Rabbit hole 六

「ただいまー」

「おかえりー」

家に帰ると台所の方からママの声がする。晩御飯の準備でもしとるんかな。

手を洗ってうがいをし、二階へ上がり自分の部屋へ。

ランドセルを机の傍に置いて早速開いて算数の宿題を出す。

「きさちゃ~ん、りんごむいたけどいる~?」

一階からママが呼んでくれる。

「いる~。でもちょっとあとで~!」

こっちを先に終わらせよう。夕飯が食べれなくならないうちだから早く終わらせて食べなあかん。

ちょっとやる気を出して宿題に取りかかる。

授業でできなかった続き。

「2.85×39・・・45、72、18、そいで・・・4を・・・」

う~・・・。わからへん・・・。かけ算はできる。そやから答えは出る。けど、足す前に足しとくのがなんかわからんくなる・・・あってるかな・・・点の場所、・・・ここでええんかな・・・??。

四苦八苦してなんとか2問解いた。残り4問。難しいのばっかや…。2問で15分もかかった…。あかん、ママに聞こう。


「どんなに時間がかかってもいいからやってみなさい」

目の前でおいしそうにりんごをシャクシャクさせて微笑みながらそんなことを言われた。

1階のダイニングキッチンの傍のみんなが食べるテーブルに宿題を広げてママに聞いてみたけど、あんまり状況が変わらへん。

「うう・・・63.3×97・・・」

仕方なく、やり始める。ママのことだからりんごはウチの分とってくれてるやろうけど、目の前でシャクシャクおいしそうに食べんでほしい。早く終わらせたい。

「ちゃんと途中も書いてみたら?この辺に小さく、そう習わなかった?」

「あ…そやった」

習った。やってなかった。

「できないうちはできることから順序立てて」

「うん…」

なんでやらなかったんやろ…。

「なんでしなかったの?」

う~……。なんでだったろ?

「速い子は、やってへんし…。………。……」

あ、あかん…。………。

「……っ……、……」

「うん、うん…」

いつの間にかギュッと抱きしめてくれる。ママを見れない。目から熱いのが下に落ちる。ママの服汚れてまう。ダメ…けど………けど……。

「………速い子は、ひっく、……暗算とかやっとった……」

「うん。…いいの。できることからでいいの。いいの、ね?できないのが普通なんだから。きさちゃんはできることから、ね?」

「うん…」

やっぱり、ママに聞いてよかった。


「先にりんご食べちゃう?」

「ううん、やってみる」

なんとか全部書いてやってみて、20分位でできた。

できた、ああ…できるんや…ウチ…。

けど、泣いて落ち着くのに20分位で、もうけっこう5時とかになってる。

おやつにしてももうかなり遅い、夕飯も近い。

「まぁちょっとだけ、あとは夕飯のあとか明日にでもとっとこう、ね?」

「うん」

出てきたりんごはうさぎさんやった。ママがうさぎさんになるよう切ってくれてた。3匹のうさぎさん、ちょっと食べるのがもったいない…。

「…………」「~♪」

見るとママもこっちを見る。なんか言いたいことがわかる。夕飯が近い。はよ食べなあかん、けど、かわええ。

仕方ない。かわええけど。

つまようじで、、、刺す。

プス、あーん、シャク…。

おいしい。

「ママ、おいしい」「そう♪」

うさぎさん、おいしい。残りも次の一口でパク、シャクシャク。うん、美味しい。

うん、かわええけどりんごや。食べ物やな。

もうためらわん。二匹目。パク、シャクシャク。

ちょっと塩がする。

「ママ、塩がする」「そうね」「なんで?」「そうするとより甘く感じるから。ちょっとの塩を入れた水にちょっとの間浸しとくの」「へ~」

ママはなんでも知っとる。ママはすごい。

ウチ、ママめっちゃ好き。


二匹・・・食べ終わった。けど、・・・食べてる時からなんか眠くなってきた。

あと一匹・・・おるけど。とりあえず、刺す。

……………。

ねむい・・・6時間目もねむかったしなぁ・・・ねようかとかちょっと思ってたっけ・・・?

あかん・・・もうすぐばんごはんやのに・・・。

ママのりょうりの音・・・うーん・・・。

おさら・・・・・・はよ・・・かたづける・・・・・・うさぎ・・・。

さいごの・・・いっぴき・・・。はよ・・・たべな・・・・・・。ようじ・・・もって・・・・・・そんで・・・・くちに・・・

・・・・・・・・、・・・・

・・・・・・・・・・・・・?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ポロッ・・・と・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



『おねがい、——』

ぼんやりと。

なんやここ。?。

ああ、いつもの場所か。

『おねがい、世界を——』

木があって、丘で。

その根元で寝転がってる。

この木が言ってるのかな?

『おねがい、世界を✖✖して』

同じ繰り返し。違うことならんかな。

これ、じゃあ根元から離れたら聞こえなくなるんかな?

ちょっと頭でも起こしてみよかな。

【お願i、せ界を——』

そんで、離れられるんやったら離れ


【代わって?】


「え?」

リリリリリリリリリリリリリリリ…!

グシュッ。

「!?」


え。


今、寝とった?

なんや今の?

イスには座ったまんま…。

「もしもし~。あ、あなた…?」

パパから電話…?台所におったママが玄関前の電話のとこまで行っとる。

いや、んで、ウチ、今、なんでうさぎを地面スレスレで握ってるん?

いや、そや、座っててりんご食べて…寝ぼけてりんご落っことしたんや。いや、でも落としてない。

落として、空中で、キャッチした。

…………………………………………………寝ぼけながら?

………………………見もせずに?

「……………え?」

なんやそのすごい技。芸人になれるんとちゃうか?

あ~でも…。

「あーあ…」

最後のうさぎさん、ウチが握り過ぎて潰してしもた。

ぐしゃぐしゃや。

けっこう強くまた握ったもんやな…。

手のひらの中で潰れてしもたうさぎさん、それでももったいないし、まぁ落としてもないわけやし、残さずそのまま食べる。

ちょっと手の熱で温くて最初の1匹や2匹に比べて美味しくなかった。

手につまようじが刺さらんでよかった。

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