第68話 ガン・アイズ・ビューティ

 擦り傷だらけの毎日を、永遠とまでに思える長い時間繰り返して来た。



『どんなに辛いことがあっても、前を向いて歩いて行けば必ず笑顔になれる』



 そう信じて歩んだ日々。


 そんな中で、このちっぽけな手のひらには、一体何が残っているというのだろうか……。


 何度も投げかけた声は、言葉は、その度に空へと散っていった。



 ……当時、乾いた心を満たすために、ボクはその小さな指先でボタンを叩き続けた。


 ひたすらに、ただひたすらに没頭することで、その間ボクは辛い現実を忘れることが出来た。



 ……いや、違う。


 忘れていたわけじゃない……そもそも、忘れられるわけがないじゃないか……。



 寧ろ逆だ、あの時ボクは、思い出していたんだ……。



『おっと!ほっ!……ああ!!また負けた!?……はははっ、参ったな。息吹、いつの間にこんなにゲームが上手くなったんだい?』


『お父さんがお仕事の間、おねーちゃんずっとゲームしてるんだよ!何回やっても僕もう全然勝てないや』


『そうだったのか……ごめんな、息吹、悠人……いつも仕事ばかりであまり構ってやれなくて……』


『ううん、お父さんが大変なの、僕もおねーちゃんもわかってるよ!大丈夫!お父さんの買ってくれたゲーム楽しいし、それに……お母さんも天国からいつも僕達を見守ってくれてるから!だから大丈夫だよ!ねっ、おねーちゃん!』


『悠人、息吹……そうだったな、母さんはいつも二人を見守ってくれていたな……よし、息吹!もう一度勝負だ!今度は父さん、絶対に負けないからな!』



 あの時から、ゲームはボクにとって身近な存在だった。当時仕事で忙しかった父さんとは、よくゲームを通じて遊んで貰うことが多かった。


 だからこそ、ゲームをしていると、時々あの頃の記憶が脳裏を過ることがある。



 ……けど、それは悲しいとか、辛いとか、そういうのじゃないんだ。



 ゲームをプレイしている時……ボクは父さんと繋がっていられるような気がした。母さんが見守ってくれているような気がした。


 不器用だったボクにとって、ゲームは心の支えであり、家族を繋ぎとめてくれる大切な存在だったんだ……!




「……こんな時でも思い出すのがゲームのことだなんて、よっぽど好きだったのね、あの子は……」


「ああ、息吹は本当にゲームが好きで、上手だった……それこそ、僕もまだ一度も勝てたことのないほどにね」


「……それは単純に龍一郎さんが弱いだけじゃないの?」


「ははっ……全く、どれだけ時間が経とうとも、君にはかなわないよ……」




 突然、懐かしい香りが鼻を掠める。


 と、聞き覚えのある二つの声色に、ボクは咄嗟に後ろを振り返った。



「……父さん……母さん……?」



 そう、今、確かに目の前には父さんと母さんの姿があった。


 たわいもない会話を口にする父さんと母さんは、ボクの震えた声に気がつくと、こちらに優しい笑みを向けてくれた。


 その2人の柔らかい表情に、胸が締め付けられるように唸った。



 あんなことがあった直後にも関わらず、この時、ボクは目の前に映る2人の姿が間違いなく”本物”だと信じて疑わなかった。


 根拠なんてない。


 けど、一つだけ言えることは、あの時受けた”偽りの世界”とはまた違う感覚が、ボクの中に押し寄せてきたんだ。


 その感覚に、自然と涙が溢れて止まらなくなった。



「あらあら……そんなに泣かないでよ……せっかくの可愛い顔が台無し」


「だって……だって……!」



 その時、ポロポロと溢れる大粒の涙を、母さんがそっと指で拭ってくれた。


 頰に触れる温かな手のひらの感触に、思わず鳥肌が立つ。



 と、その時、ふと母さんがボクの顔を覗き込むと、そのまま視線を逸らすことなく、じっとボクの顔を見詰めてきた。


 しばらく互いに目を合わせていると、やがて、母さんは少し涙目になりながらその胸にボクの体を優しく抱き寄せていった。



「ムギュッ……!か、母さん……!?」


「ふふっ、まさかもう一度あなたをこうして胸に抱けるなんて……こんなにも……こんなにも大きく育ってくれたのね、息吹……ありがとう……そして、ごめんなさい……私達はあなた達姉弟を置き去りにしてしまった……これまで、散々辛い思いをさせてしまった……それこそ、恨まれたって仕方がないほどに……」


