Rabbit hole 九
さぁ、冒険の始まりや!!
…………………………………………………………………………………………………………………………………………どうしよう。
いやいや、その、ほら、あれ、アレやん、時間がちょっと遅めの散歩、そう、そんな感じ…!
……………………女子の夜歩きって危ないやん…。
用もないのにプラプラってアカンくない?
家の近くをちょっと歩くならまだしも、家からなるべく離れようってわけやし…。
そもそも、出たのはええけど、とにかく家から離れたいもええとして、どこへ行こう…?
え、どうするん、これ…?
………………………………大村ちゃん家…? いやいやいや、それただのお泊りやし。いきなり行ったら迷惑やん。連絡とかちゃんと入れんと。それこそママやパパにまずそういう事をするってちゃんと前々から伝えといて…。伝えといて……。………………………………。
どこでもええやん……。
とにかく離れよう。離れて、しばらくしたら落ち着くと思う。
そんで帰って、ちゃんと謝ろう。それでええやん。許してもらえなかったら…嫌やなぁ…それは怖い…けど、今は、今だけはあそこにいたくない…。
居たくないねん…。
とりあえず、自分の知らん場所に行きたい。知っとるとこは、何かしら思い出がある。
途中の道々でさえも誰かの家へ遊びに行った道だったり、休みの日にママとパパと車でどっかに行った時に通ったもんやったり…。
たった数年でも、ウチにはとってももう長い事おる場所で、たくさん思い出がある。
その思い出と離れなアカンのは、その思い出を捨ててゼロからまたやるんは……。あまりにも………。
「…………っ…!? ………アカン………………アカン、アカン………。………~~、……っ……、…っ………、……………、…………」
ボロボロ、ぼろぼろ…。
泣くんやない…。泣くな、泣くな…。ウチ、いつもこれやん…。
いつもと違うことしろ…。違うこと考えよう。
そや、こんなん泣いてたら誰かに余計気にかけられてまう…。
止まっとるな、歩け、歩け。
歩き出す。
もうかなり夕焼けも終わって暗がりやから、めそめそさえしとらんとけば、誰も泣いとるとか、気づかへん。
既に袖あたりがぐっしょりやけど、こんなんすぐ乾く。
リュックからアイテムなんてまだまだ出すな、それは必殺や。ここぞって時に以外に出したらアカン。
とりあえず、知らん道に入っていく。けど、まだ学校と家、あと駅や商店街とか知っとる範囲の中やし、まだまだ迷子になるような気はせーへん。
むしろうっかりすぐに知っとる道にこのままやと出てまうやろう。
知らない家が並ぶ中を一人、てくてくと歩く。
周りには良かったんか悪かったんか、誰もおらへん。
けっこう派手な色をした壁の家や特徴的な屋根をした家、庭が広い家とか全部木でできたの全開にしとるような家とかもあるけど、暗くなってきた今だとどうもイマイチ、パッとせーへん。
どこも灯りがついてて、あったかそう。
いや、季節的に別に寒くはないからええねんけど。
「そや、そういえば寝るとこやな、まず…」
そやそや、この季節で今なら外は夜でも寒くないからそんな分厚いもんいらんかなって思ったりもしたんやった。けど、今更やけど外におってパジャマはいらんな…。着替えんわ…。なんでパジャマ持ってきたんやろ…森ん中で人が誰もいないとこ確認したりして着替えるんか? あ、公園の公衆トイレで? …何しとるんそれ…しょーもない…。少し笑える。
「………………………」
だんだん気持ちも落ち着いてきたみたいや。でも、まだ帰るとかは論外で。
寝るとこと、そや、まず晩御飯をなんか食べよう。
食料をどうにか外に出たら買いこむ思てたんや。忘れとった。
ここらでなんかないやろうか…。しゃーない、今だけ、自分の知っとるとこに出よう。知っとる人に見つかる可能性が高くなるかもやけど。
自分の頭の中で近くに何かなかったか思い起こす。
この辺やと…あ、コンビニがあったわ。
今は線路沿いの住宅。もう少し行った先で踏切を渡って道なりに歩けば、ぽつんとあったはずや。
「お金あったかな…?」
ポケットからサイフ出して、所持金は…1300円くらい。うん、お菓子がたくさん買える♪
いやいや、もったいない。300円位使う感じで。この先何があるかわからへんし。一ヶ月500円でコツコツ貯めといてよかった。貯金箱はまだまだ開けへん。
どんどん歩き、踏切を渡る。
もうすぐコンビニが見えてくる。ってより柱にのっかって高く上がってる看板ならもう見えとる。
ちなみにどっか食べるお店で食べるとかありえへん。普通に千円やそれ以上のんが一皿でしたりするんが普通やし、あんなん使えへん。コンビニならなんでも揃う、ほんま最高や。あと100円ショップ。100円ショップとコンビニを考えた人はマジで天才やな。
「よし…」
住宅街の中にポツンとあるローソンに着いた。
ここは駅前とかと違(ちご)て人はそんなに来いひん。
まぁ、そんなにであって、人はおる。
バイクとか車も止まっとるし、外のこっから見ても少し人おるね…。今も一瞬ためらっとる間にウチを変に見ながらサンダルとシャツ・短パンのおっちゃんが入ってった。まぁわかる、わかるでおっちゃん。こんなおっきいリュックしてたらそら目立つやんな…。
まぁしゃーない。ここは、いっちゃん始めから発生する思てたイベントやし。これは仕方ない事なんや…。ってかいつまでもここでじっとしとると余計怪しまれる。防犯カメラもこっち向いとる、ヒィ。防犯カメラってあれやろ、怪しい動きすればする程、しとる奴をどんどん撮り続けるんやろ? …ウチ、アカンやん。警察にランク付けされてデータが行ってもうて、ウチの捜索願の照合と一致する前にここを離れなあかん…。
買うもの買って早よ出んと…。
ピロリロピロリロ…
………………………ゴンッ!!
