仲間の覚悟、ミアの覚悟
自己紹介が終わり、各人はバラバラに散っていった。
「じゃあ、あたしは行ってくる。君は
スフォーセネさんはそう言い残して古びた地下道の奥へと消えていった。
「リアサターセ、スフォーセネはどこに行ったの?」
「他の
リアサターセさんは部屋の奥へと視線を向けた。そこには別の部屋に通じた出入口があり、そこからこちらを覗き込む者がいた。
≪わあ〜、小さなセサ人だ≫
ミアの思ったことが伝わってきた。
「あなたはどうして小さいの?」
リアサターセさんが慌てた。
「プミアィエニ、そういう質問は失礼だよ」
「えっ? ……ごめんなさい」
風船が
「あたしは子どもだから小さいんよ」
その人が答えた。大人のセサ人よりも声が高く、幼さを感じさせるような音の柔らかさがあった。口調から気にしていないように感じた。セサ人の感情表現はまだ把握できていないけど。
「あたしリプ。セサ人よ。あんたは
「うん」
「男の子?」
「女の子」
ミアが答えた。セサ人から見れば
「じゃあ、あたしと同じだ」
リプと名乗った少女はミアに近付いてきた。嬉しそうだ。その好意はミアにも分かるようで、ミアの
「プミアィエニはリプと一緒に仕事をしてもらいたい。リプ、彼女に仕事を教えてやってくれないか?」
「分かった。プミアィエニ、付いてきて」
ミアはリプに付いていく。やがて少し大きめの部屋に着いた。リプの説明ではここは食糧倉庫だそうだ。
「プミアィエニって長い
「『ミア』ってなあに? わたしはプミアィエニよ」
「もしかして嫌だった?」
「ううん」
だけどミアは単に疑問に思っただけだった。
「じゃあ決まり! プミアィエニはこれから『ミア』よ。
「『ミア』……」
ミアは本来の
「お友達……」
ミアは嬉しそうだ。
「それじゃあ、リプのことは何て呼ぶの?」
「リプはリプよ」
「他に呼び方はないの?」
「うん」
「そうなんだ」
リプを
「じゃあ、これを見て」
リプが早速、仕事について説明を始めたので、ミアは気を取り直して話を聞いた。
♦ ♦ ♦
仕事の合間の休憩中になり、ミア/俺は広間で
ミアとリプの仕事は仲間たちの食事の準備だ。
今はウアンターレ人のソポイトさんが
様々な
ミア/俺はリアサターセさんの
ミアはこの
この
リアサターセさんの
いや、もはや
かつて名門だった
引き取られた
そこでリアサターセ・スノアワーエは容疑者
昔ならいざ知らず、現代の
この事件が報道された当時、『かつて家族同然に暮らしていた
こうして『リアサターセ・スノアワーエ』は只の『リアサターセ』となった。ミア/俺は最初、リアサターセさんが
人通りの絶えた夜の街中を飛ぶ
「
古代の
現代の
ちなみに国宝になっている美しい衣服の材料を産出する、現代では入手不可能な『
『その
厳しい口調でも穏やかでもない、ただ事務的な
ソポイトさんの
「
約二.一秒ほど遅れて
見ているミアの
≪どうして?≫
ミアは小さく
≪相手はわざと遅れて追い掛けている≫
ミアはこのことを言うべきか迷っていた。
逃げる
しばらくして
≪どうなったの?≫
俺が感じてるミアの
『
ミア/俺の横でスフォーセネさんが立ち上がった。険しい顔でリアサターセさんと顔を見合わせる。
ソポイトさんは帰ってこなかった。
一
電波の逆探知でソポイトさんは殺されて
「ソポイトという人物の物語は、今ここに閉じられた」
仲間を代表してリアサターセさんがウアンターレ人の様式で葬儀の言葉を唱える。ウアンターレ人は
「
『
誰もがソポイトさんの埋葬跡の周りでそれぞれ冥福を祈る。
≪わたしがもっと早く気付けば!≫
何もできなかったことをミアが嘆く。
急に俺の視界がぼやけた。目の前の風景が全く分からなくなる。そして視界が暗闇に転じる。ミアが両手で顔を覆っているのだ。両眼には
