予定通り

 突然、ミア/俺の視界にメッセージが現れた。

 メッセージの内容は敵の出現。

 三度目の攻撃だ。どういう仕組みかミアは敵が現れれば警報が出るよう、自分の脳に組立命令スフィルカムしていた。

「ちょっとミア、どこに行くの?」

 リプの制止に耳を貸さず、ミアは仕事を放り出して駆け出した。基地の外に出ると地下街の中で適当な部屋に飛び込み、喉の頸覆帯スィームスを引き上げる。脳裏に射光石グラシャール水晶クオーツ)が浮かび上がった。

 眼の前に空が見えた。その白黒モノクロの『空の風景』は目の前の部屋の光景に重なる。

 カメラも見当たらないのにミアはどうやってこの視点を得ているんだ? ミア/俺の見えている映像に灰色雫デールポリンが見えた。ミアはそれの操作権を奪う。ミアは灰色雫デールポリンに対して、何故か操作筒ネルースを使用せず心で思っただけで組立命令スフィルカムを入力することができる。操作者サジェクーたちは護衛用に馳槍・第三型ウォレー・ユースレイ輝光盾ユールクウェス』を使用している。ただし操作者サジェクーたちは灰色雫デールポリンと同時に操作できないので、輝光盾ユールクウェスは予め入力した組立命令スフィルカムで動いている。ミアはそれらの操作権も乗っ取った。三人の灰色雫デールポリン輝光盾ユールクウェスの他にも、倉庫に保管していたものまでミアは引っ張り出した。

 ミアの管理下コントロールにある灰色雫デールポリン輝光盾ユールクウェスは総計一一機。

 ミアが支配した輝光盾ユールクウェスは仲間たちに銃口を向けた。

『今すぐ接眼映像器ヴォーガン操作筒ネルースをここに残し、基地に逃げて下さい。さもないとあなたを射殺します。なお、あなたを追跡することはありません』

 ミアが組立命令スフィルカムした内容を合成音声セナサーラが読み上げる。だけど、ミアはなんて駆け引きが下手なんだろう! 銃を向けられた時点で仲間たちはすぐに逃げた。だけど尾行しないと言われても信じる奴は流石にいないだろう? 三人とも基地と違う方向に逃げて物陰に隠れた。


    ♦ ♦ ♦


 会議室の景映面メプネーンが突然、映像を映し出した。何が起こったのか分からず、誰もが戸惑っている。実はプミアィエニが操っているのだ。戦団ダーナーに対する『正義と平等エナイ・サ・セレンネ』の優位性を示すために。

「リアサターセ!」

 スフォーセネが隊長レグセーに声を掛ける。

「分かっている」

 リアサターセは計器を操作し、どこからハッキングされているか突き止めようとする。

 他の者たちは、ただ景映面メプネーンを見上げていた。そこにはこの廃墟の空に、灰色雫デールポリンが一機だけ映っている。それは本来の操作者サジェクー制御コントロールを放棄し、既にプミアィエニの支配下にあった。

 戦団ダーナー灰色雫デールポリンはすぐに現れた。機数は近くに五機、他にも遠くに五機ほど見える。そのうちの一機はいつの間にかプミアィエニの灰色雫デールポリンの真横に急接近して光射小銃ルースハークの銃口を向けていた。

 しかし、それの警告よりも先にプミアィエニが宣告する。

『お聞きなさい、戦団ダーナー灰色雫デールポリンる者たちよ』

 合成音声セナサーラが響いた。

「ムーアたちではない⁉ 誰が話しているんだ?」

 シュピヤーがつぶやく。


    ♦ ♦ ♦


『あなたたちの抵抗は全くの無駄です。今すぐおやめなさい。そして投降するのです。

 これを聞き入れずまだ抵抗するのなら、わたしの敵と見倣し、今ここで断罪ダギュースします』

 なんて尊大にして傲岸祖孫ごうがんふそんなのか⁉

 この合成音声セナサーラを入力したのがミアだとは、『正義と平等エナイ・サ・セレンネ』の仲間たちもまさか思わないだろう。ミアだと知れば笑うだろうか?

