第5話 真夏の銃剣

その1


 補習 → 部活 → 家の手伝い → 勉強 → 風呂入って寝る → 補習 → 部活 → 家の手伝い → 勉強 → 風呂入って寝る・・・・・

といった感じの夏休みをしばらく過ごしていた。学校の屋上の‘コンクリートの砂浜’の上をみんなで歩いた以外、特に変わったことも無い日々の中、ようやくイベントの日がやってきた。

 8月の頭、第二次大戦の終盤、鷹井市の空襲のあった日。その時亡くなった方々への鎮魂の意味も込めた花火大会の日になった。

 昨年と同様、日向家で晩御飯を頂き、5人組+耕太郎で花火を観に行く。女子3人はさつきちゃんのお母さんの指導で晩御飯の準備をし、男子2人は手土産を持って夕方頃にのそのそと行き、女子3人は花火が終わった後は日向家でお泊り会、という内容だ。

 昨年と違うのは、さつきちゃんのおばあちゃんがもういない、ということだ。

 それともう一つ違うこと。

 それは、自転車ではなく、市電で花火大会の会場に向かうことだ。

 理由は、今年は女子3人が浴衣を着るから。浴衣では自転車に乗れない。

 去年は、‘あまり服装にはこだわりがないから’というようなニュアンスで3人ともごく普通の服装だった。けれども、夏休み前、さつきちゃんが家庭科部で浴衣を仕立てる実習を行ったのだ。週二回しか部活に出られないさつきちゃんは大半の作業は家でやった。脇坂さんと遠藤さんも、

「せっかく、ひなちゃんが頑張って浴衣を作ったんだから、皆で浴衣で行こう!」

と合わせてくれたのだ。とはいっても、脇坂さんも遠藤さんも浴衣を持っていないので、さつきちゃんのお母さんの浴衣と、さつきちゃんの従姉の千夏さんの浴衣をそれぞれ借りたのだ。

 晩御飯を食べ終わってから女子3人はさつきちゃんのお母さんに着付けを手伝って貰い、着替えた。

 3人とも、とても似合っている。

 僕は、さつきちゃんの浴衣の柄を見て、あっ、と思った。

 白地に、濃いブルーの花が一輪ずつあしらわれたとても爽やかな柄だ。

 その濃いブルーの花は、僕が誕生日にあげたガラス玉のアクセサリーの中に描き出された青い花にとてもよく似ていた。

 僕がさつきちゃんの浴衣をじっと見つめているのに気が付いたのか、さつきちゃんは、‘ばれたか’みたいな感じの、めずらしくおどけた表情で、ふふっ、と笑った。


その2


 花火は去年と同じくらいの時間に終わった。

 神社にお参りした後、僕たちはぞろぞろと続く混雑の中、停車場にやってきた市電に乗り込もうとしていた。

 ああ、鷹井市にもこんなにたくさん人がいたんだなあ、とぼんやりと車内がほぼ満員になっている様子を見ながら、僕はしんがりを勤める。僕の目の前にはブルーの花が散りばめられた浴衣を着たさつきちゃんの背中がある。さつきちゃんはドアのステップに足をかけ、車内に入ろうとしているところだった。僕も、ようやく乗り込める、と思っていたのだけれど、

‘ぐっ’

 急に僕のTシャツの襟首に後ろから力が加わり、引っ張られる。襟がびりっ、という感じの音を立てるのが喧騒の中でも聞き取れた。体の上の部分を引っ張られたので僕は体の上下のバランスを崩し、ととっ、と何歩か自分で後ずさった。次に、右手首をもの凄い力で掴まれる。ようやく僕は後ろを振り向く。

 名前は思い出せないけれど、背の高い、‘ああ、西條高校に受かった人だ’というイメージで顔を覚えていた男子が僕の手首を掴んだままじっと僕の顔を見ている。怖い顔、というよりは、無理に真面目な表情を作っているような感じの顔をしている。その隣にやはり‘この人も西條高校に受かった人だ’という、名前を思い出せない背の低い男子が立っている。

 そして、脇には岡崎が興味の無さそうな表情で立っていた。

 その3人の西條高校生と僕の4人は、本当にごく自然に何となく、という感じで市電とは反対の方向に歩き出す。僕は多分、腕を振りほどいて電車に飛び乗ろうと思えば乗れたと思う。けれども、怖いとかどうとかいう以前に、自然と体が西條高校生たちと一緒に歩き出す、という感じになった。自分でも自分の心理状態を分析できないけれども、おそらく、連れ去りや誘拐される人の何割かは、こんな感じになってしまうのではないかな、と想像した。


 着いたのは神社とは反対の方向の月極め駐車場だった。個人経営だが、かなり広い駐車場だ。賢いな、と思った。コインパーキングなら、監視カメラがあるが、ここにはない。

 着いてからもごく自然に僕は3人と向き合った。ずっと無言だった。3人は制服を着ている。おそらく、学校の補習か夏季特訓かが夜まであり、その帰り道に、せめて花火ぐらい見ようと立ち寄ったのだろう。そこで偶然僕を見つけた、ということなのだろうか。

 3人の内、背の低い人が僕に話しかける。

「何でお前なんかが女の子たちと一緒に花火見てるんだよ」

 意味がよく分からない。

「それに、クラス会の時の、久木田をさすってたのは何なんだよ」

 これもよく意味が分からない。けれども更に背の低い人は僕に言う。

「お前なんかが人を憐れめる立場かよ」

 これは、分かる。確かに僕なんかが久木田のことを憐れめる立場ではない。僕自身かなり愚か者だし。なかなか深いことも言う、と思った。けれども。

「パンツ脱げよ。小学校の時みたいに性器出せよ」

 また、意味が分からなくなった。僕は、小学校の時には訊けなかった質問を、今日、初めてしてみようと思った。

「僕に‘パンツ脱げ’って言ってるのは、君の意思なの?それとも、誰かに命令されてビビってるから言ってるの?」

 背の低い方は瞬間に、かあっ、と顔を赤くする。

「俺が誰かに命令されて動く訳ないだろ!俺の意思だよ」

 僕は、続けて質問する。

「じゃあ、君自身が僕の股間を見たい、ってことだね?」

 背の低い方は、一瞬ぽかん、とした後、怒気を込める。

「誰もお前の股間なんか見たくない。お前がパンツ下ろしながら、オロオロ泣きそうな顔になるのが面白いんだよ!」

「じゃあ、僕が、別にオロオロせず、ごく普通の顔をしたままパンツ脱いだら面白くないかもしれないけど、それでもいい?」

 背の低い方がだんだんうろたえてきているのが分かる。

「早く、脱げよ!」

「うん。別にパンツぐらい、いくらだって脱いであげるよ」

 ああ、そうか。‘どうなっても構わない’っていうのは、こういう恥ずかしい状況の人間がやるのもありなんだと分かった。多分、それは、赤穂浪士の大石内蔵助が股をくぐったように、お釈迦様が鬼の口に飛び込んだように。決して涙を呑んで恥を忍んでそうしたのではなく、本当に大事なことの他のことは、股をくぐることであろうと、鬼の餌食となって命が無くなることであろうと、‘どうでもいい’ことなのだ。本当に大事なこと以外にはとことん、淡泊で執着がないのだ。本当に大事な目標・志のために生きていた方々にとって、それ以外のことは‘どうでもいい’些末のことなのだ。目標・志のためにはそれ以外のことなど、自分の名誉や命すら‘どうなっても構わない’のだ。

 もちろん、僕はそんな方々のような目標も志も無いけれど、少なくともパンツを脱ぐなんて程度のことよりも大事なことはたくさん持っている。だから、別にパンツを脱ぐことなんて僕にとっては‘どうでもいい’ことでしかない。

 さあ、真夏だし、涼しくなるからいいか、と思い、背の低い方がなんだか表現しがたい表情をしている前で、僕はパンツを脱ごうとした。


「卑怯者」

 穏やかだけれども、よく通る声が背後からした。

 駐車場の入口にさつきちゃんが立っている。

 そのまま僕たちの方にゆっくりと歩いて来る。

 あれ?電車に乗ったんじゃないの?と思うのと同時に、僕は、

 あ、まずい!

