Rabbit hole 五
4時間目・社会
『安全なくらしとまちづくり』。
「はい、これは何のしくみの図でしょうか?……松吉くん」
「はい、救急車」
「おしい、救急もだけど、消防指令の連絡のしくみだね。これの図の中で一番最初、始まりはどこになるかな?……角田くん」
「はい、事故が起こるとこ」
「正解。そうだね、ここから始まり、みんな電話をします。この場合、番号はいくつかわかる人~、福本くん」
「はい、119番、警察は110!」
「よく知ってるね。そうです、警察署へは110番、今日やるとこの救急と火事の場合は119番、間違えやすいから気をつけてね」
どっちもあったことないし、つこたことないなぁ…。平和平和。
救急車とか通り過ぎんの見かけたりするけど、自分とは関係ない方へ走ってくし。
でも、電話のついとる車とかはちょとかっこええかなと思う。ちょっと前に災害体験の授業あったけど、地震の車やのうて救急車とか来れば乗ってみたかったな。
「ねね、ひーちゃんのお父さんって外交官なんだよね?」
「あ~、うん、大使館に務めとるね」
「外国の人といろいろ仕事しとるんやろ?ええな~」
「ええかな…?」
給料はいいらしいけど、どうなんやろ?
「英語話したりするん?」
「いや、広東語」
「カン…トン……?関東?」
「ちゃうちゃう。中国の外交職員…?だったと思う」
窓際がどうのと言っとったかな…。
元々父さんは日本国籍だったけど母さんとの結婚しはった時に中国側に籍を置いたとか。でも結局日本におるし、何しとんのか、何がしたいんか、よーわからん。
正直、仕事の方も、話をするとこあんまり見とらんし、家ではなんかいまひとつやからな~…いまいちかっこええって思えへん。
たまに「高級品だ~♪」とか言って変な中国土産も持ってくるけど、当たりやらハズレやらいろいろある。ポケットピカチュウとか当たりもあるけど、変わったもんが多いかな?食べ物ならまだしも雑貨や飾りもんやと場所取るし、最近はちょと母さんにちくちく怒られとることがあった。ウチの母さん、笑顔で怒るし、こわい…。
「プリントを書いたら提出ねー」
「あ、あかん、えとなんやったっけ?」
「えっと…ここまで…かな…りりちゃん?」
「うん、そうやよ」
「ありがと~」
給食と掃除とお昼休み。
『お昼の時間です。今日は放送委員の放送をお送りします。』
「わー、これ大村ちゃんの声だよね」
「うん、がんばったんだよ~」
「すごいね~」
大村ちゃん達と机をくっつけて食べる給食の時間。放送委員でもある大村ちゃんの放送が始まった。
「これ録ったやつなんだよね?」
「うん、先週かな。放送室で録って、カセットテープを職員室のとこで流すの」
「へぇ~」
カセットなんだ。CDとかMDとかならかっこいいけど、そんな最先端、小学校じゃまだ早いよね。言われてみればちょっと声がくぐもってるような気もする。まぁそんなことより大村ちゃんが放送してて、でも目の前にいるのがなんかちょっと面白かったりする。
「では、はなまるぺけぽんさんよりリクエストで宇多田ヒカルさんのオートマティック」
『光』流れへんかな。
「リクエストって受け付けてるん?」
「うん、放送室前に箱置いてるから名前、なんでもええから書いて、リクエスト曲してくれればCDになってるもんなら大体は大丈夫やったかな」
CDになってたかな、知らん…。
「にしてもリクエストって本名入れる人、おるんかな?」
一緒に食べてた篠守ちゃんが聞く。
「あんまりおらんねぇ。あ、でも・・・(笑)」
「なに?」「どしたん?(笑)」「何があったん?(笑)」
「野木くんが・・・、本名やった。なんか知らんけど軍歌?どっかの国のすんごい一本調子のなんか怖い(笑)歌で、リクエストしとった(笑)」
「野木(笑)」「あいつはなぁ…(笑)」
そうしてって、給食は全部残さずに食べれた。
たまに時間かかって掃除の時間になっても一人食べることがあるからよかった。
「雲隠れの術~♪」「カーテンで遊ぶなや」「先生にいったろ~」
掃除はきっちり。机は重いけど、みんないるし、できる限りでええ。…ん?