 俺だけが戦慄していた。

 俺だけに見える今のミアの内心には、闘いを避けられないことへの諦念と静かな悲しみだけが漂っていた。彼我の戦力差を正確に分析し終えたミアの心には『敗北の可能性』というものが存在しない。こちらの損害はゼロ、それに対して敵勢力は……全滅。

 これは予想ではない。確定した未来だ。

 ミアは純粋、世間知らず、お人好し、疑うことを知らない。いつでも一生懸命で健気だ。そして心優しく、泣き虫で放っておけない、か弱い存在。

 一方で、ミアは敵を冷静に戦力分析していた。特に意外だったのは、情緒豊かでお人好しなミアが、戦力分析に関しては機械のように冷徹に判断を下していることだ。敵の実力は個人差があるので予想に幅があるけど、それを考慮した上で、実際は八〇機程度しか現れないことを予想していた。

 ミアは一体何者なんだ?

 俺は底の見えない、途轍もない化け物の中にいる。

 戦団ダーナーが百獣の王たる獅子だとすれば、ミアは北欧神話に登場する、神さえ屠る巨狼フェンリルだ。いや、貴種天人リイェイッカの伝説で言えばベデュアさえも恐れる浮龍ヨーア、中国のロンに似た神獣だと言えるかも知れない。彼等は浮龍ヨーアを目覚めさせてしまったのだ。

『舐められたものだな。抵抗組織ヴァランデノータごときが』

 戦団ダーナー灰色雫デールポリンから発せられたのは合成音声セナサーラでなく男の肉声だった。

『だが俺の判断は変わらない。当初の計画通りに行動し、駆除する。これは只の単純作業だ。

 今更、警告も不要だろう。後悔するんだな。今から貴様らを殲滅する。他の仲間もあぶり出してやる』

 言い終わると同時に、戦団ダーナー灰色雫デールポリン光射小銃ルースハークを発射した。『正義と平等エナイ・サ・セレンネ』の面々が見守る景映面メプネーン上で爆炎が巻き上がった。


 闘いの火蓋は、『一機の灰色雫デールポリンの爆発』という形で切って落とされた。


 聖帝崇国アーナサイデク射剱フーイメア馳槍ウォレー宇宙船エオナーヴェフなどは人類の乗り物のように燃料や電気で推進するのではなく素粒子工学的な推進機構を用い、エネルギー源として水素原子を使用している。光射小銃ルースハーク灰色雫デールポリンの液体水素タンクを破壊、急激に膨張・気化した水素は大気中の酸素と反応して爆発が起こっただけでなく、高熱と高圧力を受けて推進機構が暴走。安全装置によって推進機構が作動不能ダウンした時点では既に膨大なエネルギーを生み出して、機体の大きさからは考えられないほどの大爆発になった。


 敵も味方も、誰もが驚いただろう。ミアを攻撃した戦団ダーナー灰色雫デールポリンが爆発したのだから。

 何が起こったのか、誰にも分からなかったはずだ。

 ミアの中にいる俺だけが真実を知っている。敵が話している間にミアは、交渉決裂だと判断して次の行動の組立命令スフィルカムの入力を済ませていた。脳による、手入力では不可能な速さだ。ミアの灰色雫デールポリン組立命令スフィルカムに従って、敵の言葉が終わる〇.〇〇五秒前に動く。〇.〇〇五秒で四センチ。敵の射撃をらすには充分だ。戦団ダーナー灰色雫デールポリンの自律行動がミアの灰色雫デールポリンに照準を合わせる前にミアの方が先に照準を合わせ、攻撃したのだ。


    ♦ ♦ ♦


「オステリノス‼」

 戦団ダーナー灰色雫デールポリンの一機を操作しているソゥトーヒューイ伍位等軍士ホースレイユイスは仲間の名を叫んだ。何故、味方の灰色雫デールポリンが撃墜されたか? 彼にはそれが理解できなかった。同僚のオステリノスも同じだ。そもそもたかが抵抗組織ヴァランデノータごときにおくれを取るはずがない。

