Rabbit hole 十
会計を無事済ます。
なんか370円やなくて389円やった。
なんや消費税て。5%とかわからん数字入れんでほしい。400円越えなかったし、別にええけど。
ママと買い物しててもあったけどこれほんまよくわからんな。5円足すだけじゃあかんの?
まぁ節約はしてもケチケチはせんようにせんと。貧乏臭くなる。我慢するとこしたし、お店に迷惑をかけずに出るんや、それでええねん。
さて、ビニール袋に入れてはもろたけど、これリュックにしまわなな。外出てからやろ。そう思い、コンビニの戸に手をかけると。
「ちょっと君、待ちなさい」
「?」
呼び止められた。コンビニの店員のおねえちゃんに。なんかよくない顔をしとる。
レジからわざわざこっちまで来てリュックをつかまれた。え? なんやの??
「聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「え? あ、はい…」
ウチ、なんかしたっけ? ストロベリーガムならちゃんと買うたよ? 自分のおこづかいやし。
するとお姉ちゃんはなぜかウチのリュックの外側のポッケをゴソゴソした。え? ちょっと勝手に触らんでや。
「な、なに?」
そして何か抜き出した。
「これは君のものじゃないね?」
見るとそこには全く見覚えのないポッキーの、しかも大人の苦いのがあった…。
「え? …えええええええ?!?!!??」
知らん知らん、ええ??! 何これ?!! なんでウチのリュックの外ポッケにあるん? 入れた覚えないけど!? ポッキーなんて取れへんっちゅうか取らんかったし!
なんで? なんでなん??
「君のじゃ…ないよね?」
え、じゃあつまり、これ、ウチ、ドロボウ?? ドロボウにされとる!? え、ええ!?
「ありがとうございました。ちょっと酒井くんどうしたの?」
「ああ、いえ、確認を。それより…」
うっわ!! うわぁどないしよ!? え、え、ウチなんも知らんよ?
ドロボウとちゃうよ?! そんな素振りもしてな…
あ、でも…店のもんじーっと見とって、さっき右左右でキョロキョロしとって…おまけに、そもそもウチ、周りから見たら挙動不審ゆうやつやない?! え、ドロボウと疑われてもおかしないやん…。
「ち、ちぁう…」
「ん? 違うんだね?」
「はい…」えっと、ウチ、ドロボウやなくて…な、なんて言えば信じてもらえるんやろ…。
「えっと…うチ、ゥチ…」
「ああ、怖がらせてすまない。君が盗ったものでもないよね?」
え。あ。
「うん!」絶対ちゃう。ほんまにちゃう!
「そう、じゃあもう行っていいよ」
え…。
「??」
「うん、ご利用ありがとうございました。また来てね」
戸を開いて外に出してくれた。な、なんやったんや…。……………………怖っ!
ええ…………。とにかくなんか、信じてもらえたみたいや。よかった…ほ…。
振り返るとお姉さんが手を振ってる。
「ちゃんと見てたから」ウィンクした。…かっこええ。
「………そんで、君は二度と来んで欲しいなぁ」
扉が閉まりながらっというかわざと閉めてそう言ってお姉さんは…あ、さっきのにいちゃん、さいてーのサイテーや。
やーい、なんかお姉ちゃんに怒られとる~♪
ええ気味や。あれ? でもなんで怒られとるんや…??
「君は早くもう帰りい。夜道は危ないで?」
お姉ちゃんがまた扉を開けて追い立てる。しょうがない。とりあえずここを離れよう。もうウチはドロボウではないんやし。
「君が………リュック……を…入れ………見…。…乗じて……これ……盗もう…………」
コンビニから離れる中それでもかすかに聞き取れたけど、何を言っとるのかイマイチわからんかった。
怖かったし、あんまり思い出さんとこ…。あとちょっとで泣きそうなるとこやったわ…。
お姉さんにはお世話になった。またこのコンビニには来よう。
ああ、でもあのサイテーには会いたくないなぁ…。
うーん…いや、気持ち切り替えてこ。そや、買うもん買ったんやし、なんか食べるか飲もう。そやな、とりあえず…
「ピコン、テッテレレッテッテーテテー♪ コカ・コーラ~♪」
既に手元にビニール袋などない。これは四次元ポケットや!そこからコカ・コーラを出す。
前々から野球の応援やバスケの試合の応援に使うようなおっきいペットボトルのに入ったやつはあってんけど、つい最近になってそれより小さいけど缶より大きいんが出た。この赤のデザイン! 缶と違て中も見えるんがすごくええ、しかも持ち歩けるサイズ。めっちゃかっこいい!これは買って正解やな。いつもならパパやママと半分こするけど、今日はこれ、全部………ふふ…フハハハハハハハハハハハハ!
