第70話 奴隷の義眼

 奇妙な色に輝く空に反射して、赤く染まった海が不気味に揺れ動く。



 ナイトアンダーの足元から次々と腐敗した”手”が湧き出したその時、魔法少女達は素早く戦闘態勢へと移る。


 と、彼が指を鳴らすと共に、大量に出現した手がみずき達目掛けて一斉に襲いかかった。



 刹那、向かいくる群れの前に、果敢にもユリカがその身を飛び出していった。



「守備は任せてくださいまし!」



 その言葉通り、まるで雪崩のように激しく迫り来る手の群勢を、ユリカはがっちりとシールドで防ぎ止めてみせた。



「よし、今がチャンスだ!!」



 みずきの張り上げた声を合図に、近接戦を得意とするみずき・風菜・沙耶の三人は、襲い来る手を掻い潜りながらナイトアンダーの元へ走って行った。


 が、順調に進んでいたのもつかの間、ユリカの張るシールドを回り込み、サイドから二本の悍ましい腕が、杖を振るうユリカ目掛けて長く伸びていった。



「あちゃ〜……これは完全にプレミですわね……」


「ユリカ!伏せろ!!」



 と、背後から聞こえてきた声に反応して、ユリカは咄嗟にその場で背を低くした。


 瞬間、襲いかかる二本の腕を、鋭い銃声と共に銃弾が貫いていった。



「息吹……!助かりましたわ!」


「相手の戦法がまだはっきりとわからない内は、ボクもここで援護する!」


「……オーケー!今の貴方、最高にパーフェクトでしてよ……!」



 互いに背中と背中を合わせると、ライフルに弾を込める息吹のその表情に、ユリカは薄っすらと笑みを浮かべ、内心で彼女の成長を感じ取っていた。


 その間にも、二人の援護を得て、みずき達はナイトアンダーのすぐ側にまで足を進めていた。



「おー!やるゥ〜!流石の連携、伊達にこれまで激しい死闘を乗り越えてきちゃいないってわけか!これはいくらなんでも多勢に無勢だったかもなぁ〜……!!」


「よく喋る野郎だ……あんたがまだ本気を出してないことくらい、私達が気づいていないとでも思っているのか?」


「……いいやぁ、もちろん知ってて言ってるだけさ……最も、これで本気だなんて感じるようなら、わざわざ俺が戦うまでもない……論外だ、速攻で殺してるね……!」


「チッ……道化師が、笑っていられるのも今のうちだと思え……!」


「道化師……道化師!!うん、いい響きだ!俺はエンターテイナーだからね、戦いも楽しいのが一番さ!」



 ナイトアンダーの見せるそのあまりに余裕な態度に、そして浮かべる不敵な笑みに、みずきは堪らず眉をひそめる。



 と、その時、ナイトアンダーとの会話の最中、一瞬、みずきが僅かに彼から目を逸らした。



 刹那、そのみずきの行動に違和感を察知したナイトアンダーは、彼女の視線をヒントに瞬時に体を傾けた。


 次の瞬間、謎の青い閃光が、驚異的な速度で彼の頰を掠めていった。



「なぬっ!?外した……いや、かわしおったか……ッ!!」



 青い閃光の正体……それは、全力のスピードで繰り出された風菜の蹴りだった。


 だが、ナイトアンダーに向けて放たれたその渾身の攻撃は、つま先がギリギリ掠った程度の浅い傷にしかならなかった。



「……君達、案外こういう不意打ち的なの平気でやってくるよね……けど、いいさ。本気で殺しに掛かってきて貰った方が、こっちも血が滾るってもんだしなぁ……!!」



 そう語りながら頰から流れる血を親指でふき取ると、ナイトアンダーは真っ赤に艶めく舌を出し、指先に付着した自分の血をペロリとひと舐めして見せた。



「ぐっ……まだまだじゃ!食らえい!!”メトロ・レールガン”ッ!!」



 攻撃を外した反動で地に足を擦らせながら後方へと滑る風菜は、何とか体勢を立て直すと、技名を口にすると共に、背中から大きなバックパックを出現させ、そこから2本のレールガンを伸ばした。

 