と瞬間的に思った。こういう場面で女の子が登場した場合、マンガやドラマでは飛んで火に入る夏の虫のように、目の前の男たちからはにやにやとなぶられるかのごとく言葉や態度で扱われるのが王道のパターンだ。

 ・・・けれども、僕は拍子抜けした。

 背の高い方と背の低い方を見ると、明らかに、‘ヤベえ・・・’というような狼狽し、動揺した様子を見せている。さつきちゃんを‘目撃者’のようにでも思っているのかもしれない。それにしても、浴衣を着た可愛らしい女子を見て、こんな反応しかできない2人が何だか可哀想だった。


 さつきちゃんは、その2人を完全に無視して、なぜかそのまま岡崎の正面に立った。

 岡崎の顔も知らないのに、場の雰囲気だけで元凶が誰であるかを見抜く鋭さに、僕は正直感歎した。

 

「卑怯者」

 さつきちゃんは岡崎の眼を見据えて、もう一度言った。その、鋭い、けれども落ち着いた声を聞いて、岡崎はぼんやりとさつきちゃんの顔を見る。一瞬、その声が、本当にさつきちゃんから発せられたものなのか、状況把握に戸惑ったようだ。

 けれども、数秒後に、それがさつきちゃんの声であったことに気付くと、へえ、というような嘲笑ったような奇妙な表情をする。さつきちゃんはその岡崎の表情には構わず、次の言葉を放つ。

「かおるくんの方が、強い・・・」

 さつきちゃんは、姿勢を崩さず真っ直ぐ立ったまま、岡崎の目を見据えて淡々とその短い文章を繰り出した。

「どこが」

 岡崎は嘲笑でもってさつきちゃんの言葉に応え、岡崎もさつきちゃんの顔に真っ直ぐに視線を向ける。

「かおるくんは、本当に恥ずかしいことが何かを知ってる。だから、あなたの手下が今言った程度のことはどうでもいいことだ、って、切って捨ててる。

 でも、あなたは本当に恥ずかしいこととどうでもいいことの区別がつかない。

 かおるくんとの力の差は歴然」

 ‘手下’と決めつけられて背の低い方は、かあっ、と顔を真っ赤にした。

 けれども、それよりも、岡崎の様子が明らかにおかしい。クレバーで冷静・怜悧な、誰が何を言っても言葉ではなく‘自分が手を汚さない’実行だけでもって人をいたぶり続けてきたあの岡崎が、今、さつきちゃんの言葉になぜか過剰反応をして、口で対抗しようとし始めているようだ。

「馬鹿か。こいつは、パンツを脱げと言われれば脱ぐような、自分の意思も意見もないような奴だ。‘自分’っていうものがないんだよ」

 岡崎が‘らしさ’を失い饒舌でむきになり始めるのとは反対に、さつきちゃんは更に‘さつきちゃんらしさ’を深めていく。さつきちゃんが岡崎に向けているのはもはや憐れみの表情だ。

「かおるくんはずっと昔から、あなたのやることなすこと、切って捨ててただけ。

 何を言っても、何をしても、あなたがかおるくんに勝つことはこれからも、ない」

 岡崎の顔が、かあっ、と赤くなっているのが、薄暗い街灯の下でもはっきりと分かった。岡崎はなおも言葉でさつきちゃんに対抗しようとする。

「こいつがパンツを脱ぐのを、周りの全員が笑ってた。こいつは、全員に負けたんだよ」

 さつきちゃんは、声にも憐れみを滲ませて静かに答えた。

「もし、それが本当なら。あなたの周り全員、誰もかおるくんに勝てない」

 僕は2人の遣り取りを耳でうっすらと聞きながら、眼球を超高速で動かして、周囲の様子を窺っていた。そして、見つけた。

 さつきちゃんの立っているちょうど真後ろ。百メートル以上先だが、コンビニの看板の青い光が見える。

「さつきちゃん!」

 僕が腹から出した大声に、そこにいる全員がびくっ、とする。

 さつきちゃんの視線が僕に向いた瞬間、僕は指でさつきちゃんの背後を差し、

「コンビニ!走って!」

と、怒鳴り声を上げた。岡崎たちよりも早くさつきちゃんが反応することを祈って。

 さつきちゃんは背後を振り返るとすぐに状況を理解し、躊躇なくダッシュした。

 しかも、咄嗟に下駄を脱ぎ捨てて。この状況の中でも‘裸足で全力疾走する’という冷静で適格な判断に本当に恐れ入った。

 けれども、間髪入れずに岡崎も走り出す。さつきちゃんを止めようというのだろう。

 僕も、残り2人が反応する前に岡崎めがけて走り出した。普通の状態ならば岡崎がさつきちゃんに追いつくことは天地がひっくり返っても、無い。けれども、さつきちゃんは今日は浴衣なのだ。この状況で裾の乱れを気にするようなさつきちゃんではないだろうけれども、それでも万全の状態ではないのだ。僕は岡崎の背中の後ろを必死に走った。20mほど走り、差が1m程のところで、僕は岡崎の背中に飛びつくようにしてしがみついた。岡崎が、前のめりにだだっ、と倒れる。僕も岡崎の背中に縋り付くような形で倒れこんだ。

 ごっ、と、岡崎の体が地面にぶつかる音がするのと同時に、これまで聴いたことの無い動物の鳴き声のような奇声が耳をつんざいた。僕はその音が下にいる岡崎から聞こえてくることにしばらくの間を置いてから気付いた。岡崎の右手首が反対の方向に曲がっている。どう見ても折れている。僕は、自分の行動によって人間の骨が折れた、という事実にとてつもなく嫌な感情を覚えるが、岡崎が奇声を発して苦しんでいることそのものには大した現実感を持たなかった。

 それよりも、すぐに自分自身の置かれた状況を思い出し、立ち上がってコンビニに向かって走ろうとした。

 けれども、足がもつれて、もんどりうってもう一度地面に倒れてしまった。

 残りの二人がもう、隣に追いついていた。1人が、なんだか、適当な、弱々しい感じで、僕の肛門の辺りを蹴ってきた。痛いには痛いが、それだけで、動けなくなるようなダメージは受けない。

 僕はとにかく、蹴られて動けなくなるような急所だけは守ろうと、亀の子のように、体を丸めた。

 頭や顔は出ているので、そこを蹴れば一番ダメージを与えられるはずなのだけれども、この2人は頭がいい。エリート校に通っていることの意味も分かっているのだろう。決して、傷害沙汰になることはしようとしない。また、暴力をふるうことへのビビりもあるのだろう。外傷として目立たないよう、僕の脇腹を何度も蹴ってくる。それも、内臓にまでは傷をつけない程度の力加減で。そして、身体面ではなく、精神面での屈辱を感じるようなやり方で。けれどもこの2人は状況の成り行きで僕を蹴っているだけで、岡崎がさつきちゃんの真っ直ぐな言葉に屈したさっきの屈辱感と執着のようなものを持っているわけではないだろうと僕は考えた。ただ、相手がどこまでやるかは僕の知ったことではない。僕は、自分の身の前に、さつきちゃんを守らなくてはならない、その切実さから比べたら、この二人の余興のような暴力にこれ以上付き合っているいわれはない。

 僕は、このままでは千日手なので、とにかくもう一度、立ち上がろうとした。岡崎は痛みからなのだろうか、地面にうずくまったまま、大声で泣き始めている。

 やかましい、と、僕は思った。


その3


 わたしはコンビニの駐車場を通り過ぎて、ドアを開け、中に走り込んだ。

 4、5人のお客さんが、一斉にわたしの方を向く。わたしは、そんな視線に構っている余裕がある訳もなく、レジの方向を確かめ、駆け寄った。レジの向こうに立っている年配の男の人に、大声で話す。

「すみません、警察を呼んでください!」

 わたしは、この先で友達が取り囲まれている、とできるだけ落ち着いて説明した。けれども相当な早口でまくし立てていたろう、とは、思う。

 年配の男の人はオーナーなのだろうか。隣にいた若い男の人に、

「警察に電話して!ここの住所と状況をちゃんと伝えて!」

と指示すると、レジの下から竹刀を取り出した。

「さあ、早く行きましょう。警察が来るまで時間がかかるから!」

 わたしはそのオーナーと思しき年配の人と一緒に、かおるくんの所に走った。


その4


 2人はまだ僕を蹴り続けていたけれど、蹴られながらとにかく僕は立ち上がった。

 多分、僕がわざわざ立ち上がるとは思っていなかったのだろう。2人はなんだか突然、手持ち無沙汰なような、何をすればよいのか分からないような状態になり、何秒間か、3人してお見合いをして突っ立ったままになった。

 えーっと、という間の抜けた感じで、背の高い方がなんとなく僕の顔をぽくっ、と拳で殴った。僕は特によけもせず、そのままにさせた。対して痛くもなかったけれど、パンチの力の抜け具合とタイミングがよかったのか、口の中が切れて、血が滲む鉄の味がした。

 僕は反撃をする代わりに、相手にそのまま一歩近づいた。相手はそのままもう一発、僕の右頬の辺りを、今度はさっきよりも強く拳で殴った。

 右頬の上っ面に拳が辺り、やや強い痛みを感じた。それと、殴り方が中途半端なので、拳がずれて鼻にも当たり、鼻孔から水のようなものが流れていく感触が伝わる。ああ、久しぶりに鼻血が出たんだな、と我ながらやけに客観的に状況を把握した。しかも、殴られてもなぜか特に腹も立たない。それにしても、もう1人の方は何をしているのだろう。

 僕はもう一歩、背の高い方に近付く。今度は右拳で僕の左頬を殴った。仕方ないので、殴られた瞬間、僕は自分の右拳を握りしめ、相手の鳩尾の辺りを、とすっ、という感じで短い動きで殴った。鳩尾は急所だと知っていたし、ひどくならないように自分としては軽く当てただけのつもりだったのだけれど、相手が激しく苦しみ始め、その場にしゃがみこんでしまった。

 背の高い方がしゃがみこんだ瞬間、後頭部にぱん、という感触が伝わり、僕は前歯の上下をかちっ、と鳴らした。

 一瞬、何が起こったのかよく分からなかったけれども、しばらくして、背の低い方が、平手で僕の後頭部をはたいたのだと気付いた。

 さっきまで、辱めの言葉を受けようと、拳で殴られようと、大して腹も立たなかったけれども、平手ではたく、ということに僕は何とも言いようのない、不快感を覚えた。

‘こいつはどこまで・・・’という呆れさえ感じる。

 僕が振り向くと、相手はすかさず、平手で僕の左頬を力いっぱいはたいた。僕の左頬が熱くなり、左耳でじーんと蝉が鳴き始めた。

 この状況でビンタを張り、拳を使わないということに、僕は本当に腹が立った。

 この岡崎たち3人は、特に何の意識も覚悟もないまま、それこそ小学生のまだ何事も大目に見てもらえる子供の感覚で僕とさつきちゃんに辱めの言葉を吐き、僕を殴ったのだろう。