 カルムグス星系保安庁第三七小隊ユスペリターメナム・ユーヤンフェアスレイダグース。それがこの部隊の名称だ。この星系ユスペリ星系保安庁ユスペリターメナム小隊ダグースの中でも優秀な部隊と評価されている。

「どういうことだ⁉」

 ソゥトーヒューイは隣に座ってうなだれるオステリノスに訊ねた。彼等は戦場となった廃墟街から遠く離れた軍用機の機内から遠隔操作している。操作者サジェクーたちは並んで席に座り、それぞれ接眼映像器ヴォーガン操作筒ネルースを装着している。そして機内の正面には壁面一体を覆う景映面メプネーンに戦場全体が映し出されていた。

「俺にも分からん。あれはれたはずなのに!」

 オステリノスが忌々しげに答えた。彼にとっては予想外の屈辱だった。

 しかし彼は、いや彼等は未だにプミアィエニの実力を過小評価していた。だからまだ知らない。彼等が完全な敗北を被ることを。

 爆炎の中で加速し姿を現したプミアィエニの灰色雫デールポリンは超高速で建物の間を低空飛行する。

「追うぞ」

 まだ若いが胎体孵成器オーローテに恵まれた指揮官、ヨレンゼ・ラーハンセ隊長レグセーが部下たちに告げる。(貴族イユーセの中でも高度なスキルを持つ、優れた準結晶器ミエニキアーファを有する家系シホー貴種天人リイェイッカの文化では「胎体孵成器オーローテに恵まれた」と表現する)

「もちろんだ。このままで終わらせられるか‼」

 憤慨してソゥトーヒューイが答えた。ソゥトーヒューイたちの灰色雫デールポリン隊長レグセーに続く。プミアィエニの灰色雫デールポリンは大通りで道路ギリギリまで高度を下げる。

「逃がすかよ!」

 ソゥトーヒューイは叫びながら灰色雫デールポリンを大通りへと急降下させた。他の仲間も後に続く。

 一度、秒速三.五キロメートルの極音速ハイパーソニックになったプミアィエニ機は今度は秒加速六.二キロメートル(地球の重力加速度の六三三倍に相当)で減速を続け、秒速二.四キロメートル(時速八六〇〇キロ、マッハ七.〇)まで速度を落とすと、それでも長さ二一〇メートルほどの大通りを〇.〇九秒で駆け抜ける。それを追うソゥトーヒューイの視界にも大通りの風景が一瞬で背後に飛び去った。

「チャンスだ」

 プミアィエニ機が減速したことでソゥトーヒューイたちは距離を詰めていく。それが『戦団ダーナーを減速させない』プミアィエニの罠だとも知らずに。光射小銃ルースハークを何度も撃つが命中しない。灰色雫デールポリン演算機セティエンスは命中率が最大、つまり敵の相対的位置変化が少ない瞬間に自動的に射撃する。プミアィエニの灰色雫デールポリンはわざとそんな状態を作り、次の瞬間に角層棟基ネピンタフなど障害物に隠れる。命中しそうな瞬間の次には命中しなくなっている。【誘霞フユーヨ】という戦術タクティクスだ。

「俺が貰った!」

 モディアーニ陸位等軍士ウヴェヌスレイユイスが僚機を追い抜き、プミアィエニ機の撃墜を目論む。

 プミアィエニ機は通りの突き当たりに立ちはだかる建物の一階の入口から中に潜り込んだ。追い掛けるモディアーニ機が減速が間に合わずに大通りから空に上昇した瞬間、建物の影に隠れていたプミアィエニの輝光盾ユールクウェスが予め向けていた照準を微調整して光射小銃ルースハークで射撃、モディアーニ機は爆発‼ こちらは【停止前壁ホウクトユスベンジ】という戦術タクティクス。壁などを利用して敵を減速が間に合わない状況に追い込み、回避などの移動ルートを限定させて狙い撃つ。