 最短で、真っ直ぐに、高速で風の中を走り抜けて行く列車の如く伸びた青い電撃が、ナイトアンダー目掛けて素早く放たれた。



 すると、向かいくる強力な電撃に対し、ナイトアンダーは右手をスッと前へ突き出す。


 と、次の瞬間、風菜の放つ強烈な一撃を、彼はあろうことか片手一本で軽々と塞ぎ止めて見せたのだった。



 反発し合う魔力と魔力とが爆風を巻き起こし、辺り一帯を濃い砂埃で包み込む。



 刹那、巻き上がる爆煙の中から、ナイトアンダー目掛けて、今度はみずき・風菜・沙耶の三人が同時に攻撃を仕掛けに攻めた。



「アルティメット・ブロウ……!!」


「雷迅・ブルートレイン……!!」


「紅・正宗……!!」



 三人の少女が一斉に魔力を解き放つと、魂を込めた彼女達の一撃が、ナイトアンダー目掛けて勢いよく振り上げられた。


 その流れるような美しい連携攻撃に、ナイトアンダーは思わずゾクゾクと肩を震わせる。




 が、次の瞬間、同時に彼はどこか残念そうな表情を浮かべると、深く息を吐き出しながらゆっくりと口を開いた。



「あー……惜しいなぁ」



 そう一言、ナイトアンダーが呟いた刹那、飛び掛かる魔法少女達の目の前にはそれぞれ一本づつ、闇の中から腐敗した”手”が現れたのだった。


 目と鼻の先に出現した”悪魔の手”は、彼女達の放つ魔法を、ナイトアンダーの盾となり掻き消していったのだ。



「くそっ……これでも通用しないってのかよッ!!」


「……いやいや、大したものだよ……今のは完全に予想外!!うっかり驚かされちまったよ!!……ただ、あと一太刀、俺を殺すには足りなかったようだね……!」


「……どういうことだ!?」



 険しい表情で尋ねるみずきに対して、ナイトアンダーは鼓動を高鳴らせると、嬉しそうに続けてその答えを口にする。



「正直油断してたよ……近接戦で挑んでくる君達に対して、俺の魔法”デモンズハンド”は極力使わないであげるようにしていたんだが……まさかここまで追い込まれてしまうとはねぇ……念のためにいつでも魔法を使えるように構えていて正解だったよ!……最も、俺が咄嗟に出せたのはこの”三本”が限界だった。つまり、仮にもうあと一振りの攻撃があったとすれば、俺は危うく首を取られていたかもしれない……いやぁ、本当に惜しかったね〜!!」



 まるで煽っているように受け取れるナイトアンダーの挑発的な発言に、少女達は悔しそうに歯を食い縛る。



 と、次の瞬間、突如としてナイトアンダーはこれまでにはないほどの冷たい目を浮かべ、表情を殺気に満ちたドス黒いものへと切り替えた。




「……じゃあ、今度は俺の番だ……!」




 そう呟いた直後、ナイトアンダーは体をしならせ、軽いフットワークでみずきとの距離を一気に縮めていった。


 まるで瞬間移動して来たかのようなそのスピードに動揺しながらも、みずきは目の前に迫るナイトアンダー目掛けて握り締めた拳を振り放った。



 刹那、ナイトアンダーは体を急激に反り返らせ、みずきの拳を軽やかにかわす。と、地面に両手を突き、勢いそのままに足を蹴り上げ、彼女に反撃を仕掛けた。


 軟体を活かしたまるでムチのようにしなる一撃が、みずきの肩に鋭くぶち当たる。



「うぐっ……!!!」


「……へー、軽く骨の2・3本はいったと思うんだが、それでも声一つ上げずに堪えるとは……これまた随分と鍛えられた精神力だこと!」


「ぐっ……ほざいてろ!……けど、今の動きはなんだ……私の動きが完全に詠まれていた……ッ!!」



 苦しい表情で負傷した腕を抑えるみずきは、額に油汗を浮かべ息を荒くしながら、先ほど見せたナイトアンダーの動きに困惑していた。


 と、そんな彼女の様子を見るや否や、ナイトアンダーは不敵に目を細め、せせら笑う。



「そうだなぁ……一つ、俺からのアドバイスをあげよう。紅咲みずき、君の力は本当に優れたものだ!実際、こうしてやり合って、よりその”強さ”をひしひしと感じさせられたよ……確かに、君のその力ならニコラグーンを倒したというのにも納得がいく。まともな力比べでは、きっと俺ですらかなわないかも……だけど、それはあくまで”単純な力”だけでの話……ハッキリと言おう!君は”力の使い方が下手”だ!いくら強くなろうとも、紅咲みずきの戦闘スタイルは全て見様見真似の喧嘩スタイル……それじゃあ、到底俺には勝てないよ……!!」


