第107話 哀れな男の末路

 ∞



 …………。


 暗い……真っ暗で何も見えない……。


 体も動かない……俺は一体……。



『ヒヒヒっ……!遂にここまで成長したか……やはり"私の"魔法少女は素晴らしい……!極めて順調……いよいよ計画は最終段階へ突入する!』



 声が……聞こえる……。



『やれやれ、ようやくか……ここまで来るのに俺も随分とこき使われたもんだ』


『君の協力があったからこそ、ここまで事を順調に運ぶことが出来た。感謝しているよ。……しかし、まさか自らの"目"まで差し出すとはな……視界を奪うだけなら、目隠しでも問題ないと思うが……?』


『やるなら徹底的にやるさ……目隠し程度じゃもしもってことがあるかもしれないだろ?それに、俺にとって"奴隷の義眼"は敗北者としての烙印でもあった……女王に楯突く以上、その"覚悟"を示したかった……!』


『だから自ら"目玉を抉り取った"と……ヒヒっ……良き執念だ……!』



 聞き覚えのある二人の声……。


 そうだ……思い出した……!


 俺は紅咲みずきに敗れ、そしてその後"奴"に……ッ!!




<<



「ナイトアンダー……スレイブゥゥゥゥゥーーーーーッ!!!!」



 瞬間、ジークラインの怒号が辺りに響き渡る。


 湧き上がる怒りに激しく体を揺さぶるも、目覚めたその時、彼の体は妙な機械に磔(はりつけ)られ、身動き一つとれないように拘束されていた。



「あっ、起きた!」


「おやおやこれは……随分と派手なお目覚めじゃないか、ジークライン……ヒヒっ!」



 まるで檻に入れられた獣の如く暴れるジークラインを嘲笑かのように、スレイブは不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと彼の元へ近づいていった。



「貴様ァ……謀ったな!あの港街に大量に放たれたセルクリーチャーは魔法少女と俺を釣るための餌……真の狙いは俺と魔法少女を戦わせ、奴等をさらに成長させること……!」


「ほほう、怒り狂ってるわりには以外と冷静に分析出来ているじゃないか。その通り、君をあの場所に誘導し、魔法少女のレベルアップに利用させてもらった……だが、これだけじゃまだ終わらない……!」


「何っ……どういうことだ……!?」



 そう口にすると、スレイブは小さくほくそ笑み、白衣のポケットから徐に"ある物"を取り出した。



 "注射器"のような物体……中で赤く濁った液体がゆらゆらと不気味に揺れ動いていた。



 一瞬、ジークラインは戸惑いを見せる。


 が、彼はすぐに気がついた。"それ"が一体、何を意味しているかを……。



「き、貴様、まさか……ッ!!?」


「ヒヒっ……何、安心したまえ。かつて"シリンジ"を打ったドボルザークとバルキュラスは元人間。器が貧弱故、そのあまりの魔力の増幅に肉体が耐えきれず、あのような醜い姿となり暴走してしまったのだろう……だが、君は違う!純粋な闇から生まれたエリート戦士!彼等を遥かに凌ぐ力を持つ存在……器としてこれ以上ないほどの"上物"だ!!きっと君の肉体ならば、シリンジ本来の力を引き出せるに違いないッ!!」


「や……やめろッ!!それ以上俺に近づくんじゃねぇ!!」



 声を荒げ、ジークラインは必至に抵抗する。


 だが、みずきとの死闘で激しく消耗した今の彼に、もはや無理やり拘束機を破壊する力など残されてはいなかった。



「くそっ……!貴様、こんなことをしてタダで済むと思うなよ……!俺が従うのは女王"クイーン・オブ・ザ・ディスティニー"ただ1人!!貴様などに利用されてたまるかッ!!!!」



 危機的状況にも臆することなく、ジークラインは声を張り上げ女王の側近としての"誇り"を見せた。


 が、次の瞬間……




「ヒヒっ、よく吠える犬だ……少し静かにしてもらおうか……ッ!」




 その言葉と共に、スレイブは容赦なく注射針をジークラインの首筋に突き刺した。



「うぐっ……!?ぐ……が……ッ!!」



 鋭い痛みに、瞳孔がカッと見開く。


 痙攣を起こし悶え苦しむジークラインの姿を前に、スレイブはニッと口角を上げながらも、それでいて途轍もなく冷たい瞳を浮かべていた。



「哀れな男、ジークライン……仕える君主にも仲間にも見放され、挙句最後は私の手の内に……!ヒっ……ヒヒ!ヒヒヒヒヒヒヒッ!実に滑稽っ!せめてもの情けに私から言葉を送ろう……"今までご苦労様"……!!」



 刹那、突如ジークラインの体が凸凹と変形し、全身から大量の血が噴き出した。


 膨張する肉体、溢れ出す魔力、自分が自分でなくなってしまう恐怖に押し潰されながら、徐々に意識が霞んでいく……。



「オ……おレ……は、オ……レは……」



 崩壊していく自我に、もはや言葉を発することすらままならない。



 狂い始めたジークラインの姿を目にし、スレイブは小さく息を吐くと、くるりと後ろを振り向き彼の元から離れていった。



「ふぅ……ヒヒっ、これでようやく準備完了だ……ナイトアンダー!」


「はいはい、また俺の出番かい?」


「いや、君の出番はもう少し先だ……まず最初に"奴"を利用する……!」



 そうスレイブが口にすると、またしても白衣のポケットから徐に"何か"を取り出した。


 手に握られていたのは小さな"リモコン"のような装置……それをナイトアンダーに見せ付けると、スレイブはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。




「さあ、ようやく仕事だ!しっかり働いてもらうとしよう……魔道生物"ニューン"よ……!」







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