―― エリクバーズ ――

 基地は興奮に包まれていた。

 抵抗組織ヴァランデノータの面々は皆、食い入るように景映面メプネーンを見ている。映っているのは残り二八機の灰色雫デールポリンが迫ってくる光景シーン

 先陣を切る一機の灰色雫デールポリンが爆発した。

「いいぞ!」

「もっとやれ〜!」

「後、二七機!」

 戦団ダーナー灰色雫デールポリンは、プミアィエニ機が消えた建物にまっすぐ向かってきていたが、攻撃を受けてから急に減速し、バラバラに動き出した。狼狽うろたえているのは抵抗組織ヴァランデノータたちにも一目瞭然だった。

 そして二機、三機と爆発していく。


    ♦ ♦ ♦


「どこだ? どこから攻撃している?」

 展開している戦団ダーナー灰色雫デールポリンが先頭から順に爆発していく。軍人ダナイスたちは血眼ちまなこになって狙撃元を探した。攻撃が光(レーザー)なので軌跡が見えない。前方の視界を順に画像走査していくが広い廃墟の街の中から見付け出すのは容易でない。しかもプミアィエニたちが各地に取り付けた、風でゆれてきらめく鏡が演算機セティエンスの走査を妨害する。


 しかし彼等はこの時はまだ、目の前にある『絶望』に気付いていなかった。


 抵抗組織ヴァランデノータ灰色雫デールポリンの姿は相変わらず見えない。戦団ダーナー灰色雫デールポリンは一機、また一機と避けることもできずに撃墜されていく。

「くっそぉ‼」

 また新たに撃墜された者が操縦席を叩く。

「みんな、惑わされないで。【前後光撃グニェスクルース】よ!」

 途中で気付いたフレスピネスの言葉に軍人ダナイスたちは我に返り、慌てて後方に目を向けた。

 前方の機体から順に狙撃される。この時、人は心理的に、前方から攻撃を受けたと思い込んでしまう。しかし本当は後方から、手前の機体を避けて奥にいる先頭の機体を狙撃している。この戦術タクティクスが【前後光撃グニェスクルース】だ。

 実際には真後ろよりも斜め後ろから狙撃することが多い。『斜め後ろ』と一言で言っても該当する範囲が広い。或いは裏をかいて真後ろや正面の場合もある。軍人ダナイスたちは役割分担して、貴種天人リイェイッカ自身の肉眼と演算機セティエンスとで全方位を走査していく。その間にも灰色雫デールポリンが撃墜される。

「何かが動いた!」

 軍人ダナイスの一人は、担当した範囲で演算機セティエンスが発見した画像の変化を見て叫んだ。録画された映像が仲間たちに共有され、再生される。

 廃墟街に林立する、地球の高層ビルに似た角層棟基ネピンタフ。その一つの隅で外装が溶けて鏡が現れ、そして鏡もすぐに溶解する。【棄鏡ドフアホロー】だ。

 プミアィエニは迷路状の狭い通路で【棄鏡ドフアホロー】を使用した。しかし、こちらの方が本来の用法だ。【棄鏡ドフアホロー】は広い場所でこそ真価を発揮する。

 プミアィエニが攻撃に使用した鏡を発見しても、戦団ダーナーにとっては何の解決にもならなかった。また、戦術タクティクスを見破ったところで対抗もできなかった。軍人ダナイスたちは必死で隠された鏡を探そうとする。もちろん表面は偽装されて分からない。探す間にもまた灰色雫デールポリンが爆発し、使われた後の鏡の残骸が発見される。鏡は使用済みになって所在を明らかにし、その時には撃墜されている。


 広大な廃墟の街。

 彼等は置かれた状況の不味まずさを、嵌まった罠の大きさを知って愕然がくぜんとした。

 どこから狙撃されるか分からない。

 誰が狙撃されるか分からない。

 どこに敵がいるのか分からない。

 ただすべもなく、もてあそばれるように数を減らしていく。


 ―― これが【棄鏡ドフアホロー】の応用、【幽玄斉射エリクバーズ】‼ ――


 【幽玄斉射エリクバーズ】は闘いの序盤から使用できたが、プミアィエニは敢えて最後まで温存していた。

 最後に殲滅するために。

 機体の被害以上に恐怖と後悔を与えるために。

 抵抗組織ヴァランデノータ正義と平等エナイ・サ・セレンネ』に手を出すことを恐れさせないといけなかった。

 とうとう絶望を知った戦団ダーナー灰色雫デールポリンは、混乱し、闇雲に逃げ惑う。

「鏡は探しても無駄だわ! 灰色雫デールポリンを探すのよ。どこか死角に隠れているはず」

 フレスピネスが模索した打開策を提案し、仲間に告げる。

 こうして戦団ダーナー灰色雫デールポリンは建物の陰や道路など、敵の隠れていそうな場所に向かった。

 それらの場所のほとんどが、プミアィエニが狙撃ポイントと想定し、持ち得る全ての灰色雫デールポリン輝光盾ユールクウェスで照準を向けて待ち伏せている場所だった。

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