カカッ、ド。カカッ、ド。カカッ、ド。カカッ、ド。カカッ、ド。
「いよっし、わいの勝ち!」「むぅ、また腕を上げたな。松吉、貴様に教えることはもう何もあるまい」「いつ自分、わいの師匠になってん!?」
男子がイスの早下ろしやっとる。……………力あればなぁ…。
速い動きってかっこええし。
次の時間が体育やし、みんな着替えて休み時間から外へいく。
お昼はみんなが鬼ごっこするって言うから参加した。インドアが好きなウチやけど、逃げるのは得意で好きや。
特にガンマンみたいに鬼の人に向かって構えるんがけっこう気に入っとる。この時だけはウチはゲーム以外で無敵。
「また自分は…」「お、あれが見れるんか!」
「きーちゃん逃げぇ?」
「りりちゃんは逃げぇ」ここはウチにまかせや。りりちゃんは少し足遅いし、ここで止めとく。
「今日こそ鬼にしたる…」
運動がなかなかいい石脇…。けど、ウチは負けへん。
左の肩をタッチしにいく石脇にすぐに身体を後ろにステップしつつ左の肩をひく。
闘牛士みたいやな。
すれすれやけど、当たる感触はない。
すぐに今度はサイドへステップ。スカったと判断するとすぐに腕だけで追いかけてくる。けど、ウチの方が動きがええ。ややかがんで目を離さずに相手をよく見る。
地面の具合は足でわかっておけばええ。
相手の追いつきそうな距離をとって、動きが早くなる時にいっきにこっちも引く・かわす。こういうんは細かく動くんがコツ。石脇始め男子や鬼みんな、腕だけで動こう動こうが多い。けっこう簡単にかわせる。
「く、ふん、ふ、ふ、ふん、うり、そや、や………」
「ふ、ほ、ほ、は、うぉっと?、は、ふ、く、………」
「きーちゃんすご~い」
「負けんなイッシー!」
なかなかこのスリルはゲーム以外でない。楽しい。
「ふぃ~…っと!」
「くぅ…」
疲れてきたら、離脱。一気に走って離れる。松吉や佐藤と金子のとこ、あれ近づけば自然と石脇もターゲット変えるかな。
「あ、自分ら、何ぼさっと話してん!」
「やべ…」「きたきたぁw」「うぉ!こっち?!」
楽しい時間はあっという間。
キーーーーーンコーーーーーンカーーーーーンコーーーーーーーーン。
今日も鬼には逃げ切れた。たまに鬼もするけど、りりちゃんや女子がずっと鬼して捕まえられへん時くらい。
逃げるんはおもろい。
5時間目・体育。
クラス全員でドッジボール。
「くらえ、ベギラマー!!」「よっ」「よけんなや!」「アホか避けるわ」
「ギガデイン打ちたいけど、バウンドってしたらダメなのが腹立つ」
「パルプンテしていいー?」「それパルプンテやなくてメダパニやろ!やめろ!ちゃんとこっちパスしぃ!」
男子が積極的にボールを持ってなんか必殺技言いながら投げてる。
ドラクエ多いな。
必殺技ってええよね。でも実際の闘いとかあった時に技言ったりしながらだとなんか黙って動くよりしんどいし、何やるかバレバレやからいらんもんやと思う。まぁ実際戦ったりなんてないし。なんなんやろ。
クラスの人数が多いからあんまりボールは回ってこん。ひたすらボールの行くとこを見てこっちに来そうならとにかく離れる。使うボールは一個やし、難しくはない。
鬼ごっこよりボールが来る数が低いからゆるいけど、好き。いつ来るかゆうきんちょう感あるし。
ただ、序盤だと内野にいる数が多いからか、ちょっと内野のすみっこの方では女子は数人おしゃべりしてるとこもある。狙われるで?
ボール持っとる向こうの最前線でやっとる男子が二人、そっち見とる。バレバレや。
ほら、遠投で外野にパス来た。(だれも教えたらへんのやね、そんなヒマもないか)
「キャー」「いやぁ」
「ほい、チェストー!」
ペシっ。
一人アウト。あっ…。
ウチのところにボール来た。どうしよ…。
拾わんわけにはいかんし、拾う。けど、その次どうしよ…。
「いけーヒオウ!!」「ひーちゃん」「がんばれー」
いや、ウチ全然当てられる自信ないし。
パス?でも遠い、外野も横の方でこっち近くおれへんし、変に味方も取れんパスしたらなんか…。もうええわ、とにかく…っ!
