第108話 ノルドゥワール
紫色の炎が照らす薄暗い神殿内。
闇に包まれた広い空間には、ポツリと2人の女の影だけが不気味に揺れ動いていた。
「……ぐひひ、随分と寂しくなったなぁ、ここも……!」
静寂の中、ふとゾルビアの呟く声が辺りに響き渡る。
と、気怠そうに頭を掻きながら、隣に並ぶベリーベイリもまた、ゆっくりと口を開いた。
「魔法少女達のせいで女王の駒も随分と減っちゃったからねぇ〜☆……ハッ、うるさい奴らが消えて清々したぜ……特にジークラインの野郎がなぁ」
「ひひっ、"骸の愛"もついにアタシとベリーベイリ、フレデリックの3人だけになっちまったな……ぐひひっ、まさか人間如きにここまで追い詰められるとは夢にも思ってなかったぜ……ふひひひっ!!いいねぇ〜、この高揚感!ワクワクするなぁ、おいっ!!」
「……人間如きの力じゃねぇ……こうなったのも全ては元凶であるスレイブのせい……奴が魔法少女なんてもんを生み出さなきゃ、今頃こんなことになってねぇつーの……あのクソジジイ!次会ったらギタギタに引き裂いてやるんだから☆」
想像を遥かに超えて成長し続ける魔法少女達の力は、闇の勢力にとってたしかな脅威となっていた。
が、しかし、それは決して、魔法少女達が優勢になったという意味ではない。いくら敵の戦力を削ごうと、闇に"彼女"の存在がある限り、戦いは終わらない……。
『聞け、永遠の忠誠を誓う者達よ!!絶対女王、クイーン・オブ・ザ・ディスティニー様からのご命令である!!』
突如、神殿内に響く声にゾルビアとベリーベイリはピクリと肩を揺らす。
2人が声のする方へ鋭い視線を向けると、目の前に現れた闇の渦から、凛とした表情を浮かべるフレデリックが姿を現した。
「チッ、うっせーなぁ……いきなり大声出さないでよ!ベリーベイリちゃん、びっくりしちゃったじゃない!ぷんぷん!☆」
「ひひっ、これはこれは、ようやく"新リーダー"のご登場だぜ……!」
ベリーベイリがぷくりと頰を膨らませ、フレデリックに迫る中、ゾルビアはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、彼に問う。
「さあ、それでぇ?女王は今度は一体何をお望みなんだ?魔法少女の始末かぁ?それとも裏切り者のスレイブとナイトアンダーの方かぁ?ひひひっ、誰だって構わねぇ……早く殺したくて殺したくて体がウズウズしてんだよ!!アタシはぁ!!ふへへへァ!!!!」
不気味な笑い声を上げながら、そわそわと指先を摩り、体を揺らし、ゾルビアは落ち着かない様子で女王からの指示に期待を膨らませていた。
……だが、そんな彼女に対し、フレデリックは冷たい視線を浮かべると、ゆっくりとその重い口を開いた。
「"次の指示があるまで我々は待機"……とのことだ」
一瞬、時が凍りついたかのような静けさに辺りが包まれる……と、その予想外の答えに、ゾルビアの表情が一変した。
「……は?"待機"……だと?いやいやいやいやいやいや……おかしいだろぉ!!魔法少女は?!裏切り者は?!邪魔な奴らは皆殺しなんじゃなかったのかよぉーーーッ!?!?」
「これはディスティニー様のご命令だ……今後、スレイブは必ず魔法少女に接触するだろう。奴の目的は大体検討がつく……だからこそ、ここは敢えて敵を泳がせておくんだ。もはや、必要とあらばあのお方も自ら手を下すことを辞さないおつもりだ……」
「ひっ……女王自らの手でだとぉ!?ふっ……ふざけるなああああああああああああああああッ!!!!」
ゾルビアの上げる怒号が周囲に響き渡る。
首を真っ赤に爛れるまで掻き毟り、怒り狂う"血に飢えた化け物"はフレデリックの胸ぐらを掴み上げた。
「それほどの価値が魔法少女にあるもんか!!せっかくのアタシの獲物を……足りねぇ!!血が足りねぇんだよ!!あの沙耶って小娘も……失敗作のNo.0も……全部全部アタシがぶっ殺す!!アタシから"戦い"を奪うんじゃねええええええええええッ!!!!」
「…………その薄汚い手を離せ、獣が」
冷徹な瞳を浮かべ、フレデリックが小さく口にした刹那、彼の突き上げた膝がゾルビアの腹に突き刺さる。
轟々と闇の覇気を纏った強烈な一撃に、ゾルビアは堪らず黒い血を吐き出しながら後ろへと大きく吹っ飛ばされた。
「うっ……ぐががっ……!!」
「ふぅ……ほとんどの攻撃に対して痛みを感じないくせに、相変わらず"強力な闇の力"だけはよく効くようだな……不死身の魔法とはよく言ったものだ」
「ぐひっ……ひっ、コノヤロウ……!」
緩んだネクタイを締め直し、襟元を丁寧に整え直すと、フレデリックは軽く咳払いを挟み、話を続けた。
「そう焦るな。ディスティニー様自らが手を下すのはあくまで最終手段。俺達が再び魔法少女と接触する機会は必ず訪れるさ……ただ、"今はまだその時ではない"というだけのこと……我々が最優先すべきことは…………」
「運命を支配し、世界をも変える大魔法、『ノルドゥワール』を目覚めさせること……って、ベリーベイリちゃんは難しいことあんまりわかんないんだけどね☆」
ベリーベイリのその言葉に、ハッと2人の瞳が色を変える。
と、終始冷たい瞳を浮かべていたフレデリックの表情が、微かにニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ああ、そうだ……!もうすぐ……もうすぐ世界は終わり……そして新たに"はじまる"んだ……!運命という神の引いたレールから逸脱した世界……調和した真実の世界の誕生まであと…………ッ!!」
―運命改変による世界終了まであと20日-
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