Rabbit hole 三
「さっきはごめん、きさらぎ」
「もう、なんとも思ってへんよ」
登校の途中でパパと話す。
パパは目玉焼きのことでまたあやまってきた。
「次からは目玉焼きの食べ方はそのまま食べるよ。きさらぎの目玉焼きはおいしいからね。ほんとだよ?将来は三ツ星シェフだって…」
正直、そういうとこはちょっと最近ウザい。
「ええって言うてるやん」
「はい……。ところでさ、」
まだなんかあるん?
「フライパンが古くなってきてたから今度新しいのを買おうってママと話してるんだ。きさらぎも使うだろうからどんなのがいいかなって」
うん…?それは…
わ!わぁ!
とってもええやん♪
「フッ素!フッ素加工のはりつかんのがええ!」
この前の通販でやってたのでめっちゃすごいのがあった。ママいつもなんか洗うの大変そうやった。
「そう、そんなのがあるんだ?とりあえず軽いものをと思ってたけど…」
「ダメダメ、軽いのなんてどこも同じ!あーでも鉄じゃないので軽いのもあったかな…」
今、
「ふふっ、でもママと相談して高すぎないものにしようかな」
「うん!」
こうしちゃいられない。帰ったらまずチラシ見て安い、いいフライパンを探そう。
家を出て最初の信号のある交差点に来た。
「あ、そだ。きさらぎ」
「何?」
もののついでのようにパパはサラッと言った。
「………………………」
「……………………?。………あ、大村ちゃんや」
道路の向こうに友達の大村ちゃんがおった。手を振ると向こうも気付いてる。振り返してくれた。
「………。…今日帰ったら、少し大切な話があるんだ。覚えといて」
「う…うん?」
とりあえずうなづいといた。意外とこういう話し方で自分には衝撃的なのが多かったりする。一番覚えがあるのは先月の誕生祝いってことでディズニーランドに週末行ったり…いや、でも同じ感じで確か…
「じゃあ、気をつけて」
「あ…うん、仕事がんばってな」
信号が青になり渡る。
手をふってると車が来てパパの前に止まる。パパはすぐにそれに乗りに行ってしまった。
そういえば、いつもは家の前に車止まっとってですぐにわかれるんやけどなぁ。
ま、ええか。ウチも学校いこう。
「ひーちゃんおはよう」
「おはよう」
いつものように友達の大村ちゃんと曲がり角で待ち合わせ、一緒に学校に行く。
「今日もそのロングきれいやね~」
「ありがとう、大村ちゃんもちょっと変えた?」
「ふふ、お母さんにしてもらってん」
「ええな~。帰ったらウチもなんかしてもらおかな…」
肩まで降りてるストレートをチラッと見ながらどうしてもらおかちょっと考える。軽くカール?少しフワッとさせんのはどないかな~。大村ちゃんみたいなウェーブは…無理やろなぁ。
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「やぁ、すまない。わざわざ車を回してしまって」
「いいえ、お安いことです。では、今日のスケジュールの確認をしましょうか。変更はありません。午前は書類に目を通していただき、昼食はパターソン氏の支店のプレオープンによる試食会。14時からオフィスに戻りあちらの議長と電話会談。15時半よりあちらのVIPが訪問に来られます」
「今日の電話では鳥インフルのワクチン製造ラインだったか」
「はい、今年は向こうでは極地的ですが猛威をふるってるようです。……………」
「どうした?」
「いえ」
「君のお母さんの地域も確か…。…VIPの件、16時にできない?」
「…予定通りでお願いします」
「はい、はい。あちらさんはなんか欲しい物があるんだっけ?」
「はい、…畳と………弁当箱だそうです」
「弁当箱…」
「ランチ…
「ふーむ。自国のことなのに知らないことがいっぱいだなぁ。みんなどっから見つけてくるんだ…」
「緋桜さん」
「はい、国籍はあちらですよ、はいはい。………お店に変更ない?」
「はい、畳は3軒、いつもの所に。当人も一度見てみたいそうですので足を運びます。お弁当は百貨店に商品を持ってきてもらう予定で、変わりなく。それと例の件はもうご家族に伝えましたか?」
「…いや」
「………………」
「……………だって、短すぎない?うちの娘、やっと友達ができたばかりなのにさ…」
「…………」
「このやり取りもうんざりだね。わかった、今日中に…。さて、今日も頑張ろう。……………。あ、……なぁ…それ、なんならフライパンも持ってきてもらえない?」
「は?」
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