「うっ、ううっ、ソポイト……死んじゃった」
ミアは堪え切れずに泣き始めた。
「どうしたの、ミア?」
眼を閉じたミアの近くからリプの声がした。
「怪我したの? 眼から水が出てるけど」
「それは
そう言ったのはスフォーセネさんだ。
「プミアィエニ、元気出しなよ。ソポイトだってそれを望んでる」
ターライヘさんが慰めの声を掛けてくれた。ターライヘさんたちロソカーイネ人の宗教では、死者の魂は親しい人たちの傍に永遠に存在する。現代ではそれを事実だと信じているわけじゃないけど、それでも今もなお彼等は、それが真実であるかのように
「リプ、ターライヘ、プミアィエニのことはそっとしておくんだ。
そう言ったのは誰だったのか? 恐らく周囲の人たちはみんな、ミアのことを心配している。
「スフォーセネ⁉」
何故かリプが驚きの声を上げた。
「大丈夫、あたしたちマサルーセイ人は
その声はすぐ傍から聞こえた。と思うと俺の
ミアはスフォーセネさんの胸の中で声を上げて泣いた。
俺の
物心がついて以来、なかったことだが、
誰にも、ミアにさえ届かない声で、俺は慟哭した。
俺とミアの
♦ ♦ ♦
「今後は
「それは受け入れられないね」
すぐに答えを返したのはスフォーセネさんだ。
「
「俺もスフォーセネに同感だ」
アリカミエさんもスフォーセネさんに賛成する。アリカミエさんの
「でも、危ないよ。また誰かが死んじゃう」
ミアが不安げに言う。
「危険は承知の上だ。始めからそのつもりで俺たちは集まったんだ」
一人がそう言うと、周囲の者も同意の身振りを示す。
他の仲間たちもほとんどが、これまで通り活動を続行することに賛成していた。
「分かった。作戦は続行しよう」
それぞれが意見を言った後、リアサターセさんが渋い表情で、全員の意向を反映した結論を出した。だけど、これは彼が望んだ結論ではなかっただろう。ミアも、そして俺も。
「ただし、危険が迫ればすぐに任務を放棄して逃げることにしよう」
「なんだ、始めからそういう結論にすれば良かったじゃないの。長々と議論するまでもなかったわね」
そう言ったスフォーセネさんが人類や
だけど俺はすぐに気付く。あの時はすぐに逃げられたのか? 気付けば手遅れじゃなかったのか? スフォーセネさんも他の仲間たちも気付いていないわけがない。自分の
「決まったな。次は俺が当番だったな。早速行ってくるよ」
そう言ったターライヘさんの言葉には、危険な任務に向かう気負いが感じられなかった。
「心配するな、俺は大丈夫だ」
泣きそうなミアに、励ますようにターライヘさんが言った。
ターライヘさんは、戻ってこなかった。
♦ ♦ ♦
「今度こそやめよう」
二度目の対策会議ですぐにリアサターセさんが言った。前回もそうだったけど彼の意見は受け入れられなかった。しかし今度のリアサターセさんは簡単には譲歩しない。でもそれは
「ならば対策を立てよう。それができたら活動再開だ」
どうしてもみんなが納得しないので、最後にリアサターセさんが言った。
「対策を立てられると思っているのか?」
ノヴォトゾーエさんが言った。リアサターセさんは黙り込む。訊ねた方も訊ねられた方も分かっていたのだ。戦争のプロが操る
「出てこない解決策を待ち続けるつもりはないわ。だったら闘いましょう」
ホミル人のムーアさんが言い、それぞれが
その犠牲になろうとここにいる誰もが思っていた。自分たちの子孫が笑って暮らせるために、自分の命を使おうとしていた。
ミア、そして俺はここにきて、ようやく仲間たちの覚悟と真の望みを、それらの壮絶な重みを実感した。
≪
ミアは父から預かった
これから行う自分の選択が正しいと信じるために、そして父に後押ししてもらうために……
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