今のウチ、最強や! 魔王を倒せる!! ドラえもんの映画で出てくる悪い奴倒せる!! おらんけど!!! アハハハハハハハハ!!
歩いてたけどちょっと立ち止まって栓を開ける。
この瞬間だけは緊張の一瞬や…。
「ゴクリ…………」
口で言ってるとかツッコミはなしや。今そんな時とちゃう!
下手すると爆発すんねんで!!
ガチリ…ッシュ!
おう! こ、ここでちょっと止めとこ。ウチ知ってんねん、少しずつ開ければ…
……シュウゥゥゥゥゥゥゥ…………
「よっしゃ!!」
『シュワワワワ!』にならへんねん。大変なんは最初のほんま『ガチリ』の時だけ。
フタを開け切って一口、グビリッ!グビリッ!
「…~~………ッくぅ~~…!!」
この、のどごし! このキレ!! 洗練されたクリアな味・辛口!
アサヒスーパードゥライ!!
………………………………。
いや、コーラでした。
うん、外で飲むコーラ! これ、めっちゃうまい!なんやこれ!!?
思わず沈んだ夕日にかかげ、もう一杯! いやもう一口! グビリ! うん、うまい!! グビリ! たまらん!! ヒャ~♪
せやけど、これやっぱ一気って難しいな…。
「………………………………………」
いやいやいやいや!! もったいないし!!
まだこのあとでスニッカーズとかと一緒に飲んだりする分、残しとかな。貴重な水分やで! いや、公園とかの水道ででも飲めばええけど…。
とにかく、コーラの栓をいつもよりちょっときつく締めた。
さてと、四次元ポケットをリュックに詰めて…はみ出てるけど…これで一応準備OKや。
どこに行こう。なるべく知らんとこで…でもあんまり遠出ゆうんもなぁ…。
ひとつだけ…。
知ってるけど、知らん場所…。
あのおっきな木が一本ある丘…。
あそこやったら、なんか大丈夫かなって思う。
夢の中やったけど、基本ウチ以外、声がする位で誰もおらん。声にしても特に悪い感じは…。現実やと、どうなっとるんやろ。いつも晴れた空の下やったけど、こんな夜とかは…星でも見えるんやろうか。寝るとしてもバッチリ。
でも、どこにあるんかさっぱりや。この辺に近い気はするような、せんような…。
でも、なんか、いや、やっぱり近い気がする。
ううん、近い。
絶対に近い。ハッキリと思う。ウチはそこに行かなアカン気がする。
そうやん、ここをもうそう遠くない内に離れてまうんやったら、それこそ行かな…。行けるチャンスはもう、そうないやろう…。
「ああ…ここに居りたいなぁ…」
ここで残せる数少ない思い出。もうあんまり作りたくない気もする。でもウチにとってこの場所は、この町は、やっぱり大切。
大きな思い出を作ってみよう。
ウチの大冒険や。
勝手に家飛び出すんも、一人で買い物するんも、コーラ飲むんも、ウチにとって全く未知でドキドキして、ワクワクした。もっともっとドキドキしたい、ワクワクしたい!
探そう、あの場所。
まずはあんまり入ったことなかった、河川向こうのあの木々の多い公園かな。木があるとこってそこ位しかとりあえずないし。よし、行ってみよう。違ったらまた探すんや♪
そうして少し前で両手をグーに気合いを込めてみた。
タッタッタッタッタッタッタ……
「ん?」
うしろからなんか走ってきとる。
振り返ると…げぇ。遠くからさっきのあのサイテーが向かってきてた…。
コンビニでウチにわざとぶつかったりなんか感じ悪かった年上のサイテー男。
何も持たずに一心不乱に走っとる。へぇ、あんななりしてても必死になれるんやね。
とか思ってる間にもグングン近づいてくる。
あれ? よく見ると後ろからコンビニ店員の綺麗なお姉さんも追いかけてきとる。
あ~わかった、これ。
なんか悪いことやっぱやったんやな、あのサイテー。そんでなんかどうにかして逃げ出したと。お姉さんが追いかけとるけど、ちょっと距離あるな。
今ウチらがおるこの道は線路沿いの一本道で少なくともウチのとこまでは枝分かれや脇道はない。歩道は広くなく人が2人か3人並んで進める程度、車道は2車線で適度に車が走っとる。あのサイテーは最短距離いきたいやろうから当然真っすぐウチのとこまで来るやろ。ほんなら…。
とことん邪魔したるわ。
背中を向いて歩道の真ん中を歩いていく。少し前を見て…よし、あそこや。
街灯がある。
そこに後ろからある程度走ってきた足音のタイミングで歩幅を調整しながら歩き続ける。
音を聞き続けることに集中。さっきもやった。よく聞け、一瞬も聞き逃すな。
街灯を通り過ぎたら、当然影が前に伸び始める。
もう足音はすぐそこ。
これは賭け。車道に出られたら終わりやけど。せめてのちょっとした抵抗っちゅうか仕返しや。向こうが不快に感じたらそれで、ウチの勝ち。
影を見続けながら音を聞く。
足元から頭がひょっこり出る、右!