「いった?!」
いや、痛くはない。思わずクセで言ってもうた。ドアにリュックがぶつかった…。反動で少しよろける。
レジの店員さんが思わずこっちを見とる…。
アカン、油断できん…。スニーキングミッションモードで行くべきなんか…!?
もう見つかっとるのに?? 意味わからへん。
お菓子やお菓子! おっかし~♪
「♪~」
めっちゃテンション上がってきた!
お菓子の棚到着~♪ アメガムは後で見よう。
ガシャッ! …ポテ…………
「…………………………………」
「…………………………………………」
OK、ちょっと背伸びや、背筋をのばす。そう、OKや。
そんで…リュックがぶつかって落ちたガム…ロッテのストロベリーさんを大事に大事に…ああ、反対の棚にぶつからんように…戻す。ふぃ~…。
「…………………………………………………………」
「…………………………………………………………………………………………」
わかっとる、わかっとる。
め~~~~~~~~~~~~~っちゃ見られとる。
店員さんの前でめっちゃやってもうた…。
まぁでもほら、アレやて、旅行行く人の恰好に見えんくもあらへんし…。
……………………一人で? 小学4年生が…?
「…………………………」
「……………………………………………………………………………」
仕事しぃや店員のねえちゃん、そ、そんなんじゃ儲からんで?!
いや、選ぶもん選んで早よ出よう。
う~ん、そうやなぁ…。
こういう時…食べ応えあるもんやんなぁ。
グミ…ハリボさん…? 外国のグミってなんかめっちゃ硬いやんなぁ…なんでやろ…いや、でもなんか違う。最近出たじゃがりこ…う~んでも量的にポテトやったらポテトチップやない? これ食べた感じするかなぁ…? う~ん、ってより、しょっぱいのより甘いのがええかな…。
ポッキー…。あ、アーモンドポッキー! パパが食べてたけど、これすっごい美味しいねん♪ ちょっと高めやけど普通の買い物についていった時やとまず買ってもらえんし…これにしよかな。
「う~ん……。……。……う~ん……!!……。………………」
あかん、手が届かん…………。………………………………諦めよう。
こんなんで誰かに取ってもらうとか、冒険やない。まだ始まってもないのに。
「うっとうしぃわ、どけ」
いきなり横から声をかけられた。なんや?
見るとウチよりずっと歳が上のにいちゃんがおった。
「………」
なんやこいつの目…まるで、何人も人を殺してきたような…。いや、そんなことはないけど、ってかそんな目も知らんけど、なんか性格めっちゃわっるそうな好かん顔をしとった。若さから学生っぽいけど一度家にでも帰ったのか制服は着とらへんでラフな格好をしとる。さっきのおっちゃんみたいなダボったTシャツにジーパンで靴…。
いやいや、見とらんで今はリュックと身体で完全に通路ふさいどる自分が悪いな。
一旦………………どっちから出れば…。う~ん、にいちゃんの方から出ればそんな移動とか手間かからんのやけど…なんか退くとか全然頭になさそうな感じやな。
「…………チッ……邪魔や……!」
………舌打ち、大嫌い。やる奴はみんな滅べアホー。仕方なく、飲み物がある店の奥へ奥へと移動する。
あ、そうや飲み物も買わなな。
思い出してそのまま飲み物の棚を見てく。お茶や水よりやっぱり炭酸かな。いや、ここは………
ガッ………!
「!?」「…………」
痛った! いや、痛ない、なんや…?!
なんかリュックにぶつかった。
見るとさっきのにいちゃんやった。さっきの通路より広いから十分もう通れるやろうに、あいつわざと通り過ぎる時にちょっとこっちにぶつかってきおった…。もうにいちゃんは弁当とかのコーナーへ行ってて文句言うタイミングもない…。むっかつく~。なんやあいつ…サイテー。あんなん絶対モテへんわ。月に代わっておしおきされてまえ。
気を取り直して迷わずコカ・コーラを手に取り、お菓子の棚に戻ってきた。ちゃんと右左右見て誰も通りそうにないのを確認する。
上の方は別にええわ。下、下…。
あ、おもちゃ入っとるの…。忘れとった。
こういう特別な時にしか買えんもんもあるやんな…。え、どないしよ…。買う? 買っちゃう? 買ってまう??