「チッ……!!知ったような口を……どこまで人を見透かしたつもりでいやがるんだ!あんたはッ!!」


「”知ったような”じゃない、”知っている”んだ……さっきも言っただろ?俺は君達をずっと監視してきたんだって……」


「……あんた、一体何者だ?」



 みずきの投げかける問いに対して、ナイトアンダーは深く息を吸い込むと、肩の力を解き語り始める。




「少し、昔話をしようか……もううちの”女王様”のことは知っているよね?かつて、”ディスティニー”が女王となる以前の闇の世界は、それはそれは本当に悲惨なものだった……闇に生まれた者は皆それぞれが生物の究極に至るまでの能力、”魔法”をその身に宿していたが故、血で血を洗う愚かな戦いが何百・何千年もの間長らく繰り返された……俺もまたその愚か者の一人。ディスティニーが世界の覇者となった時、奴から頂点の座を奪い取ってやろうと意気込んだ馬鹿共がうじゃうじゃと湧いて出てね……結果は語るも無残な返り討ち……あの時は凄かったなぁ……そりゃーもう、今思い出しただけでも身の毛もよだつほどの大虐殺ショーだったよ……!!」




 ニヤニヤと不気味な笑みをこぼしながら語るナイトアンダーの過去の記憶に、みずき達は拳を解き、ただ呆然とその話を聞き入っていた。



 明かされる闇の世界の背景に、そして女王”クイーン・オブ・ザ・ディスティニー”の実態に、魔法少女達は思わず息を飲む。


 何より、戦いの歴史によって築き上げられた闇の世界が、”この世界”と似て非なるものであるという事実に、どこか心が竦んだ。



 そんな最中、ナイトアンダーは再び彼女達に向かって話を続けた。



「……んで、それがあんまりにも悲惨すぎるもんだからさぁ、たまたま生き残った俺も、我が身可愛さであっさりと手のひら返して女王の配下になっちまったってわけさ。……けど、生かされた代償として、俺はある”呪い”をかけられた……『奴隷の義眼』、敗者に与えられた烙印であるこいつがある限り、”この世界”において、俺の視覚情報は全て女王に筒抜けって代物だ……と言っても、実はここだけの話、努力の甲斐あって、僅かな時間ならある程度こいつを制御できるようになってたりするんだけどねぇ〜」



 そう話しながら、ナイトアンダーが目を見開くと、その時、彼の目は異常なまでに黄金に光り輝いた。


 女王によって植え付けられた『奴隷の義眼』を見せびらかすと、ナイトアンダーは一度語りを終え、静かに口を閉じた。



 瞬間、辺りにはひやりと冷たい風が流れる。


 と、静寂が包み込む長い沈黙の中で、風菜がゆっくりと口を開いた。



「……なるほど、そいつがあるから、さしずめお主は便利な監視カメラとなりうるわけか……そして以前お主がアッシと鉢合わせた時、すぐさま去っていったのは、その”義眼”とやらを制御出来る時間が限られておったから……つまり、おそらくは女王の命令以外でこの世界を訪れていたからというわけじゃな……!」


「流石に鋭いねぇ……やっぱり君は見込み通り手強そうだ、潮見風菜……!」


「ナイトアンダー……女王が何を考え、またお主自身が何を企んでおるかなどアッシにはわからん……じゃがの、そのために多くの人々が傷つくというのならば、アッシらはアッシらの正義を貫き通すまでじゃ!!」