ブンッ!!
内野で思いっきり人の多いとこめがけて投げる。
ヒュー・・・テンテン…。
「とれー!」「まにあえー」
あ、
ひょい。「おととっと」「オッケー!」
とられてもうた…。
それなりにボールは飛んだけど誰にも当たらずにボールは地面につき、外野に出る前に拾われてもうた。
なんにもならへんなぁ…。
「ヒオウ、必殺技使わんと!」パシっ。
ッテ!何するん…。
ちょっと肩叩かれた。
「あーセクハラー!」「ええっ、すまん!」
「…………ええよ、別に…」
………………そっか。やっぱ必殺技使わなあかんのかな。でも言うん恥ずかしすぎやろ…。アホか。
「いけ、リザードン、君に決めた!!」「ふっ」「リザードーン!?よけんなや!!」
結局、ウチが活躍したのはその辺だけで(活躍してへんな)そこそこ逃げたけど当てられへんしそのうち当てられて外野へ。3戦位して勝ったり負けたりしてた。
世界は勝手に回ってく。ウチは主人公にはなれへんと思うねん。
そんなとこまで考えた。
バシっ。
って。
「ふっ、またつまらんものを斬ってしまった…」
あ、なんかそれええなぁ…。「いや自分それ味方!」
「ヒオウもボールちゃんと取れ~…」「お前もうちょっとできるだろ!?」
6時間目・道徳。
眠い。
さっきドッジボールやって眠い。昨日もけっこうゲームしたりして遅かったかな。もう学校終わる…けど、眠い…。
「ひーちゃん大丈夫?」「うん…ねむいだけ…」
教科書は30ページ、『(3)正しいことは勇気をもって』
「はい、みんなただ流されたりしてないか、みんなが流されやすいことってなにか、いろいろ集まったね~。じゃあこの中から、実際解決できると思うみんなが正しいと思うことはなんだと思う?どれでもいいよ~?」
「はい、はい!」
「はい、松吉くん、どれ?」
「2のやつ、ポイ捨てしないようにする」「ポイ捨てしないようにしてそのゴミはどうする?」「ん~…ゴミ箱に捨てる!」
「よくできました」
「えー!でも知ってるで松吉、お前この前紙ごみジュースんとこ捨てとったやん」
何してん、松吉…。
「しー!やめろや!!」「そんなことしてたの松吉くん、」「・・・」「ちゃんと分別までしようね、あ~でもみんな、ゴミはなるべく持って帰ろうね。コンビニとかで捨てちゃダメだよ?」
「はい、なんでですか?」
「コンビニで出たゴミならいいですが、他から持ってきたゴミはコンビニの人に迷惑だからです。みんなが持ってったらあっという間にコンビニのゴミ箱はいっぱいになってしまいますからね」
「(その辺に落ちとったゴミやもん…)」
ウチには聴こえたけど…なんかちょっと松吉かわいそうやね。でもウチやって知ってる、缶ゴミは缶しか回収せぇへん、そこに違うゴミ入れたらそれこそ回収する人の迷惑や。人に迷惑をかけることはあかん。
「他に誰かいますかー?」
「はい、森野さん」
「4の万引き、やったらあかん。見つけたら注意する!未然に防ぐ」
「森野さんすごいねぇ。自分だけでなく周りを見つけたら注意するんだ?未然なんて言葉、よく知ってるねぇ。みんな、万引きとは一番身近な犯罪です。どんなに安くても取ったら泥棒です、犯罪です。みんなも友達がやってるからと言ってやっちゃいけません。友達にも勇気を出して「やめなよ」と言いましょうね?みんなが勇気を出すのはそういう流されないことです。そして、知らない人の場合は危ないので、やってる人ではなく、店員さんにすぐに言いましょう。他に~?」
「はい」
「はい、天花寺さん」
あ、りりちゃんや。
「5、人のものが欲しくなっても取らない。奪ったり壊したりしてはいけない」
「うん、そうだね。さっきと同じでどんなに欲しくなってもちゃんと正しい形で得ましょう。お店でお金を払う、お父さんとお母さんと相談、自分のおこづかいならある程度いいですが大きなお金を使う時はちゃんと人とお話して決めましょう、でないとやめとけばよかったーということになります。そしてどろぼうは絶対ダメです。人のものはその人のもの、盗んだり壊したりしてはいけません。それがその人にとって大切なものだったら、ということを考えましょうね。なくしたその人が悲しみます。みんなも自分の大切なものが他の人に壊されたらイヤだよね?イヤな人~」