セーラームーン…どれ入っとるやろ? 楽しみやな…チョコスナックやし…あ、けど全然何がどう、どの位入っとるか全くわからへんな…こういうのはママから日頃「もったいない」って言われとるし。う~ん、けど今なら手が届く、届いてまう…!実際、今、手に持っとるし♪
買おうかな!? …あ、でもちゃんと値段値段……え……えっ、高い、え?! 高っ?!! なんでこんなするん?? お菓子普通に3つ、チュッパチャップスとかで下手すりゃ5つ位買えるやん?! なしや無し!
あ~振り出し戻った~…どないしよ…はよせんと…。もうなんかどれでもよ~なってきたな…正直そんなお腹空いてへんし、買わんでもええんとちゃう?
リュックにアメちゃん一応少し入っとるし…ああ、でもこれ非常食の設定やっけ?
じゃあもう、量とかええわ。
アメガムの棚に戻る。
落としてもうたガム…。えっと…あ、バブリシャス! …これ最高やねんなぁ…風船にするんがまだちょっと苦手やけど、今回でマスターに向けて修行するんもええな! うわ、めっちゃええやんそれ、修行! 冒険にはガムやしな…うん! 値段もまずくない。これ決定!
他に………………………あ、あ、あ!!
これ!! これや!!!!
スニッカーズ!!!!!!
これは運命やろ! これを選ばない奴は…なんか…えっと…なんや!!!?!
ひゃ~♪
とにかくこれや!!! これしかない!!!! これ以外はない!!!! ありえへん!!!!!!! けってー!!!!
うひゃ~♪
たまらん! CMで雪山とかでほんま美味そうにかじりついてたんがおいしそうでおいしそうで。ナッツぎっしり確かな満足♪ 別に忙しくないけど、逃げてる途中サッと食べれるし、いやそんな感じで食べる気ないけど、でもでも、満足できるんやな? 期待しとるで! 是非食べよう。そうしよう。
さて、これでええかな。うん、こんなとこやろ…。
あ…。
「…………………………」
ロッテのストロベリーガム、落として棚に戻したやつ。
………………………………。
落としてしまったしなぁ…、汚れてしもたやろか…、店員さんは気づかんでもお客さんとかわかる人はわかってまうかもしれへん…。ウチら子供はみんなお菓子には目がきくしなぁ…。このガム、ウチが買わへんかったら買われへんかもしれん…。そしたら店員さん困るんやろうなぁ…嫌やな…店員さんは何も悪ないのに…。
しゃーない、ロッテさんのストロベリーはバブリシャスの次にまぁ好きやし…(正直ブルーベリーの方が好きやけど)。
さて…ちょっと待ってや。
じゃあこれでどうなったんや…?
値段を確認や。
コカ・コーラが150円、バブリシャスが100円、スニッカーズが120円、ロッテ・ストロベリーガムが100円。
合計…えーと…えーと………………470円!
………………………………………………めっちゃオーバーやん!!
え、何これ? 300円やったやん、なんでこうなるん??
飲みもんでもう半分いくんか…じゃあもうお菓子ひとつしかあかんやん。
え、最初からお菓子はひとつって決まっとったゆーこと???
なんや、だったら誰か言って~な!
……………………………………おるわけないや~ん!!?
アホやん、ウチ。今ほんまそれこそ一人やで!一人なんやで!!?
誰かおるわけないやん。
うわ~、こういうことか…一人って大変や…。家出ってこういうことなんやね…。ああちゃうちゃう、冒険や、冒険!! 今のナシ!!!
ああ…だからママはいつもお菓子はいつも一つ言うてたんやね…。しかも高いのやと色々約束とかあったし…。
今、なんかお金の大切さというか、価値がわかった気がする…!
チャララチャッチャッチャーン♪
キサラギは レベルが あがった!
かしこさが 100ポイント あがった!
「………………………………………」
いや、わかったとこでええけど、で、どないしよ…。どうする…??
いや、わかってるやん…諦めるしか…諦めるしか………………………え~諦めるん??
だってまだ冒険始まってもおらんのに…。
始まる前から諦めるが選択肢に出るて…しかもほぼそれ一択で選ばなあかんて…なんやこのゲーム…。いや、ゲームやないけど、リアルやけど。
そうか、これが現実か…現実は厳しいねんな…。今更やけど。
とにかくしょうがない…。今日は大盤振る舞い、出血大サービスやで! 300円やなくて400円位で行く!
そやなぁ、ここから一つだけ諦めるとしよう。
ど・れ・に・し・よ・う・か・な・て・ん・の・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り!
…………………て・っ・ぽ・う・う・っ・て・ばん・ばん・ばん!
………………………………も・ひ・と・つ・う・っ・て・ばん・ばん・ばん!!
よっし、ロッテのストロベリー♪ しょうがないやんな! 神様の言う通りなんやから!!
「…………………………」
ほんま、しょうがない。
「え~…飲料が一点、スニッカーズ一点、ロッテガム一点…以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
修行はするとして、風船ガムはまた今度にしよう。でも次スーパーついてった時は絶対バブリシャスにしよう。そうしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます