起奇鬼危帰 弐
ガシャーーーーーーーン!!!
「なんやなんや?!いったい……」
すぐに扉を開け、下の階へと走る。
パリーーーーーーーン!!!………………………ガシャガシャガシャガーーーーーーン!!!!
ものすごいけたたましい音。
食器だけやない。鍋とかか?もうなんか棚とかでも全部ひっくり返しとるようなすさまじい音や。それがなんかちょっと間を置きながらも階下で鳴り響く。
階段を一気に駆け下りる。
下りた先すぐのリビングと台所の部屋に入った。
「どないしたん!?」
入った時にちょうど鳴り止んだとこで、ウチの声もよく通った……と思う。
「は……?」
入って見た光景はすさまじく、台所だけでなくリビングもひどかった。
ソファやクッションは綿が飛び散りズタズタ、テレビはヒビ割れとる。みんなで食べるおっきなテーブルも真ん中で叩き割られ、窓も割れて破片がたくさん飛び散っとった。
「な、なんやこれ……? ママ? い、いったい……」
台所の中も棚が倒れたりしとるけど、それをやったと思うモノは見えない。
流し台より下の方にいるのか隠れとる……?
一瞬地震やったか? とか思うも二階にいたんやからありえへん。
ママ? そんなに怒っとる? ………………ありえる…。
もしくは、あっ、ど、ドロボウさん……?!
なんにしてもアカン、ヤバい……。
音は鳴り止んだまま……台所の向こうで動きはない。
これ、これ……覗かなアカンかな……?
うわ、嫌や……今すぐ部屋戻りたい……。
でも、あ、なんか変なちょっと大きい動物かも…カラスとか? 間違って入ったとか……?
ああ、じゃあちょっと大丈夫かも……?
……………………………机をほぼ一撃で叩き割ったり棚を倒しよるようなカラスが??
「(プルプルプルプルプルプル……)」
止めよう、ママや、きっとママや。ママがなんかちょっとこう……ドジふんじゃったとか……そんなや、きっとそう、きっとそうや! ……な、なら、は、は、早く助けな……このがれきから、早く助けなアカン。そうやって、きっと。動け動け、早くせな、し、死んじゃうかも。時間、大事やで。いのちだいじに、や。
「ママ……?」
台所の手前まで近寄る。
中を見る。
あったのは山のようにこぼれ落ちた皿や食器類。その山のてっぺんに…………………………………………………角があった。
「?」
角や……。三角形なややとがった角(正確には円錐か)が二本、にょっきり出てた。
なんの角やろ……?
角って何の動物?
とりあえずカラスじゃない。くちばしとかには見えんし、角がある生き物って何があったっけ……?
普段見るのは……いや、角がある動物なんてめったに見んで?
奈良行った時にシカ見たけど……。こんなタケノコみたいにまっすぐとんがっとったっけ?
すると角が動き、皿や食器が揺れ動いて本体が出てきた。
「ああ、なるほど……」
現れた姿は、……………………………………鬼だった。
絵本とかでよく見た。
ずんぐりした頭、腰にトラ柄のパンツ一丁。肌はやや赤みがあって渋みがある感じ、くすんだ色って言うかな、やや暗い方向の色、でも赤い、ちょっと赤い。
お腹は出てて、胸らへんはガリガリ。
鬼の子供。
ウチよりずっとちっちゃかった。ウチのへその位置位しかない。幼稚園児とかの背丈やね。
何の本で見たかな?
いや、本では見たけど実際の物で見るのは初めてや……。
へぇ……え? じゃあこいつが暴れとった?
え……どうしよ……。
こういう時どないすればよかったっけ……?
▷こうげき
どうぐ
ぼうぎょ
にげる
いやいや、『こうげき』て。これゲームやないし。『どうぐ』なんも持ってないし、あ、今足元にフライパンあるけど……。『ぼうぎょ』ってなんや……? 『にげる』? 『にげる』? ……う~ん、でもここウチん家やし、逃げる先がここっちゅうか……もう逃げた果てがここやのに逃げるも何も……。
……こういう時ってゲームって役に立たへんな……。
どれも却下。
頭の中の本でまっさきに思い出すのが泣いた赤鬼とか、劇場版ドラえもんで助けを求めて家に転がり込むパターン。よし、まずは『優しく』や、うん、そうしよう。浦島太郎とかカメに親切していいことあったし、桃太郎……になったらまた考えよう。
「な、なぁ……大丈夫?」
とりあえず、言葉、通じるんか?
しばらくこっちではなく倒れた棚とかの方を向いたり顔をプルプル振って何かしとったけど、ウチの声でこっちに気づいた。
目が合う。
へぇ、犬歯(?)やったっけ……?
下からのがちょこっと閉じた口から出てる……。目がちょっと生意気そう、正直かわいくない……見た目で判断するのは保留、顔は生まれで選べへん。
「……ぐ?」
「『ぐ』……?」
しゃべれるんかな……?
表情が変わらん。こっちもなんか下手に変えて怒らせたりするのは……。
そして、しばらくにらめっこ……。
「……………………………」
「………………………」
どうしよ……。向こうも動かん。こっちもどう動けばええやろ……。下手して警戒とかされてもなぁ……。こういう時、あ、そうや、初めての相手やったら『はじめまして』やんな、そんで自分の名前を言えばええんやっけ?
そやそや、相手の名前を聞く前に、自分の名前を言うんがマナーやったね。
ウチ、よく思い出せた、えらい。
「えっと、……はじめまして」
「…………………」
「ウチの名前は、緋桜 如月(ヒオウ キサラギ)……です」
「…………………」
…………………………………………
はんのうが ない
ただの しかばねの ようだ
……いやいやいや、生きとるし!!
「……………………………ヒ……オウ…………」
「!」
おお、今ウチの名前言った?!
「そうそう、ヒオウや、よろしくな」
友好のしるしであくしゅあくしゅ。すっと前に手を出した。
するとテクテクとこっちに歩いてくる。おお、通じた? 通じた!
「…………………」
ウチの目の前で止まる。差し出されてる手を見つめる子鬼。
あ、握ってくれるかな?
手は……あ、指は5本あるんやね。
お、差し出してくれて「うん」
握って「うん!」
じゃああくしゅ♪「うん♪」「がう」
瞬間、手に痛み。「ガッ!?!」
ヒュン……!
そして視界がめちゃくちゃにウエもしたもわからない。そんな内に、背中から今度は衝撃がハシって、腕からなんか落ちて、し界がシロ黒しながら自分はオニより低く、見上げテイタ。
「い゛っだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
なんや?!
なげとばされた……!?
うで、いっぽんで…………?!
「krgggggggg……あ゛う!…gう…!」
いきつクまもなく、おナかやかた、ネころんどるウチをめっためっタにけったりたたイたりしてくる。
なんヤこれ?! なんやこれ!?
ナんで? なんで?? なんでなン?!!?
ウチ、なんかわルいことした?!!??
「イたいいたイいたいいたイ……うぅゥううぅぅぅ……あアああああ、いたいぃィいぃ!!」
いっぱついっぱつが全ぶ、めっちゃ強い、すんごいイたい! めっちゃ痛い!!
コわれる!! 肩とかハズれる!! 骨が折れる!!!
痛いいたい痛い痛い!!! やめて、やめて!?
「ゃめ゛て! や゛め゛でぇ!!」
「がぅ!! kgrrggggg!!!! ごぅ!!!」
全然やめてくれない。
死んじャう! このまマやと死んじゃウ!!
どうにかせんと!!
とっさに頭を守っとった腕を一本、何かないかト当たりを探り、何かをひっつカんだ。ウチはそれヲ思いっきり振りぬく。
「ぅああああああああああ!!!!!!!!」
ガンッ!!!!
金属のやや鈍い音が響いて、叩かれるのがなくなった。
でも痛い、痛くて痛くて死にそう。何これ……。
じんじん痛い。ずんずん痛い、バカバカ痛い。アホな位痛い。死ぬほど痛い。
「はぁあぁあぁぁぁ…!……ぁああぁぁあぁ!!……ああぁぁあぁぁあぁあ……!……くっ…ふぅううぅぅうぅぅううう……!……ふうぅうぅぅぅうぅううぅう………!!……うううぅぅぅぅぅうぅぅうぅぅぅぅぅ………!!!……」
泣く、いやもう泣いてる。歯が勝手にガチガチしとる。
鼻水じゃなくて鼻血が出てる……床がぬるぬる……汚い。手や腕にもけっこうついてもうた。手とか、切れてて、血が出とる。
「はっく…ぅぅうぅうぅぅ………ふぅぅううぅうぅぅう………ぐっす…ひっ、……あ、え、エッフ! ゲッフ!!……うふ、………ぅうぅぅうううう……」
痛い、痛い。焼け付く、熱い。身体、燃えとる。
でも、は、早く……!
周りを見る。
鬼はすぐ横の棚につっこみ、物に埋もれとる。あ、今起きて出ようとしとる。
アカン、はよ、逃げな。
ここを離れな。
手に掴んで子鬼を殴ったものは最初に足元にあったフライパンやった。
そのまましっかりと持って、立ち上がる。
「っっぐぅぅうぅうう!?!!!」
痛いけど、逃げな、逃げな。逃げな!!!
外に出よう!
玄関や、靴はいて、外に!
リビングから出ようとする。足もいろんなとこがズキズキする。扉のふちに手をついて、そっから壁伝いにいこうと思った時、後ろから声がした。
「krrrrgrggrgrgggrgrrrrgggggggggGrGGgggRGRGRGRggrgrgGRRGRGRGRGRGGGGGGGGGGG!!!!」
のどを鳴らすようなうなるような声。声と言ってもいいかわからない。けれどその音はあまりにも聞いたことがない位に大きく、思わず振り向く。
するとそこには崩れた山から出て天に向かって吠える子鬼、いや、次第に大きくなる……!!?
子鬼は、いや子鬼だったものはあっという間にウチの身長よりもグングン大きくなっていく。腕や足の太さは倍以上になって筋肉もりもり。胸板は裸なのに鎧みたいにかたそう。腹はテレビでしか見たことないように割れててボコボコ。顔は犬歯が伸びて鼻と同じ位の高さに。そして、身体中の肌の色がもう人の類とは明らかに違うレベルで真っ赤になり、額と言わず、身体のいたるところにムカつきマークが出てる。いや、なんか血管、中に生き物でもいるみたいにうねっとる……。
アホや……あんなんでもっかい殴られたら、一発で、たった一発で、死ぬ。
死ぬ。
思った瞬間、もう向こうの事なんか知るつもりもなく一心不乱に玄関へ。
靴に足を突っ込んだらすぐに戸をあけてダッシュ。
人が多い方へ。右。
走りながら靴をはくという今日編み出した技で4歩で両足はきながらすぐに全力疾走。
学校へ行く道。その途中の大通りへ向けて走る。とにかく走る。
この一瞬だけ、痛みも忘れた。
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