「モディアーニ? くっそぉ!」

 次々と撃墜されていく仲間たちにソゥトーヒューイは歯噛みする。

 撃墜されたモディアーニ機の後に続くソゥトーヒューイ機は減速しながら建物の入口に入り込み、プミアィエニの灰色雫デールポリンを追跡した。

 地球の高層ビルのような角層棟基ネピンタフは一フロアの面積はそれほど広くないが、数本の角層棟基ネピンタフの土台となる、一階から三階までの建物はかなり広大なフロア面積を持っている。その内部には迷路のように入り組んだ通路があり、地上でありながら『地下街』のようになっていた。プミアィエニ機は入口への突入時は予定通り秒速二キロメートル弱(マッハ五.九)まで減速していた。そして音速以下に、更にどんどん減速していく。入口から続く真っ直ぐな一本道は五五〇メートルで突き当たりだ。そこはT字路になっている。計算通り突き当たりのぎりぎり手前で停止、T字路の角を右折する。灰色雫デールポリンはジェット噴射のような推進システムではないので地球の飛行機のような逆噴射機構スラストリバーサはなく、突き当たりの壁を破壊しない。

 ソゥトーヒューイ機はプミアィエニ機を追って建物内に飛び込んだ。極音速ハイパーソニック衝撃波ショックウェイブは通路の壁・床・天井に損害ダメージを与えたが、破壊するほどではない。セサ人の建物はかなり頑丈にできているようだ。真っ直ぐで逃げ場のない一本道なので【誘霞フユーヨ】は使用できず、相手を撃墜できるとソゥトーヒューイは思った。だが既に奥の方に進んでいたプミアィエニ機は、ソゥトーヒューイ機が突入してすぐに右折して姿を消した。プミアィエニ機が消えた辺り、五五〇メートル先に行き止まりが見える。

「な、何っ⁉」

 ソゥトーヒューイ機の演算機セティエンスは、最大限に減速しても突き当たりの壁までに停止が不可能であることを警告する。ソゥトーヒューイはすぐに最大出力で減速を開始、続いて爆槍ソートフ(ミサイル)を正面に発射した。建物内への突入から衝突までわずか〇.一八秒。脊髄反射だ、迷う暇がない。減速したのは、衝突が免れないとしても、損害ダメージが少ない方がいいからだ。そして威力の小さめの、爪楊枝サイズの爆槍ソートフを選んだ。射剱・第三型フーイメア・ユースレイ灰色雫デールポリン』や射剱・第五型フーイメア・ホースレイ大気粒子フゥアイリヒン』は屋内戦闘も想定されているため、建物全体を一撃で破壊する攻撃から建物への損害ダメージをわずかにして知的生物ナーサイムルートのみを殺傷する攻撃まで、様々な威力の武器を装備している。しかも爆薬の分子の立体構造は高度に設計デザインされているので、重量当たりの威力が地球のTNT火薬の四千倍、核兵器の三百分の一にもなる(人類の科学者サイエンティストもTNT火薬の二百倍程度は理論上可能であることを既に知っているが、まだ実現していない)。ソゥトーヒューイ機は建物を倒壊させずに壁一枚を破壊する攻撃を選択したのだ。突き当たりのT字路でプミアィエニ機が待ち構えていることはソゥトーヒューイにも予想できた。だから爆槍ソートフで壁を破るとすぐに、爆炎に紛れて建物の外に脱出するつもりだ。爆槍ソートフの発射直後に、直進を続けたまま灰色雫デールポリンの機体をリグに向けた。爆炎に飛び込み、爆炎の中でT字路の右手リグ光射小銃ルースハークで攻撃。当たるとは思っていない。当たれば儲けもの、くらいの気持ちだ。

 突然、ソゥトーヒューイの視界が暗転ブラックアウトした。撃墜されたか? とソゥトーヒューイは思ったがすぐに映像が復活する。しかし風景が激しく変化して視認できない。

「何だ? どうしたんだ?」

 疑問には思ったものの、原因はともかくどういう状況に陥ったかは訓練での経験から分かる。灰色雫デールポリンが崖などに衝突して機体が激しく回転した時と同じだ。だが、何故そうなったのか?