「「「「「はーい」」」」」
「うん、…あれ、石脇くんはなんで手を上げないのかな?」
「はい!流されないようにしました!」
「えー!?」「アホやん」「イッシー…」「おおお!!?」「つまらんでそれ…」「ハァ?」「なるほど…その手が…」
流石にそれは…。
「あのねぇ石脇くん、じゃあ君は人のものを奪ったり壊す悪い子なのかな?人の気持ちがわからないの?」
「んー…わかんない!ww」
「おいー!」「マジか…」「アホや」
「…どこがわからないかな?」
「全部!」
……………………。
あー…困らせてイラつかせたいだけやね、これ…。
「……石脇くん、あのね。帰りたいのわかったから適当なことを言うのやめようか。このままホームルームが終わって学校の他のクラスみんなが帰ってもこのクラスだけ石脇くんがわかるまで授業を続けようか?」
「え」
「最悪~!!」「イヤやそんなん!」「イッシーのアホー!」「アホすんなや!」「帰りたい~!」「イッシー!!!」「イヤやー!」「ハァ~…」「ふざけんなや~!!」「シバくぞイッシー!」
「あ、みんな席立たないー!・・・し!ず!か!に!!!!…石脇くん?」
「…………………………ごめんなさい」
「みんなの気持ち、わかりましたか?」
「………はい、…」
「人の気持ちがわかる人間になってください」
「はい………(グスッ)」
「はい、少しきついこと言ったね、ごめんね、石脇くん。はい、ティッシュ。………………はい!ではみんながいい子だと言うのがわかったので、先生うれしいです。ちょっと早いですが~………帰りの会を始めましょう!授業はおしまい!!」
「「「「「「「「「わぁぁぁぁあ!!!」」」」」」」」」
「静かに~!!!やっぱやめようかな~!?」
………あ?…終わり?やった…ねむ~………。
そうして、帰りの会はすぐに終わり、「みんな静かにして出るようにね~」という先生の言う事をみんな守って、ウチらも家に帰った。
今日は4時間目までとかやないし、大村ちゃんやりりちゃんらと遊ぶこともない。みんな塾行ったりするけど、ウチは行ってへん。家に帰ったらゲームでもしよかな…あ、でも算数の宿題あったし、それを先にやらなあかんなぁ…はぁ…。
「ひーちゃんはダメだなぁって思うことある?」
「えー?」
さっきの道徳の続き?ん~…なんやろ?
家までの帰り道。朝と同じように大村ちゃんと一緒。ただ座ってたりやと眠くなるけど、動いてれば気にならへん。もう帰るだけやし、家でなんなら昼寝すればええし。一番気が楽。
「犯罪とか全部ダメとちゃう?」
「ん~そうやろうけど…うちな、一番は人を傷つけるのあかんて思うねん」
「ああ、そやね」それはそうや。「言葉で傷つけたりとかもあるしな」
「そうそう。石脇とかああいうのうち嫌い」
石脇、大村ちゃんのこと好きやった気がするけど…。
「そうやね、けど、ああいうのはまずほっとくのが一番や、あんなん言ってる事その場だけやし」
ウチもあいつ基本嫌い。前に習字の字からかわれて泣かされたし。思い出したら泣きそうなる。母さんはほめてくれたもん。
「そうやんな」
あんま変に反対したりしたらそれでからかわれて泣かされるの見えてるし。たまに、まぁ面白いことも言うこともあるし。ほっとけばええねん。
「無理せんで、逃げればええねん」
これが一番。
逃げれば傷つけることもない、ケンカもせーへん。危ないことはなんもない。怒られるんはしょうがない、けど次から気をつければええ。そうやってけばええ。そう思う。
「うん」
今日も一緒の帰り道。考えることもだいたい一緒。ウチらは仲良し。
そうして、気づけばいつもの場所。
「また明日!ひーちゃん!」
「ばいばーい、大村ちゃん」
朝に会ったの同じ交差点の手前の場所でいつものようにウチらは別れた。
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