 けれども、僕たちは高校二年生だ。16,17歳と言えば、昔の武士の時代では元服した、言わば大人の年齢だ。男も女も、一個の大人として尊敬を受けるようになるのと同時に自分の吐く言葉、行いにも責任を負うた年齢だ。

 大人であるさつきちゃんと僕を相手に、同じく大人であるはずの岡崎たちは、暴言を吐き、そして、僕を蹴り、殴った。

 相手を辱め、刀を抜いて斬りつけたのと同じことだと思う。その、真剣での立ち会いの状況になっているにも拘わらず、まだ相手は平手を使って、精神的な見下し程度の対応でこの場が収まると思っているようだ。僕は、本当に胸がむかむかしてきた。鳩尾を殴った相手はまだしゃがみこんでいるが、拳を使っただけそいつの方が少しはましだと思った。

 僕は、平手を使った相手に、やはり一歩近づいた。相手はもう一度平手で僕の左頬を、今度はさっきよりももっと力を入れてはたいた。左耳の音が消え、無音状態になる。あれ、耳が聞こえない、と僕は思ったけれども、もはやそんなことはどうでもよく、‘平手’というふざけたやり方には我慢できず、僕は右拳で相手の顎の辺りを殴った。人の顔面を殴る時の拳が当たった感触は本当に嫌なものだった。よく考えると、さっきの鳩尾、今の顔面、僕は生まれて初めて人を殴ったのだ。が、そんなことはどうでもよかった。今こそが人生でそう何度もない、‘いざ’という危機なのだから、躊躇する余裕など持ったらそれこそ僕は何様だということになる。

 僕が反撃することなどあり得ない、と思っていたのか、僕が殴ると相手は、こんなことを言った。

「小田のくせに!」

 そう言って、相手は僕にむしゃぶりついてきた。何が僕のくせになのかよく分からないが、ああ、少しはましになったと思った。相手の勢いに僕は押し倒されて、背中からアスファルトの上に倒れこんだ。尾骶骨と肩甲骨の辺りは相当痛いけれども、後頭部を打たないように咄嗟に頭を持ち上げたので、なんとか動ける。

 相手は僕に馬乗りになるという絶好の態勢を取ったのに、拳で殴ろうとしない。

 そのまま僕の胸の辺りのシャツを掴み、押さえつけて来るだけだ。ひょっとしたら相手は、拳で人を殴ったことがないのかもしれない。平手ではたいたことしかないのかもしれない。そして、拳を使わないことで、まだ自分は安全地帯にいるのだ、と思い込みたいのかもしれない。

 上に乗っかっている相手の表情をのぞき込もうとするけれども、街灯の光が逆光になってよく分からない。ひょっとして、泣いているのではないかとすら感じた。それはそうかもしれない。相手の気持ちも分からないでもない。

 子供が‘ふざけ’を大目に見てもらえる感覚で、さつきちゃんと僕を辱める程度でそのまま普通に家に帰り、風呂に入り、勉強して、スマホでもいじってから昨日と同じように寝るつもりだったのだろう。そして、明日も、学校の夏季講習に出かけるつもりだったろう。

 それが、さつきちゃんはコンビニに助けを求めに行き、おそらく警察に通報し、岡崎は骨折してまだうつ伏せになって呻いており、もう1人は鳩尾を抑えて座り込んでおり、自分は「小田ごとき」の上に馬乗りになって、さあ、殴ればいいのかどうすればいいのか訳が分からなくなっているのだろう。

 自分たちは安全地帯にいるまま、僕とさつきちゃんだけを精神的な奈落へと追いやりたかったはずが、自分たちも安全地帯の外に出てしまったのだ。いや、僕とさつきちゃんに引きずり出されたとさえ思っているかもしれない。僕とさつきちゃんに対して、お前たちのせいだ、ぐらいに思っているかもしれない。

 けれども、それはこっちにしたって同じことだ。

 なんにせよ、岡崎を骨折させたのは僕だ。僕自身、そして、両親も、その結果に対して何らかの社会的責任を負わねばならないだろう。たとえ、正当防衛とみなされたとしても、「小田さんとこの次男坊が、暴力事件だって」みたいな感じになるはずだ。

 そして、さつきちゃん。さつきちゃんも、同じ状況になるはずだ。学校側も、何の処置もなしという訳にはいかないだろうし、女の子が男の喧嘩に関わっていたという噂が立たないとも限らない。

 岡崎たちのことは特に何とも思わないけれども、さつきちゃんを巻き込んでしまったことは、謝っても謝り切れない。さつきちゃん本人にも、さつきちゃんのお父さん、お母さん、耕太郎にも。

 こういったことが脳裏に浮かんだ後、まだ相手は僕の胸倉をただぐいぐいと押しているだけだったので、僕は右足のスニーカーの靴底を相手の左腹の所に押し当て、そのまま持ち上げようとした。それでも相手はまだ殴ってこない。

 無音の左耳ではなく、右耳に、誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。

「かおるくん!」

 さつきちゃん1人ではなく、2人。コンビニの制服を着た男の人が、手に何かを持って、さつきちゃんから10mほど遅れて走ってくる。

 僕の上に乗っていた相手は、コンビニの制服を見て慌てて立ち上がり、軽く走り出そうとした。

「ちょっと、ちょっと、どこ行くの?」

 コンビニの制服を着た男の人に声を掛けられると相手は、

「え、いや、ちょっと・・・」

と、なんだか訳のわからないことを聞き取れないほどの声で呟いて立ち止まり、そのままそこに突っ立っていた。

 よく見ると、男の人は、右手に竹刀を持っていた。

 遠くでパトカーのサイレンが聞こえた、と思ったら、あっと言う間にランプの光が近づき、警官が2人、降りて来た。警棒を持っているようだ。

 僕は平手しか使わなかった相手に押し倒された状態から上半身を起こし、胡坐をかいて座ったままでいた。立ち上がろう、とは思ったけれども、今になって気付いた体のあちこちの痛みと疲労感でしばらく座ったまま呆けていたかった。

 顔を上げると、さつきちゃんが急ぎ足で近づいてきて、僕の目の前にしゃがんだ。

「かおるくん・・・・」

 僕の顔を真剣に覗き込んでいるが、なんともたとえようのない、複雑な表情をしている。心配、だけでもなく、安堵だけでもないごちゃ混ぜの表情。そういえば、鼻血が乾いた上からまた新しい鼻血が出ているようなので、それを見て、少し怖がっているのかもしれない。

 さつきちゃんが、もう少し顔を近づけて覗き込んだ。そして、一旦顔を遠ざけ、何事かを迷っているような表情に変わる。

 なんだろう?と思っている内にふわっとさつきちゃんが両腕を僕の肩の後ろ辺りに回した。そのまま僕を抱き寄せるような形になる。

 えっ?と僕は全身が硬直した。このまま1mmでも動いたら、まずい、と思うぐらいに。

 さつきちゃんは胸骨の辺りに僕を抱き寄せ、顔は僕の左頬の真横にあるので、その表情は分からない。状況が数秒経っても理解できなかった。ただ、さつきちゃんの方から僕を抱き寄せてくれたのはもう自分にはどうしようもないことだけれども、自分の方からさつきちゃんに触れるのはやっぱりしてはいけないことのような気がしたので、できるだけ、さつきちゃんに触れないように身じろぎもせずにいた。それでも、さつきちゃんの髪が、左頬が、自分の左頬に微かに触れる。肩の後ろに回ったさつきちゃんの腕から、体温が伝わってくる。おそらく全力疾走をしてきたのだろう。ぼんやりとした殴り合いをしていた僕なんかよりもずっと熱い。

 それとも、女の子というものは、もともとこんな温かい体温をしているのだろうか?

 僕は、段々と、周囲の目が気になってきた。けれども、大胆、というか、自然、というか、おそらくさつきちゃんの側には、純粋に僕をいたわろうという気持ち以外の邪な想いがないからだろう、パトカーの音に野次馬も10人ほど集まっていたが、僕たちを見て眉を顰めるような人もおらず、ごく当たり前の光景のように見ている。

 多分、こうしてさつきちゃんに肩を抱かれていたのはほんの10秒ほどのことだったろうけれども、僕はとても長い時間に感じた。

 さずがに、ずっとこうしている訳にもいかないと思い、僕は、よっ、と立ち上がろうとした。

「大丈夫?」

 さつきちゃんはそのまま肩を支えて立ち上がらせてくれた。

 向こうでは警官の1人が、岡崎の様子を見て、

「折れてるな」

と呟いている。

 もう1人の警官がこちらに近付いてくる。

「大丈夫ですか?」

 警官の問いに、はい、と答えると、警官はもう一度僕の顔をまじまじと見て、

「あなたも病院に行った方がいいですね。救急車を手配します」

 大げさだな、と思ったけれども、そのまま、ありがとうございます、とお礼を言った。

 そして、救急車が来るまでの間、簡単に事情を訊かれた。取り囲まれてコンビニに助けを求めに行くまでの経緯は僕とさつきちゃんで説明し、その後、岡崎を転ばせたことから、残り2人との殴り合いのことまでを僕はとりあえずあったままの通りに伝えた。有利な発言、とか、不利な発言、とか、その辺は僕ではどうしようもない。