 力強く言い放つと、風菜はナイトアンダーに向かって右手の人差し指を突き出した。


 その奥で光る瞳に、ナイトアンダーは薄っすらと笑みを浮かべる。と、同時に、彼は首を左右に鳴らすと、ゆっくりと目を見開いた。



「ああ……惜しい……ここで殺してしまうにはやはり惜しすぎる!!」



 掻き乱れる感情に悶え頭を悩ませる。


 と、しばらくして、ナイトアンダーは何かを決心した様子で静かに口を開けた。




「……タイムアップだ!!今日はここまでッ!!」




「なっ……!?」



 ナイトアンダーから言い放たれた想定外の言葉に、魔法少女達は困惑すると、一同は皆驚きをあらわにした。



「なんでこのタイミングで……あなたは、私達を倒しに来たんじゃないの!?それとも、今はまだ見逃してやるとでも言いたいわけ……?」



 そのあまりに突然な幕引きに、沙耶は思わずナイトアンダーに向かって声を上げた。


 すると、ナイトアンダーは彼女の方へギロリと目線を移し、口角を上げニヤリと不敵な笑みを浮かべた。



「ああ、その通り!俺は君達を見逃す!何故なら……君達にはこれから先起こるであろうより壮絶な戦いの中で、さらなる苦しみを味わいながら絶望の死を遂げて欲しいと刹那に思ったからだ……!アッハッハッハッハッ!!」


「……っ!!」



 その愉悦感に毒された、まるで自分達を嘲笑うかのような高らかな声に、沙耶は歯をぐっと噛み締める。


 と、張り詰めた空気の中、ナイトアンダーはさらに話を続けた。



「……それに、既に俺の目的は達成された……時間稼ぎもこれくらいで十分だろう」


「時間稼ぎ……って……ナイトアンダー!あなたは一体何を……!!」


「……ああ、そうだ!確か君……神童沙耶はこの世界の歴史について博学だったなぁ……ならわかるんじゃないか?”トロイの木馬”って話を……」


「トロイ……それってギリシア神話の……な、なんで今その話を……!!」


「いやーなに、俺がここで言わずともすぐにわかることさ。……そう、もうすぐにでもね……!!」



 沙耶の質問を流し、かわりに意味深な言葉を残すと、ナイトアンダーは魔法少女達に背を向け、目の前に積み上げられた消波ブロックの上へと飛び移っていった。




「おい……ちょっと待てよ……!!」




 と、静かに放たれたみずきの言葉に、ナイトアンダーはふと足を止め、彼女の方へと振り返った。



 瞬間、突如芯から込み上げて来るゾワゾワと冷たい感覚に、彼は背筋を凍らせた。



 振り向いた視線の先、みずきはこれまでに見せたこともないような、目を大きく見開いた得体の知れない表情を浮かべていた。


 それはまるで小さな虫が、自分より大きな害虫を捕食せんと威嚇するような……そんな漠然とした例えでしか言い表せないほどの彼女の恐ろしい視線は、一直線にナイトアンダーを捉えていた。



 だが、みずきが視線を送る先、それは、目の前に立つナイトアンダーに対するものではなかった。




 ______『奴隷の義眼』、敗者に与えられた烙印であるこいつがある限り、”この世界”において、俺の視覚情報は全て女王に筒抜けって代物さ……。




 そう、みずきが鋭い視線を向ける相手……それは、ナイトアンダーの瞳を通した先、別世界からこちらの様子を悠々と眺めているであろう、女王”クイーン・オブ・ザ・ディスティニー”だった。



 

「……”視覚情報”だなんて、わざわざ取って付けて話してたぐらいだ……どうせ私の声は”奴”に聞こえちゃいないんだろ?……けどな、敢えて言わせてさせてもらう!高みの見物とはいい度胸じゃねーか、女王様よぉ……!!いつか……絶対に!!あんたをその玉座から引き摺り下ろしてやる!!だからその時まで覚えておきな……”魔法少女は必ずあんたをぶっ飛ばす!!”ってことをなぁ……ッ!!!!」