「そんなことないッ!!!!」



 母さんの言いかけた言葉を、ボクは咄嗟に大声で遮った。


 すると、驚いたような表情で娘の顔を見る母さんの手を、ボクは強く握り締めた。


 目元を真っ赤にさせながら、じっと母さんに視線を送り続ける。



 と、しばらくして、真っ直ぐと向けられた視線を前に、母さんは再び優しい笑みを浮かべてくれた。




「ありがとう……ほんとに、ありがとね……」




 母さんの震える声に、言葉に、胸がジーンと熱くなるのを感じた。


 凍りついていた芯が、今、音を立てて崩れ落ちる。



「……母さん、そろそろ……」


「龍一郎さん……ええ、わかってるわ……」



 と、その時、娘と話す母の肩に、父さんがそっと手を置いた。


 すると、父さんの言葉に母さんは小さく頷くと、名残惜しそうな表情を浮かべながら、ボクからゆっくりとその手を離し、立ち上がる。



「どうやら時間のようだ……息吹、僕達はまた君の顔が見れて本当に嬉しかった……この奇跡はきっと君自身が呼び寄せたものなんだろう……僕からも言わせてくれ、ありがとう……そして最後に……息吹!父さんと母さんはこれからも我が子を見守り続ける!息吹を、そして悠人を、心からずっとずっと愛しているッ!!」



 力強くそう口にすると、父さんは母さんの肩を抱きながら、真っ白に広がる世界の果てへと歩いていった。


 靄がかかったように薄れていく二人の後ろ姿に、胸の内で感情が溢れ出した。



「父さん!!母さん!!ボクも……ボクも最後に一つだけ……!!」



 息吹の叫ぶ声に、二人はその場で足を止め、ハッと後ろを振り返る。




『どんなに辛いことがあっても、前を向いて歩いて行けば必ず笑顔になれる』



「辛いこともたくさんあったし、苦しい思いもいっぱいした……けど……それでも……今、ボクは幸せだって、ちゃんと思ってるから……だから……大丈夫だよ……!」




 かつて母さんが残してくれた言葉。


 これまでずっとボクと悠人の胸の中で大切に秘められていたこの言葉に、ボクはボクなりの答えを出した。



 まるで重い足かせが外れたような晴れ晴れとした気分に、ボクは無意識のうちに涙を流しながら”笑顔”を浮かべていた。



 そんなボクの表情に、父さんと母さんもまた透き通る一滴の涙を零しながら笑顔を返してくれた。



 やがて、白い霧に包まれるようにして、二人の姿は見えなくなっていった。




 目に映る色は鮮やかなモノトーン。


 過去の記憶が交差する中、辛いことも苦しい子も全て受け入れて、ボクは明日への光に手を伸ばす。


 そう、その先にある”何か”を掴むために。



「……幸せ……か」



 ずっと自分が嫌いだった。


 無価値な自分の人生も、酷い過去も、全部全部大嫌いだった。



 ……自分で言うのもなんだけど、変わったな、ボクも。


 ”彼女達”と出会って、世界が鮮やかに映って見えるようになった。



 今ならわかる。


 ”ああ、これが幸せってことなんだ”……って。


 何でもない一日一日が、かけがえのない大切なものになった。



 だからこそ、そんな日々を守るためにも……ボクは……ボクは……!!