「とにかく、相手の方も怪我をしているので今日は双方病院に行っていただき、明日にでもまた詳しく事情を訊きに上がります」

 さつきちゃんと僕は、警官にありがとうございます、とお辞儀をした。

「歩ける?」

 さつきちゃんの問いに僕が、うん、と答えると、

「あの人、コンビニのオーナーさん」

と、さつきちゃんは続けた。ああ、ほんとだ、あの人がいなかったら僕たちはどうなっていたか分からない、と、改めて感じて、2人してオーナーさんの方に歩き出した。

「本当にありがとうございました」

 2人でオーナーさんに深いお辞儀をすると、恥ずかしいのか、竹刀を持った手を、慌てて背中の後ろに隠した。

「いやいや、私らの店を頼ってくださって嬉しいぐらいですよ。それに、お友達も無事でよかったですよ」

 オーナーさんも僕の顔を覗き込む。

「無事・・・でもないようですね。大丈夫ですか?」

 僕は、また、大げさな、と思うけれども、はい、大丈夫です。と答える。

 鼻血が出ているから大げさに見えるのかな?と僕は手で鼻血を拭おうとした。

 さつきちゃんは、あ、ごめんね、と慌てて手提げからティッシュを取り出して、そのまま僕の鼻を拭いてくれようとする。

 ううん、自分でするよ、と僕も慌ててティッシュだけ受け取り、鼻を拭おうとした。

 ちょっと触れた瞬間は鼻になんの感触もなくびっくりして、少し強く拭おうとすると鼻の芯が猛烈に痛んだので、それにもびっくりして手を離した。

 救急車が2台来た。

 岡崎が担架で救急車に運び込まれる。折れていない方の腕で目を覆っている。やはり、泣いているのかもしれない。真っ直ぐ家に帰れるはずが、なんでこんなことになったんだろうという後悔なんだろうな、と、思う。平手で僕をはたいた方の仲間が岡崎に付き添うようだ。

 僕が鳩尾を殴った相手は、パトカーに乗せられた。事情聴取ではなく、多分、家まで送ってもらうのだろうと思う。けれども、家に息子がパトカーで送り届けられたら、親はどう反応するだろう。

 僕は歩いて救急車に乗り込む。救急隊の人が、

「どなたか、付き添いは?」

と声をかけた。

「わたしが付き添います」

と、さつきちゃんも救急車に乗り込む。

「1人で大丈夫だよ。お母さんやみんなが心配してるだろうから、帰って」

 僕はさつきちゃんにそう頼んだが、

「ううん」

 さつきちゃんは首を振った。

「わたしを守るためにかおるくんが怪我したんだから・・・」

 さつきちゃんはそう言うけれども、はっきり言って、さつきちゃんに無関係の岡崎たちとのやり取りに巻き込んでしまった僕の方こそただただ申し訳ないだけなのに。それに、コンビニに走ってくれたお蔭で、僕の方が助けて貰った、という感じなのに、なんだかストーリーが万人受けしそうな方向に流れて行ってしまっている。救急隊の人たちも、さつきちゃんの言葉を聞いて、ほおー、という感じになっているのが、余計に穴があったら入りたい気分にさせる。

「どこか、希望の病院はありますか?」

 救急隊の人の問いかけに、

「え、選べるんですか?」

とさつきちゃんが逆に問いを返す。

「ええ、この近隣であれば」

 それを聞いて、さつきちゃんはちょっと考えていた。

「あの、もう一台の救急車はどの病院へ行ったんでしょうか?」

 これは岡崎と一緒の病院は避けたい、という意味だ。

「市民病院だと思いますよ」

 さつきちゃんは、じゃあ、と考えて、僕の方をちらっと見る。

「厚生病院・・・でもいい?」

 さつきちゃんと耕太郎、それに僕が生まれた、親水公園の近くの川辺にある、あの病院だ。

 僕自身の家からも近いし、問題ないだろう。僕は、うん、と頷く。

「すみません、厚生病院にお願いします」

 さつきちゃんが答えると、救急車はサイレンを鳴らしながら次の交差点を右折して厚生病院の方へ向かう。

 今度は、救急隊の人が、僕の顔をまじまじと覗き込んでいる。まだ鼻血がそんなにひどいのだろうか。

「鼻、折れてますね」


その5


 鼻の手術が痛い、ということは聞いていた。けれども、そもそも僕は手術を受けるのが生まれて初めてなので、比べようがない。ただ、救急車で厚生病院の処置室に運ばれた瞬間、とてつもなく鼻が痛みだし、とにかく一晩置いて、朝一番で手術を受けることになった。

 相手の拳が顔面にワンクッションしてずれて鼻に当たっただけなのに、たったそれだけで折れるとは。僕の鼻は折れて形が歪んでしまっていたのだ。だから、見る人見る人みな僕の顔の中心を凝視していたに過ぎない。さつきちゃんもそうだったのかと思うと、ああして肩を抱き寄せてくれたことが実は特に深い意味が無いものなんだろうな、と、少し残念にはなる。

 それと。

 左耳の鼓膜が破れていた。鼻は手術で元通りになるようだが、鼓膜はどうしようもない。

 じーん、という音が常に左耳奥で聞こえ、外部の音が完全に聞こえない訳ではないが、50mほど先の音のような感じで、人の声は全く聞き取れない。まあ、右耳があるからいいかな、とは思うけれど、自分の体の一部がもう再生しない、というのはなんだか寂しい感じはする。それに、この、じーん、という音は気にしなければ何ともないけれども、一旦気にしだすと、体中がむず痒くなるような不快感に襲われる。

 僕のお父さん、お母さんにはさつきちゃんが電話して知らせてくれた。

 市電の電停で起こった顛末はこういうことだった。

 ・・・

 さつきちゃんは電車の中にもう乗ってしまっていたのだけれども、僕が岡崎達に引っ張られて歩いて行く様子を見て、無理やり乗客をかき分けて電車を降り、僕を追ったのだ。太一たちはもう電車の奥の方まで入っていたのですぐに降りることはできなかった。太一は次の電停で降りて、考えられそうな場所を探した。脇坂さんと遠藤さんも降りようとしたのだけれども太一が強く制止し、それよりはさつきちゃんのお母さんにすぐ連絡して、耕太郎を家まで送り届けるように指示したのだ。

 岡崎達は頭がいいので、自らが‘犯罪者’になるような暴力的な真似はしないだろうと、その点は太一は安心していたらしい。ただ、久木田や大勢の人間がやられたように、‘相手の精神をズタズタにする’ことはなんの躊躇もなく平気でやってのける。そしてその刃物が僕だけでなく、さつきちゃんにも向けられることを太一は心底恐れていたらいい。

 そのさつきちゃんは、人込みの中で僕たちを見失ったけれども、‘人のたくさんいる場所は避けるはずだ’と、これまた冷静な判断をして、神社とは反対の道を走ったのだ。ほどなく、あの駐車場に4人がいるのを見つけた、ということだ。

 ただ、この先はさつきちゃんは言わないのだけれども、多分、僕がパンツを脱ごうとするまでの遣り取りは見ていたのではないだろうかと思う。つまり、僕の‘恥ずかしい姿’全部を。そして、‘今ここで止めないと’と感じた時、怖いけれども勇気を振り絞って、「卑怯者」という言葉を岡崎に投げかけ、姿を見せたのではないかと思う。さつきちゃんだって、怖くないはずはない。僕の‘心’を守ろうとして必死で岡崎に立ち向かったのだと思う。


その6


 僕の両親が病院に着くと、僕が口を開く先に、さつきちゃんが2人の前で、何度も頭を下げて、

「かおるくんは、何も悪いことはしてません。わたしを助けてくれたんです。

 本当にすみません」

と、いうような言葉を繰り返した。

 お父さんが、

「こちらこそ申し訳ない。本当に怖い思いをさせましたね」

と言い、お母さんと2人してさつきちゃんに頭を下げている。

 その内に、さつきちゃんのお母さんが駆け付けた。脇坂さん、遠藤さんも一緒だ。耕太郎は遅い時間なので家で待機だ。脇坂さん、遠藤さんは、僕とさつきちゃんを見て涙ぐんでいる。「ひなちゃん・・・」というその後は言葉にならない。

 少しして、太一も汗でびっしょりになってやってきた。おそらくずっと僕たちを探し回ってくれていたに違いない。遠藤さんが太一の携帯に病院にいることを知らせてくれたのだ。

「かおるちゃん・・・」太一もその後は言葉にならなかった。


 さつきちゃんのお母さんが僕の両親に頭を下げる。

「すみません、かおるさんにこんな大けがをさせてしまって・・・

 主人も出張先からこちらに向かってます。明日の朝には着きますので・・・・」

と何度も頭を下げ、僕のお母さんが、そんな、わざわざ戻られなくても、と言うと、

「主人もかおるさんのことが本当に心配なんです・・・」

 こういった遣り取りを目の前で繰り広げられ、当の本人である僕自身はなんだかぽつんと取り残されたような感じになる。

 さつきちゃんが今晩は病院に泊まって付き添う、と言い張ったが、僕の両親が、何度も話して、

「もし、お願いできるなら、日中、わたしたちの代わりに付き添ってやってください」

となだめ、しぶしぶさつきちゃんのお母さんと一緒に家に帰って行った。さすがにお泊り会も中止だ。太一は脇坂さんと遠藤さんを家まで送り届けてから帰ると言った。今回も太一には本当に救われている。


