どうしてお前達はいつも私達から何かを奪う?」
「なんだと?」
リリトは涙を流して叫んだ。
「お前達ワーゲンの作った刺客がこなければナナ……ゼッハはもっとリリトに甘える事ができたんだ。たまに見せる寂しい表情をしなくて済んだんだ! お前のせいで、お前達のせいでぇ!」
リリトの怪我が瞬時に治る。
そしてガルムの目の前にまで移動するとガルムの顔に一撃を入れた。
「また私から何かを奪おうとするのなら、私はガルムお前を殺す!」
ガルムは口の血を拭うと嗤った。
「そうだ。本気でこい。俺もとっておきを見せてやる」
ガルムはボディスーツを脱ぎ捨てる。
タンクトップと短いパンツ姿になったガルムは顔を歪める。
両腕から鎌のような刃物が飛び出る。
「いくぜ」
リリトに向けてそれを振りかぶるガルム、それをリリトがよけると鎌は鉄骨を割いた。バターやチーズを切るように鉄骨が折れる。
リリトの身体を切り裂くには十分な武器。
ガルムは致命の一撃を与える為に距離を測る。
「ケーニッヒ・ティガー!」
「目くらましか?」
リリトは地面に拳を叩きつけて砂を舞わせる。それに合わせて上空に飛んだ。陸緒がいる所にまで一直線に飛ぶ。
「陸緒っ!」
「リリト」
陸緒を縛っている鎖を簡単に壊すと陸緒を抱えて地面に降りる。
「ゴーレムぅ!」
ガルムがリリトに向けて鎌を向ける。リリトは自分の腕でそれを受け止めるとガルムの顔に一撃を決めた。
「ティガー・ツヴァイ!」
ガルムは後方に吹っ飛びリリトの腕は身体から別れを告げた。
黄色い浴衣が赤く染まる。
「リリト腕が……!」
「陸緒はやく逃げて、私は大丈夫だから」
「でも」
陸緒の頭に手を置くとリリトは顔を横に振った。
「ごめん、守りながらじゃガルムを倒せない。だから行って!」
歯を食いしばると陸緒は走った。
「絶対に夏祭り来てよ!」
「あぁ、約束する」
リリトは起き上がるガルムに向かって叫んだ。
「これ以上私の大切な物を壊させやしないぞぉ!」
地面に落ちている自分の腕を拾うとそれをくっつける。
「ふん、ワルキューレの力は健在か」
ガルムは伸びをすると関節を鳴らした。
「昔お前はシュベルトライテ、レギンレイヴ、ブリュンヒルデのワルキューレを殺したんだよな?」
リリトはゼッハから聞いた昔話を思い出す。
「昔の私が殺したのはブリュンヒルデだけだ」
「俺はそのブリュンヒルデをベースにレギンレイブの身体とシュベルトライテの剣をその身に宿す。そして忌々しいゴーレム、お前の血もだ。この顔がお前の顔だと知った時の屈辱と絶望忘れない。お前を殺す事で俺はオンリーワンになる。俺は
突進するガルムにリリトも合わせた。
「お前も私も所詮は兵器の技術だ。ワルキューレになんかなれるもんか!」
「うるさい! うるさい! うるさいぁい!」
ガルムがめちゃくちゃに腕を振り回すのでリリトがそれをよけると鉄骨の柱に深い傷を作る。
リリトは身を低くしてガルムに突進した。
「くらぇ!」
ガルムの鎌を避けると腹部に掌底突き、続けざまに顎を蹴り上げた。
「ぐっ……」
ガルムの身体が浮かび上がる瞬間にリリトは身体を捻ってソバットを入れる。
「コンビネーションだ!」
ガルム自身が傷つけた柱に激突し、柱を破壊してガルムは止まった。
リリトはガルムが起き上がる前に追い打ちをかける。
「私はこんな戦いはしたくないけど、お前はこのままには出来ない」
倒れているガルムに手加減無しのパンチを叩き込んだ。
月の光も見えない工事現場、ここはとても寂しい場所だった。
こんな事にならなければ自分は今頃はクラスメイトと共に何かを食べながら笑っていたのかと思った。
クスクスと笑ってしまう。
(私はどれだけ願っても人間にはなれないのに)
明かりのない空間内で自分以外のもう一人、ガルムがむくりと起き上がるのを見た。
その人物は自分に激しい怒りと憎悪を持ち挑んでくる。
そして……多分今の自分ではそれには敵わないという事も薄々感じていた。
「少しはきいたぜゴーレム、でもそれがお前の全力なんだな? ならもういいや。もうお前死ねよ? 殺してやっからさ」
ガルムの髪の色が白く染まって行く。
(……くる)
なんとかリリトはガルムの動きを眼で捕らえる事ができた……が、身体が反応出来ない。右、左、段々と眼でも追えなくなる。
リリトの反応を越えた所からのガルムの攻撃。
「おら、これで終わりだ」
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