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「ボクは、戦い続ける……!!」



 白い靄が晴れると、そこには、まるで夜空のような永遠と続く美しい景色が広がっていった。


 チェック柄を浮かべるモノクロの床には、数え切れないほど無数の銃が地面に突き立てられてあった。

 


 その中央、”この世界の中心”に、獅子留息吹はいた。


 しかし、その姿はこれまでの迷彩柄のものとは全く異なる、全身黒一色に染まった衣装を身に纏っていた。


 丈の長い漆黒のコートが風に靡く。

 

 だが、内装である黒いビキニと、ヒップラインに食い込むセクシーなホットパンツは、以前と同様、その貧相なお子様体型とは裏腹な際どさを醸し出していたのだった。



「ばっ、馬鹿な……魔道結界だと……!?こいつ……”世界”を無理やり上から塗り替えたっていうのか……!!」



 突きつけられた信じ難い事実に、ゴッドフリートはうろたえた様子で足を竦ませる。


 想定外の事態に、悔しそうに歯を強く食いしばった。



 と、その時、同じくしてこの世界へと飛ばされた4人の魔法少女達もまた、ボンヤリとする意識の中から目を覚ました。



「……う、うーん……ここは……?」


「……どうやら、いつの間にか意識を失ってしまっていたようですわね……しかし、それにしてもこの空間は一体……?」


「明らかに異常じゃな……アッシらの気づかんうちに、まさかこんなことになっていようとはのう……」


「いってて……あれ?息吹……息吹はどこいったんだ!?」



 少女らがハッと目を覚ますと、そこには先ほどまでとは全く異なる”世界”が目の前に広がっていた。


 と、その世界の中心に立つ息吹の姿を見つけるや否や、みずきは驚いた様子で彼女の元へ近づこうと飛び起きた。



「い、息吹!!なんだあのくっそイカした格好は!?……状況はイマイチわかんねーけど、とにかく待ってろよ!今助けに行ってやるからな……イテッ!!」



 息吹の元へと走り出したみずき。


 が、しかし、走り出してすぐさま、彼女は何やら”見えない壁”のようなものに道を阻まれ、頭を強くぶつけてその場で転倒した。



「なっ、なっ、なんだこりゃ……見えない壁にぶつかったぁ!!?」


「ほう……これはいわゆる結界というやつかじゃな……状況から察するに、おそらく息吹の魔法によるものと考えられるが……彼奴め、見事己の過去を乗り越え、さらなる力を身につけよったわけか……!!」



 ”魔道結界”……そう、風菜の予想通り、ここはゴッドフリートの創り出した空間を基盤として創り出された息吹の新しい”世界”。


 発生元となる自分自身と、対象であるゴッドフリートだけを囲むように創造された空間は、それ以外の侵入を全く許さないように出来ていた。



「くそっ……何なんだこの壁は!?」



 一人果敢にもゴッドフリートに立ち向かう息吹の姿を見て、みずきは必死に彼女の助けに入ろうと、見えない壁をガンガンと拳で殴り続けた。


 と、そんなみずきの様子に気がついた息吹は、真っ黒なコートをふわりと靡かせ、彼女の方へと視線を向けた。



「みずき!ここはボクに任せてくれ!」



 そう強気に宣言すると、息吹は目の前に立つゴッドフリートを鋭く睨みつけ、背中にかけた巨大なライフルを軽々と片手で持ち上げた。


 そして、その銃口を迷いなく彼の方へと突きつけた。



「……おいおい、なんだいその強気な態度は……まさかもう勝ったつもりでいるのかい?……ちょーっと魔道結界を張れたぐらいで調子に乗っちゃって……いいかい、たとえ僕が今不利な状況にあったとしても、未だ君からの魔力供給は途絶えていないわけだ。つまり、所詮パワーアップしたところで、このまま互いに戦い続ければどちらが先に潰れるかは明白というものだ!」