その7


「お父さん、明日、仕事は?」

 お父さん、お母さんともこのまま病院で泊まると言ったので訊いてみた。

「明日は休む。心配するな」

 そう言って、とりあえず入った個室のベッドの脇に丸椅子を持って来て腰かけた。

「耳、どうだ?」

 お父さんは鼻よりも耳を訊いてくる。

「やっぱり、聞こえない」

 僕がそう答えると、お父さんは、そうか、と呟いて続けた。

「音楽、もう楽しめないな」

 お父さんはそう言うけれども、僕はそこまで頓着はなかった。

「いや、右耳は聞こえるから別に平気だよ」

「鼻以外に痛いところはないか?」

 そう訊かれて、

「右の拳が痛い」

と答える。

 さっきの検査では右手は腫れてはいるけれども、骨にも異常はなかったし、問題ないとのことだ。

「殴ったのか」

 お父さんは、静かに、訊いた。

「うん、殴った」

「そっか、凄いな、かおるは。

 ・・・自分はまだ一度も人を殴ったこと、ないからな・・・」

 そういえば、と思った。お父さんが僕を殴ったことは一度もなかった。

「ほんとに小さい頃、かおるのお尻を叩いたりしたことはあったけどな・・・」

 お父さんの言葉を聞いて、2人して軽く笑いあう。

「眠れるか?」

「うん・・・鼻が痛いけど、なんとか眠れると思う」

「今日は、お疲れさんだったな・・・ゆっくり休め・・・」

「うん・・・・」

 僕はそのまま目を閉じた。


 次の朝、一番から鼻の手術をした。終わった後、麻酔が切れてからの痛みは信じられないぐらいで、鼻をもいでしまいたいぐらいの違和感だった。その後、痛み止めも入っているのだろうか、点滴をしてから少しましになった。

 手術中は思ったよりも出血量が多く、もう少しで輸血が必要だったらしい。執刀医の先生からは、血が固まりにくい体質のようだ、と言われた。

 その日の午後からは、もう、面会OKとなった。さつきちゃんがそれを待ちかねたように、病室に来てくれた。耕太郎も一緒だ。さつきちゃんのお父さんも来て、僕にありがとうとお礼を言い、僕のお父さんとも少し話してから、帰って行った。その後、さつきちゃん、耕太郎、僕の三人で、しばらく話をした。

「物が食べられるかどうか、分からなかったから・・・」

と、花瓶と小振りの向日葵の花束をお見舞いに持って来てくれて、ベッドの横に活けてくれた。ブラインド越しに差し込む真夏の日差しが向日葵の花びら一つ一つに当たって、一瞬、黄色い花が白く変化したような錯覚に陥る。

 ベッド脇に丸椅子を持って来て耕太郎と2人して腰かけ、ガーゼで鼻の部分が覆われた僕の顔を不思議そうに見ている。

 改めてありがとう、とさつきちゃんからお礼を言われる。僕は、いやいや、こちらこそありがとう、そしてごめん、と言う。するとさつきちゃんが今度はいやいやいや、わたしこそ・・・と何度か遣り取りをしている内に、さつきちゃんの方から、ふふっ、と笑い出した。僕もそれにつられて笑い出す。耕太郎も、なんとなく、にこにこと訳も分からず笑い出した。

 10分ほどなんやかやと昨日の話を耕太郎に聞かせるような感じでしている内に、僕は何気なく聞いてみた。

「さつきちゃんは、僕の鼻が歪んでたから、あんなにじろじろ顔を見てたんだね」

 そう言うと、ん?、というような顔をして、突然、

「耕太郎、そろそろ帰ったら?自由研究の準備に図書館に行くんでしょ?」

と言った。

 耕太郎は、え?という顔をした。

「まだ来たばかりだし・・・それに友達との約束は三時だから、まだ大分時間があるよ」

 さつきちゃんは耕太郎の言葉をほとんど聞いていないような感じで、

「帰った方がいいよ」

あまり表情を変えずに言う。

 耕太郎はなんだかよく分からない、という感じで、

「うーん・・・じゃあ、帰る」

また来るね、とそのまま帰ってしまった。身長は耕太郎よりも圧倒的に低いが、さすがに威厳のある姉だと感心する。それにしても、なんで突然耕太郎を帰らせたのか、僕にもよく分からない。

 耕太郎が病室から出ていくと、さつきちゃんが改めて、僕の方を向き直って言った。

「かおるくんの鼻が曲がってたから、びっくりして・・・・」

 なんだか、‘根性が曲がってる’みたいな変な表現に思わず、苦笑する。さつきちゃんも、ちょっと言い方がまずかったかな、と、ごめんね、みたいな感じで自分の手の指をストレッチするように弄んでいる。この手の指のストレッチは癖のようだ。

「それに・・・」

さつきちゃんは視線を床に落として、僕の顔をわざと見ないようにして話し始めた。

「かおるくんの目が、なんだか、あのひとにすごく似てたから・・・」

「あのひと?」

「うん、掛け軸の、ご先祖様・・・」

 ええ?と、唐突なその言葉に、僕はとても不思議な感じがした。あの時の自分の感情や心は、あのひととは多分、似ても似つかないものだったはずなのに。それを僕は素直に言ってみた。

「いや・・・似てるって言われたら自分としてはすごく嬉しいけれども・・・

 あの時、岡崎の呻き声を‘やかましい!’とか、平手ではたかれて、‘なんだ、こいつは!’とか思ってたんだよ・・・とても、あのひとみたいな心の状態じゃないよ・・・」

 僕がそう言うと、さつきちゃんは、

「そうかな?」

と、ちょっとだけ顔を上げて僕に続けて話しかけてくる。

「かおるくんが相手のことをそう思うのはすごく当たり前の自然なことだし・・・

 それに、それ以外に自分自身で気付かない心もきっとあったと思うよ・・・

 だって、わたし、かおるくんの目になんだか吸い込まれそうになったもん・・・

 だから・・・・」

 だから?・・・・

「つい・・・・」

 つい?

「・・・ぎゅっ、てしてあげたくなって・・・」

 さつきちゃんは、完全に90°下を向いて喋っている。

 あの時は‘ぎゅっ’ていう感じではなく、単に腕を体に添えたふわりとした遠慮がちのものだったけれども、さつきちゃんの中では僕を‘ぎゅっ’と抱き締めたような感覚でいるらしい。

 僕は、何と言葉を出せばいいのか、完全に分からない状態になり、さつきちゃんの真似をして指のストレッチをしてみる。黙っていると、余計に気まずいので、

「それは・・・ありがとう・・・・」

と、なんだかよく分からない返事をしてしまう。

「・・・わたし、今・・・結構頑張って話してるつもりだけど・・・」

 消え入るような声で、そう言われて、はっ、とした。このままでは、駄目だと。けれども、気の利いたことを言おうとすると、余計に訳が分からなくなりそうだ。僕は、はっきりと、自分の感じたことを心のままに言おうと決心した。