 スッと上げたその手で、ナイトアンダーの瞳目掛けて真っ直ぐと指を突き立てると、みずきは張り裂けんばかりの声を上げる。


 と、そんな彼女の言葉に、風菜・息吹・沙耶・ユリカの4人は、ゆっくりと足を進め、みずきの周りへと集まっていった。



 こちらを見詰める5人の魔法少女が、女王の瞳に映る。



 立ち並ぶ少女達の姿に、女王クイーン・オブ・ザ・ディスティニーがどんな顔を浮かべていたかは定かではない。


 だが、一つ言えることは、この時、5人の魔法少女と闇の女王の間には、とてつもなく大きな”何か”が生まれていたのであった。



「……やれやれ、まさかそう来るとは……俺など端から眼中になく、その目に映るのはさらなる高みにあるというわけか……これは……最高に滾るなぁ!!これからもっと楽しくなりそうだ……じゃあな!あばよ!」



 そう嬉しそうに話すと、ナイトアンダーは闇の中へと消えていった。




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 不気味に覆われていた空が晴れ、大きな夕日を背景に、オレンジ色に輝く海が静かに揺れた。


 吹き抜ける潮風に髪を靡かせながら、魔法少女達はしばらくその美しい光景に黄昏れる。



「……なあ、風菜。これから戦いはますます激しくなる……それこそ、あのニコラグーンの時以上に……。私は……これからも”正義の味方”を張り続けられるだろうか……」


「……それをアッシに聞く奴がおるか?たわけめ!最後までその強い意思を貫けぬ者が、今、この場所に立っておれるわけがなかろう……誇れ!お主は自分自身が思っている以上に大した奴じゃ!」


「ふっ……全く、よくそんな恥ずかしいことが堂々と言えるもんだ……『悪いが俺は傲慢なんだ……俺だけじゃ足りない……みんなが笑顔になれる世界が欲しい!だから、この意思は曲げない!!曲げられねぇ!!』……パンチマン第17話のセリフ……ああ、そこまで言われちゃ、やってやるしかねーなッ!!」



 風菜の言葉にふっと笑みをこぼすと、みずきはお決まりの”パンチマン理論”を口にする。


 夕日に焼かれた目を擦ると、彼女は大きく息を吸い込み、輝く瞳でどこまでも広がる海を眺めた。



「……ところでボク、少し気になったことがあったんだけど……結局、あいつはなんだったんだ?」


「確かにワタクシも気になりましたわ……彼の目的……そして最後には”時間稼ぎ”とも言っていましたが、一体なんの……」



 すると、ナイトアンダーの最後に残した言葉について、息吹とユリカが口を開いた。


 未だ見えぬ彼の目的に、皆どこか煮え切らない気持ちでいたのだ。




 と、その時、突如不穏なまでに吹き荒れだした風が、少女達の髪を激しく靡かせる。



 刹那、みずきの目に、何やら白いフワフワとした綿アメのようなものが飛び込んできた。



「みずき!!みんなーーーーッ!!」


「なっ……ニューン!?どうしてここに……」



 吹き荒れる突風の中、突如みずき達の前に現れたニューンは、息を荒くしながら何かを必死に伝えようと小さな羽をバタバタ動かしていた。


 その明らかに異様な彼の様子、一同は思わず息を飲んだ。



「や、やられた……僕が気づいた時にはもう遅く……まさかこんなことが起こるなんて……いや、”起こるかもしれない”と、事前に予測出来ていれば、あるいは……すまない……本当にすまない……ユリカ……!!」


「わっ、ワタクシですの!?何故ワタクシに……ニューン、一度落ち着いて……ゆっくりと、何があったのか話してくださいまし……!」



 突然名指しで謝罪されたユリカは驚きを見せると、何が何だかわからないまま、混乱した様子のニューンを落ち着かせようと彼の背中を優しく摩った。


 すると、しばらくして、ニューンは深く息を吸い込み、ゆっくりと重い口を開けた。




「……”LDM本部が、闇の手の襲撃を受けた”……!!攻撃は内部から仕掛けられもので、何らかの方法を使って僕達からは気配を悟られないようにしていた……それも、魔法少女達のいない隙をついて……!!」




 ニューンの言葉に、ユリカは”何を言っているのかわからない”といった表情でしばらく硬直する。


 全員が呆気にとられる中、脳裏にはLDMの面々……東堂に小坂、メイドのアーベラを含めた多くの職員達が脳裏に浮かんだ。


 そのあまりの重みに、ユリカの視界はぐらぐらと歪んでいった。



 夕焼けに照らされた影が濃く地に映り、水面が激しく風に煽られ波を打ち上げた。







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