そっちは住宅の壁側、奴はウチとその壁の間をすり抜けてくつもりやな!
「(よっしゃ!)」
思った瞬間、身体を振り向くように左に向けてリュックと身体で2人分のブロック!!
どや、これで踏ん張ったれば完全に止まらざるをえんやろ! 身長差はあるけど跳び箱7、8段位のこの高さ、急に現れてとっさのこのタイミングでは越えることはでき……
「どけっ!!! うっざいわボケぇ!!!! 死ね!!!!」
ドンッ!!
突然、奴の姿を見る前にもの凄い力でリュックを吹っ飛ばされた。
「?!」
あまりの力でリュックに身体をもってかれる。
ヤバい。
思うと同時に車道には出んようにとも思い、とりあえず尻もちでも着こうかともつれながらの足を自由にしかけた。
と、そこに
「キャッ!」
キキーーーーーッ!
最悪。
ひどく耳をつんざくような高いブレーキ音に目を向けて、見ればさっきまで進んでた方向からすぐそこに自転車が来とった。しかも先頭に子供乗せたママチャリ。
影と背後の足音に集中しすぎて全然気づかへんかった。
ああ、それもそうか。
よくよく見ればママチャリはただのママチャリやなく、最近CMやニュースとかで話題やった電動のママチャリ、新しくて新品。なめらかな走りやもんね。
「んなこと、どうでも、ええねん!!」
自分ができることなんて、これしかない。
ダンッ!!
もつれる足で。
片足で一歩。
大きく跳んだ。
車道に。
向こうが方向転換なんてできるわけない。やって下手したらこけたり、子供を放り出しかねへん。あの高さから放り出されて無事に終わるなんて思えへん。
絶対にぶつかるわけにいかへん。
こっちが動くしかない。
リュックにもってかれてる勢いがまだ残っとった。その流れに更に力を加える形。
しかし、足が少し変な力のかけかたになってしもたやろか。変な痛みがあった。
これは痛めたんやろか。
次の着地ではいよいよまともな体勢ではいられない。すぐに動き出すこともできへんやろう。
ぶぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
そして、今更ながらなんでこんな瞬間の時間なのにこんなに色々、物が見れたり考えたりできてるのかがなんとなくわかった。
これ、そうまとう、ってやつやないの?
目の端で、トラックが来てるのがわかる。
身体はまだ着地しない。いや、してもまず背中とかやないかな。まずリュックやし、ケガせんよう……そう考えて背面跳びしたんやし。
よりによって前の、自転車と同じ進行方向から。
「……っ!」
こんな時に、「ちゃんと前向いて歩きましょう」なんて、幼稚園の先生とかママによく言われたこと思い出すんか。ウチ、ちゃんと右左右とかちゃんとやってたのに……。
これ、わかっとったらもうちょっと、せめて斜めに衝撃を減らす感じにでも跳んどったのに……。
次こんなことあったらそうしよう。いやいやいや、次が無いからこんなことなっとんねん。
次がない……。次がない……?
終わり……? 死……
嫌や
嫌や……嫌や……嫌……。
いやや、いやや、いやや、いややいややいややいややいややいやや。
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい。
しにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて。
そこのママさんとボク、口あけてないで。
サイテー、お前でもいい。おまえでいい、こっち見てんなら。
おねえさん、そんなはなれたとこから手、のばしても……。
だれでもええ…。だれでもええから…。
パパ、ママ、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……。
おねがいや…おねがい…。
………………………………。
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。………………………誰もおらん。だれもおらん。
……ウチしかおらん。
ウチしかおらん。
ウチしかおらんねん。
ウチや、しっかりするんや。まだ考えれとる。
泣くな、乗り越えろ。しっかりするんや。
冒険や、冒険や、冒険や!
歯ぁくいしばれ。
体勢は背中にほぼもってかれとる。空中では何も動けん、無理。
せめて、せめて着地したら、この足一本でもどうにか。この際どっちの足でもええ。向こうの車線は確認できん。いや、こんな体勢でもっかい跳んでも向こうの車線までいけへんやろう。どっちかの足、さっき痛めた足でもええ。そしたらどんな激痛走ろうとトラックと進む同じ方向へ、少しでも斜めへ、力を込めろ。
そんでリュックを地面やなくトラックの方へ少しでも向ける!!
ひざを曲げろ、地面に、地面に早くつけ!
トラックが身体につく前に!
足、仕事しろ!
トッ……
よし、かかとが着いた
ドンッ!!!!……………………ベシャアアアアアアア!!
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