「・・・凄く、嬉しかった。本当は、もうしばらくあのままでいたかった・・・」

 そう言うと、さつきちゃんはようやく顔を上げて僕の目を見た。

「立ち上がったのは、あのままだと、僕の方からさつきちゃんを抱き締めてしまいそうだったから・・・・」

 さつきちゃんは、全く視線を外さない。僕も、視線を逸らさないようにして、頑張って話し続けた。

「僕は、あのひとみたいな男になりたい、って、今でも思ってる。

 もし、昨日、僕の目があのひとに似てたんだとしたら、確かに自分では気づかない、自分の奥底にある‘いいもの’が顔を覗かせたんだと思う・・・」

 さつきちゃんは、真っ直ぐ僕の目を見ている・・・のか、鼻を見ているのか、一瞬分からなくなるけれども、そのまま僕は話し続けた。

「だから、あのひとにより近づこうとしたら・・・

 多分、無意識の内に、立ち上がるのが、あの時の正解だったんだろうな、って、勝手に思うんだけど・・・」

 今度はまた少し目を伏せ、にこっ、とさつきちゃんは笑った。そして、なんとなく、といいう自然な感じで僕のベッドのシーツの縁にちょこっ、と掌を重ねて置いて、

「そうだね。かおるくんらしい・・・」

と、もう一度顔を上げて笑いかけてくれた。

 その後、ぽつぽつと、せっかくの夏休みなのにね、とか、いつ頃から部活の練習できるかな、とか、他愛無い話をしばらくした。

 しばらくすると、太一、脇坂さん、遠藤さんがやって来た。さつきちゃんは補習を休んだけれども、みんなは補習が終わってから来たのだ。

みんな、本当に心配したんだよ、と言う。僕とさつきちゃんは2人して、ごめん・ありがとう、と皆に言う。

「でも、今まで誰もどうすることもできなかった岡崎をかおるちゃんと日向さんが懲らしめたなんて・・・やっぱり2人揃うと凄いことができるんだね」

 僕はまた、‘結婚しなよ’という話にならないように軌道修正をする。

「いや、懲らしめた訳じゃないし・・・・それに、僕はなんにせよ岡崎を骨折させたんだから・・・もしかしたら学校からも何か処分を受けるかもしれないし・・・」

 ‘そっか’と皆がしーんとなったので、僕は自分のせいで方向転換した話の流れを更に軌道修正しようとした。

「それより、治ったら、本当の海に行ってみたいんだけど」

 僕がこう言うと、脇坂さんがすかさず言う。

「その頃にはもうクラゲがいっぱいで海には入れないよ」

とかなんとかみんなでがやがやと話した。30分程で、じゃあ、今日はこれで、と皆帰って行った。

 再び、僕とさつきちゃんの2人になった。


その8


 その内に、お父さんが入ってきた。朝一番の手術が終わった後、お父さんは一旦家に帰って仮眠を取り、今度はお母さんが入れ替わりに家に寝に帰った所だ。

「今、警察の人が来るって連絡があったから。さつきさんも申し訳ありませんが、お願いしますね」

 お父さんの言葉に、僕とさつきちゃんは、ちょっとだけ緊張した。

 病室に入ってきたのは、私服の、クールビズでネクタイを締めていない刑事さん2人だった。

 2人とも、まずは見舞いの言葉を述べ、僕とさつきちゃんに昨日の話を一通り聞いた。その上で、今度は刑事さんの1人が僕たちに状況の説明を始めた。

「実は・・・手首を骨折した子の父親が、被害届を出すと言ってるんです」

「被害届?」

 お父さんが険しい表情で刑事さんに聞き返した。

「ええ。まあ、確かに重傷には間違いないですからね・・・

 被害届が出されるとなると、我々もそれなりの動きをしなければならなくなります。

 ご子息にも更に詳しく色々と聞かなくてはならなくなりますし・・・」

 何事にも動じないと思っていたさつきちゃんの顔色がいつの間にかこわばっている。

 さつきちゃんは、ゆっくりと刑事さんに向かって話し始めた。

「かおるくんはただ、わたしを助けようとしただけです。それに、かおるくんの方が、もっと重傷です。どうして、あの人が被害届なんか・・・」

 刑事さんは申し訳なさそうな顔をして、さつきちゃんに向かって事務的ではあるが、心の入った声で話し始めた。

「手首を骨折した岡崎さんが、小田さんには直接手を出した事実はない、というのは貴女からもお聞きしたとおりです。したがって、もし、小田さんも被害届を出すとしたら、岡崎さん以外の2人を相手にするしかない。故意かどうかは別として、小田さんが岡崎さんに怪我を負わせた、というのは、事実である訳です」

 さつきちゃんは少し、間を置いて言葉を発した。

「・・・手を出さなくても、遥かに卑怯なことが、世の中にはあると思います・・・」

 さつきちゃんの静かな、けれども強い言葉に、刑事さんも最大の誠意を持って話そうとしているのが分かる。

「本当はこんなことを言ってはいけないのかも知れないが・・・・」

 そう、前置きして、刑事さんは話し始めた。

「状況から見ても、貴女と小田さんが、身の危険を感じて一連の行動を取ったことはやむを得なかった、と私個人は思います。そして、貴女と小田さんが、正直に事実だけを話してくださっていることも、私にはわかります。

 何より、小田さんは、3人を相手に、あくまでも正々堂々と勇敢であった、ということは、男として敬服すべきことです」

 ‘正々堂々’、というよりは馬鹿正直だっただけであり、‘勇敢’であったとはとても思えないほど、だらだらした殴り合いだったと僕は恥ずかしい想いで聞いていた。むしろ、勇敢で正々堂々としていたのは、さつきちゃんだと思う。

「ですが、岡崎さんも市民であり、被害届を出す、というのは正当なことなのです。どうぞ、ご理解いただきたい」

 刑事さんの言葉を聞いて、お父さんが口を開いた。

「わたしも、息子も、自分たちが被害届を出すなんて考えもしないことです。

 それよりも、おっしゃる通り、息子が岡崎君に怪我をさせたのは本当に申し訳ないことなので、息子はまだ無理ですが、一度わたしはお見舞いに上がりたいのですが」

 刑事さんは、重苦しい口調で、お父さんに応えた。

「先方は、来て欲しくない、と、言っています」

 そうですか・・・とお父さんは呟く。

 僕は、何気なく言ってみた。

「たとえば、裁判、とか、そういうことになるかもしれないんですね?」

 刑事さんは、僕の方を見て気の毒そうに話してくれた。

「必ずそうなる、とは、言えません。相手と話して示談、ということもあるでしょう。

 あなたは未成年ですから、家庭裁判所で事件を扱う、という形になるかもしれません。いずれにしても、先方は被害届を出す検討をしている段階ですから、どのようになるかは岡崎さんの判断をまず受けて、ということになります」

 それから、刑事さんたちは、もうしばらく追加の質問を僕たちにしてから、帰って行った。


その9


 さつきちゃんも帰った後、お父さんは僕のベッドの脇の椅子に腰かけ、ベッド越しに暗くなった窓の外をぼんやりと眺めていた。

「お父さん・・・」

 僕は急にお父さんに言いたくなった。

「・・・ごめん・・・・」

 お父さんは、きょとん、とした顔をして、僕に訊き返す。

「何が?」

「いや、だって・・・こんなことになっちゃって・・・」

「こんなことって?」

「・・・もしかしたら、裁判、とか。そうなったら、お父さんも困るでしょ・・・」

 お父さんは、まだきょとんとした顔のまま答える。

「いや・・・特に困ることはないぞ」

 僕はまだ、しつこく続ける。

「僕が、友達同士で花火なんかに行かなければ・・・」

 お父さんは、笑う。

「花火に行くのは悪いことか?」

 僕は、ううん、と首を振る。

「それに、かおるは、さつきさんと2人だけで出掛けた訳じゃないだろう?

 ちゃんと、お母さんに話したとおりに、みんなと一緒に出掛けた。

 何もやましいことはないじゃないか」

 でも・・・と僕は、悔やんでも仕方のないことを言いかけた。その前にお父さんが言った。

「かおるは、男としてやるべきことを成し遂げた。そう、思うぞ」

 お父さんは、それだけ言って、また、窓の外へ目を遣った。

 僕は、少し眠る様子を見せて、お父さんに背を向けた。でも、眠るわけではなく、僕も窓の外を見た。

 本当は、僕自身、とても不安なのだ。もし、被害届が出たら。学校はどうなるのだろう。家庭裁判所、って、どんな所なんだろう。噂とかも立つんだろうか。そして、さつきちゃんもそのまま裁判に巻き込んでしまうんだろうか。自分たちの言葉は誰にも届かず、岡崎の言葉だけが世間に届くのではないか、とか。思わず、涙が滲んできたので、僕は、本当に眠ろうと思った。


 次の日、僕は朝からうつろに過ごした。今日は日中、お母さんが来てくれただけだ。お母さんも午後遅い時間に帰って行った。

 さつきちゃんは、昼間は来られないけれど、夕方に弁当持参で、僕が病院の夕飯を食べるのに付き合ってくれると言っていた。

 夕方。お父さんが定時で職場を出て、そのまま病院に来てくれた。雑誌でも読むか、と言って、最近はやりの商品・製品を紹介する経済系の月刊誌を買ってきてくれた。なかなか面白そうだ、と、僕はぼんやりとその雑誌を読んでいた。お父さんは何か仕事関係の資料だろうか、パラパラとファイルをめくっている。

 川の向こう岸からの夕陽が病室に差し込んでくる。ブラインドを開けたままだと眩しいくらいだが、まだ電灯をつけないまま、この夕陽を直接浴びていたい気分だった。

 誰かが、ドアをノックした。

 どうぞ、とお父さんが言う。先生の回診にしては早い時間だな、と思った。

 ドアを開け、中を覗き込むようにして入ってきたのは、上着は着ていないが、ネクタイを締めた、長身で眼鏡をかけた、お父さんと同じ年齢くらいの男の人だった。

 お父さんは、椅子から立ち上がって、相手に何かを話しかけようとしたが、相手が先に早口で名乗った。

「岡崎の父です」

 僕は、慌てて雑誌を置き、とりあえず姿勢を正した。お父さんは、一瞬びっくりした様子を見せたが、すぐに、小田の父ですと挨拶をし、こちらからお見舞いに行かなくてはならない所を、わざわざすみません、と、岡崎のお父さんに椅子を勧めた。

「いえ、このままで・・・」

 そう言われて、2人ともなんとなく立ったままでその場の遣り取りが始まった。

 岡崎のお父さんは、いきなり本題に入った。

「息子の言葉をすべてそのまま受け入れる訳ではありませんが・・・・

 息子が小田君には一切手を出していない、というのは本当らしいですね」

 岡崎のお父さんは、僕の方を一切見ず、お父さんの方に体を向けて話し続ける。お父さんが答える。

「おっしゃる通り、ご子息は、かおるに一切手を上げておられないようです。本当に大変なお怪我をさせてしまって、申し訳ありません」

 それもそうなんですが、と岡崎のお父さんは僕のお父さんを遮るようにしてまた話し始める。

「小田君と一緒にいた女の子が、息子があなた方に暴言を吐いたと言っているそうですね。それだけでなく、息子が、何事かを強要するような振舞いをしたと。

 ・・・それは本当のことなんですか?」

 僕は、あの時の遣り取りを改めて思い出した。本当は、僕自身が何かこの場で言葉を出そう、と、一瞬思ったのだけれども、次に続いた岡崎のお父さんの言い回しを聞いて、辱めの上乗りをされたような気分になり、言葉が一言も出せなくなった。岡崎のお父さんは、こう言った。

「口に出すのも憚られるが、なんでも、パンツを脱ぐとか脱がないとかで小田君を侮辱する言葉を息子が言った、とその女の子は証言しているそうですね。その子もよく、実際に口に出して証言できたな、とは思いますが」

 珍しく、お父さんの顔が怖い顔になる。それでも、まだ、岡崎のお父さんの話は続いた。

「それは、本当に文字通りのニュアンスだったんですかね?ちょっとからかうような言葉を過剰に受け止めて、感情的に大げさに言っているだけじゃないんですか?

