第102話 孤高のエリート
人気のない街の中心で、地を揺さぶるほどの激しい爆音が轟く。
「風菜ッ!今ですわ!」
「これで決める……!”天空特急・サンダーバード”ッ!!」
敵の猛攻を受け、シールドを展開するユリカが咄嗟に風菜の名を叫ぶと、刹那、彼女は空高く飛び上がり、天高くから渾身の電撃魔法を撃ち放つ。
まるで雷の如く真っ直ぐ大地に突き刺さる電撃は、襲い来るセルクリーチャー達をものの見事に一掃して見せた。
風菜が地に足をつける頃には、真っ黒に焼け焦げたセルクリーチャーの死骸は消し炭となり、跡形もなく消え去っていた。
「やりましたわ、風菜!新技の精度も着実に上がってきていますわよ!」
「うむ……ヴォルムガングと戦った時に咄嗟に思い浮かんだ技じゃったが、ようやくここまで形になってくれたわい……じゃが、これでやっと10体目……アッシもお主もお互い、既に消費した魔力もかなりのはず……セルクリーチャーの残り数も考えると、苦戦は必至じゃろうな……」
そう肩で息をしながら、風菜は語った。
この時点で、彼女達の体には無数の傷ができており、残った魔力もそう多くはなかった。
「セルクリーチャー……こいつらは一体なんなんですの……?人型でありながら一体一体が魔道生物よりも遥かに強い力を持ち、その目的も一切不明……こんなのを相手に本部を守り抜いた東堂は間違いなく人類最強の執事ですわね……」
「ああ……だからこそ、ここで戦えば嫌でも強くなれそうじゃわい……!急ぐぞ、ユリカ!分担した息吹と沙耶、単独で戦っているみずきの様子も心配じゃが、今はあまり悠長にしていられそうもない……!」
セルクリーチャーの予想以上の強さに、仲間の安否を心配しつつ、風菜達は次なる戦闘に向けて先を急いだ。
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「始まったようだね、魔法少女とセルクリーチャー……あんたの生み出した”作品”同士の戦いが……!実に興味深いことをするじゃないか、Dr.スレイブ……!」
一方その頃、戦場と化した”みなとみらい”の街から少し離れた高台の上で、スレイブに対し、ナイトアンダーは不敵な笑みを浮かべていた。
「これはワタシからの”試練”だよ……セルクリーチャーのデータベースには魔法少女達のこれまでの戦闘データがインプットされている。それも常にアップデートされていく形でねぇ……!奴らを倒すには、戦うたび”過去の自分を超える”必要があるというわけさ。彼女達にはもっともっと強くなって貰わなければ困る。それこそ、あの女王を倒せるほどに……!!」
そう得意げに語るスレイブであったが、最中、ナイトアンダーはどこか素っ気ない様子で彼の話に耳を傾けていた。
「ふーん……正直、俺としてはセルクリーチャーとの小競り合い程度で女王を倒せるとは到底思えないんだけどなぁ……」
「なに、これはあくまで段階の一つにすぎんよ……それに、セルクリーチャーを一箇所に集めたのは魔法少女のレベルアップのためでもあるが、実はもう一つ理由がある」
「ほぉ……その後者の理由こそが今回の真の目的ってわけね……勿体ぶらずに俺にも教えてくれよ〜」
「まあ焦るな、見ていればわかるさ……ワタシとて、セルクリーチャーと戦わせるだけで魔法少女が女王に匹敵するだけの力を手に入れられるとは思っていないさ。だからこそ、この状況を餌に”奴”をここにおびき出すのさ……!ヒッ……ヒヒヒ……!!」
破壊された街並みを見下ろしながら、スレイブは真っ赤な皮膚を歪め、不気味な笑い声を上げた。
奇怪な声は空へと響き、不穏な空気が街を包み込んでいった。
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荒れ果てた街の中を、風に赤い髪を靡かせて”少女”は駆け抜けて行く。
と、刹那、直感的に感じ取ったその”違和感”に、彼女は徐に足を止めた。
(妙だな……この辺一帯だけ、やけにセルクリーチャーが見当たらない……)
巨大な観覧車が見下ろす”みなとみらい”の中心地に移動してからというもの、みずきの目に、未だセルクリーチャーの姿が映ることは一度もなかった。
その異様なまでの静けさに、嫌な予感が過ぎる……内心不安を抱きながら、みずきはキョロキョロと辺りを見渡した。
その時、みずきの耳に微かに”音”が響いた。
(今の音は……!?確か、あっちの方から聞こえてきたな……)
奇妙なこの状況に息を飲み込むと、じわりと額に汗を浮かべながら、みずきは恐る恐る音のした方向へと足を進める……。
と、次の瞬間、目の前に広がる光景に、みずきは表情を険しくさせた。
「おいおい、マジかよ……」
思わず言葉を失うみずき。
そこには、大量のセルクリーチャーの死骸があちらこちらに無造作に転がる、まるで”地獄”のような光景が広がっていた。
倒れるセルクリーチャーの胸には、眩く輝く”槍”のような物体が突き刺さっていた。
そして、その中心に立つ”男”……セルクリーチャーの首を絞め上げ、眉間にしわを寄せる彼は徐に口を開いた。
「全く……好き勝手にこんな”人形”ばら撒きやがって……我らが”女王”に楯突く者は誰であろうと許しはしない……!!この俺の手で叩きのめしてくれるッ!!たとえそれが命令違反だったとしても!”あのお方”の望む結果でないとしても!俺は俺の”正義”のために戦う!ただ従うだけの駒ではない……自分で考え、行動できる……俺こそが真のエリート……!女王の間違った考えを否定し、正しき道へ導けるのはこの俺しかいないッ!!」
声を荒げると共に、怒りに腕を震わせながら、ジークラインは掴んでいたセルクリーチャーの首を驚異の握力で握り潰す。
頭と胴体が分裂した刹那、真っ赤なセルクリーチャーの肌は突如色を黒く変え、灰となって消滅していった。
目の前で繰り広げられる惨劇に、みずきは思わず目元を引攣らせる……と、次の瞬間
「なあ、あんたもそう思わないか……魔法少女、紅咲みずき……!!」
そう吐き捨てるように突如ジークラインが呟くと、彼は一度息を吐き、みずきの方へ静かに顔を向けた。
その瞳はギラギラと強く、まるで狩りを行う狼のように不気味に輝いていた。
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