「……だからどうした。なんの問題もない。ボクの魔力が尽きるその前に、お前を倒せばいいだけのこと……!」


「ぐっ……図に乗っていられるのも今のうちだッ!!」



 息吹のその挑発的な発言に腹を立てると、瞬間、ゴッドフリートはアクロバティックな動きで宙へと飛び上がり、その指先を光らせた。


 刹那、彼の魔法攻撃を察知した息吹は、咄嗟にライフルを捨ててその場から飛び出す。


 と、次の瞬間、先ほどまで息吹の立っていた場所が大爆発を起こし、置き去りにされたライフルは粉々に砕け散っていった。



「ハハハッ!!どうだ、この威力!!まだまだこんなものじゃ終わらない……君が許しを請うて泣き叫ぶ姿が今から楽しみだよ!!」


「……あまりにも浅はかすぎるよ、ゴッドフリート……既にこの世界がもうお前のものじゃないということを忘れたか……!」



 余程自分が可愛いのか、ゴッドフリートのそのあまりの自信過剰っぷりに、息吹は水を差す。



 と、その瞬間、巻き上がる爆煙の中から、突如複数の黒い物体がゴッドフリート目掛けて勢いよく飛び出した。


 その向かい来る存在にゴッドフリートが気がついた時には遅く、放たれた黒い物体は彼の体にいくつも突き刺さった。



「ガハッ!!なっ……なんだこれは……!?」



 堪らず血を吐き出しながら、震える声でゴッドフリートは自身の体に突き立てられた物体に目を向けた。



 黒い物体の正体……それは、鋭く刃先を輝かせる銃剣だった。



「そ、そんな……馬鹿な……こんなものが飛んでくるということは、まさか……この結界内に無数に存在する銃は全て実物……実際に使用出来るということか……ハッ……!!」



 息吹の創り出した空間の恐ろしさを身を以て痛感すると、刹那、ゴッドフリートは目の前に広がる信じがたい光景に目を疑った。


 そこには、ゴッドフリートを取り囲むようにして浮く大量の銃が、その銃口を彼の方へと輝かせながら”審判の時”を待ちわびていた。

 


「うっ……うわあああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」



 思わず目を背きたくなるような恐ろしい光景に、ゴッドフリートは堪らず悲鳴を上げる。


 と、その瞬間、狙いを定めた大量の銃は、ゴッドフリート目掛けて一斉に射撃を開始した。


 咄嗟に空間の壁を張り巡らせるゴッドフリートであったが、そのあまりにも多い銃弾の雨に、攻撃を防ぎきれないでいた。



「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿なッ!!こんな……こんなことが……!!」



 必死に抗い続けるも、検討は虚しく、宙を浮いていたゴッドフリートは息吹の必要以上な一斉砲火によってとうとう墜落し、地面へと叩きつけられた。



 と、地を這いずり回るゴッドフリートに、息吹はさらなる追い討ちをかける。



 ゴッドフリートが墜落したのを確認すると、息吹はすかさず地面に突き立てられた2丁の中型ライフルを両手に引き抜き、彼の元へと走り出した。



「なっ……!?待て待て待て待てッ!!!」



 猛スピードで近づく息吹の存在を察知すると、ゴッドフリートは容赦なく弾を撃ち放つ息吹に恐怖の感情を露わにした。


 もはやなりふり構ってられないと、彼は空間移動を駆使し、息吹から必死に逃げ惑う。



 そのもどかしい状況に、息吹は一度足を止め、深く息を吸い込んだ。


 と、同時に、彼女は小さく口を開く。



「……”ガン・アイズ・ビューティ”!」



 そう言葉にした次の瞬間、彼女の右目にはまるでスカウターのような近未来的な機具が出現し、装着された。


 そして今度はその機具越しに、息吹は再びライフルを構え、逃げ惑うゴッドフリートの背中を狙った。



「……ショット!!」



 息を潜め、息吹は渾身の力で引き金を引き、ライフルを撃つ。


 するとどうだろうか。息吹の放った銃弾は、空間移動を終えた瞬間のゴッドフリートの肩を、正確に、確実に射抜いていったのだ。



「ぐああああッ!!?な、なんだよ、今の正確な射撃は……!?さっきとは何か……何かが違うッ!!」



 大量に出血する肩を手で押さえつけると、ゴッドフリートは激痛から険しい表情を浮かべ、息吹を睨みつける。


 と、そんな彼を前に、息吹は静かに口を開いた。



「……『ガン・アイズ・ビューティ』……人間の持つ集中力・反射神経・洞察力……そして射撃力など、その全てを底上げする”スナイプアシスト”と呼ばれる機具を取り付けたガンナー達が銃撃戦を繰り広げるFPSシューティングゲームのタイトルだよ」


「ゲーム……だと?……そうか、獅子留息吹……君はそのゲームを元に新たな魔法を発現させたというわけか……ふざけるなよ……そんなチンケな魔法に……この僕が、この僕の完璧な魔法が、負けるはずないッ!!!!」