それから、息子が、小学校の頃から小田君に色々と嫌がらせをしてたような証言もしてるようですが。それが、もし事実と違ったら、私はその女の子についてもなにがしかの被害届を検討せざるを得ない。その子は息子たちとは別の小・中学校だったそうじゃないですか。別に、息子と小田君との間で何があったかを見てる訳じゃないですよね」

お父さんはじっと、岡崎のお父さんの目を憐れむように見つめて、口を開いた。

「かおるのしたことについて、被害届をお出しになるのであれば、それはやむを得ないと思います。

 ただ・・・女の子のことに関して何かされるというのは、おやめいただけないですか」

 岡崎のお父さんは、少し、苦笑するような顔をして、お父さんに答えた。

「事実かどうかはっきり断言できないことをその子は言っているわけです。

 そんなことをされたら、わたしの方も言いたくないことを言わなくてはなりません。

 ただ、私は、事実とはっきりしていることしか言いませんが・・・」

 僕は、一体、何を言うつもりだろうと、岡崎のお父さんの顔を横から凝視した。岡崎のお父さんは、お父さんに向かって、静かに言った。

「あなたは、うつ病で通院されてますね」

 僕は、思わず、声が出た。

「それが、どうか、したんですか」

 僕は自分の声が上ずっているのが情けなかった。やはり心のどこかで、お父さんがうつ病だということを、人には隠さなくてはいけない、恥ずかしいことだと思っているのだ、と自分で認めているようなものだ。そして、そういえば、岡崎のお父さんは、県内ではシェアが上位の産業用機器の卸売業者の2代目で、今は専務だという話を聞いたことがあったのを思い出した。最近は、医療機器にも力を入れていて、お父さんが通院する病院に何らかの関係があってもおかしくない、と思った。

「第三者でなく、当事者に事実を言っているわけですから、私の話は別に問題ないでしょう。それで、あなたは自分の職場に、うつ病であることを隠しているようですね。別の病気のように濁して。まあ、嘘をついている、とまでは言いませんが、事実を言っていない、訳ですよね」

 お父さんは、目を反らすことなく、じっと相手の言葉を聞いていた。そして、ゆっくりと話し始めた。

「かおるについての被害届は仕方ありません。ですが、女の子については、もう一度、お考え直しいただけないですか?」

 岡崎のお父さんは緊張をほぐすような余裕を見せた笑顔で言った。

「その子が、息子の暴言や強要が事実無根だ、と訂正すれば、そうしますよ」

 僕は、瞬間に、頭に血が上った。けれども、先に鋭い言葉を発したのは、お父さんの方だった。

「それは、わたしらが決めることじゃない!」

 お父さんの強い、半ば、怒気を込めた口調に、一瞬、相手はびくっ、と体がこわばったようだ。お父さんは、その後、言葉は丁寧だが、気迫の込もった腹の底からの声で相手に応対した。僕が初めて聞く種類のお父さんの声だ。

「かおるはどんな理由にせよ、あなたのご子息に怪我をさせ、他の2人を殴った。暴力自体は許されないことだ。あなたがどんな手続きを取っても、それは避けられないことだと理解している。

 あなたのご子息とかおるの間に小学校の頃からどんなことがあったかも、今更言っても、詮無いことだ。それに、今回、かおるがあなたのご子息たち3人に立ち向かったのは、結果を覚悟してのことだ。それは、いい。

 だが、その女の子は、決して嘘は言っていない。

 そして、女の子、とは言うが、高校二年生だ。れっきとした大人の女性だ。

 その大人の女性に向かって、あなたのご子息は辱めるような言葉を吐き、男らしくない振舞いすらしようとした。

 ご子息が吐いた言葉はもう戻せないが、せめて、男らしく、その子に謝るべきではないですか?」

 お父さんは、相手に一言も話す隙を与えない迫力で、言葉を放ち終わった。岡崎のお父さんは、それでもあがいた。

「誰もその子が嘘つきだなんて言ってない!ただ、確認しようのないことだから、証言としては不適当だと言っているだけだ!あなただって、会社に自分がうつ病だと言ってないでしょうが!」

 お父さんは、再び憐れむような目に戻り、こんどは、静かな声で岡崎のお父さんに語り掛けた。

「法律や手続きは、わたしにとっては二の次です。あなたの息子さんが謝るかどうするかもわたしには決められない・・・

 ただ、かおる・・・わたしの息子は男らしく振舞った、ということだけがわたしにとって大事なことです・・・・」

 お父さんの視線が、岡崎のお父さんからふっ、と外れ、病室のドアの方に向いた。

 僕も、岡崎のお父さんも、その方向を見る。

 さつきちゃんが、弁当袋を手に提げて立っていた。

 いつからいたんだろう。でも、さつきちゃんは、状況を全て理解しているような引き締まった表情をしている。

 さつきちゃんは、ゆっくりと、岡崎のお父さんの前に進み出た。体の向きを岡崎のお父さんに真っ直ぐ向け、下から見上げる視線ではあるが、岡崎のお父さんの目を真っ直ぐに見る。

 下から見ているのに、見下ろされているのが岡崎のお父さんの方ではないか、という錯覚に襲われる。岡崎のお父さんはさつきちゃんをにらみつけ、姿勢も微動だにしない。が、よく見ると、瞬きの回数が異常なほど多く、速くなっている。さつきちゃんは、相手のそんなおどおどした表情などにすら構わず、そのまま十秒近く、岡崎のお父さんを射すくめていた。

 さつきちゃんは、その真剣な、真っ直ぐな表情のまま、ゆっくりと、動揺している相手にもきちんと聞こえるように、はっきりと、言葉を発した。

「あなたにも、息子さんにも、謝っていただかなくて、結構です」

 岡崎のお父さんは、まだ動けない。ただ、瞼だけが、別の生き物のように上下して、高速で閉じたり開いたりしている。さつきちゃんは、更にゆっくりと、一語一語を丁寧に発した。

「わたしは、あなたの息子さんのことを、最初から‘男’と思っていません」

 病室の中の空気が、一瞬にして凍り付いた。僕は、岡崎のお父さんの心臓が停止するのではないかという、あり得ない想像すらした。

 けれども、そんな空気を溶かして解放したのも、さつきちゃん自身だった。微笑、とまではいかないけれども、見ようによっては、少しほほ笑んだような、緩んだ表情になって、さつきちゃんは、最後にこう言った。

「ですから、腹も立ちません」

 そう言って、さつきちゃんは、岡崎のお父さんに、深々とお辞儀をした。


 岡崎のお父さんが、顔面神経痛になったのではないかと思えるように、顔の右半分を痙攣させながら出て行ったあと、さつきちゃんは、すぐに僕のお父さんに向かって、お辞儀をした。

「お父さん、本当にありがとうございました」

 そう言うさつきちゃんの姿を眩しそうに見つめて、感動すら覚えているかのような声で、お父さんは言葉を返した。

「いや・・・わたしの方こそありがとうございます。

 あなたのことは、素晴らしい女性だと思っていましたが・・・

 本当に、あなたには、かおるも、わたしも、助けられてばかりです」

 さつきちゃんは、さっきまでとはうって代わって、恥ずかしそうに、いいえ、いいえ、という感じのジェスチャーをする。このギャップがとても不思議でさつきちゃんの魅力だと、僕は感じる。

 

 さつきちゃんが僕の病院食に付き合って弁当を食べ終わり、おやすみなさい、と帰って行った後も、お父さんは病室に佇んでいた。お父さんは、何か言いたそうだ。

 僕は、素直に、何?と訊いてみる。お父さんは珍しくにやけた表情になって僕にこそこそした声で話しかける。

「かおるがもし誰かと一緒になるとしたら」

 一緒になる、って、何の話だろう?

「さつきさんが、いいなあ」

 僕は、唖然として、お父さんの顔を見ることもできず、そのまま、目を閉じて眠ることにした。


その10


 翌日、さつきちゃんからこんなお誘いが掛かった。

「新生児室、観に行かない?」

 僕は赤ちゃんやら小さな子供やらは苦手なのだけれども、もう起き上って動けるようになっていたので、退屈しのぎにいいかな、と思って一緒に別フロアーの新生児室に見物しに行くことにした。

 

 新生児室には20人ほどの赤ちゃんが仲良く並んでいた。

 よく眠っている子もいれば、むずむずと芋虫みたいに動いている子や、きゅーっ、と泣いている子もいる。顔の小さな、全体的に小柄だな、という子もいれば、その子の隣に顔が倍ぐらいに見える子も居たりする。皆、眼が開いていないけれども、既に一人ずつ性根が違うんだろうな、というのがはっきりと分かる。ガラス越しに見える新生児室は、僕にとっては動物園のようにも思える。

「かわいい・・・」

 さつきちゃんは、ずっと顔を崩しっぱなしにしている。にこにこというよりは、デレっとした感じの笑顔だ。女の人というのはやはり母性本能があるのだろうか、普段見たことのない表情でガラスに顔をくっつけるようにして見入っている。

「かおるくん、見て、あの子」

 そう言ってさつきちゃんは、あくびをしている男の赤ちゃんを指さす。

 僕はただ、「うん」とだけ答えるのだけれども、さつきちゃんは僕の相槌も耳に入らないかのように、今度は別の女の赤ちゃんに手を振ってみている。

「かおるくんは、男の子と女の子とどっちが欲しい?」

 突然訊かれて僕はちょっとびっくりする。一体誰と誰の子供?とまず質問し返したくなるけれども、さつきちゃんはそんな意識も何もなく、本当にただ、赤ちゃんがかわいい、という気持ちだけでこの単純な質問をしてきたようだ。