 ソゥトーヒューイ機は突き当たりの壁を爆槍ソートフで攻撃した。しかし突き当たりの向こうには別の通路が直角に走り、更にその奥にもう一つの壁があったのだ。爆槍ソートフが二重の壁を破らないことはプミアィエニの想定通り。一つ目の壁を破って爆炎の中に飛び込む。そしてセンサーの感知より速い〇.〇〇一二秒後に次の壁に激突したのだ。これが【二重壁ヴェネンベンジ】という戦術タクティクス

 激突によって建物に穴を開けて出てきたソゥトーヒューイ機は、幾つかの機能が損傷したがまだ動ける。とは言え、衝撃で制御不能ロストコントロールのまま転がるように空中を回転していた。

 それを外にいたプミアィエニの輝光盾ユールクウェスが仕留めた。行動不能の灰色雫デールポリンを撃墜するなど容易い。

くっそぉダーッソ!」

 画面が再び暗転ブラックアウトした。そして今度は復活しない。全ての計器が沈黙している。今度こそ撃墜されたと知ったソゥトーヒューイは、顔から接眼映像器ヴォーガンを外し、床に叩きつけた。

 その状況を見たホロンゼヨン陸位等軍士ウヴェヌスレイユイス灰色雫デールポリンでの追跡を諦め減速する。しかしその位置がプミアィエニが狙い撃ちに想定していた地点。プミアィエニの操る別の三機の灰色雫デールポリンが取り囲むように三方から現れて同時攻撃。ホロンゼヨン機の演算機セティエンスはプミアィエニの灰色雫デールポリンが現れた時点で回避行動に移ったが、三方からの攻撃には回避し切れず、撃墜‼

「やられたわ。あの実力、敵は本当に抵抗組織ヴァランデノータなの?」

 ホロンゼヨンは接眼映像器ヴォーガンを外して大きく溜め息をく。ホロンゼヨン機と共に移動していたロンキナセ機は誘霞フユーヨを使って逃亡を試みた。『誘霞フユーヨ』の戦術タクティクスを使いこなせるのは、この星系ユスペリ星系保安庁第三七小隊ユスペリターメナム・ユーヤンフェアスレイダグースではヨレンゼ・ラーハンセ隊長レグセーとフレスピネス・リートロー参位等軍士ユースレイユイス、そしてロンキナセ参位等軍士ユースレイユイスの三人だけだ。ロンキナセの組立命令スフィルカムによって灰色雫デールポリンが最適な回避運動を行う。

 しかしロンキナセ機も呆気なく撃墜‼

「何故だ⁉」

 自信があったにも拘わらず回避に失敗したロンキナセは撃墜された事実が信じられなかった。

 ロンキナセの灰色雫デールポリンは挙動が単調で予測し易くなり、被撃墜確率が上昇するように振舞ふるまった。ここで敵の攻撃を誘い、その直後に角層棟基ネピンタフの一本に素早く隠れることで被撃墜確率は急下降する。これが彼の作戦オペレーションだったが、実際にはその〇.〇〇四五秒前、被撃墜確率が上昇し始めた瞬間に撃墜されていた。【逆誘霞ソティフユーヨ】だ。

 敵の演算機セティエンスの裏をかいた回避運動が【誘霞フユーヨ】なのに対して、更にその裏をかく攻撃が【逆誘霞ソティフユーヨ】だ。演算機セティエンスの騙し合いに於いて【誘霞フユーヨ】は演算機セティエンスに任せ切りにせず、演算機セティエンスと、操作する貴種天人リイェイッカの緊密な連携を必要とするが、【逆誘霞ソティフユーヨ】は更に高度な判断力と迅速な組立命令スフィルカムの入力が要求されるのだ。第三七小隊ユーヤンフェアスレイダグースでそれを行える者はいなかった。

 戦団ダーナーの他の灰色雫デールポリンは何とか逃げ延びた。

「誰だ? 誰が抵抗組織ヴァランデノータに協力している? ……一体、何者なんだ?」

 ソゥトーヒューイはまだ生き残って任務を続ける仲間たちを茫然と眺めていた。

 戦闘開始後六四秒、撃墜数五対ゼロ。全てがプミアィエニの予定通りに進行していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る