 怒りにその身を振るい立たせると、瞬間、ゴッドフリートは空間移動を用い、息吹の目の前まで急激に接近した。



「所詮銃しか使えないのなら、接近戦に持ち込むまで!!」



 これまでになく咄嗟に機転を利かせたゴッドフリートは、ニヤリと口角を上げ、息吹に先制攻撃を仕掛ける。


 が、しかし、その息吹の冷静な表情は、1ミリたりとも動きはしなかった。



「”銃しか使えない”なんて、ボクは一言も言ってないんだが……『ナックルKO』!」



 爪を立て迫るゴッドフリートに対し、息吹はまたしてもゲームタイトルと思わしき言葉を口にする。



 と、構えをとる息吹の拳が、突如ネオンレッドに輝く光に包まれた。


 刹那、彼女の拳には、赤く艶めいたボクシンググローブが装着された。



「なっ……!!?」



 その思わぬ武器の出現に動揺するゴッドフリートは、状況を打開しようと咄嗟に体を後ろに引こうと抵抗する。


 が、時既に遅く、息吹の力強く放った左ストレートは、ゴッドフリートの顔面に直撃し、鈍い音を響かせながら彼の体をふわりと宙へと浮き上がらせた。



「イダイッ!!イダイッ!!ああぁ……僕の顔が……お、お前、その魔法……一体何なんだってんだよぉ……!!」



 ボタボタと鼻から血を零し、肩で息をしながら、ゴッドフリートは息吹に問いかけた。



「ボクの新しい力、それは銃魔法の単純な上位互換とは違う……いや、正確にはそれも含まれるんだが……実際に見た方が早いだろう……セット、『Burnout』……!」



 息吹が再びゲームのタイトルを口にすると、刹那、突如彼女の隣には緑色のフォルムをしたバイクが出現した。


 その見覚えのあるバイクを前に、ゴッドフリートは唖然とした様子で口を開いていた。



「こいつには見覚えがあるはずだ……近未来バイクレースを舞台とした体感型ゲーム、『Burnout』に登場するバイクの一つ、”グリーン・グリーン”……以前、お前がバイクレースを仕掛けてきた時にボクが乗っていた機体だ。……さあ、見ての通り、これがボクの新しい魔法だよ。ハードに入れるソフトを変えることによって様々なゲームが遊べるように、ボクの魔法もまた様々なゲームをモチーフにした能力を使い分けることができる……最も、条件として過去に自分が実際にプレイしたことのあるゲーム以外の能力は使えないみたいだけど……」


「そ、そんなふざけたお遊び魔法……僕は……僕は認めないぞ……ッ!!」


「…………」



 地を這いつくばいながら否定を繰り返すゴッドフリートに、息吹はこれ以上何も語らなかった。


 おもむろに腰からハンドガンを取り出すと、無言のまま銃口をゴッドフリートに突きつける。




「……いいか、覚えておけ……お前達闇の使者が何百・何千とボク達の前に立ちはだかろうとも、ボクら魔法少女は一歩も引きはしない。たとえどれだけ辛いこと、悲しいことがあろうとも……その度に強くなって、いつか……いつかきっと、お前達闇を討ち亡ぼすッ!!」




 息吹はそう強く言い放つと同時に、ハンドガンのトリガーを勢いよく引き押す。


 と、急速に回転する弾丸が、真っ直ぐとゴッドフリート目掛けて放たれた。



 瞬間、ゴッドフリートは残った力を振り絞り、空間を捻じ曲げ向かい来る弾丸を寸止めで受け止める。


 魔法同士のぶつかり合いに、辺りにはバチバチと赤い電流が散った。



「い、嫌だ……まだ終わりたくない……僕は……僕は……神の名を持つ男!!ゴッドフリート!!神は……絶対不滅だアアアアアアアアーーーーーーーッ!!!!!」



 吐き捨てるように言葉を放つゴッドフリートは必死の足掻きを見せるも、息吹の放った弾丸は、みるみると容赦なく”空間の壁”に捻れ込んでいった。




 そしてやがて、ついにゴッドフリートの魔法は打ち破られ、弾丸が彼の額に直撃した。




 瞬間、鋭い銃声と共に、魔道結界はまるでガラスが割れたように激しい音を立てて、バラバラに砕け散っていった。


 崩れ去る世界の中で、ゴッドフリートの踠き苦しむ悲痛の叫び声だけが響き渡った。







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