「え・・うーん・・・男」

 反射でつい答えてしまう。

「そっか・・・わたしは女の子が最初でもいいかな、って思うんだけど。でも、どっちでもかわいいよね」

 そんな僕たちの遣り取りを、おそらく孫がこの中にいるのであろう年配のご夫婦が、怪訝な顔で見ていた。

 さつきちゃんは補習の帰りに寄ったので、セーラー服を着ている。僕は病院支給のパジャマ姿だ。おそらくそのご夫婦は、学生の分際で何を浮かれたことを言ってるんだ、という感覚なのだろう。特に男性の方が何度もさつきちゃんをちらちらと見ている。

 けれども、と僕は思う。

 確かに、単に高校生二人がままごとのように恋愛しているのだとしたら浮かれている、と言われても仕方ないだろう。けれども、僕は今、さつきちゃんのおあばあちゃんが言っていた、「男と女がいないと子供はできんしね」という言葉を思い出していた。

 「男と女がいないと子供はできない」というのは、人間である以上、事実・現実・真実だ。そして、それが神様からの授かりものである、ということも事実・現実・真実だ。

 別に僕とさつきちゃんは、自分たちの子供というつもりで今の会話をしていた訳でもなんでもないけれども、その事実・現実・真実から目を反らしているから、逆に結婚や子供を授かることも考えずに‘浮ついた’お付き合いばかりしていて、いつまでも結婚しない人たちが増えているのではないだろうか。結婚しない人が増えていることの理由は色々あるとは思う。結婚を望んではいるけれども出会いがない、とか、女性の結婚・子育てを支援する職場環境が整備されないとか。けれども、実は、そういった理由は子供が駄々をこねる言い訳のようなものではないか、と、僕は思うことがある。

 親は小さな子供が駄菓子を選ぶ時にこう言う。

「二つは駄目。どっちかにしなさい」

 分別のつく子なら、納得して一つだけにする。

 厳しいようだけれども、「子育てと会社と二つは駄目。どっちかにしなさい」と言われても分別つかない大人が増えたのではないか、という気もする。では、どうして男ばかり仕事を優先するの、と言う意見もあるかもしれないけれども、男も同じことだと思う。男だって「子育てと会社と二つは駄目。どっちかにしなさい」と言われる。じゃあ、夫婦1人しか給料もらえないでどうやって生活するの?という話も当然ある。でもそれも、「そのようにやりくりしなさい」と言うしかない。夫婦2人で考えるしかない。

・・・と、長ったらしいことを僕は頭の中でごちゃごちゃと考えた。それで、このご夫婦にささやかな抗議をしてみようと思い立ったのだ。

「ねえ、最近のバンコンカをどう思う?」

「え?」

 僕の唐突な質問に、さつきちゃんはびっくりしている。ご夫婦も、ん?という感じで聞き耳を立てている様子が窺える。

「バンコンカ、って晩婚化のこと?」

「うん」

 質問の意味が分かると、その後に続くさつきちゃんの答えは間髪入れず、躊躇なく、しかも澱みのないものだった。今度は僕とご夫婦が、えっ?と驚く。

「わたしは、女の人はできれば20代で出産すべきだと思う」

「ふーん・・・?」

 僕は曖昧な相槌を打つ。僕の間抜けな様子とは裏腹に、さつきちゃんはその後もすらすら答える。

「産後の肥立ち、なんて今はあんまり言わないけれど、出産ていうのは母体に大きな負担を与えるんだよ。だから、体力・気力も充実してる時にやらないと、出産のダメージで一生健康を害する、それどころかそのまま死んでしまう、なんてことにもなりかねないくらい怖いんだよ」

「そうなんだ・・・」

 僕主導の理屈っぽい話でご夫婦に抗議するつもりが完全に僕は間抜けで無知な少年の役割を担ってしまっている。

「それに、子育てって、本当に大事な仕事。だって、1人の‘人間’を育てるんだよ・・・並大抵のことじゃできないと思う。おばあちゃんも言ってたけど。

 できる限り母乳で育てた方がいいし。母乳は男の人に代わってもらう訳にいかないし・・・ 若いに越したことはないと思う」

「でも、今は30代で初産、っていう人が多いみたいだよ。旦那さんが40代っていうのも普通みたいだし」

「かおるくん、ちょっと計算してみて。

 もし、旦那さんが40歳、奥さんが37歳で初産だったとするよね。子供が高校二年生の時、両親は何歳?」

「57歳と54歳だね」

「もしかしたら貯蓄もかなりあって経済的にも余裕があるかもしれないけれど、年齢的には色んな意味で‘引退’が近づく年だと思う。だから駄目、って訳じゃないけれども・・・前、進路のことで話し合った時に、川名くんが言っていたことも分かるし・・・

 でも、子供が高校生や中学生でこれから社会に羽ばたく、っていうタイミングの時に、両親が働き盛りの年齢で、貧しいながらも社会人として、親として悪戦苦闘しながら懸命に生きてる姿を見せてあげることが子供の‘教育’にはとても大事、って気がする。それで、両親の若さだけでは補えない部分を舅・姑なんかに助けてもらえるのが自然かな・・・って。

 かおるくんやわたしのおじいちゃん・おばあちゃん・お父さん・お母さんみたいに・・・」

 僕もご夫婦も、聞き入ってしまっていた。

 けれども、僕は一つの質問をどうしてもしたかった。

「でも、子育てと仕事のキャリアを築くことの両立をする社会的環境がないから、男の人と差がある、って言う女の人もいるよね・・・」

 僕がまた理屈っぽい質問をすると、さつきちゃんは落ち着いた口調でゆっくりと答えてくれた。

「かおるくんには、そんな風に思って欲しくないな・・・

 世の中には大事じゃない仕事は一つもないと思うけれども、その中でも子供を育てる、って実は物凄く創造的で遣り甲斐もあって高度で難しい仕事だっていうことが、もっと社会的に評価されていいと思う。もちろん、家庭それぞれに色んな環境や事情があるから一概には言えないけれども・・・例えば、子供が学校から帰って来て、台所からお母さんが、‘お帰り’って声をかけるたったそれだけのことでどれだけ子供の心を安心させて情緒を育てるか。専業主婦の真骨頂、と言ってもいいくらいだと思う。子育てと‘会社の’仕事の両立は‘できない’とは言わないけれども、‘とても難しいこと’だって思う」

 僕は、さつきちゃんの答えに対して何か言おうとしていたけれども、あまりにも理路整然とした説明なので、口だけがぱくぱくと空回りするような感じになる。

「どうしても‘会社’で働きたい、っていうのなら、早い内に、‘子供を産むんだ’って自覚をもって、‘惚れた腫れた’じゃなく、真剣に相手を探して若い内に結婚した方がいいと思う。それで20代の内に子供を産む。子供が自分で生活の糧を得られるようになるくらいの年齢までは、バリバリと子育てに打ち込む。そうすれば、まだ30~40代前半で、次の仕事にも心置きなく打ち込めるよ、きっと。

 政治家の人たちが共働きの夫婦のために保育所の充実に努めるのももちろんいいことだけれども、‘両立’のための政策だけじゃなくって、‘子育ては専心打ち込むべき国の急務である’っていう、思い切った政策を打って、わたしみたいな女性の地位向上にも努めて欲しいな・・・

なんて、自分で勝手に思ってはいるんだけれど」

 こうして改めて聞いてみると、さつきちゃんや、さつきちゃんのおばあちゃん・お母さんが言って実行してきたことが、‘古風’でありながら、実は物凄く‘合理的’であると認めざるを得ない。

 反対に、‘両立’は時代の先端をいく議論のように一見感じるけれども、「政治や社会がなんとなく作り上げた常識」を、ばさっ、と取り除いてしまえば、恐ろしく非合理で非効率的な議論に見えて来てしまう。‘物事の根本’がどこにあるかをよく考えないと、この先、この国にとって、本当に必要な対応が取れなくなるような気がして、恐ろしさすら感じた。

「でも・・・結婚も、子供も、‘縁’を頂いて初めてできるものだけどね・・・」

 さつきちゃんはそう付け加えて、僕の顔をじっと見た。そして、にこっ、と笑う。

 もはや僕の厚みの無い理屈などどうでもいい、と思った。これこそがさつきちゃんの‘真骨頂’なのだと思う。僕は本気で、さつきちゃんとこの先もずっと縁があって欲しいと改めて願う。

 ご夫婦が、ぼくとさつきちゃんに、そっと会釈をして新生児室の前を離れて行った。

「?? 知ってる人?」

 さつきちゃんが不思議そうに僕に訊く。ぼくはただ、ううん、と首を振っただけだった。

「あ」

 僕がそういうと、さつきちゃんも僕の視線の先を追うようにして見る。

 隣同士に並んだ男の赤ちゃんと女の赤ちゃんが、同時にあくびをした瞬間だったのだ。

 さつきちゃんが嬉しそうに笑う。

「あの子たち、縁があるのかな?」


 楽しいひと時ではあったけれども、帰りのエレベーターの中で、僕とさつきちゃんは少し厳粛な気持ちになった。

 自分で点滴のスタンドを押しながら、とても痩せた若い女の人が乗って来たのだ。顔色もとても悪い。

 その人が降りた階は、終末医療を専門に行う特別なフロアーだった。

 今日、生まれた赤ちゃんもいれば、同じ日に亡くなる人もいる。

 言いようもなく寂しい気分になった。



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